ザボエラ転生 ~ダイ大世界をおっさんが生き抜く~   作:リドリー@犬小屋

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次回は来週の木曜日23時頃を予定しております。



第三十五話 ベンガーナ潜入

 

朝食を食べた後、マトリフ殿の話を聞いた。

今、彼の抱える問題の発端はテムジンである。

 

パプニカ王国はテムジンを処刑して以降、地道な捜査を続け、

テムジンの組織や協力者は全員逮捕した。

彼らは取り調べで罪を洗いざらいにさせられて、

パプニカの国法に準じて刑に服しているという事だ。

 

その際に得た情報で、国外のテムジンの共犯者や協力組織が洗い出されたらしい。

一連の捜査は全て、パプニカ三賢者であるパルナス殿が行っている。

彼はこういった資料を集めて、地道な捜査をすることに長けているようだ。

外見の印象は長身で素朴な顔立ちの若い戦士のようで、

まったく魔法使いらしい雰囲気ではないのだが。

 

そうして検挙されていったのは、各国の主要産業に食い込んだ、利権を貪る闇業者たちだった。

オーザムの密漁漁師たちの元締め。サババの麻薬密売人。

ロモスの材木密輸業者。リンガイアの闇傭兵斡旋組合。

カールの重臣の一人にもテムジンの手は伸びており、

フローラ女王にその人物の汚職の証拠を送り処断してもらったらしい。

各国の闇業者たちは証拠を送ったり、事情を話してその国や街の治安組織が動き逮捕された。

最後の一人を除いては。

 

 

「一体誰ですかな、その一人とは。それほどの大物がいたのですかのう?」

 

「ベンガーナの貿易商ゴッポルってやつだ。

まぁ、テムジンの残した資料を見る限り、真っ黒も真っ黒ってやつさ」

 

 

紅茶を旨そうに飲んでいたマトリフ殿が、ゴッポルの話をしだした途端、

紅茶の味がまずくなったような渋い表情をしている。

 

 

「パルナスの捜査で判明したんだが、テムジンのコネクションを使って、

あいつが処刑された後も暴利を得ていたようでな」

 

 

元々、ベンガーナは世界各国と貿易を行っている物流の中心地だ。

テムジンが各国に築いた闇のネットワークが物を売りさばく際に、

貿易商としてのルートを使う事ができるゴッポルは重宝されていた。

テムジンの死後もそのルートを牛耳り、

全貌を把握しているゴッポルが、暴利を独占していたらしい。

 

だが、それもパルナス殿の捜査と各国政府との協力で、闇業者たちは逮捕される中、

利権の流れを丸裸にされたゴッポルに捜査の手が届くことになった。

 

パルナス殿はゴッポルの罪状と犯罪のカラクリの捜査資料を、

パプニカ王の署名つきで公式の書状としてベンガーナへ送った。

ベンガーナの顔を立てるために、そちらの司法でゴッポルを裁いて経緯を後日教えて欲しい、

その程度の頼みをしただけである。

だが、ベンガーナ王クルテマッカVII世は、内政干渉甚だしいと激怒し、

ベンガーナは他国の言いがかりで国民を罰することはないと突っぱねてきたそうだ。

 

 

「それはつまり、それほどゴッポルはクルテマッカ王に近しいということかのう……。

もしくは、賄賂などを贈っていて、利害関係があるという事ですかな?」

 

「と、考えるよな普通なら。

ところが、ゴッポルとクルテマッカ王は、いままで別に関わりがなかったらしくてよ」

 

「それは随分と、奇妙な話ですな。

パプニカとの関係を悪くしてまで、自国の犯罪者を守るわけですか?」

 

「だろ? 確かにおかしいんだよな。

パプニカが明確な証拠を提出したにも関わらず、

犯罪者のために踏ん張るメリットがねぇだろクルテマッカ王にはよ」

 

 

ベンガーナ側の動きがあまりにもおかしい。

だから、一緒にベンガーナへ行って、

現地での調査に協力して欲しいと頼まれてしまった。

なぜ私にと思わないでもないが、下手な人間を送り込んで、

見つかると国際問題になってしまうからだそうだ。

 

もっと言ってしまうと、どうやら秘密裏に国外を探るようなことも、

以前はテムジンが仕切っていたそうだ。

それ故にテムジン派を一掃した弊害というか、

密偵がごっそり減ってしまって人手が足りないそうだ。

更にパルナス殿はここまでの捜査で、頻繁に国外へ赴いていたためか、

様々な仕事が滞ってしまっていて、マトリフ殿に泣きついたということのようだ。

 

付け加えるなら、正直で内心が顔に出てしまうパルナス殿は、

身分を隠しての潜入調査的な仕事は苦手分野らしい。

 

 

「ふむ……難しい所ですな。

しかし、テムジンの行いを考えればその息のかかった勢力を残せぬでしょうな。

長い目で見た場合、パプニカもそうですが人類社会の利とはなりますまい」

 

「役に立つ悪党だからって見逃すってのは、また話が違ってくるからな。

特に汚い利権を得て旨い汁すすってた連中は、腐ったリンゴみてぇなもんだ。

そいつがいるせいで、他のリンゴも腐らせるような害しかねぇよ」

 

 

マトリフ殿はそう吐き捨てた。

恐らく原作では、テムジン生存によって10年以上の間に、

パプニカが内部から腐っていったのだろうな。

同じ大陸に魔王ハドラーの居城があり、彼の地上侵攻から5年に渡って、

国土や国民を守りぬいた強国パプニカ。

それが、平和な世になってから、内部が重臣(テムジン)によって腐敗して行ってしまった。

 

新生魔王軍の侵攻の際には、呪文主体の(パプニカ)に呪文が通じぬヒュンケルが攻めてきたにしろ、

国土を蹂躙され、王が行方不明になるまで追いつめられるとは皮肉なことだ。

尤も今回はそうはならないだろうが。

マトリフ殿主導で、国の立て直しは上手くいっている。

 

魔法兵団の質が上がってきており、

私が強く奨めた閃熱呪文(ギラ)系呪文の習得──主にフレイザード対策だが──が進んでおり、

閃熱呪文(ベギラマ)級の呪文の使い手も増えているという話だ。

 

さらにアポロが、かなり頭角を見せ始めているらしい。

現時点で閃熱呪文(ベギラマ)瞬間移動呪文(ルーラ)まで習得してるそうだ。

マトリフ殿は厳しい修行を課しているが、祖父の名を辱めないためにと、

歯を食いしばって必死で呪文を覚えているということである。

祖父を超える使い手になる可能性が出てきているというマトリフ殿の見立てだ。

 

私は竜水晶とボリクスに留守を頼む。

ボリクスは同行したがったが、マトリフ殿の話ではベンガーナの酒場や、

ディードック殿の伝手(つて)で、故買屋などキナ臭い情報筋を回っていくという話だ。

明らかに未成年のボリクスを連れていくのは目立ってしまう。

一応、緊急時の連絡用としてメタッピーを一体魔法の筒に入れていった。

 

 

 

私はベンガーナへ訪れたことがないので、マトリフ殿の瞬間移動呪文(ルーラ)で現地へ向った。

ベンガーナは経済規模として世界最大の国家である。

直接・間接的にベンガーナと交易を行っていない国はないほどだ。

 

武器屋・防具屋・道具屋などのオーソドックスな店だけでなく、

多種多様な品々を扱った店が立ち並んでいる。

原作にも登場した巨大なデパートこと、ベンガーナ百貨店も代表的ではあるが、

香ばしい匂いをさせた焼き鳥や、色とりどりの菓子を売る露店も多数並んでいた。

 

別に祭りでもないのだろうが、大道芸やら手品を披露する芸人が集まり、

見事な芸を見せては、道行く人々から小銭やら歓声を受け取っていた。

 

マトリフ殿は目立たないように着替え、ギュータ魔導士の正装ではない。

ディードック殿が用意した、裏町でも溶け込めるチンピラのような姿だ。

私も商人が着ているような目立たない感じのゆったりとした服をまとっている。

ケインは形を変形して、ごく普通の魔導士の杖のような形になっていた。

 

マトリフ殿は焼き鳥をほおばりながら、いかがわしい裏路地の酒場や、

ディードック殿の紹介にあった故買屋、マトリフ殿の昔なじみの錬金術師などを回った。

チンピラなどにも絡まれたが、私がまるで杖術を使っているかのように、

相手を転ばせたり、投げ飛ばしたりしたが、全部ケインの力である。

聞き込みまわって様々な情報を得たが、集めた情報を吟味していくと、

噂レベルですら、ベンガーナ王の性格が急に変わったという結論に至った。

 

原作において自信過剰な所はあるが、腹が決まれば最後までダイを信じる胆力を持つ人物だ。

私の評価としては、統治者としての能力はかなり高いと踏んでいる王である。

世界会議(サミット)の際の強硬な態度は、開戦からいままで妖魔士団に対して、

優位に戦況を進め国を守り続けた自負からくるもので、根拠なき自信ではない。

 

もっとも、ベンガーナの優位は妖魔士団が本腰ではなかったからだ。

妖魔士団団長のザボエラが、自分の担当地を離れ、

他の団長に頼まれもしない介入をしていたせいだと私は考えている。

 

話が逸れたが私の評価としては、決して無能ではないタイプの為政者がクルテマッカVII世だ。

だというのにもかかわらず、その評判が芳しくない。

些細な事で怒り、暴力を振るう事もあるし、無理難題を押し付けたりするそうだ。

 

あの王は傲慢な所もあるが、暴君的な行動で人望を落とすような愚行を犯すタイプではない。

それゆえに噂で聞くクルテマッカVII世の評判は、どうにもしっくりこない。

マトリフ殿も同感で、強引な所はあるが、暴君や暗君とは程遠い、

実務的な統治者として優れた人物だと聞いていたそうだ。

 

我々はディードック殿の知り合いの宿に部屋を借りた。

街で収集できる情報はやはり限りがある。

その後、外出してベンガーナの夜の街を散策しながら、

マトリフ殿といっそ城へ忍び込もうかという話をしていた。

 

私もマトリフ殿も透明化呪文(レムオル)を使用することが出来る。

催眠呪文(ラリホー)開扉呪文(アバカム)などの呪文も有効に使えるだろう。

盗賊のような忍びこむ技に心得がない私たちだが、

これらの呪文を駆使すれば、色々探ることも可能だろうと考えたのだ。

 

 

 

流石に昼程の活気はない夜のベンガーナの街並みを歩いていると、

魔物の気配と争いの空気を感じる。

魔物探索呪文(レミウーク)を使ったマトリフ殿が、呪文に反応があったことに驚き、

私に位置を教え二人で向かうと、剣と何か固いものが弾き合う音が聞こえた。

 

そこにはバーナバス二体に一方的に攻撃され、防戦一方になっている青年の姿が見える。

ケインが爪を伸ばし、バーナバスの攻撃を切り払って青年を守る。

突然の乱入者が想定外だったのか、バーナバスが我々と青年のどちらを攻撃するか一瞬ためらう。

 

だが、そのためらいは悪手であるとしか言いようがない。

すかさず、私とマトリフ殿が、閃熱呪文(ベギラマ)でバーナバスを仕留める。

バーナバスの爪に背中をザックリと切り裂かれている青年の傷を、

私が回復呪文(ベホイミ)で癒している間に、マトリフ殿が声をかけていた。

 

 

「お前さん大丈夫か? ベンガーナはあんなモンスターが町中にも出てくる治安なのかい?」

 

「そ、そんなことはありません……。

恐らく、自分が……陛下がコウモリとヤモリを貪ってる姿を見たから……」

 

「なんだそりゃ、どういうことだ?」

 

 

青年の言葉を聞いて私は驚いた。

それは確か、ドラクエ3でサマンオサ王がボストロールに入れ替わられていた時の逸話では。

ボストロールを倒した後に、メイドが勇者一行に話してくれたはず。

王がヤモリやコウモリをそのまま食べていた事が、気味悪かったと……。

 

マトリフ殿と目配せをして、宿に戻ることにした。

追手を考慮して、瞬間移動呪文(ルーラ)で移動する。

いつまでも留まっていては、更なる追手がくるかもしれないからだ。

 

茶を用意して一服させ、青年を落ち着かせる。

背中の一番大きな傷は癒したが、青年の他の傷を私が回復呪文(ホイミ)で癒す。

一息入れた事と、傷が癒えたことで落ち着いた彼は、

ベンガーナ戦車部隊の見習いでアキームという名だと話してくれた。

 

なるほど、あのアキームもこんな若い頃が……。

大体、16歳くらいだろうか?

彼は新設された戦車部隊の見習いだが、

城の夜周りで先輩がトイレに行っている間に迷ってしまったそうだ。

その際、薄明りの向こうで、誰かと話しながら、

生のコウモリやヤモリを貪り食っているクルテマッカ王を見てしまったらしい。

 

 

"地下の男はどうだ?"

 

"はい、そろそろかと"

 

"三日後、皮を剥いで被ればラーの鏡でも見抜けぬようになる"

 

 

アキーム殿の話では、王はバーナバスを相手にそう話をしていたということだった。

何の話か分からないが、想像はつく。

マトリフ殿は考え込んでいたが、推測だと前置きをして話し始めた。

 

 

「心当たりがあるぜ。古い禁呪法なんだが……。

ある程度の日数、儀式を施した相手の皮を剥いで、

それをまとう事でそいつに成りきる禁呪法があるんだ」

 

「で、では、クルテマッカ陛下は……!」

 

「まだ生きてるだろうな。だが、三日後に殺されちまうんだろうよ」

 

 

アキーム殿は顔を真っ青にしている。

マトリフ殿は私に向き直ってこう言った。

 

 

「クルテマッカ王が魔物に入れ替わられちまってるのは間違いないな」

 

「左様ですな……。

しかし、儀式前の今ならば、ラーの鏡があれば正体を暴けませぬか?」

 

「ラーの鏡なんざ、そう容易く見つか……いや、待てよ。

ディードックの野郎の店にあったな!」

 

「相手が使用しているのが変身呪文(モシャス)か変化の杖かわかりませぬが、

変身の魔力を解除できましたなラーの鏡は」

 

 

ここからは時間との勝負だった。マトリフ殿がサババへ赴き、

ディードック殿の店でラーの鏡を借りてくる。

私とアキーム殿は、偽クルテマッカ王とバーナバスの会話をヒントに、

放置された地下牢の辺りを探索に行くことになった。

恐らくはそこに、本物のクルテマッカ王が囚われているのではないだろうか。

 

 

「では、私はアキーム殿とクルテマッカVII世を捜索に行ってまいりましょう」

 

「おう、分かった。そっちは頼むぜザボエラさんよ!」

 

 

ギュータの正装に身を包んだマトリフ殿が、瞬間移動呪文(ルーラ)でサババへ向かう。

私はロカ殿を呼び出し、事情を説明して同行を頼んだ。

突然現れた彼に驚くアキーム殿だが、こういう時はロカ殿の人懐っこさと、

コミュ力が物をいうので、アキーム殿を安心させて本物の王を探しに行くことになった。

 

 

 

 

翌る日、パプニカ国王の代理として正装をしたマトリフ殿と、

パプニカの書記官という事で私もベンガーナの城にやってきていた。

アキーム殿と彼に渡した魔法玉で呼び出したロカ殿。

さらにもう一人(・・・・)は秘密裏に城内に入り込み別行動をしている。

取次ぎの兵士がやってきて、王の間へ通されることになった。

 

 

「さて、鬼が出るか(じゃ)が出るか……」

 

 

ニヤリと笑うマトリフ殿は若干嬉しそうであり、頷く私はポーカーフェイスを保っていたが、

計画が上手くいくかという部分で、内心は大分冷や冷やものであった……。

 

 

 





独自設定
ゴッポル
本編では強欲さと心の狭さを見せただけでしたが、
テムジンが協力者を国外に募るとしたら、
恐らくは物流の中心であろうベンガーナに誰か見つけるだろうと思い、
彼に白羽の矢が立ちました。

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