ザボエラ転生 ~ダイ大世界をおっさんが生き抜く~ 作:リドリー@犬小屋
次回は来週の木曜日23時頃を予定しております。
ベンガーナ城、玉座の間。
普通は大体二階に作られるものだが、謁見者が多いベンガーナでは、
クルテマッカ王の指示で一階に作らせていた。
そういう部分で、クルテマッカ王の優れた実務家の側面が浮かび上がってくる。
通されてみると、王の間の広さに驚く。
最低限の玉座と謁見スペースが存在するテラン。
式典用に祭壇などの特殊な作りがあったパプニカ。
私が見た二国の王の間に比べると、テランの六倍。パプニカの二倍ほど広く作られている。
壁も分厚く、柱も太くそびえ立っており、訪れた者に王の権威を印象付けてくる作りだ。
更に絨毯や国旗、カーテン類などの内装にも贅を凝らされているので、
誰が見てもベンガーナの豊かさが理解できるだろう。
普通にじっくり見たい気持ちもあるのだが、今回はそれが目的ではない。
偽クルテマッカ王は非好意的な態度を一切崩さず、腹立たしげな表情で玉座に座っていた。
外交文書に対して王が激怒したパプニカからの使者である為か、
玉座の前で左右に居並ぶ兵たちの視線も厳しい。
型通りの挨拶をした後、明らかに不機嫌な表情のクルテマッカ王はこう言った。
「高名な大魔導士マトリフがやってきても、ゴッポルの引き渡しはできぬぞ。
彼はベンガーナに欠かせぬ商人だ。さっさとパプニカへ帰るがよい!」
「オレがパプニカの人間だから言うんじゃねぇが、パルナスの小僧が集めてアンタに渡した証拠。
ありゃよく調べ上げたもんだ。あれだけ一から十まで揃ってる悪党の証拠はなかなかねぇぞ?」
さっきまで使者として形式に則った言葉遣いをしていたマトリフ殿が、
本題に入った途端、喧嘩腰でクルテマッカ王に啖呵を切る。
「何……ッ!!」
「その上でゴッポルを庇うって事は、アンタも悪事の片棒を担いでるってことじゃねえのか?」
絶句したクルテマッカ王に畳みかけるマトリフ殿。
周囲の兵たちがいきり立つが、なによりもまず王が激高した。
「きっ……貴様ぁ!! 王たるワシに対して無礼千万!!
かくなる上はこいつらを取り押さ……」
「そこまでだ偽物め!!」
偽クルテマッカ王は最後までセリフをしゃべることができなかった。
周囲をアキーム殿や戦車隊の者たちが守り、ロカ殿に背負われた、
本物のクルテマッカⅦ世が姿を現したからだ。
驚愕の声とどよめきがさざ波のように広がり、玉座の間は騒然となる。
事前にアキーム殿が友人や先輩を説得して、戦車隊の仲間達で王を隠して城内へ侵入。
本物のクルテマッカ王を背負ったロカ殿を先導して王の間につれてきたのだ。
やつれてはいるが、もう一人のクルテマッカ王の登場に動揺する兵たち。
動揺していない者たちもいるな。そやつらはまさか……?
私は懐に隠したラーの鏡を取り出し、王に向かって掲げた後、
玉座の間にいる他の兵たちにもラーの鏡の力を開放した。
さきほど、動揺していない兵士たちには特に念入りに。
「ぐおっ!? き、貴様よくも……!!」
煙と絶叫と共に、玉座のクルテマッカ王の肉体が膨れ上がる。
緑色の巨体を揺らし、ボストロールが姿を現した。
普通のトロルより、一回り以上巨大で、トロルと言うよりはギガンテスの風格がある。
さらに表情が邪悪でありヨダレなどは垂らしていない。
ガンガディアほどの知性を感じさせる風貌ではないが、狡猾さがにじみ出る表情をしている。
そして、王の周囲を守っていた兵の内、何人かがエビルマージやゾンビマスターに姿を変えた。
さらに玉座の間に居並ぶ兵士たちも、数人がオークやリカントマムルの姿を晒す。
それを見て腰を抜かす兵や逃げる兵もいるが、本物のクルテマッカVII世が声を張り上げる。
「栄光あるベンガーナの兵士がなんたる様だ! マトリフ殿たちと協力して、魔物を倒すのだ!」
アキーム殿に支えられたクルテマッカVII世がそう指示を出す。
呆然自失していた兵たちは、王を中心に円陣を組む。
その兵たちに攻撃しようとしていたオークを、私が
マトリフ殿は
残ったゾンビマスターたちが腐った死体を呼び出す。
それを見たロカ殿が、声を張り上げた。
「アキーム! お前たちは王を守って玉座の間から出てろ!
ここに殺到する魔物を片付けてくれ!」
「心得ましたロカ殿! さ、参りましょう!!」
頷いたアキーム殿が戦車隊の仲間たちと王を促す。
その背中にマトリフ殿が声をかける。
「陛下! 手はず通り城内を掌握してくれ!
あと、この玉座の間に誰も立ち入らねぇように頼むぜ」
「心得た! マトリフ殿、ザボエラ殿、ロカ殿! 貴殿らはワシの恩人だ! 死ぬなよ!!」
我々に感謝の言葉を投げかけ、兵たちに囲まれて玉座の間を出るクルテマッカ王。
彼らを背後から追う腐った死体を、私が
ガラスが割れる音がして、窓から人面蝶やバピラスがなだれ込んできた。
マトリフ殿と私が呪文のランクを落として、
正直、
この場の敵をボストロール以外は一掃できるだろう。
だが、屋根のある場所でそれを行えば、生き埋めになるのは我々だ。
更に付け加えれば、城内には多数の人がいるわけで、
城が崩壊したら我々は
彼らは確実に死んでしまうだろう。
「まったく。途中までは上手くいっていたのだがな……」
ボストロールはこちらを睨みながらそう言っている。
だが、その隣のエビルマージ二人はボストロールにピオラをかけている。
これはまさか……。マトリフ殿と顔を見合わせるが、ロカ殿が前に出た。
「任せろ。こういうやつの相手は得意だ。
一騎打ちの邪魔をさせないように頼むぜ二人とも」
「心得ましたぞ!」
「ハハッ、昔みてぇで嬉しくなっちまうな」
小馬鹿にした笑みを浮かべたボストロールが、
棍棒を振りかぶってすさまじいスピードでロカ殿の下へ疾走した。
ピオラの重ね掛けで、己の弱点である鈍重さを補おうというのか。
その速度と威力を兼ね備えた一撃を、真っ向から受け止めるロカ殿。
「いい威力だがな……。
テメェなんかにやられてたら、毎日修行つきあってるボリクスにドヤされちまうぜ!」
ボリクスの持つ
彼はボストロールの棍棒をがっちり受けながら、力任せに蹴りを入れる。
転びはしなかったものの、一歩引いたボストロールは怒りの表情でロカ殿を睨みつけていた。
「こいよ! オレの誇りであるカール正統剣技・豪破一刀を恐れぬならな!」
カール正統の構えを取り、ボストロールに啖呵を切るロカ殿。
それをきっかけに、各所で戦闘が始まった。
まず、ゾンビマスターが腐った死体をどんどん召喚してくる。
マトリフ殿がもう一体を
私が
腐った死体を三体盾にして
埒が明かないのでマトリフ殿をチラリとみると、ハンドサインである呪文の使用を決める。
私が
その場にいる腐った死体を全部範囲に巻き込む。
驚いたゾンビマスターを、私とケインが
その間にも、エビルマージが魔法の筒で呼び出したガメゴンが火炎を吐いてくる。
チラリとみると、ロカ殿が豪破一刀でボストロールと真っ向勝負している。
ボストロールが
相手にダメージを与えて行ってはいるが……。
問題としてはボストロールは受けた傷が自然に治癒していくのだ。
ダメージが蓄積しているのはロカ殿の方であり、
その事に気づいたボストロールは表情に余裕が出ている。
だが、それもここまでだ。
私がここまで敵を引き寄せていたのも、実はマトリフ殿の呪文を待っていたからである。
「大地に眠る力強き精霊たちよ……いまこそ我が声に耳を傾けたまえ──
十分に魔法力を高めた上で、詠唱までして放つ
ガメゴンやゾンビマスター。生き残っていたオークたちを巻き込んで炸裂する。
その有様に驚いたのか動きが止まったエビルマージを、私が
いま一人をケインが爪で八つ裂きにした。
「お、おのれぇ!!!」
自暴自棄になったボストロールが突っ込んでくる。
「フハハハ!! 食らえ
「そんなもんが効くかぁ!! カール騎士団・正統! 初撃──!」
私にも見える。ロカ殿の闘気が冴えわたり、充実していることが。
「豪破一刀!!!」
唸る闘気の刃が
その背後のボストロールも真っ二つにした。
私とマトリフ殿がボストロールにとどめの
戦いは終わりを迎えたと思ったが……。
「ど、どなたでもいいので! こ、こちらも助けてください~~~~!!」
玉座の間の前で、ボストロールの部下たちの援軍をとどめているアキーム殿の声がする。
みなで顔を見合わせて、すぐに彼らを助けに行くことにした。
三日後。
ベンガーナ城内は修復がある程度済んだ。
我々への感謝の式典を開きたいと言われたが、それはアキーム殿と彼を信じて戦ってくれた、
ベンガーナ戦車隊の手柄にして欲しいと辞退させてもらう。
その後、クルテマッカ王からの要請で会談することになる。
少しやつれてはいるが、ボストロールのかけていた呪法は既に解除した。
あとは、養生すればなんとかなるだろう。
既にゴッポルは逮捕されているが、事に至った経緯を取り調べたらしい。
パプニカの捜査の手が迫っていることに気づき、
テムジンから開けるなと言われていた魔法の筒を開放してしまった。
そこに入っていたボストロールは、彼に巧みに囁きかけてゴッポルを丸め込んだ。
自分はラーの鏡でも正体がバレない変化の術を知っている。
ベンガーナ王になりすまして、二人でベンガーナを牛耳ればパプニカなど恐れるに足りない。
この国は世界最高の経済規模を誇る大国なのだからと。
ボストロールに協力して、ベンガーナ城内の兵や役人を殺し、
彼らの代わりに魔物を入れ替わらせる協力もしていた。
更には国王への殺害未遂であるので、極刑は免れないという事である。
「今回の事は私の至らなさが招いたことだ。パプニカには正式に詫びたい」
「相手の方が上手だっただけさ。ただ、魔物避けの香くらい常備した方がいいかもしれんぜ陛下」
「おっしゃる通りだ。迷信だと切り捨ててきたことが必要だったとはな。
その、ついでと言ってはなんだが、何かこういう事態を防ぐ方策を伝授いただきたい」
素直に頭を下げて教えを乞うクルテマッカ王。
マトリフ殿と協力して技術偏重になりすぎて、魔法が疎かだったベンガーナに対策を授けた。
クルテマッカVII世はメモを取りながら、対策について一々大仰に頷き、
すぐに手配するようにした。
その後、私がテラン所縁の者だと気づき、
テランとの陸路での交易を再開したいという話があった。
いままで、ベンガーナとは直接の交易がなかったからよい機会だ。
フォルケン王に伝えて権限を持った人物を連れてくると話をした。
アキーム殿は今回の功績から戦車隊長の地位が提示されたが、本人は固辞した。
王はなぜかと問うと、自分は幸運に恵まれただけだといい、
もっと経験を積んでからその地位に就きたいと言ったという。
クルテマッカ王は大いに恥じて、若者の勇気と謙虚さを褒めたたえたという。
ベンガーナでの騒乱も片が付き一息入れるかと思ったのだが、そうはならなかったのだ。
私がヨミカイン魔導図書館へ戻り、一連の事件についての様々な事後処理が終わり、
ベンガーナへついてきたボリクスが露店で食べ歩きすぎて、
竜水晶に怒られるなどの小事が起こった後の話。
一週間ほど経過して、ようやく私の生活に静かさが戻ってきた。
私はケインと一緒に日課の薬草を採取している時、
誰かが来るというケインの言葉でそちらを見ると、
珍しい魔族の青年……いや少年が話しかけてくる。
短い金髪で紫色の肌。若干の幼さを見せるがまさか彼は……ラーハルトでは。
「爺さん。この辺りにヨミカイン魔導図書館があると聞いたのだが知らんか?」
ぶっきらぼうに、そう私に問うてきた。
私が答えようと思ったところ、背後から来た男性が彼に叱責の言葉をかけた。
「ラーハルト。道を尋ねた相手に対して、言葉遣いが失礼ではないか」
「ハッ、申し訳ございません、バラン様」
直立不動でバランの方へ向き直り、謝罪するラーハルト。
「私に対してではなく、こちらに謝るべきだが……。失礼したご老人。
我々はヨミカイン魔導図書館という建物に行きたいのだがご存じか?」
穏やかな話し方ではあるが、その奥に潜む存在感が凄まじい。
左目に着けた
鎧は……竜騎将の際の鎧ではなく、ヴェルザー戦の頃につけていたものだ。
髭も本編ほどに立派なものではなく、ダイを育てていた頃のうっすら生えた髭と、
本編の丁度中間くらいの長さだろうか……。
さて、まさかこの段階でバランが直接やってくるとは思わなかったな。
どう対処するべきだろうか……?
独自設定
ボストロール・パンタグリエル
名乗る暇がありませんでしたが、ガンガディアの副官を務めていました。
トロル一族では冷静な方で、ガンガディアから呪文を学んでいます。
ヴィオホルン山での最終決戦で、前線での指揮を行っていましたが、
各国連合軍の攻撃で重傷を負ってた所、
テムジンの魔法の筒に回収されています。
その後、テムジンに死のさそりの扱いや、毒の知識などを授けました。
ガンガディアから授けられた策で、もし魔王軍が敗北した場合は、
人間を利用して軍勢を再興するノウハウを教わっていました。
悪心を持った人間を利用する手口もその一つです。
ゴッポル
本作ではテムジンが処刑された後、
色々手を尽くしてテムジンの各国に張り巡らせて利権を、
ゴッポル自身の財力で掌中にしようとした所、
三賢者のパルナスに先手を打たれて焦っていました。
手はないかと焦っていた時、魔法の筒を思い出して、
中のボストロールを出して今回の事件を引き起こした感じになります。
原作に当てはめるなら、パプニカでのテムジン逮捕の後に、
魔王軍の侵攻で各国にあった利権が灰に。
その際にテムジンから渡されていた魔法の筒も焼失しています。
財産をほとんど失い、ドラゴンキラーを買って、
財テクしようというまでに落ちぶれています。
こちらでは生き残れていますが。
最後の二人
ラーハルトは14歳です。
バランは年齢が分かりませんが、本作では本編の時に35歳と設定しました。
つまり、この時点では27歳になります。
まだ20代後半なので外見は若い頃の姿と、本編の姿の中間くらいです。
【挿絵表示】