ザボエラ転生 ~ダイ大世界をおっさんが生き抜く~   作:リドリー@犬小屋

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次回は来週の木曜日23時頃を予定しております。


第五十一話 予期せぬ訪問者

 

今日はグレゴリーアの家の中ではなく、庭でお茶を楽しむこととなった。

不気味な鳥が飛び、緑色の沼がボコボコと音を立てているので、

あまり景観は良くはないが、外のテーブルでティータイムという事になった。

大魔王殿は興味深そうにテーブルに座り、周囲の景観を眺めている。

 

私がグレゴリーアの手伝いをしている際に、彼女があの老人は大魔王バーンだと説明してくれた。

自分は特に会話に加わるつもりはないけど、お茶くらいは出すと言っている。

彼には恨みはないのかと尋ねてみると、特にはないという話だった。

 

 

「アタシが憎んでいたのは、村を滅ぼしたヴェルザーさ。

そいつが封印されちまった時点で、復讐完了さね。

もっとも、アタシの意見で、本体はどうかわからないけどね」

 

「ふむ……お前さんの立場は分かった。

では、大魔王殿とはワシ一人で話をするとしようかな」

 

 

さて、ダイの大冒険読者なら、大魔王バーンを知らぬものはいるはずもない。

それどころか、ミームになってしまって、原作読者でなくとも、名前くらい知っているだろう。

アニメが好きな大魔王と、本人が聞いたら怒るか、一笑に付すか分からない風聞もある。

だが、それは、地球世界での話である。

 

この世界では彼は長らく、魔軍司令ハドラーにすら直接姿を見せなかった。

ごく限られた人物としか、顔を会わせていないはずの大魔王だ。

大魔王バーンに出会って、彼をバーンその人だと認識できる存在は、

大魔王自身もその相手を見知っているのだから。

つまり、私が彼を知っているような態度は、絶対に出来ない。

 

ミストバーン、キルバーン以外で考えれば、キング・マキシマム。

あとは、魔界の宮廷なら宮女や、ロン・ベルクなども顔を知っているだろう。

 

私としてはよく知ってはいるが、知っているように振舞わないようにするべきだろう。

 

 

「初めてお目にかかります、大魔王バーン殿。

ヨミカイン魔導図書館を任されております、ザボエラと申す者でございます。

ワシのような一介の魔族の下に、大魔王殿が如何なる御用でありましょうや?」

 

「一介の魔族、か。余の元には様々な風聞が届いておるぞザボエラ。

そなたほどの男がただの魔族というのは、なかなか奇妙な話ではないか?」

 

「何を耳にしておられるかわかりませぬが、お耳汚しでございましたな。

事実、ワシ自身は己を大した者だとは思っておりませぬよ」

 

 

どこまで知られている?

恐らくはミストバーンと、サババの浜辺で戦った事くらいまでは知られているのだろうが……。

過去の事も、ある程度調べようと思えば、調べられる範囲ではあるか?

 

 

「まぁ、それはおいておこうか。家主たるお前に、突然の訪問について説明しておこうか。

それは、礼儀として必要であろうからな。この状況は、余にも自在になるわけではない」

 

 

礼儀というわりに、大分、偉そうな話し方をしながら、紅茶に口をつけた。

紅茶を半分ほど飲み、香りを楽しみつつ、大魔王バーンは瞑目して言葉を続ける。

 

 

「いま、余は特殊な状態であってな。不定期な眠りに就くことで、様々な世界を意識が渡るのだ。

しかしまさか、他人の精神世界に入り込むとは……。

このような事は初めての経験であり、余としても非常に興味深いと思っておるぞ」

 

 

しかし、寝ているという事を、わざわざ口にするのは危険では……?

一応、意識がない事はキルバーンから聞いていたから、裏は取れているが。

わざわざ、自分は無防備だと、こちらに話す意図はなんだ。

元より死の大地と大魔宮(バーンパレス)の防御を信用しているのか、

それとも強力な守護者が側にいるか。

 

一見、好機であるような情報を教える理由を深読みすれば、

飛びついて襲撃をかけた敵を返り討ちにできる方策があるということ。

……考えろ。ミストバーンが守護している? もしくは、サババで見かけたデスカールか?

蘇生した新生六代将軍だろうか。まだ見ぬ強豪がいるという可能性があるのか?

それか緊急事態ゆえ、キング・マキシマム辺りに常に警護させれば、

何人も手出しできないだろう。

 

あの男は最終決戦だったからこそ、その傲慢で肥大化した自我ゆえに、

精神力が強さに密接に関係するダイの大冒険だったから敗北したようなものだ。

もしも序盤のダイたちが出会ったら、手も足もでないで倒されているくらいには強い。

 

超金属(オリハルコン)の兵団が常に、大魔王バーンの周囲を警護していれば、

それを容易く突破できるような存在は地上にはおるまい。

とにかく、この情報に飛びついて、まだ調子の戻っていないバランを連れて、

死の大地に総攻撃をかけるような真似は危険だ。

 

 

「そなたはどう考えるザボエラよ?

世界を渡ることはあっても、他人の精神世界へ入り込むのは初めての現象だ」

 

「実はお恥ずかしながらこの世界自体、ワシの管理下であるようで管理外でもあるのです。

元々、グレゴリーアにほどこされた強力な呪いが核となっておりまして、

あそこにいる彼女は管理をしているだけの疑似人格でございます」

 

「ほう。つまり、この世界はそなたに施された呪いというわけか。

よほど強力な呪いであったのだろうな……。それも、一個の世界を構築するほどに」

 

「ワシに内在する世界ではありますが、ワシからは独立した世界でもあります。

その独自性が一個の世界として、大魔王殿の世界渡りの対象たりえたのやもしれませぬ」

 

 

しかし、世界を渡るか……。

地球世界を見る事ができるかは分からないが、ドラクエシリーズの世界を見ているということか。

かなり驚愕したのだが、その驚きを外に出さないようにするため、こちらから尋ねてみる。

大魔王バーンがどの世界を見たかが気になる。

 

 

「大魔王殿は、どの世界が興味深かったのですかな?」

 

「ほぅ……別世界などは、おかしいと一笑に付さぬのかザボエラ?」

 

「他者の言葉を安易に否定するのは、あまり賢明ではありませぬからな。

世界を渡る不死鳥の存在を、ワシは知っておりますゆえ。

ならば、別の世界があるということは、想像を超えるものではありませぬ」

 

「不死鳥を知っておるとは、なかなかの知識を誇っているではないか。

ふむ……勝手にそなたの世界へ侵入した駄賃代わりに、幾つかの世界の話をしてやろう」

 

 

話を聞くと、ドラクエ1~4辺りを巡ったことは分かる。

ただ、同じ世界でも別の側面を見たりしているので、

もしかすると小説版やアイテム物語、モンスター物語など、副読本の世界も見ている様子だ。

 

 

「なるほど……。ありがとうございます。興味深い話を拝聴できましたな」

 

「ザボエラよ。余は、他の世界を見てこう思ったのだ。

"なぜ、魔族が勝利した世界はないのか"とな」

 

「お話を伺う限り、ないようですな。

人間の勇者が魔王を倒して、人の世界が訪れております……」

 

「左様。つまり、この世界を支配し、地上を征服して魔族の世界を築くというのは、

あらゆる世界の魔族の王がなしえなかった偉業……

という事にならぬか?」

 

 

ドラゴンクエストの基本は、プレイヤーが魔王を倒して、

世界に平和をもたらせることが大前提だ。

だからこそ、魔族が世界を支配して終わるという事はない。

最初に支配していて、そこから世界を取り戻すことはあるが。

 

あらゆる世界で魔族は勝利せず、敗北しては追いやられていく。

人間が脆弱だという事で、魔族とドラゴンを魔界へ押し込めた神々の所業。

それを忌み嫌っている大魔王バーンとしては、

他の世界の状況は苦々しいものだという事だろう。

 

私が切れるカードの一枚を、切ってみる事にした。

やや、強引な感じで話題を変えるようだが、

この世界で知った、他人がほぼ知らぬ話をしてみることにした。

 

 

「あなたが真に地上を征服するだけでしたら、

ワシもあなたの傘下に馳せ参じたやもしれませぬ」

 

「ほぅ……やもしれぬとは、余の下には馳せ参じぬということか?

理由を申してみよ」

 

「死神キルバーンから聞きましたぞ。

あなたの目的は、地上の破壊によって、魔界に太陽をもたらせることだと」

 

「そうか……。それを聞いたという事は、つまりキルは死んだな?」

 

 

私は無言で頷く。このカードはでかい。この反応から見えるものは重要だ。

魔王軍の目的が地上侵略ではなく、地上破壊という事を知るのは、

ミストバーン、キルバーン……側近という意味では、

キング・マキシマムも知っているかもしれない。

もっとも、あの冷遇っぷりから考えると、キングは知らされていない可能性もあるが。

 

無言で頷いた私の反応に、一言ふむと呟いて暫し目を閉じ、私に先を促した。

 

 

「死神キルバーンは、黒道化衆という自らの部下を率い、

攻め寄せて参りましたが、返り討ちに致しました」

 

「ほぅ……それはヴェルザー十二魔将の番外、

十三人目の魔将が一人としての本性を見せ、

本気で殺しに来たキルを、お前は倒したというのか」

 

「ワシは大して動いておりませぬな。仲間たちの力でございます」

 

「謙遜も過ぎれば、嫌味に繋がるぞザボエラ」

 

 

テーブルをコツコツとやりながら、紅茶を飲み干してしまったので、

新しい茶をグレゴリーアに頼みながら、楽しそうに語り掛けてくる。

 

 

「余の配下でも最強のミストバーンを、真正面から打破した話は聞いている。

さらにキルバーンを討ち果たしたにも関わらず、その功を誇るでもない」

 

「買い被りですな、バーン殿。ワシは大したものではありませぬ」

 

「フフフ……そういう事をいう男こそ怖いものだ。どうだ、ザボエラよ……。

余の部下にならぬか?」

 

 

グレゴリーアがチラチラとこちらを、心配げに見ている。

大魔王バーンは、新しい紅茶を旨そうに飲みながら、

それを全て飲み干し、気を吐くように言葉を続ける。

 

 

「そなたの正体は、かつて余とヴェルザーをかき乱した、八大実力者の一人であろう。

深緑の枢機卿よ? その時の無礼も許そうではないか。

余は一人でも多くの強者を求めているのだ」

 

 

スカウトされる可能性は考えていたが、やはりそう来たか……。

傍から見た戦果で考えれば、確かにちょっと異常ではあるからな。

 

 

「ワシをそこまで買っていただけるとは、思いませなんだ。

ですが、その申し出をお受けするには、ワシは地上に友人を作りすぎましたな」

 

 

私の言葉に秘められた、明確な"拒絶"の意図をくみ取って、

少し不機嫌さを滲ませながら言葉を紡ぐ大魔王バーン。

 

 

「魔族の寿命から考えれば、短い時間の付き合いになるぞ。

そんな者たちの為に、己が栄達を捨てるというのか?」

 

「ワシは良い主君より、友達が欲しゅうございます。

彼らを裏切ることはできませんな」

 

「人間はお前を裏切るぞ。予言してもいいが、余という脅威がなくなれば、

魔族たるお前は、必ず追われることになろう」

 

 

声に力を込めて、そう断言する大魔王バーン。

"お前を倒して、地上を去る"そうダイは答えたが私の答えは少し違う。

 

 

「地上は広うございます。その場合は隠棲でもいたしましょうかな」

 

「隠棲か。お前はまるでロン・ベルクのようだな。

あやつも優れた力と技術を持っていたというのに、富貴を好まず余の誘いを蹴った」

 

「地位を栄達して得る事も、富を得て豊かに暮らすことも、

確かに価値としては最上のものでございましょう。

ですが、そういったものではない独自の価値を持つ者もおりますぞ」

 

 

興味深そうに眺めながら、紅茶を口にして私の話の続きを促した。

多分、紅茶をちょくちょく口にするのは、食事ができる世界が珍しいからだろうな。

 

 

「独自の価値とは具体的にはなんだ?」

 

「左様、意地でございましょうか。人には必ず、何か意地がございますれば。

それを踏みにじられたら、生死を問わず、戦わねばならぬ意地がございます」

 

「意地、か。踏みにじる側に長く居すぎたせいか、ピンとはこぬが……。

……ふむ……」

 

 

ヒゲを撫でながら不気味な鳥が飛び交う森を眺めつつ、

己の過去に向き合う様に思いをはせる大魔王バーン。

少し苦笑しながらこちらを向き直り、話を再開する。

 

 

「思い出してみれば、余にとっての出発点は神々に対しての怒りであったな。

魔族とドラゴンを魔界へ押し込めた彼奴等。

なにゆえこのような理不尽を、なしたというのか……。

神に問い質し、是非を問わんと欲する、意地からの出発だったやもしれぬな」

 

 

遥か遠い過去を回想するように語る。

私に聞かせるというよりは、己が原点を遠くから眺める様に彼は口にした。

席を立ち、こちらを向き直った時、大魔王バーンの輪郭がぼやける。

 

 

「ザボエラよ……む、時間か……」

 

 

私に返答しようとしたところ、大魔王バーンの手が薄くなっていた。

それが伝わって、全身が薄くなっていく。

滞在に時間的な制限があるのだろう。恐らく行ける場所もランダム。

制御できていないというのは、本当だろうな。

 

 

「また話したいものだ。運命がこの場に余を導くことがあれば……」

 

 

最後まで話せず、大魔王バーンは消えていった。

グレゴリーアがへたり込んで、こちらに向かって言った。

 

 

「なんで、あんな大物がくるのさ。どうなってる? 本当、どうなってるんだい?」

 

「さて、初めての現象じゃから、ワシもわからぬよ」

 

 

恐らく行き先は制御できないのだろうから、また来る可能性があると話したら、

グレゴリーアは恨みがましい目で見て、

"その時はすぐに呼ぶ。絶対に呼ぶ"と言った。

 

 

 

大魔王バーンとの邂逅から数日後。

パプニカから使者がやってきたと連絡があった。

 

使者とはレオナ姫であり、早速、ボリクスとハイタッチして話に花が咲いている。

ボリクスは頻繁にパプニカを訪れており、パプニカの法術で編まれた服を、

幾つも仕立ててもらっては戻ってきている。

 

普段着もそうだが、戦闘に耐えるようなものもあり、

正直、私より衣装がかなり多いくらいだ。

 

まぁ、女の子なので別に構わないと思うが、

パプニカの法衣はかなり高価なものだった覚えがある。

一切、パプニカ側からの請求がないのが怖いというか、

何かの借りにされていたら恐ろしいと考えていた。

 

談笑していたボリクスがこちらを向いて、大声で話しかけてきた。

 

 

ザボ爺(ざぼじい)、レオナが話ある言うてるで!」

 

「ほう……なんですかな、レオナ姫」

 

「どーも、ザボエラさん。

師匠が古い地図を出してきて、ちょっと検証することがあるからって、出て行ったのよね」

 

 

レオナ姫はテーブルに、持ってきた地図を広げる。

地図には四か所の×がつけられている。

 

 

「このバツついてるところは、なんやこれ?」

 

「なんだと思う?

師匠は仮説は立てたけど、あなたの意見が聞きたいってザボエラさん」

 

「うちにはさっぱりやけど、わかるんかザボ爺(ざぼじい)?」

 

「恐らくじゃが……」

 

 

悪戯っぽい表情で私を見ているレオナ姫だが、私の目は地図に釘付けになっていた。

デルムリン島、ホルキア大陸南東の海の上、オーザムの霊峰シラムート山。

そして、カール西部にあるカール山脈にある戦鎚山。

 

デルムリン島が入っている事から、地の神……私の仮説では精霊ではないかと思っているが、

ここが大地の精霊であるなら、炎の精霊や風、水の精霊がいるのではないだろうか?

 

 

「これは恐らくパプニカで祀られている、

地水火風の神々……精霊にまつわる場所ではないかな?」

 

「正解。師匠も同じ推測だったわ。

で、師匠が出ていった後に、この子が話しかけてきてね……」

 

 

レオナ姫の髪の毛から、するりと青く光る小さな何かが姿を現した。

ほのかに青い色で淡く光る身体。

魚類を思わせる姿で、上半身は美しい人間の女性だが、

腰の辺りから魚のそれになっている……ドラクエ7の四精霊の一人、水の精霊だ。

 

 

「初めましてみなさん。私は水の精霊です。人間たちは水の神、と呼びますが……。

自己紹介してる場合じゃありません! レオナにはいいましたが、大変なことが起きました!」

 

「それは一体……何が起きたのですかな?」

 

 

水の精霊はこう言った。

 

 

「海王グラコスが私の本体と、風の精霊、炎の精霊を取り込みました!

パプニカの南にある海底神殿から、世界を支配するつもりです!!」

 

 

……よりにもよって海底にある神殿か……。

海の中にどうやって侵入するか、例の真空呪文(バギ)を使って潜るか……。

と思考の海に潜っていきそうな自分を引き留め、水の精霊から詳しい話を聞くことにした。

それにしても、多事多難で休まらないな……。

 

 




独自設定
大魔王バーンが垣間見た世界
大魔王バーンは、自分が見聞きした世界、
全てを話してはいません。


若干穏やかに話をしている理由
大魔王バーンが地上破壊計画を立案して以来、見どころのある魔族というのは、
本編描写ではロン・ベルクと、ハドラーの二名だけでした。
そこに老齢の魔族が急に頭角を現したので、楽しくなってしまっています。

オーザムの霊峰シラムート山
カール山脈にある戦鎚山
日本地図で適当に地名を探してもじったり、そのまま使っています。
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