ザボエラ転生 ~ダイ大世界をおっさんが生き抜く~ 作:リドリー@犬小屋
次回は来週の木曜日23時頃を予定しております。
150mほど後方に位置していた。
タイミング的には際どい所だったな。
もう少し早かったら、
流石にそうなりそうだったら、移動中に着地点を少し修正するが。
目標の皇帝を探そうかと思ったが、探す必要はなかった。
彼はよく分かる場所にいたのだ。
いや、よくわかる場所というのは正確な表現ではない。
吹き上がり炎のような暗黒闘気が、彼の居場所を明らかにしていると言った方がいいか。
彼の瘴気のような暗黒闘気から憎悪や憤怒、狂気などが伝わり私は顔をしかめた。
皇帝の前には200体ほどの死霊や影の騎士、ガストなどが集まっている。
「先頭が騒がしい故、我が暗黒闘気に誘われて、
また屍が軍勢に加わったかと思ったが違ったようだな」
「初めてご尊顔を拝します皇帝陛下。
失礼ながら退くつもりはありませんか? あなたは人類の為に戦っていたと聞きます。
ならば……」
会話が通じるのかと思い、アバン殿がかなり丁寧に声をかけるがさて……?
だが、彼はアバン殿の方を見ようとせず、独演会のように語り始めた。
「地上から魔族と竜族の軍勢を駆逐し、然る後は魔界へ行きすべての魔族と竜族を滅ぼす!
余を奴隷に落とした魔族は念入りに! そして! 余の窮状を救わぬ神も許さぬ!
魔界を滅ぼしたのちは天界へ攻め入り、神々も討ち滅ぼす!!」
「皇帝陛下。あなたのお怒りはわかりますがそれでは……」
「余が三界を統べる神として降臨しよう! 余に従う者だけ残す!
余に歯向かうリン、近衛の者たちは皆殺しにする!」
そこで彼の暗黒闘気が勢いを増して吹き上がる。
正気と狂気が行き来しているようだな。
記憶の混濁もあるのか? しかし、敵意はあるな。厄介だ。
ここで急に私に気づいたのか、アバン殿に怒りをぶつける皇帝。
「貴様……! 人類なのに異種族と一緒にいるのか! 人間の誇りを捨てたのか!!
異種族は皆殺しにせねばならない!
人間は余の復讐のために、力と意志と命を統一して戦うのだ!!」
「アバン殿、正気ではありますまい。ここで問答は難しいでしょうな」
「そのようですね。……手はず通りいきましょう!」
皇帝の周囲にいた200体ほどの死霊、影の騎士、グール、スカルナイトが進軍する。
私は両手に魔法力を集中する。皇帝には呪文は通じない事は分かっている。
だが、ボリクスたちが皇帝と戦うまでの道を切り開くことは私にも可能だ。
いま用意するべきは直進する
当たった範囲から爆発が広がる、
かかげた両腕に円状の魔法力が集積され手を合わせる事によって、
両の手から放出された
私が
ボリクスたち三人が楔となって突っ込み、皇帝のいる方角へ走ってゆく。
ここで私が峡谷の入り口に、
それが合図となって、
巨大な土の槍が幾つも突き出して、峡谷を物理的に封鎖していく。
マトリフ殿と一緒に、進行ルートを想定して、確率の高そうな数か所に設置した罠だ。
用意した魔法玉に私が
峡谷の入り口を
死者の軍勢本隊が転進してくることは難しいだろう。
もっとも、ギズモやゴーストなどは飛んでくるだろうが、
数は少ないので私一人で迎撃することが可能だ。
己が軍勢の本体と分断された皇帝は、暗黒闘気を揺らめかせながら激怒する。
「魔族めぇ~~~!! こしゃくな真似を~~!
今いる手勢で打ち破ってくれる!!」
その直後、暗黒闘気の斬撃が飛来したので、ケインが爪を伸ばし、
間一髪で私をひっかけて20mほど後方へ退避する。
皇帝は側近であるのか、30体のソードイドを連れ、
動きの遅いアンデッドを置き去りにして、こちらへ走ってくる。
なぜ、ソードイドと一瞥して分かったかと言えば、
紫色で緑色の鎧をつけている骸骨剣士はそれ以外考えられないからだ。
ボリクス、クロコダイン、アバン殿がソードイドを適当にいなし、皇帝に迫る。
彼らを追おうとするソードイドを私が
三人の役割が皇帝と直接戦う事で、私が皇帝の護衛というか、
周囲を守るアンデッドたちを削る事だからだ。
私の呪文を掻い潜ったソードイドは、
ケインがミスリルの杖を吸収して得た鋭利な爪で貫き倒していく。
とにかく、私の仕事はボリクスたち三人と皇帝の戦闘に、余計な援護を入れさせないことだ。
その間に、クロコダイン達は間合いを詰め、皇帝に近づき戦いが始まった。
皇帝の動きは確かに速い。
それは、ラーハルトのような目にもとまらぬ超スピードの類ではない。
厄介なのは若干の暗黒闘気の残像を残しながら、いつの間にかに距離を取っていたり、
その逆に間合いをつめてきたりと、掴みどころがないのが恐ろしい。
確かに一対一で初見ならば、真正面から
よほど効果範囲の広い無差別な呪文でないと、これは捉えづらい。
しかも、オリハルコンの鎧をまとっているから、攻撃呪文が通じないのが厳しいだろう。
これでも、覇者の剣と冠がない分、かなりマシではあるんだが……。
ボリクスは
そのボリクスが一番速いが、彼女は空裂斬が使えない。
皇帝を翻弄しつつ、
実はいま、ボリクスは器用な事をしているのだ。
体は
つまり、闘気で私やマトリフ殿の、違う呪文を二種類同時に使うようなことをしている。
できると思ったらやれたとは本人の言葉だが、やはりブロキーナ老師の下で、
闘気制御をひたすら修行した甲斐があったのではないだろうか。
クロコダインは早い戦闘についていけるのかと思っていたが、
どうも老師の所で相手の気の起こりを、事前に察知する修行を積んだと言っていた。
相手がこれほど闘気をほとばしらせているのであれば、敵の攻撃が事前に読めるらしい。
来るとわかっている攻撃を避けたり、撃ち合って隙をついて攻撃することは容易い。
まるで達人のような領域に入ってるなと感心していた。
そして、アバン殿は実は持っている聖石のペンダントに、事前に
呪文はアバン殿が魔力を込めて触れば、発動して自分で停止することも自由にできる。
だが、それでも、全体の戦闘の速度より遅れてしまっていた。
素人目にも分かるが、空裂斬を撃ちこむ隙がないのだ。
その三人相手に一歩も引かずに戦っている皇帝はかなりの剣術の腕前だろう。
それも、正統派の剣技ではなく、
戦いの中で磨いた実戦的な戦闘術を、オリハルコンの鎧をまとった男が繰り出してくるのだ。
更にガイアの剣を振るいながら、身にまとった暗黒闘気を、槍のように打ち出してくるし、
地面から刃のような暗黒闘気が出てくるわで、休む暇もない。
本当はクロコダインとボリクスだけで戦って、
アバン殿は身を潜めてその瞬間だけ攻撃する方法もなくはないのだ。
だが、今回はその手を採用することはできなかった。
空裂斬、もしくはこれが虚空閃だとしても、
あくまで闘気による技であり、遠距離からの狙撃ではない。
もしかすると、アバン流弓殺法が完成していたら、可能だったかもしれないが。
可能性の話は置いておくとして、空の技がもつ物理的な攻撃力は小さいのだ。
その力は光の闘気の持つ、邪悪な生命や暗黒闘気を断ち切る力がほとんどだ。
たとえば、少し離れた場所から、空裂斬を放っても、
何体かのアンデッドが立ちはだかれば、皇帝へ光の闘気は届かない。
動きの速い皇帝が、遠距離からの攻撃を黙って受けてくれる保証もない。
ゆえに接近して戦う必要があるのだったが……まずいな。
ソードイドたちを片付けたが、歩みの遅いアンデッドたちも追いついてきた。
ギズモやエビルスピリッツなども飛んできている。
皇帝へ追いつかせるわけにはいかない。
彼らを押しとどめる事こそが、私の役割なのだから。
皇帝のいる場所へ進ませぬようにしている。
ケインも爪を伸ばしたり、
が、そこで、ゾワッとする感覚と共に、皇帝から黒い波動が放出されるのを確認した。
よく見ると、私は範囲外だが、クロコダインたち三人が
地面を覆う蜘蛛の巣状の暗黒闘気に絡めとられている。
皇帝の注意を引ければと思い、
溶岩を吐きながら突進してくる岩蛇ならぬ、
溶岩蛇にアンデッドが蹴散らされるのを見て皇帝が注意を向けた。
暗黒闘気の衝撃波で溶岩蛇が真っ二つにされるが、その瞬間、拘束が緩んだ隙にアバン殿が、
蜘蛛の巣状の暗黒闘気に空裂斬を叩き込み解放された。
クロコダインとボリクスが皇帝に攻撃をしかけるが、少し離れた場所にいたアバン殿は、
皇帝が放った無数の暗黒闘気の球体の直撃を食らってしまう。
こちらを見るクロコダインにアバン殿を任せるよう合図を送り、
如意棒のように体を伸ばしたケインに運ばれ、アバン殿の横に行き
回復呪文が効いている。まずは、大丈夫だ。
暗黒闘気や
回復呪文を弾くことがあるらしいが問題なく回復している。
起きようとするアバン殿に、無理はなさらずと話しかけると、
後はボリクスにかかっています……と話すと、大人しく横になった。
真空の斧の
荒れ狂う竜巻の槍を皇帝に叩きつけながらクロコダインが叫ぶ。
「オレ一人で隙を作る! お前がやれボリクス!!」
私たちには分かる言葉でクロコダインはそう言った。
つまり、アバン殿ではなくて、ボリクスに空裂斬を撃てということだ。
クロコダインは近接戦闘の間合いで、空いた右腕に渾身の闘気を込めた一撃を食らわす。
だが、皇帝もさるもの籠手に凝縮された暗黒闘気が集まり、
剛力無双たるクロコダインの拳すら受け止める。
しかし、クロコダインの攻撃は止まらなかった。
拳打から肘打に流れるように変化する。
拳から肘に闘気が移動し、肘を撃ちこむと皇帝の暗黒闘気を押し返し、
大砲の音のような轟音がして、オリハルコンの覇者の鎧の籠手にヒビが入った。
そのまま、皇帝の防御の腕が弾き飛ばされた所で、
肘打ちから移行して地震が起きたのかと見紛う震脚と共に、
クロコダインが体ごとぶつかり、インパクトの瞬間、膨大な闘気が皇帝の胸甲を砕く。
「武神流……玄武鉄山靠ッ……!!」
ケインが私とアバン殿を抑えてくれているから飛ばされず助かっているが、
衝撃波で皇帝の側に集まろうとしていたアンデッドたちが吹っ飛ばされている。
凄まじい技だ。20mほど吹っ飛ばされた皇帝も容易くは動けない。
だが、クロコダインは玄武鉄山靠と同時に振り下ろされた、皇帝の暗黒闘気が込められた刃で、
肩口からざっくりと切り裂かれてしまっている。
出血量が凄まじく、地面をクロコダインの血が濡らしていた。
片膝をつき荒い息で、微動だにしない。いや、できないのか……!?
皇帝が動き始めた。クロコダインの方に向かっている……!
「
私は
皇帝がまとう覇者の鎧は大穴が空き、ヒビも入っていてダメージが入っているように見える。
クロコダインの鉄山靠を受けたせいか、暗黒闘気の奔流が半分以下になっている。
皇帝はかなり消耗しているとは思うが……?
皇帝とクロコダインの間を遮らせるものが必要だ。
一瞬、呼吸ができなくなったが、
「待っていろ薄汚い魔族が!! この男の次に八つ裂きにしてやる!!」
「お前なんかに殺させるわけないやろッ! アホが~~~!!!」
皇帝がいままでにない巨大な暗黒闘気の斬撃を四つ放つが、
上手い。あれならば、無傷とはいかんが最小限のダメージで、最短距離で間合いを詰められる。
皇帝はボリクスが剣で迎撃するか、はたまた大きく後退するかの、
どちらかではないかと予想していたのだろう。
意表をついたボリクスの行動が、皇帝の判断に迷いを生じさせた刹那、
至近距離まで迫ったボリクスは、納刀されたカール騎士団の剣を抜き放ちこう叫んだ。
「食らえやー! 空裂斬ッ!!!」
クロコダインが玄武鉄山靠で空けた覇者の鎧の胸の穴から、
空裂斬の邪悪な生命を絶つ光の闘気が吸い込まれてゆき──。
真っ白な爆発が皇帝を包んだ。
皇帝はその炎のように吹き上がる暗黒闘気が静まり、
朽ちた姿を晒していたが、暗黒闘気の糸を周囲の兵たちに伸ばし吸収し始めた。
貪欲に死霊もガストもゴーストもリビングデッドも取り込んでいく姿は、
尽きぬ憎悪と執念を感じさせるものがある。
「我は滅びぬ! 滅びぬぞ!! 魔族を竜族を、すべての異種族を滅ぼす!
その為に人類は幾ら犠牲になっても構わん!
余は皇帝、すべての人類は余の復讐を果たす道具だ!!」
最初から正気を失ってはいたが、最早、憎悪と悪意しかないようだ。
体を起こし私の横に来たアバン殿が、皇帝の姿を見て口を開く。
「以前戦った
配下の悪霊たちを取り込んだ姿に似ています」
「大丈夫ですかな、アバン殿?」
「あの子に……ボリクスにアレが出来るようになったことを、
気づかせてあげなくては……ボリクース!!」
私の隣にいるアバン殿が闘気を高め、アバンストラッシュの構えを取った。
それを見たボリクスもハッとして、あちら側で同じ構えを取っている。
「大地と海、いま空を斬ったんや……うちの必殺技も完成したで!!」
「なにを言っている……小娘がぁ!!」
その瞬間、皇帝の背後からアバンストラッシュアローを放つアバン殿。
それに合わせて、ボリクスは既に跳躍し、アバンストラッシュブレイクの構え。
皇帝の暗黒闘気がこもった斬撃を真っ向から切り裂き、
背後からのアバンストラッシュアローに合わせて、凄まじい閃光の後、
覇者の鎧が真っ二つになった。
怨念が籠った暗黒闘気が失われ、いままた最後の闘気も使い果たした皇帝の躯は、
いままでの時間が急に過ぎていったかのように朽ちてゆき、
ボロボロになって消え去っていった……。
アバン殿と私は二人に駆け寄る。
まず、クロコダインが重症なので
途中で出血が止まったのは筋肉を凝縮して止めていたらしい。
すごいといえばすごいが、なんとも力業な止血法だ。
「バダックに鎧を治してもらわねばならんな。
こいつがなかったら、多分、流石のオレでも死んでいただろう」
そう笑うクロコダイン。
ボリクスは刀身が折れてしまった剣を見つめている。
ホルキンス殿から貰ったカール騎士団の剣だ。
むしろ、よく保ったと言ってもいいだろう。
闘気で強化してはいたが、オリハルコンの鎧と打ち合ったのだ。
「ホンマ助かった。あんがとさん! お前のおかげや」
そう、剣に一礼して声をかけるボリクス。
私はボリクスにも回復呪文をかけて、三人には休んでもらうように言った。
一応、覇者の鎧は
恐らく大丈夫だとは思うが、この状況で皇帝が蘇ったら流石に敗北する。
重ねて休むようにボリクスたちに伝える私に、彼女が尋ねてくる。
「
「皇帝と共にアンデッドの軍勢が消えればよかったんじゃがな。
そうもいかんので、ワシはこちら側からみなの援護に行く」
「あまり無理をなさらぬよう。私たちも、少し休んだら戦列に加わります」
アバン殿たちに手を振って、私は
敵のアンデッドたちを追い込み、
ケインも嬉しそうに爪を伸ばし、私に近寄ってくるアンデッドを八つ裂きにしていた。
おかげで私は存分に呪文を使う事ができる。
それから10分ほど経過し、ボリクスたちが加われば、もうあとは楽な作業だった。
最後の一体を倒し、あちら側からやってきたマトリフ殿たちに手を振る。
バウスン将軍が負傷者を手際よく後送していた。
私とマトリフ殿と、レイラ殿は後方で治療に従事して、休めたのはそれから2時間後の事だ。
みなが喜び合い、負傷者を治療していたフォルケン王も、みなの健闘を讃えていた。
厳しい戦いではあったが、勝利し得た事は大きな収穫だったと言っていいだろう……。
一部の勇者だけの勝利ではない。
準備して、協力して、共に戦って生き残り、みなで勝ち取った勝利なのだ。
だが、喜んでばかりもいられないだろうな。
なにせ
鬼岩城建築予定地よりは大分離れてはいたが、
ギルドメイン山脈西端で大規模な戦闘を行ってしまった。
手を出さなくても、魔王軍はその動向を見守ってはいるだろう。
彼らが何らかの動きを示す可能性はある。
一応、私の推測ではハドラー復活まで、彼らは大きな動きをするはずはない。
我々の有利な点は、彼らがゲームをしているような感覚だということだ。
単純に地上を征服するだけなら、ロモスからオーザムまで、
ミストバーンが一個ずつ城を攻め滅ぼして行けばいい。
時間はかかるだろうが。
そうではなくて、わざわざ軍勢を作り上げ、猛者に軍団長を務めさせ、
吹き飛ばすはずの地上に侵攻するのは、
作り上げようという大魔王バーンの心の余裕から生まれた遊びなのだ。
だとしても、たとえば私やクロコダイン、ボリクスに接触して、
魔王軍へスカウトする可能性もある。
それに注意しつつも、こちらとしてはできることを重ねて、
準備してゆく他はないだろう。
「
「少しな。じゃが、考えすぎはよくないかもしれんのう」
「せやろ? いまは、うちらの勝ちを喜ぼうやないか!
あ、チョコマや! ほら、行こ、
私はボリクスに手を引かれて、勝利を祝う皆の輪に歩み寄ってゆく。
そうだな。確かにいまはこの勝利を喜んでもいいだろう。
明日以降への糧とするためにも……。
独自設定
玄武鉄山靠……鉄山靠は書くと長くなるので割愛しますが、
私の世代は拳児で初めて知って、バーチャファイターで再認識して、
ジョンス・リーで固まったと言いますか。やはり鉄山靠はロマンです。
荒れ狂う竜巻の槍……槍アルトリアオルタのロンゴミニアドみたいな
感じだと思っていただければ。