ザボエラ転生 ~ダイ大世界をおっさんが生き抜く~   作:リドリー@犬小屋

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次回から原作開始より七年前になります。
年度末で忙しくなりますので、まとまった時間が取れません。
少々お時間を頂きますが、戻ってきますのでご安心ください。

次の更新は3月14日木曜日23時頃を予定しております。


第四十二話 策士策に溺れる

 

生き延びられたことが奇跡のようであったサババ海岸での戦い。

竜魔人バラン、次いでミストバーンとの連戦から一週間あまりが経過したところだ。

大魔宮(バーンパレス)に行ったわけでもないのに、まるで最終決戦のような戦いであり、

心身ともに疲労してしまった。

 

バラン殿は傷は癒えたが、今の所、竜闘気(ドラゴニック・オーラ)を発することができなくなっている。

ラーハルトと竜水晶が同行して、アルゴ岬の泉へ力を回復するために向かっているところだ。

ダイに会わせてあげようと思ったのだが、時期が悪いかもしれない。

一目で血縁を証明できる竜の(ドラゴン)紋章を、光らせる事もできないのだからな。

 

ボリクスはクロコダインと連れ立ってパプニカへ行っているし、

ギュータの者たちもテランへ戻って貰ったところだ。

私はケインだけを供として、このヨミカイン魔導図書館において、

本を整理する日々を送っている。

 

ふと、室内に風が吹き、ロウソクの灯りを吹き消したので、もう一度点け直す。

すると、影が不自然な動きをして集まり、ひときわ濃い闇が(うごめ)き直立した。

その闇が真っ黒い道化師の形を取り……そこにはキルバーンが何食わぬ顔で立っている。

ケインが私に警戒するように話しかけてくれるが、

安心するように言ってキルバーンに向き直った。

 

 

「クックック……。ザボエラ君。

キミ、不用心じゃないか? 簡単に入れたよここ?」

 

 

まるで、古い友に声をかけるかのような気楽さで、私に話しかけてくるキルバーン。

私も非礼な彼の訪問を咎めることなく応じる。

 

 

「ふむ。まぁ、特に何かしておるわけではないからのう。

で、お前さんは何をしにきたのかな死神キルバーン」

 

「フッ……死神の仕事っていえば、暗殺に決まってるじゃない。

キミはやりすぎたわけだよ、ザボエラ君」

 

 

キルバーンがスペードのエースのトランプを取り出す。

そのトランプが魔法力を帯びて光り、虚空に飛翔した後、燃えて消滅した。

恐らくはなんらかの殺しの罠(キル・トラップ)を発動したのだろうが、

キルバーンは特にそれについて言及せず、コツコツと仮面の横を軽く叩きながら話を続けた。

 

 

「ここ数年の君の動向を調べ上げたんだ。キミが魔界へ行ったことも。

テラン、パプニカ、カール……。先日はベンガーナだったかな?

各国を動き回っていてもめ事を解決している事も知っている。

しかし、どうにもボクにはキミの目的が見えてこないんだ。何を企んでいるんだいザボエラ君?」

 

 

私にそう問いかけてくるキルバーン。私の行動について色々調べたという所か。

さて、どうするべきか? 恐らくいま仲間たちが準備を頑張っているだろうから、

時間稼ぎをするべきだろうな……。

 

 

「企んでいる、か……。特に企んでいる事などないがのう。

ワシは出向いた先で事件に巻き込まれて、それを仲間と一緒に解決しただけにすぎぬ」

 

「魔界では竜の(ドラゴン)騎士に出会い、パプニカでは王家と懇意になり、

破邪の迷宮に降りて何かを手にして、リンガイアやベンガーナを救った英雄が、

たまたまだというのかい?

やれやれだね……それは言い訳になってないよザボエラ君?」

 

 

もしかしてと思っていたが、どうやら私が周到に計画し、

一連の結果を計算づくで導き出したと思っているようだ。

つまり、実像の私よりも虚像の私を見て、その巨大さを警戒しているというべきか。

実際、魔界や各国に降りた時は、そこで何か良い事が起きればいい、その程度の軽い気持ちだ。

もっとも、想定をはるかに超える事件が起きて縁が結ばれ、

いまの状況になっているわけではあるが。

 

 

「まったく、食えない男だよザボエラ君。

だから、ボクも本気を出すことにしたんだ……! ボクの配下のキルバーン黒道化衆……。

既にこのヨミカイン魔導図書館を包囲している。300の精鋭さ……」

 

 

そんな連中がいたのか。だから、あれから一週間も間があったわけだな。

しかし、慎重に過ぎて機を逸した感があるな、キルバーン。

 

 

「ほぅ、お前さんは部下がいたのかね。てっきり、個人行動が得意なタイプだと思っていたが」

 

「一人で行動する方が得意ではあるけどね。必要とあらば数を頼むこともあるよ。

もちろん、別に部下たちを率いる事、指揮することも苦手ってわけじゃあない」

 

 

暗殺の基本は相手の緊張が弛緩した時を狙うのが一番効果的だ。

連戦で疲労した私たちを狙えば、容易く事が成功しただろうに。

正直、竜魔人バラン・ミストバーン戦の直後に攻められていたら危うかっただろう。

 

そう考えていたら、周囲の空気が変わったのを感じる。

急に魔法力が押さえつけられるような嫌な感触を覚えた。

キルバーンが笑いをこらえきれないようで、一人で含み笑いを続けていた。

どうやら、種明かしをしてくれるようだ。

 

 

殺しの罠(キル・トラップ)は単体でも使えるけど、これは五枚のトランプを消費して使われる、

極めて強力で大規模な結界だよ。

ロイヤルフラッシュ……。さっきのエースが最後の一枚さ。

禁呪法の一種で、特殊な呪法を施したボクら以外、強さが10分の1になるのさ」

 

 

フレイザードの氷炎結界呪法のようなものか。

もしかすると、こちらがそういったデバフ結界の元なのかもしれないが……。

 

 

「さて、あとはキミを始末するだけだが、

キミには興味があるからもう少しおしゃべりしないかい?

部下の紹介でもしようか? 配下の黒道化衆は、魔界の各地にいて、普段は情報を集めている。

勿論、情報のほかにも暗殺して、首をヴェルザー様に届けてたりしているかわいい連中さ」

 

「ヴェルザー様か。もう、隠さぬのかね。

本来、お前さんが大魔王バーンではなく、冥竜王ヴェルザーの配下だという事を?」

 

 

急に拍手しだし、こちらへ一礼するキルバーン。

仮面は笑っている。だが、相変わらず目は笑っておらず、声音は非常に冷たいものだった。

 

 

「それだよザボエラ君。キミ、知られてない情報を知りすぎている。

ゆえにキミの正体をボクは当てようと思うんだが、どうだろう。

かつての八大実力者……深緑の枢機卿殿?」

 

「ほぅ……ということは、お前さんが八大実力者を瓦解させた"死神"かね?」

 

「クックック……。これはせーので答えようじゃないか。ボクも好奇心が抑えられない」

 

 

キルバーンの掛け声に、私もキルバーンも異口同音に肯定の言葉を発する。

この男のノリに付き合うのは業腹ではあるが、気になっていた事ではある。

真ザボエラの手記を読んでも分からなかったことの、答え合わせができたのは僥倖か?

 

 

「ウッフッフッフ……。つまり、ボクに八大実力者から追われ、

地上に逃げてきた敗残者ということだねキミは」

 

「まぁ、そうなるかのう」

 

「そして、魔界に残してきた部下か、作り上げた禁呪法生命体にでも、

情報収集をさせたってところかい? キミのその情報通ぶりは?」

 

「お前さんの考える通りでよかろう。別に否定も肯定もせぬよ」

 

 

やはり、実像より私を大きく評価してくれているようだな。

例によって不気味に笑うキルバーンは満足そうにひとしきり笑っていた。

では、こちらからも質問してみるとするかな。

 

 

「大魔王バーンの状態はどうなっているのかね? こちらはまったく状況が掴めぬのだが」

 

「それはまぁ……ボクにも正確な所は分からなくてね。

意思疎通はできるんだけど、しっかりガードされてるのさ。

もっとも、そのくらいだったら、ボクはなんとかできる奥の手は持っているけどね」

 

 

もっとはぐらかされると思ったが、意外とちゃんと答えてくれたな。

現在のバーンは意思疎通はできるということは、

逆に言えばそのくらいで能動的に動けないという事。

ガードされているということは、何者か守護者が……ミストバーンかマキシマムだろうか?

彼らがついていて手は出せないが、キルバーンはいざとなれば、

黒の核晶(くろ コア)で吹き飛ばせるということか。

 

しかし、キルバーンが正直に答えるという事は、

大魔王バーン陣営とは関係を絶ったということか?

なるほど……大体の所、キルバーンの意図が理解できて来たぞ。

大魔王バーンを始末する事は、ある意味、黒の核晶(くろ コア)を使えばいつでも解消できる。

 

だが、私の動きが彼にとってよく理解できないから、

もしくはミストバーンを倒した姿を見て焦って、

先に始末するべきだとやって来たという感じだろうか。

 

 

「さて、聞きたいことは全部聞いた。そろそろ、キミを始末するとしようか……」

 

 

そう言って、指を鳴らすキルバーン。

合流呪文(リリルーラ)だろうか。三体の魔物が転移してくる。

 

 

「ボクのキルバーン黒道化衆から、花形芸人を紹介するよ。

闇芸人ルルルリーチ、舞踏魔プレシアンナ、輪王ザルトラ……!!」

 

 

いずれもドラクエ10に出てきた旅芸人やスーパースターの職業クエストのボスや、

特殊なコインボスだった魔物だな。芸人のような魔物が選定条件か?

 

その背後にはきりさきピエロ、地獄のピエロ、クラウンヘッド、爆弾サーカスetc……。

三十体ほどの魔物が立っている。

 

 

「しかし、もっと警備を厳重にしておくべきじゃないかねぇ……。

まぁ、ボクがそんな苦言を呈しても、生かす機会はもうキミにはないわけだが」

 

「いい気になっておるなキルバーンよ?」

 

「……どういうことだい?」

 

「誘い込まれたとは考えなかったのかのう? 策を弄するのは自分だけだという思い上がり……。

後悔は先に立たぬ、ということじゃよ──」

 

 

私の手から魔法力が放たれ、足元に吸い込まれていく。

床が破邪の光に覆われ、魔物たちが苦しみ動揺するさまが見える。

ごく少量の魔法力で発動する破邪呪文(マホカトール)

勿論、私だけが使用できる呪法で、簡単な仕掛けだ。

事前に設置しておき、破邪呪文(マホカトール)を使った本人だけがオンオフできるようにしてあるのだ。

 

キルバーンが張った殺しの罠(キル・トラップ)であるロイヤルフラッシュを無効化できたらしい。

先ほどまで身体へかかっていたデバフの不愉快さが消えている。

 

空を飛べる魔物数体が、ヨミカイン魔導図書館の天井を破って脱出しようとするが、

実はそちらにも仕掛け人が潜んでいるのだ。

 

 

「甘いぜ……。逃がさねぇよ! 閃熱呪文(ベギラマ)!!」

 

 

飛翔した魔物を、姿を現したマトリフ殿が閃熱呪文(ベギラマ)で撃墜する。

閃熱呪文(ベギラマ)をまともに食らった魔物が、床に叩きつけられていた。

障害物が多いヨミカイン魔導図書館内部での戦闘は、

私やマトリフ殿の方が侵入者よりも一日の長がある。

あっという間に、空を飛んだ魔物たちは片付けられた。

その有様を見て、ルルルリーチが怒声をあげる。

 

 

「お、おのれ! 人間風情が調子に乗りおって! 氷結呪文(ヒャダルコ)!!」

 

「そりゃこちらのセリフだぜ! 呪文返し(マホカンタ)!!」

 

 

飛翔呪文(トベルーラ)で浮いているマトリフ殿の呪文返し(マホカンタ)に反射され、

氷結呪文(ヒャダルコ)で半身が凍り付き、落下してくるルルルリーチ。

 

 

「バカな……!? ヨミカイン魔導図書館には誰もいなかったはずだ。

大魔導士マトリフもパプニカに戻ったのを確認して……」

 

 

血まみれのグリゴンダンスがヨロヨロと歩いてくる。

 

 

「キ……キルバーン様ッ!

外に途方もなく強いワニ男が現れ、我ら黒道化衆を……ぐふっ」

 

「ば、ばかな……クロコダインが外にっ!?」

 

 

血を吐いて倒れたグリゴンダンスには目もくれず、焦りを見せるキルバーン。

そのキルバーンと私たちの耳に、外での戦いの喧騒が聞こえてくる。

ギュータの民の精鋭たちと隠れていたクロコダインが、

ヨミカイン魔導図書館を囲んでいたキルバーンの部下と戦闘に入ったようだ。

 

 

「種明かしをすると、みなが各地に赴いたのは擬態じゃよ」

 

「こっちとしては一週間準備できたからよかったが、オメェさん敵をナメすぎてるんじゃねぇか?

それか、随分と自意識過剰とちがうか、おい? 相手の強さを見誤ってやがる」

 

 

話の途中でフラフープを光らせ、マトリフ殿へ氷のブレスで攻撃してきた輪王ザルトラを、

極大消滅呪文(メドローア)で消し去るマトリフ殿。

 

 

「悪いが一発で決めさせてもらったぜ。

あの手のタイプは、長引かせると面倒な手を使いそうでな」

 

「くっ!? 楽に殺しが楽しめるって聞いてきたってのに……!

退かせてもらうよキルバーン!」

 

 

プレシアンナが及び腰で、瞬間移動呪文(ルーラ)を唱え逃げようとする。

流石にキルバーン自身には通じていないが、破邪呪文(マホカトール)の影響は他の魔物に出ているようだ。

 

瞬間移動呪文(ルーラ)を唱えたプレシアンナは、壁まで行ったところで、

何か透明な膜のようなものにさえぎられて、弾き落とされ床に叩きつけられる。

キルバーンは目を見張って、忌々し気にこちらに向かって吐き捨てる。

 

 

「まさかこれは……瞬間移動呪文(ルーラ)封じの呪法か!?」

 

「昔、ハドラーの地底魔城にガンガディアが張ったのを見たからな。

見よう見まねで張っておいたんだ。

言うまでもねぇが、出入りが自由なのはオレのお仲間だけだぜ。

オメェらはお友達じゃねぇから、出入りは自由じゃねぇってわけよ」

 

「貴様ぁ……! 我らを舐めるな人間!!」

 

 

おどけていうマトリフ殿に怒りの言葉を投げつけて、鞭で攻撃をしかけるプレシアンナ。

それをロカ殿がカットして剣で切り払い、久々に影女スタイルのレイラ殿が、

キラーピアスでプレシアンナに近接戦闘を仕掛ける。

爪を伸ばして攻撃を捌いているが、明らかにレイラ殿が優勢だ。

 

こちらを睨みつけ、怒りも露わに吐き捨てるキルバーン。

 

 

「罠を張っていたというわけか……ザボエラ!!」

 

「おめでたいことじゃな。

罠を張るのは己の専売特許だとでも思っておったかキルバーンよ」

 

「ほざけっ!!」

 

 

激昂したキルバーンが、死神の鎌を大上段に構えて突進してくるが、

私の前には彼女(・・)が立ち塞がる。

 

 

竜の(ドラゴン)騎士ボリクス! クロコダインがここにいるんだ。

キミもパプニカから戻っていたのか……!?」

 

「言うたよなキルバーン!

"次、()うた時は、絶対に逃がさへん。許さへんから覚えとけや……!!"

ってなあ!! 竜闘気の剣(ドラゴニックオーラブレード)……!!」

 

 

倍以上に伸びた長大な闘気の剣は、(あやま)たずキルバーンの首を刎ねる。

 

 

「ば……バカな……なぜ……っ!?」

 

 

斬り落とされた首は転がり、私の指示通り竜闘気(ドラゴニック・オーラ)を全開にした手で掴むボリクス。

同時に、キルバーンの部下たちはマトリフ殿とロカ殿が倒し、

プレシアンナもレイラ殿が討ち取っていた。

さて、残るは一人だが……?

 

 

「た、助けて!? ボ、ボクは悪いピエロじゃないんだよ。

キルバーンに無理やり連れまわされていたんだ!」

 

「ふむふむ。だがのう、お前さんこそがキルバーンじゃろう? 知っておるのじゃよ。

腹話術の人形とは逆で、本体らしきあからさまな強者の黒い道化師姿の男が人形」

 

「!?」

 

「無力なように見えるひとつめピエロ。まさか、そちらが本体とは思いもよらぬものじゃ。

よく考えたものだと感心するのう?」

 

 

ギクリとしたが、自ら正体を明かすことはしないピロロ。

私の会話の後、ボリクスがキルバーンの首の仮面を外す。

 

 

「こいつが黒の核晶(くろ コア)か? おっそろしい魔力を貯め込んどるな?

爆発したら一巻の終わりやで、ほんま」

 

「……こうなっちゃ仕方ない……。そう、その通りさ。

ボクが本物の……キルバーンさ」

 

 

表情がガラリと変わったピロロがこちらを向いている。

彼が落ち着いている理由も分かっているし、

それへの対抗策を立ててはいるが、少し様子を見よう。

 

 

「それでどうするつもりかのう?

ラーハルトに聞いたところでは、お前さんがわざと彼を逃がしたという。

つまり、竜魔人と化したバラン殿と、大魔王バーンが相打ちになればという企てだったのかね?」

 

「アッハッハッハ!!! そこまで読まれていたのか。

まったく、本当に油断も隙もないねザボエラ君。

だが、キミたちはボクを見逃さざるを得ない!」

 

 

両手を広げてこちらに向けて断言してくるピロロ=キルバーン。

恐らく奥の手に相当な自信があるのだろう。

それが何か知っているのだが、彼の動きは慎重に対応せねばならん。

 

 

「その爆弾が黒の核晶(くろ コア)だと理解できるなら分かるだろう?

いま、ここでボクは一歩も動かず、それを起爆することもできる!」

 

 

その言葉にレイラ殿とロカ殿が反応し、

レイラ殿を守ろうとするためかロカ殿が一歩前に出る。

 

 

「無駄無駄。ヨミカイン魔導図書館どころか、ヨミカイン遺跡……いやいや。

ホルキア大陸の西側が更地になるくらいの威力だ。

人一人くらいじゃ何にもならないよお二人さん」

 

 

小馬鹿にした感じでそう言ってくるキルバーン。

だが、既に対策は練ってあるのだ。

 

 

「やってみるがよいキルバーンよ。お前さんも瞬間移動呪文(ルーラ)封じの呪法でここから逃げられぬ。

そうなれば、爆発させれば一蓮托生じゃろうて?」

 

「だから、ボクを逃がせって言ってるんだよ。頭悪いのかいキミ?」

 

「アホ抜かせ。うちがこの気色悪い頭、竜闘気(ドラゴニック・オーラ)で覆ってんのや!

お前くらいの魔法力なんぞ、通ると(おも)てんか!!」

 

「なに!?」

 

 

そう言った途端、キルバーンは魔法力を放ってきた。

ボリクスの竜闘気(ドラゴニック・オーラ)に遮られるので、無駄ではあるのだが、

自分が死ぬ可能性も恐れず、起爆の魔法力を放つ胆力には驚く。

 

 

「ば、ばかな!? この至近距離で、ボクの魔法力を弾……」

 

 

キルバーンが最後まで言葉を告げられなかったのは、私が閃熱呪文(ギラ)で彼の心臓を射抜いたからだ。

か弱い魔物の姿をしているからこそ、誰かにキルバーンの始末を任せるのは、

申し訳なさが先立った。

故にお膳立てをした私が、きちんと手を汚そうとずっと前から決意していたのである。

 

 

「ち……ちくしょう……。だが、後悔するぞ……。

ボクがいなくなった事で……ヴェルザー十二魔将の歯止めが……」

 

 

そこまで言葉吐いた所で、力尽きて溶けてなくなってしまうキルバーン。

ボリクスが竜闘気(ドラゴニック・オーラ)を解き、床に置く。

それを見たマトリフ殿が、キルバーン人形の頭に火炎呪文(メラ)を灯した。

そこにまったく同質・同量のエネルギーの氷系呪文(ヒャド)を重ね、

極小の極大消滅呪文(メドローア)を生じさせて人形の頭を消滅させる。

 

あとは、人形のキルバーンの肉体が残るのみで、そちらは後で解析して、

キラーマシンの技術と合わせて何かにつなげたい。

 

 

「ボリクス。ヴェルザー十二魔将とはどんな連中がおるのじゃ?」

 

「九人はヴェルザー一族やで。

バランのおっちゃんの話だと、その九人は倒した言うてたわ!

残る三人は古参のヴェルザーが召喚した、闇の世界の悪魔が三体いるはずやで」

 

「ふむ……」

 

 

ヴェルザー陣営の情報をもっと欲しかったが、キルバーンを生かしておく方が危険極まりない。

やはり、ここで始末する事の方が急務ではあった。

ピロロ=キルバーンを生かして、情報を色々話させる手もあるのだが、

狡猾と策謀を旨としているやつを生かしておくと、ろくなことが無い。

 

今回の種明かしと言うわけではないが、実は死神キルバーンについては、

既に話してもいいだろうとその正体まで全員に周知しておいたのだ。

情報元は……原作を読んだとは言えないから、

魔女グレゴリーアの分身のような存在が私の呪いの中に住んでいて、

彼女から色々聞いたという事にしておいた。

 

キルバーンにも話したが、てっきり激しい竜魔人バラン&ミストバーン戦の直後に、

奇襲があると予想していたから、拍子抜けしたという所もある。

実は破邪呪文(マホカトール)の準備自体は去年の内にやっておいたのだ。

相手の力を弱める禁呪法対策の話をしたら、ごく少量の魔法力で稼働する魔法陣の設置を、

マトリフ殿が楽しそうに協力してくれたわけである。

侵入した敵を逃がさない瞬間移動呪文(ルーラ)封じも、乗り気で設置してくれた。

 

残るはみなを遠ざけて私が餌になるだけだ。

まんまと食いついてくれたおかげで、裏で動き回る危険な男を処理できたのは大きい。

 

大魔王バーンの状態はどうやら動けないと見て間違いないだろう。

キルバーンの言葉を鵜呑みにするわけではないが、

いくら何でも動けるなら、何か仕掛けてくるはずだ。

仕掛けてこないという事は、動けない問題が発生しているとみるべきだろうな。

 

だと言っても、いつまでも何もしてこないわけはないだろう。

つまり、準備を重ねて、いつ本格的な侵攻があってもよいようにしておかねば。

 

クロコダインがギュータの者たちを率いて、ヨミカイン魔導図書館へ帰ってきた。

黒道化衆とやらをあっという間に倒したと、チョコマ殿が興奮して話してくれた。

クロコダインはよいリハビリになったと言っていた。

相変わらず大した体力だな。頼もしい限りである。

 

あと二カ月で今年も終わるが、死神キルバーンを倒せたことはかなりよい兆候であろう。

だが、彼の最後の言葉が気にならないわけではない。

気を引き締めてゆくほうがいいだろうな。

 

勝利に沸く仲間たちを眺めながら、私は大魔王バーンの次の一手を推測して、

身が引き締まる思いだった……。

 

 

 




独自設定
ロイヤルフラッシュ
多分、キルバーンなら性格的に、
相手の力を弱らせる禁呪法の結界くらい
用意していると思って設定しました。

ヴェルザー十二魔将について
ボリクスはバランが九人を倒した話を聞いているので、
いまは三人だけになっているんだろうと考えています。
そして現在、新参の魔物がその席を埋めている事は、
バランも知るはずもない情報です。


あとがき
キルバーンはもう少し長生きさせたかったのですが、
キルバーンからするとザボエラたちは、
既に生かしておけないレベルの危険な存在です。
そうなると、どちらかが死ぬしかないわけでこうなりました。


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