ザボエラ転生 ~ダイ大世界をおっさんが生き抜く~ 作:リドリー@犬小屋
本年もよろしくお願いいたします。
次回は来週の木曜日23時頃を予定しております。
バランの号令と共に、ボリクスとラーハルトが間合いを詰めて戦い始める。
ラーハルトは既に鎧の魔槍を装備しており、ボリクスに対して本気で挑む意志が感じられた。
「そんじゃ小手調べ……
小手調べの割には強い呪文を放つボリクス。
それに対して、
「そんな呪文が通じると思っているのか? 名工ロン・ベルクの手による伝説の武具だぞ!」
己の武具を誇る言葉の後、私の目には閃光の様にしか見えない槍の刺突がボリクスに迫る。
ボリクスは正眼に構えた剣で、槍の刺突を迎え撃つ。
ラーハルトの刺突を剣で逸らすたびに間合いを詰め、海破斬を食らわせる。
ボリクスの海破斬が浅いと思っていたのか、余裕だったラーハルトの顔に驚愕の表情が張り付く。
「ばかな!! 鎧の魔槍に傷が……!?」
「魔法剣って知っとるか、ラーハルト?」
いつの間にか
今度は大地斬を放ち、完璧に避けたように見えたラーハルトだが、胸甲に斜めの傷がついている。
「
親切に説明したったんから、次から避けろや自分?」
「ほざけ! ならば、オレのスピードについてこれるか!」
残像を作りながらボリクスを翻弄するラーハルト。
だが、距離を空けて後退したボリクスが
その
ラーハルトだけでなくバランも驚愕の声を漏らしていた。
ボリクスは雷光を纏いながら、超スピードでラーハルトに迫り、大地斬で彼を捉える。
「クソッ! オレの速度に迫るだと!! なんだその技は!」
「
「その減らず口、叩けぬようにしてくれる!」
熱くなってしまったラーハルトは、技が明らかに大振りになっているように感じられる。
いつでも試合を止められるような間合いにいるバランが、隣にいる私に話しかけてきた。
「ボリクスのあの技は、あなたの指導ですかな?」
「いえ、ワシは一緒に旅をしただけですな。闘気の制御は拳聖ブロキーナ殿。
剣技……アバン流刀殺法は勇者アバン殿に学びました」
ため息をつきながらバランが納得したと口にした。
そして、ラーハルトが生まれつき身体能力が非常に高い魔族だという事と、
自分が
実戦的に訓練を施してきてはいるし、実際、魔界へ行って強い魔物と戦っても、
連戦連勝で負け知らずだったそうだ。
もちろん、手合わせでバランには負けているらしい。
だが、
天狗の鼻も高くなってしまうのもやむを得ない事だ。
「私はどうにも子育てが下手でして。
ラーハルトの武芸の師になれても、彼を人として導けたかどうか……怪しい所があります」
「ワシもその点で言えば、偉そうに人に講釈できる立場ではありませんのう」
既に私の目には速すぎてやり取りがわからないが、
ラーハルトの動きが直線的になっているように見受けられる。
つまり、ボリクスに追い詰められていっているのだろう。
「先代、陸戦騎が生きていれば、色々と教えられたのでしょうが。
ヴェルザーの強さも大したもので、彼は命を落としてしまった」
「左様でしたか……。
もし、ラーハルト殿が良ければ、アバン殿に連絡して、
指導してもらってもよいのでは?」
「……私は大魔王バーンと交渉している者ですぞ、ザボエラ殿」
「おっと、これは失言でしたかな。
ただ、ワシは武芸をたしなみませんが、
自分でボリクスを指導できなかったことを悔いてはおりません」
「ほう……?」
私の次の言葉を待つバラン。
チラリと二人の対決を見ると、ラーハルトがやけっぱちの大技を、
ボリクスにかわされて吹っ飛ばされている所だ。
武芸に疎い私にも、勝敗の天秤はボリクスに傾いている事が理解できる。
「神ならぬ身であれば、己が一身であらゆる技芸を修める事は不可能でありましょう?
各分野の自分が見込んだ練達者と、子供の縁を繋いであげればよい。
そのように道を示すだけでも、大人として責任を取ったことになりませんかな……」
「おっしゃる通りだ……」
嘆息し、決着がついたようですと話しかけてくるバラン。
見ると魔槍を弾き飛ばされ、ボリクスに剣を突き付けられているラーハルトがいた。
バランが近寄り、ボリクスの勝利を宣言する。
「ラーハルトよ。分かったであろう? この世界にはまだまだ上がいる」
「バ、バラン様……」
「他人に無理にへりくだることはないだろう。
だが、必要以上に居丈高になり視野を狭めては、心技体の成長を妨げるだけだ」
「……ハッ……。肝に銘じます……」
悔しそうなラーハルトに、ボリクスが手を伸ばす。
不思議そうな顔で、その手を見つめるラーハルト。
ニカッと笑いながら、ボリクスが彼に話しかける。
「なかなか強かったで。また今度、試合しようやないか?」
その言葉にハッとするラーハルトは、顔を上げてボリクスの顔を見返す。
彼はニヤリと笑って、ボリクスに宣言する。
「次は……オレが勝つぞ」
「へへっ、その意気や。まぁ、次もうちが勝つけどな?」
バランがボリクスの側に歩み寄り、
自身に
私がラーハルトの傷を
「ザボエラ殿、失礼な態度を取ってしまって、申し訳ありませんでした」
「なに、ワシから言葉はなにもありませんぞ。全てバラン殿の言った通りですからな」
「寛大な言葉、痛み入ります……」
彼と敵対するつもりはない。それに、最初からバランはこうなることを予期していた節がある。
ボリクスの身のこなしと身にまとった
その上で、ラーハルトは敗北すると踏んでいた。
常勝のラーハルトが良い敗北をして、教訓にすることができる戦いはそう多くはない。
敗北で学ぶのはいいが、敗北は死に繋がるものなのだ。
これはバランからラーハルトへの、戦士としての教育に付き合った感があるな。
「あなたには借りが出来てしまったなザボエラ殿。
もし、あなたが困った場合、あなたの頼みを一つお受けすることを
「ほう……それは値千金ですな」
「あなたにはボリクスがいるから、私の力などは不要かもしれませんが」
バランは私がそう考えていたことを察したかのように、随分と破格の提案をしてくれた。
口約束ではある。もしこれが、本編のバラン編の彼が約束したなら不安だっただろう。
だが、いまの彼は再三言う様に理性的である。
「借りが出来たと言ったすぐ後に話すことではありませんが、
実はお力を借りたいと思っております」
「ほう、なんですかな? まぁ、立ち話もなんです。中で話をしましょうかバラン殿」
なんとなく、想像はつく。
ダイを探す方法を、彼は求めているのだろうな。
大魔王バーンと交渉中だから、彼の力を借りては、なし崩し的に魔王軍入りさせられてしまう。
つまり、フリーの大きな力を持った魔法使いなどを探していたのだろう。
大魔王バーンから、強い魔法使いである
これ幸いと依頼を受けて、私を見に来たのだろう。
バランの眼鏡に適わなかったら、書状を送られて終わりだったのかもしれない。
恐らくはラーハルトへの対応が高得点だったのだろうな。
この後に話される内容も予想がつく。
ラーハルトは竜水晶が食事を用意してくれるというので、ボリクスと一緒に食堂へ行った。
応接室でバラン殿から、あまり他人に話したことがないことだと前置きをされた。
私は口外はしないから安心してもらいたいと話し、続きを促す。
痛みを伴う記憶を掘り返す様に、バランは彼の過去を私に語って聞かせた。
アルキード王国の話から、妻を失い、息子が異国へ船で送られた事。
その船が沈没してしまい、息子が行方知らずになってしまった事。
世界中を探し回っているが、なかなか見つからないという話をしてくれた。
「私はあなたが力ある魔法使いだと聞いていた。
私が知らないような秘呪文にも精通しているかもしれない。
だが、私にとって非常に重要な、この話をするに値するかどうか……」
「そこでラーハルト殿ですな?」
「失礼かとは思いましたが、ラーハルトへの対応であなたが信頼できる人物であると判断できた。
長く生きたあなたなら、人を探す呪文をご存じではないだろうか?」
"人を探す呪文"そう口にしたバランの言葉は、
疲労と苦悩で塗り固められたようで重いものだった。
「呪文でなくてもいい。もちろん、呪法の類でもかまわない。
ディーノのためであれば、私の命をかけてもいいと思っている」
「落ち着かれよバラン殿。
あなたが命を捨てて、もし、そのご子息が見つかった時、
ご子息に、親がいない苦しみを味わわせるおつもりか?」
「……申し訳ない……。軽率な言葉を使ってしまった……」
難しい。この返答は非常に難しいぞ。
実は水晶玉については、ナバラ殿から手ほどきを受けている。
あまり良い生徒ではないので、ナバラ殿のように気配を探って、
知らない相手を見つけるほどの力はない。
私にできる事は、知っている相手の居場所を、水晶玉で映すことくらいだ。
もちろん、相手が魔法使いであったり、結界などの内にこもっていれば無理だが。
水晶玉を持ってきて、ダイを映して見せてあげることも可能である。
あるのだが……。
そう考えていると、ラーハルトとボリクスが部屋にやってきた。
「バラン様! ボリクスに聞きました! 大魔王バーンは地上を吹き飛ばすつもりだと!!」
「なに……!? それは、どういうことだ、ボリクス」
「ヴェルザーがうちに言ったんや」
そして、説明を始めるボリクス。
ヴェルザーが今際の際のボリクスに吐いた言葉。
それをバランに説明するボリクス。だが、それに対して証拠はない。
バランはその言葉を聞いて沈黙して考えているようだ。
証拠を出せと言われても出せるものではない。
だが、ボリクスが雷竜ボリクスであることが理解できたかどうかはともかく、
そうなると、彼女が嘘を付いて得か損かという所になってくる。
「君が嘘をついているとは思わないが、簡単に信用するのは難しくはある」
「天界の精霊はヴェルザーの事、なんか言ってなかったんか?
やけに侵攻に焦ってるとかそういう話はなかったんか?」
「侵攻を急いでいるとは聞いていたが、流石に大魔王バーンの目的までは知らなかったな。
しかし……なにか上手い手があれば……」
その言葉を聞いたバランは、髭を撫でながら考えていたが、
何か思いついたようにその手を止めた。
「記憶の神殿だ……! ボリクスがよければ、ロモスの南にあるあの島に……。
あの場所なら、過去の記憶を映像として見ることが出来る」
「さきほど話した時に伺った、天界の精霊たちと修行した場所ですかな?」
「よく覚えておいでだ。通常は記憶の中から強敵を呼び出し修行するのに使う。
幻だが実際に傷を負うので、死ぬこともあるから危険だがそうでなくては修行にならん」
そして、遠くを見る様な顔をして、バランは言葉を続けた。
「先代の海戦騎が、マーマンだったのだ。
彼が失った家族との思い出をよく見ていたのを思い出す……」
「なるほど。つまり、それを使ってボリクスの記憶を見れば、確証が得られるということですな」
「真実、体験した記憶しか映し出せないからな」
アニメ化の後に満を持して発売されたが……ゲームの評価は置いておこう。
とにかく、その中で明かされた、ロモスの南にある小島。
その島には記憶の神殿という施設がある。
記憶の番人という、声だけの存在が管理する施設だ。
「ボリクスが嫌でなければ、一緒に行ってもらいたい。
そこで、その記憶を見せてもらいたいのだが……?」
「ええで! それで信じてくれんならな!」
我々はバランの
記憶の番人は愛想のよい渋い声で、私たちを迎えてくれた。
本来は
ボリクスと記憶の番人が会話をしながら、"戻りすぎや"とか、
"君、昔はドラゴンだったのか!"とか、色々やりとりが聞こえてくる。
試行錯誤の結果、どうやらその目的のシーンにたどり着いたようで、
映像が流れてきた。
金色に輝くドラゴン──ボリクスと、
闇色の鱗を鈍く光らせるヴェルザーが熾烈な戦いを繰り広げ、
ボリクスが何か強大な闇の呪文に撃たれて倒れ伏すシーンだ。
「おお……!? これはまさしく、冥竜王ヴェルザー……!?」
「いや、違いますぞバラン殿。この時は、冥竜ヴェルザーでした。
ボリクスに勝ち、彼は冥竜王を名乗ることになりましたな」
「ほう……。さすが、お詳しいですなザボエラ殿」
"オレは貴様になぞ関わっている暇はないのだ。
急いで地上に侵攻せねば、バーンの奴めが地上を吹き飛ばしてしまうからな!
オレは地上も欲しいのだ。太陽の光溢れる地上をなっ!!"
そして、映像が終わった。
重いため息とともに、感心したように唸るバラン。
そこへ、ラーハルトが真剣な面持ちで、足早に駆け寄ってくる。
「バラン様! ボリクスの言葉は偽りではございません! これがいい証拠でしょう!」
「なんや、肩持ってくれるやん?」
「別にお前のためじゃない。オレは元々、栄えある
大魔王バーンなどの臣下になることが嫌だったんだ!」
「……ラーハルト……」
「バラン殿、いかがしますかな?」
腕を組んでいるバランに話しかける。
答えは決まっているようなものだが、きちんと言葉にして聞いておきたい。
「私は大魔王バーンとの交渉を取りやめる。
この地上を吹き飛ばすなど、正気の沙汰とは思えない。
それに、この地上には我が息子ディーノがどこかにいるのだ」
そういって、この場の皆を見渡す。
「ザボエラ殿、ボリクス。それにこの場にはいないが、竜水晶殿。
地上で新しい友人も得たのだ。そのような大災厄を為そうとしている大魔王に、
「よくわかりました、バラン殿。では、あなたに……」
私がダイの話を切り出そうとした直後、まるで遮るかのように不気味な笛の音が響き渡る。
甲高く靴を鳴らして歩いてくる音が近づいてきて、
男は闇が形を持ったかのようにヌルリと姿を現した。
人を馬鹿にしたような笑みを張り付けた仮面。
黒を基調とした燕尾服を身に着け、まるで不吉な道化師のように見える姿。
巨大な鎌を持ち、隣には一つ目ピエロが浮かんでいる。
「グッドイ~ブニ~ング。
ヨミカイン魔導図書館館長、ザボエラ君。そして、
色々興味深い事が起きたようだけど、さて、どうするつもりだいバラン君は?」
黒い道化師はおどけた口調ではあるが、その瞳は一切笑っておらず、
こちらを冷たく見つめていた。
独自設定
記憶の神殿
前回書き忘れましたが、バランが天界の精霊とここで修行した下りですね。
あと、今回の話で言えば、自由に記憶を映像化できる辺りもです。
ゲーム中、魂の絆の記憶というイベントイラストと能力値ボーナスが貰えるカードがありまして、
その辺りの設定を流用した感じになります。
前海戦騎
オトギリ姫のような例がいたので、
ボラホーンより更に海よりの人がいても面白いかと思って設定しました。