ザボエラ転生 ~ダイ大世界をおっさんが生き抜く~   作:リドリー@犬小屋

32 / 117

次回は来週の木曜日23時頃を予定しております。


第三十一話 死者の行軍

 

死者の軍勢の進軍速度は、アンデッドであるせいか通常の行軍より大分遅めだ。

だが、彼らがアンデッドである利点が、その進軍の遅さによる遅れを取り戻させる。

それは、彼らが死者であるという利点。

死者は昼夜関係なく一切休みを取らない。

生者と違いアンデッドは疲労しないからだ。

それを考慮して、テランへいつ頃到着するかを割り出す。

現時点で1000を超える軍勢ゆえに、自ずと侵攻ルートは絞られる。

概算で五日ほどでテランまで到達するだろう。

 

それを踏まえて対抗策を考え、計画をまとめあげる。

時間がないので夜遅くではあったが、フォルケン王に面会を願い出た。

流石に眠そうだろうかと思っていたが、正直、私よりシャキッとした感じで現れた。

一番最初に会ったときは杖をついて支えられていた印象があったが、

その後、武術を習い背筋が伸び、今では矍鑠(かくしゃく)として少し若返った感もある。

 

 

「夜分申し訳ございません陛下。実は深刻な危機が発生しましてな。

ご無礼かとは思いましたが、このような時間に陛下にお伝えに参りました」

 

「謝罪は無用ですザボエラ殿。あなたから無用な事を聞かされた覚えがありません。

その様子では恐らく楽しい話ではなく、一刻を争う事態のはず。

お聞かせ願えますか?」

 

 

私はフォルケン王に事のあらましを伝えた。

古のギルドメイン帝国の皇帝が黄泉がえり、

死者の軍勢を率いて、五日ほどでテランに殺到するという話である。

取り乱しはしないが、驚愕を顔に張り付けたまま感想を口にするフォルケン王。

 

 

「名も失われたギルドメイン帝国の皇帝、ですか。

おとぎ話であると思っておりましたが……」

 

 

王はすべてを聞いて、自分は何をするべきか私に尋ねた。

事態の説明が終わったなら、次は対抗策の話であることを察してだろう。

非常に協力的で、なおかつ話が早くて助かる。

やはり、一番最初にテランを訪れて、彼の信頼を得ておいたのは正しい判断だった。

 

 

「最初に行うのはテラン国内の村を……もちろんこの城もですが、

破邪呪文(マホカトール)で覆う事になりますな」

 

「ほう。悪しき存在を阻む破邪結界を敷く呪文ですな。どなたが使えるのですか?」

 

「アバン殿とワシが少し前に破邪の洞窟へ参りまして、習得して来たのです」

 

「なんと、破邪の洞窟へ!? その話も伺いたいところですが……。

騒動が治まってからにしましょう」

 

 

フォルケン王の好奇心が爆発する瞬間もあったが、対策を一通り説明し終えた。

テランにある人が住む村落に破邪呪文(マホカトール)の結界を敷く。

以前、検討していたように、村の村長の家や大きな建物を、

緊急時の避難先として破邪呪文(マホカトール)を使って守ろうという話を前倒ししたのだ。

 

もちろん、テラン城に対しても破邪呪文(マホカトール)の結界を敷くが、

強固な結界にするため、大き目の魔法玉を探さなければならないと話す。

簡単に言えば子供の頭ほどの大きな魔法玉である。

説明の後、フォルケン王はその全てを提供すると申し出てくれた。

先祖代々、テラン王家に伝わるものを、何も言わずに差し出してくれたのだ。

 

ある意味、国宝に準じるものではないのだろうか?

恐る恐る本当に良いのか確認すると、フォルケン王は穏やかな笑みを浮かべてこう言った。

 

 

「知識同様、宝などという物も、人の役に立てるために保管していたものです。

なればこそ、いま、国民を脅威から守るために使うべきでしょう。

どうぞお役立てください、ザボエラ殿」

 

「フォルケン王……」

 

「さて……何から始めましょうか?」

 

 

フォルケン王はこの二年で大分、変わられた。

元々、知識を蓄えた理知的な人物だったが、理想主義的な傾向があった方だ。

私たちが最初に訪れた国であるが、竜の(ドラゴン)騎士であるボリクスが居たこともあり、

話がスムーズに進んだおかげか国も王も変わってきている。

理想主義的な傾向はなりを潜め、身に着けた知識を現実に即して用いて、

きちんと判断していく姿はまさしく賢王と言えるだろう。

私はこれからなすべき対抗策を王に説明し始めた。

 

まず、フォルケン王から国内に、緊急の触れを出す手はずを整えてもらう。

その間に私とアバン殿は手分けして、村々を回り破邪呪文(マホカトール)を設置してゆく。

急ぎなので、デルムリン島方式の地面に五芒星の魔法陣を描く形である。

元々、村の数が多いわけではないので、全て終わるのにさほど時間はかからなかった。

 

最後に新生ギュータへ赴く。

かつてギュータを邪悪な者の侵入から守るために張られていた破邪呪文(マホカトール)

破邪の五芒星を維持していた五つの魔法玉が、そのまま保管されていた。

もちろん、それを使えば強固な結界を作ることが可能である。

 

その後、チョコマ殿の父親たる新生ギュータの長であるガナッシュ殿と、

母親たるプラリネ殿と話をして、協力を頼むこととなった。

今回の策は、敵に本隊がいると思わせねばならないため、それなりに人数を集める必要がある。

更に取りこぼしたアンデッドが、テランへ向かうと危険なので、

迎え撃つギザン峡谷を防衛線として、そこで討ち果たす事を目的としている。

 

その上でテランの村々や城に破邪呪文(マホカトール)を施したのは、

一定数の取りこぼしが出るだろう事を予期しての事である。

 

ガナッシュ殿とプラリネ殿は静かに私の話を聞いてくれた。

皇帝は我々が受け持つので、到着時には2000を遥かに超えるであろう死者の軍勢を、

引き付けて戦う軍勢に加わってほしい。

私が頼まれる側だったら正気を疑う話だ。

 

 

「こんなに早く、ザボエラ様から受けたご恩をお返しする機会が来るとは思いませんでした」

 

「我らギュータの民は、あなたに救っていただいたのです。

命を懸けて戦わせていただきます」

 

 

二人はこう言ってくれるが、命を捨ててもらうつもりは毛頭ない。

生き残るための手段をいくつも講じてあるので、それを周知してもらう。

重ねて話したが、これは命を捨てる戦いではなく、

みなで笑い合って平和な日々を続けてゆくための戦いであると説明した。

 

 

 

こうして目まぐるしく日々が過ぎてゆき準備が完了した。

 

テラン北西にあるギザン峡谷。

丁度、ギルドメイン山脈の西端に位置し、軍勢が行くには狭隘(きょうあい)な道ではあるが、

これを避けた場合、かなり北上しないと山だらけで容易く進める道はないのだ。

 

峡谷の入り口には聖水をかけた柵を用意し、長い槍を持たせたテランの義勇兵100名。

城勤めの兵も増えており50名。魔法が使えて戦闘に長けた100名のギュータの民。

パプニカから魔法兵団の副団長であるコルキ殿が、精鋭を50名率いてかけつけてくれた。

更にリンガイアからバウスン将軍が、リンガイア戦士団100名を募ってやってきた。

リンガイアの兵は少ないようにも思えるが、精鋭100名が全滅した後に募ったのだ。

よく来てくれたというべきだろう。

 

柵を破壊されてもこちら側に入れぬように、破邪呪文(マホカトール)の結界を既に敷いてある。

少し離れた場所にもう一つ結界を敷いて、そこに回復呪文(ホイミ)が使えるテランの者を10名。

回復呪文(ベホイミ)まで使えるギュータの民、40名。

回復呪文は使えないが、傷の手当てができる者、

動けなくなった怪我人を運ぶ者50名に待機してもらっている。

総勢500名の軍勢である。

だが、恐るべきことに皇帝が率いるアンデッドの総数は3000を超えていた。

 

やけに多いなと渋面を作っていたら、フォルケン王の話では彼らの進行ルートに、

幾つか古い戦場跡があったらしい。

そこを通ったことで、死した戦士たちが軍勢に加わったのではと話していた。

 

今回は本隊の方には、マトリフ殿に詰めてもらう。

もしも、私たちがやられた、もしくは皇帝を取り逃がした場合は、

彼の極大消滅呪文(メドローア)だけが頼りになるからだ。

 

 

「まぁ、こっちに来るのはお前さんたちが戦う相手と比べれば、雑魚ばかりだ。

ちとばかし数が多いがな。なんとか時間は稼ぐ。頼むぜザボエラさんよ」

 

「お願いしましたぞ、マトリフ殿。もしもの場合は、あなたが最後の頼みの綱ですからな」

 

「なぁに、レイラとロカが横にいてくれるなら、二度は不覚は取らねぇよ」

 

 

ロカ殿はヨミカイン魔導図書館の中枢にある巨大な魔法玉の子機に当たる、

小さな魔法玉を戦場に持参しており、この場に来てもらっている。

魔法玉さえ破壊されなければ、ここで一緒に戦う事ができるのだ。

 

 

「オレもそっちで戦いたかったけど、マトリフにも前衛がいないと危ないだろうからな」

 

 

そうマトリフ殿を見ながら声をかけるロカ殿に、マトリフ殿は感慨深げな顔を向けた。

 

 

「夢を見てるみてぇだが……。ヴィオホルン山へ突入したのを思い出すなロカ」

 

「あの時は勝ったんだ。今度もオレたちが勝つ! だろ?」

 

 

笑顔で二人に話しかけるロカ殿に、たしなめる様にいうレイラ殿。

 

 

「調子に乗らないでロカ。慎重に行きましょう」

 

 

ネイル村への帰郷はとんぼ返りだったが、アリアム殿は喜んでいたらしく、

いずれロカ殿に会いに来たいと話していたらしい。

今回はマァムを預けて、バックアップに加わってもらった。

 

 

「ザボエラ殿、敵の先鋒が1kmほどまで近づいて参りました」

 

「100mまで到達したら、まず魔法で先鋒を削りましょう。

あとは、積極的に打って出る必要はありませぬ」

 

「押し返す必要はないと?」

 

「皇帝が出てきたら危険ですからな。

前で小競り合いをしているなと思わせる程度でよいのです」

 

 

皇帝の名が出るとバウスン将軍に緊張が走る。

私もチラリと見た程度だが、あれは確かに恐ろしい。

 

 

「戦端が開かれてから30分経過したら我々が皇帝に仕掛けます。

直後、敵の勢いが増すかもしれませんので、バウスン殿に指揮権は一本化してお任せします」

 

 

直に対面したバウスン将軍は、表情が硬くなりつつも深く頷く。

本来、パプニカのコルキ殿とリンガイアのバウスン将軍は別の国の人間だ。

しかも、戦場にはフォルケン王まで来ている。

だが、フォルケン王はまず指揮権を、バウスン将軍に委ねて、

彼自体は後方で怪我人を運び、治療する側に回ると宣言した。

パプニカの魔法兵団副団長のコルキ殿も、もともと控えめな性格で、

バウスン将軍の音に聞こえた武名を褒めたたえて、遠慮なく命令を頂戴したいと話した。

 

コルキ殿は並よりは上という実力ではあるが、自分の力を正確に把握してる事と、

調整役的な性格が連合軍の際に役立つと、マトリフ殿の推薦からの参加であったらしい。

見事に当たった人事であると言っていいだろう。

 

 

物見の兵から悲鳴のような報告が届き、

アンデッドたちが視認できる距離まで近づいてきたのが確認できた。

バウスン将軍が細かい指示を出しながら、よく通る声で指示を出す。

 

 

「私の合図と共に攻撃を開始する。古今珍しい連合軍ではあるが、目的は一つだ。

テランを守るというただ一つである。

我々には有利な点がある。彼らアンデッドは恐ろしいがでくの坊だ。

動きが遅く、落ち着いて対処すれば、怖い相手ではない……」

 

 

敵が射程範囲に近づいてきた。

 

 

「魔法兵構え! 3……2……1……放て!!」

 

 

火炎呪文(メラ)が、氷系呪文(ヒャド)が、閃熱呪文(ギラ)が、爆烈呪文(イオ)が、

無数の呪文たちがアンデッドの軍勢の先鋒へ命中して敵戦力を削ってゆく。

討ち漏らしたアンデッドは、柵の間から槍で突き、安全に処理する。

 

危険なのは柵を超えてくる、空を飛ぶ力を持ったギズモやゴーストたちだが、

彼らは後方の弓兵たちが対処することになっている。

弓兵と言っても、専門職は半分ほどで、残りは狩人やこの一週間で弓を初めて持った者もいる。

だが、彼らの攻撃が必殺の力を秘めているのは、矢じりを聖水に浸して射ているためだ。

 

更に竜水晶が退散呪文(ウフラム)という退散呪文(ニフラム)の誤植のような呪文を使っていた。

退散呪文(ニフラム)より威力が劣るが、かなり広範囲にアンデッドだけを攻撃できるとの話である。

威力は劣っても敵に当たりやすく、それでアンデッドが足を止めてくれるので、

他の攻撃が当たりやすくなるのだ。

 

 

戦端が開かれた後、そちらを見やりながら、

落ち着かない様子のボリクスが、そわそわしながら話しかけてくる。

 

 

「なぁ、ザボ爺(ざぼじい)。うちらもちょっと戦った方がええんちゃうか?」

 

「ここは皆に任せねばならん。我慢も肝心じゃよ」

 

「そうか……」

 

 

そう話していると、チョコマ殿が横へやってきて、ボリクスに話しかけた。

手を腰に当てて、仁王立ちしながら笑っている。

 

 

「ボリクスたちは敵の親玉をやっつけろ。ここはチョコマたちがなんとかするからな!」

 

「……わかった! 頼むでチョコマ! 任せとき! ちゃっちゃと片付けてくる」

 

 

ハイタッチしてチョコマ殿は戦列に戻っていく。

呪文巧者の彼女は、いつもの様に大呪文ではなく、

小呪文で効果的に敵を削って行っている。

笑顔で見送っていたボリクスだが、少ししょぼんとして私にポツリと呟いた。

 

 

ザボ爺(ざぼじい)あんな……。まだ、うちは空裂斬できへんのや」

 

「うむ。知っておるよ。空の技は習得難易度が高い。

簡単に出来ないことは別におかしいことではないがのう?」

 

「うちが出来れば、アバン先生に無理させんでもええのに」

 

 

そこへアバン殿がやってきてボリクスを励ます。

 

 

「ノンノン! それは違いますよボリクス。適材適所と言うやつです。

その代わり、クロコダインとあなたには頑張って貰いますからね」

 

「先生……大丈夫なんか?」

 

「大丈夫ですよボリクス。でも、いずれはできるようになってもらいますよ。

そうしたら私は楽ができますからね」

 

「なんやそれー!」

 

 

ボリクスが元気になってくれたか。さすがアバン殿だな。

しかし、対皇帝の策は実は作戦と呼べるほどのものではない。

アンデッドの軍勢の先鋒を引き付けている間に、

ギザン峡谷を迂回して背後から皇帝と直接戦うというだけの話だ。

 

皇帝と対峙したら、クロコダインとボリクスがメインで注意を惹きつつ、

アバン殿が空裂斬を打ち込む。実に単純な話だ。

 

まずは峡谷の出口付近に陣を張り、

そこで迎撃する部隊が主力であると思わせる必要がある。

そのため、一定時間引き付けてもらうのだ。開戦から30分ほど。

 

丁度、その時間に差し掛かった辺りで異変が起こった。

事前に場所を確認しておいたギザン峡谷の反対側へ、

瞬間移動呪文(ルーラ)で移動しようと思った瞬間、悲鳴が上がったのだ。

 

三体のドラゴンゾンビが姿を見せた。

ブレスを放って柵を破壊しているので、このままでは乱戦になってしまう。

ドラゴンゾンビが放つブレスを、ロカ殿が豪破一刀で切り裂き、

同時に相手にダメージを与えていく。

 

 

「全員下がれ!! 距離を取って援護しろ!」

 

「ロカだけにいいカッコさせねぇぜ」

 

 

そこで、飛翔呪文(トベルーラ)で上空から、マトリフ殿が極大閃熱呪文(ベギラゴン)を撃ちこむ。

一体を片付けた後、レイラ殿の真空呪文(バギマ)で注意を引いたドラゴンゾンビを、

武鋒・豪破一刀で迎え撃ち、光の闘気で一刀両断するロカ殿。

最後の一体は、竜水晶が剣に変えた右腕で串刺しにした後、首をはねている。

 

 

「ザボエラ! そろそろ行っていいぞ! こっちはなんとかするから任せろ!」

 

 

マトリフ殿がニヤリと笑って、声をかけてくる。

こちらは大丈夫だろう。

ギザン峡谷の入り口付近、数か所を飛翔呪文(トベルーラ)で確認して、

どこへでも移動できるように場所を覚えておいたのだ。

目的地は最後尾にいる皇帝のさらに背後まで移動する予定だ。

 

私の唱えた瞬間移動呪文(ルーラ)の光が我々を包み、決戦の場へ運んでくれる。

 

 

 




独自設定
ギザン峡谷
特に地名がない辺りなので、テラン=寺=京都ですので、
近い県名から岐阜+山でギザンとなりました。

退散呪文(ウフラム)
ドラクエ2の没呪文です。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。