ザボエラ転生 ~ダイ大世界をおっさんが生き抜く~   作:リドリー@犬小屋

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次回は来週の木曜日23時頃を予定しております。




第五十二話 精霊秘話

 

慌てる水の精霊を宥めながら、話を聞いてみると、

地水火風の精霊たちは、天界の精霊とは役割が違うそうだ。

 

四精霊たちは、神々と共に世界創造の際に力を振るった。

彼ら彼女らは、強力無比な力を世界の運営に充てるべく、

普段は眠りについているそうだ。

 

精霊たちが万全であれば、魔王に匹敵するような魔物であっても、

本来の四精霊たちなら容易くは敗北することは無い。

有事の際には伝承として伝えられた儀式によって、

力を蓄えていた精霊たちは凄まじい力を行使できる……はずだった。

 

ここで、一つ異変が起きてしまったのだ。

元来、パプニカにおいて精霊たちに捧げられていた儀式が、

50年ほど途絶えてしまっていたらしい。

 

儀式というのは歴代パプニカ司教に、口承によって伝えられたものである。

テムジンがライバルたちを蹴落として司教位を得た時に、

口承で前司教から儀式について伝えられ激怒したらしい。

いま偽りの王──つまりレオナの祖父や、父のレオポルト──たちの下で、

聖なる儀式を行うのは許せないという利己心から儀式を秘匿。

 

自分が教皇となりパプニカを支配した後、神に愛された真なる正義を実行するため、

四精霊に対しての儀式を執り行えばいいと考え、

司教の強権で一旦、中止してしまったらしい。

 

そのせいで四精霊は、儀式と祈りで補充される魔法力を得られず、

すっからかん状態で50年ほど放置されていたということだ。

 

またもやテムジンか……。

こう、信仰が真っすぐなのか、歪んでいるのかよく分からん奴だな。

もっとも、彼のせいで水の精霊が敗北してしまったり、このような大事になっているのだから、

生きていたら文句を言ってやりたかったところではある。

 

現状、レオナ姫がデルムリン島で儀式を行った事で、

地の神である大地の精霊は力をある程度回復しているらしい。

 

テムジンの死後、後任のパプニカの司教が別の敬虔な人物になり、

毎年、海に囲まれたパプニカに幸あれと水の神=水の精霊に祈りを捧げていたということだ。

亡きパプニカ三賢者の一人、デルポイ殿がデルムリン島の儀式を調べた際、

古文書を紐解き儀式を調べ上げてくれていたらしい。

 

死んだ後も、生前の行いが祖国の為になるとは……。

アポロも良い祖父を持ったものだ。

 

ともかく、デルポイ殿が調べてくれていたおかげで、

現在のパプニカ司教がレオナ姫を巫女として儀式を行ってくれた。

 

グラコスに敗北して取り込まれた水の精霊が、

それを(えにし)として分身を切り離し、

レオナ姫の側に送り助けを求めたという事のようである。

 

 

「しかし、毎年のように儀式を行われていたなら、水の精霊殿は力を回復されていたはず。

なにゆえにグラコスに吸収されなさったのか?」

 

「そ、それが……風の精霊と炎の精霊がグラコスに取り込まれた後でして……。

せめて、地の精霊と協力できれば対抗できたのですが、一人ではどうにもなりませんです。

それに、グラコスは水の属性を持つ魔物。己の属性を利用して、私に縛りをかけてきまして……」

 

「でもさ、負けちゃしょうがないわよね。

あたし、毎年、けっこう真剣に儀式やってたのになぁ~~」

 

「し、仕方ないじゃないですか!」

 

 

分身体だからなのか、元々の性格がこうなのか、水の精霊はレオナ姫に形無しと言った感じだ。

話が進まなくなるので、水の精霊を促し続きを聞いてみる。

 

 

「水の精霊殿。風の精霊と炎の精霊はどのような様子でしたかな?」

 

「グラコスの背後に、背後霊の様に立っていましたね。

グラコスの思うままに呪文を使ってきました」

 

 

なるほど。ということは、風の精霊の真空呪文(バギ)系呪文と炎の精霊の火炎呪文(メラ)系呪文。

更に水の精霊の氷系呪文(ヒャド)系や水流呪文(ザバラ)系の呪文を使ってくるということか。

 

つまり、精霊を引き連れて戦うグラコスは、相当な強さだと考えた方がよさそうだ。

 

 

「唯一、取り込まれていないのは、

ここから西にあるデルムリン島にいる地の神……大地の精霊だけです」

 

「グラコスに先んじて接触せねばなりませんな。

ボリクス、竜水晶を呼んできてくれぬか?」

 

「ええけど、なんでや?」

 

「一番精霊に近いからのう。何かワシらが気づかぬことも気づいてくれるやもしれぬ」

 

「わかった。呼んでくるわー!」

 

 

留守をロカ殿に任せ、我々は竜水晶を連れてデルムリン島へ向かう事になった。

 

最初はレオナ姫にパプニカへ戻ってもらおうかと考えたのだが、

どうやら水の精霊は姫を巫女として認識しており、

弱った現状は彼女がいないと移動すらできぬということだ。

 

危険があったらすぐにパプニカに戻すという事と、

ボリクスが守ると約束したので、同行を押し切られてしまった。

あとで、マトリフ殿が怒るだろうか。

いや、あの御仁はニヤリと笑って終わりかもしれんな。

 

ボリクスが竜水晶を連れて、我々に合流してきた。

どうやら竜水晶と水の精霊が知り合いだったようで、

"水の精霊。そのような小さな姿でなにをしているのか?"

と真顔で尋ねられて返答に窮している。

私たちは必死に言い訳をしている水の精霊を見て、

腹を抱えて大笑いしているレオナ姫の姿を見る事になった。

 

 

 

瞬間移動呪文(ルーラ)で私がボリクス、レオナ姫、竜水晶を連れて移動する中、

海の魔物の大軍がデルムリン島を襲っている姿が見えた。

 

大半の攻撃は破邪呪文(マホカトール)で弾かれているが、海岸でモンスターたちが応戦している姿が見える。

何故、そのようなことに……!?

破邪呪文(マホカトール)内に籠っていれば、よかったはずだが……誰かが結界外にいるときに襲われ、

やむなく助けに出て、混戦で退けなくなったということか?

 

 

御主人様(マスター)

前方から飛行する魔物が多数、敵意を見せ攻撃姿勢に入っております」

 

「ふむ。ボリクス、迎撃を任せても良いかな?」

 

「おっしゃ、まかせろ!」

 

 

ざっと見ただけでも、雲霞のごとき飛行する魔物たちが眼前を塞いでいる。

よろい竜、アイスコンドル、テラノバット、ライバーン、

キメラやグリーンドラゴンまでが敵意をむき出しにして、攻撃を仕掛けてくる。

 

それに呼応し、抜刀して飛翔呪文(トベルーラ)で空飛ぶ魔物に戦いを挑むボリクス。

敵の魔物の何体かが、こごえる吹雪やかえんの息を吐きつけてくるので、

瞬間移動呪文(ルーラ)を制御しながら防御光膜呪文(フバーハ)でみなを守る。

 

驚いたことに、レオナ姫も閃熱呪文(ベギラマ)爆烈呪文(イオラ)を使い援護してくれていた。

更に幻惑呪文(マヌーサ)を使用して、近づきすぎた魔物をかく乱させ、

その機会に乗じてケインが爪で撃墜するサポートにもなっている。

 

大した習熟度だ。慣れているな。

この様子では、恐らく実戦経験があるのだろう。

マトリフ殿の指導は功を奏しているようだ。

 

レオナ姫に近づきすぎた敵は、竜水晶が剣と化した手を回転させて切り刻んでいる。

マザードラゴンの力を継承した後から、竜水晶は使える能力が増えているのだ。

 

あまりにも呪文を使う様子が手慣れていたので、

レオナ姫に話しかけてみた。

 

 

「姫、実戦経験がおありのようですな?」

 

「勿論よザボエラさん。うちの師匠がスパルタなのよ。

"練習ってのは結局の所、練習にすぎねぇ。

本番で呪文が役に立たなきゃ意味がねぇからな!"っていうのがモットーなの」

 

 

眉間にしわを寄せて、恐らくマトリフ殿の真似をしているのだろう。

そうレオナ姫は私に言った。

 

 

「マトリフ門下は無理やり実戦を積んでるのよ。魔法兵団はかなり強くなったわね。

たとえば、三賢者に就任したアポロは、あたしより強いから!」

 

「ほぅ。それは楽しみですな。強い使い手が増えるのは良い事です」

 

 

私は安心して瞬間移動呪文(ルーラ)の制御に集中できた。

最後のよろい竜をボリクスが真っ二つにした所で、私に声をかけてくる。

 

 

ザボ爺(ざぼじい)、下のみんなを助けに行ってくるで!」

 

「うむ。竜水晶、おぬしはボリクスをサポートしてやってくれぬか?」

 

「わかった。いつも通り、ボリクスがやりすぎないよう我が見ていよう」

 

 

マザードラゴンを彷彿とさせる水晶の竜になった竜水晶が、

ボリクスを乗せて眼下で戦うデルムリン島のモンスターたちの援護に向かう。

竜水晶はマザードラゴンから力を継承したが、その内の一つが、

このドラゴンになる能力である。

 

デルムリン島まで彼女に運んでもらっても良かったのだが、

パッと見の印象がマザードラゴンなので、

魔王軍に見られては要らぬ疑念を抱かれる恐れがある。

そのため、ここまで隠しておいたのだ。

 

二人が戦っている間に、私は瞬間移動呪文(ルーラ)を加速してデルムリン島へ到着する。

私とレオナ姫はブラス殿の家を目指し、事情を聞くためドアを開けた。

そこは野戦病院さながらで、怪我人のモンスターたちをブラス殿を含め、

ホイミスライムなどの回復呪文が使える者達が治療している様子だ。

 

レオナ姫は何も言わずに、すぐ治療の輪に加わる。

うむ、判断が早い。この辺りもマトリフ殿の薫陶が厚いと言ったところか。

私も治療に加わりながら、ブラス殿に話を聞くと、

事情は推察通りだった。

 

最初、海王グラコスの名で地の神を渡せと言ってきたので、

なんのことか分からなかったから拒否をしたら、攻撃を受けてしまったらしい。

 

無論、破邪呪文(マホカトール)は効果を発揮していたが、丁度、海岸にダイがいて、

それを助けるために出た島のモンスターが手傷を負わされたという事だった。

バラン殿やラーハルトも出て戦っているが、混戦になってしまい、

破邪呪文(マホカトール)内へ退きづらくなっているらしい。

 

 

「いまは治療をして前線に出て戦ってくれておりますが、

敵が雲霞の如く攻めてきてましてな……。

破邪呪文(マホカトール)内に退くに退けない状況ですじゃ」

 

「ボリクスと竜水晶を降ろしてきましたので、恐らくは一旦退けるでしょうな。

しかし、空の魔物までおりますゆえ、敵はなかなかの用兵巧者ですぞ」

 

 

グラコスは海から攻めるだけではなく、

空を飛べる魔物をデルムリン島の周囲に配置しているようだった。

あれは、他からの瞬間移動呪文(ルーラ)での援軍を絶つ目的だろう。

無論、必要に応じて、海の魔物たちを空から援護するという立ち位置でもあるのだろうが。

 

……グラコスの外見的なユーモラスさは忘れた方がいいな。

あの姿を見ると、どうにも気が抜けてしまうが、姿に似合わず強かった記憶がある。

この世界のグラコスはなかなかの用兵巧者だと考え、気を引き締めてかかった方がよいだろう。

 

 

「おお、ボリクスなら安心ですな」

 

 

ブラス殿がそういったのとほぼ同時に、瞬間移動呪文(ルーラ)の着地音がした。

レオナ姫は内部で治療を続け、私とブラス殿は外へ迎えに行く。

そこには怪我をしたモンスターたちと、鎧の魔槍がボロボロになったラーハルト。

疲労困憊なバラン殿と、ダイがいた。

竜水晶は重傷者をその場で治療をし始めて、ボリクスが疲れ切った者達の代わりに説明をした。

 

 

ザボ爺(ざぼじい)。多分、ここから出られへんで。

空の魔物もさっきの数倍増えて、空が見えへんほどや」

 

「ふむ……援軍は期待できないかもしれぬのう。

もし、マトリフ殿が気づいても、単身では島に上陸もできぬじゃろう」

 

 

アバン殿がいないようだが、丁度、デルムリン島にいない時期だったのか……?

もしも、異変に気付いてアバン殿とマトリフ殿が合流して、

応援に来てくれればと思わぬでもないが。

 

流石にそこまで調子のよい事を期待してもいかんな。

それに、この状況で二人増えても、あまり問題が解決するとは考えられない。

 

バラン殿の視点を知りたかったので、敵が攻めてきた時の様子を聞いた。

答えはブラス殿とほぼ同じで、聞こえた声はグラコスと名乗っていたそうだ。

 

 

「地の神とは一体なんなのです?

確かにこの島の活火山には、神の祭壇という物があるようですが……」

 

「パプニカでは神と呼び崇めておりますが、実は精霊ですな」

 

「精霊ですか!? ……なるほど。

つまり、四精霊の一人、大地の精霊が眠っているのですか。この島に……!?」

 

 

驚愕するバラン殿。そういえば、彼は天界の精霊と旅をしたことがあったな……。

 

治療が終わったのか、水の精霊と共に出てきて、ボリクスやダイと話しているレオナ姫。

バラン殿は水の精霊の姿を見て、彼女に事情の説明を求めた。

水の精霊は、驚いているダイたちに挨拶をする。

 

 

「初めまして竜の(ドラゴン)騎士。私は水の精霊と申します」

 

「おれはダイ。よろしくな!」

 

「さっき挨拶したやん? うちはボリクスやで」

 

「私はバランという。この世代の正規の竜の(ドラゴン)騎士は私だ」

 

「はあっ!?」

 

 

まさしく、文字通り飛び上がって驚く水の精霊。

精霊に対して丁重なバラン殿が、見なかったことにして話を進める。

 

 

「驚くのも無理はないが……水の精霊よ。

この場には三人の竜の(ドラゴン)騎士がいるのだ」

 

「な、なんですって~~!!

なぜ、そんなことになっているのですか!!」

 

 

またしてもレオナ姫に指をさして笑われている水の精霊。

謹厳な顔でバランが竜の(ドラゴン)騎士が三人いる理由を説明した。

その後、水の精霊が状況説明をする。

話を聞いている内に、バラン殿の眉間のしわが深くなっていく。

 

 

「私がヴェルザーを倒す際に、同行してくれた天界の精霊は、

一切の攻撃的な能力を持っていませんでした。

彼女らは回復呪文と、ヴェルザーを封印する力を持ち、

それを使うための使命として私に同行していました」

 

「そういえば、その天界の精霊たちは、ヴェルザーを封印した後、

天界へ戻ったのでしたな。以前、そうお聞きしましたが」

 

 

バラン殿は一瞬目を伏せ、重いため息をついてから、話を続けた。

 

 

「あの時は会ったばかりのあなたに、重い話をするべきではないと……嘘を申しました。

彼女らがヴェルザーを封印する術は命を使うものです。

彼女らは、その命を掛けて使命を全うしたのです」

 

「……そうでしたか……。軽々しく聞いてしまい、申し訳ありません。

いますこし、気を使うべきでしたな……」

 

「いえ、いまは少しでも情報が多い方がよいでしょう。

その際に聞いたのですが、天界の精霊ではなく地水火風の精霊は攻撃能力を持ちます。

大地の精霊を味方に出来れば、状況を打破する手段が講じられるのではありませんか?」

 

 

水の精霊とやってきたのは、地の神である大地の精霊に協力を求める為でもあった。

竜水晶の話では、通常では話ができないが、自分がいて大地の精霊と交信すれば、

以前儀式をして大地の精霊と縁があるレオナなら、話が容易いだろうという事だった。

 

祭壇へ向かうメンバーを選定していた所、

凄まじい音が鳴り、破邪呪文(マホカトール)が消える気配がした。

すぐブラス殿が棚においてある、真っ赤な魔法玉に手を触れて力を込めた。

もしも破られた事を想定して、重要施設だけを覆う、一回り小さな破邪呪文(マホカトール)を用意してある。

 

急いで走ってきた島のモンスターが、敵がやってきたことを告げてきた。

恐らくは第二の破邪呪文(マホカトール)展開前に侵入した魔物だろう。

ラーハルトが無言で立ち上がり、自分が向かうと話したので、

ボリクスと動けるモンスター達がついていった。

 

 

「では、バラン殿は破邪呪文(マホカトール)を上手く活用して、突出しすぎぬよう戦って下され」

 

「分かりました。では、ダイ。お前がレオナ姫をお守りしろ」

 

「うん。任せてよ父さん!」

 

 

ちょっと厳しめに言ったにもかかわらず、

ダイからの"父さん"の言葉に顔がほころんでしまうバラン殿。

分かりやすすぎる……。

だが、これは恐らく、みなが見たかった平和な景色だなと思いながら、

私はレオナ姫とダイ、竜水晶を連れて大地の精霊が眠る祭壇へ向かった。

 




独自設定
精霊に対しての儀式
本編ではいいませんでしたが、50年間、四精霊に対しての儀式が途絶えたことで、
オーザムでモンスターの活動が活発化したり、海の魔物が勢いづき(オトギリ姫たちの台頭)、
デルムリン島にある魔界に繋がる洞窟に張られた結界が維持できなくなりました(ハドラーが地上へ)。
知るわけもありませんが、ハドラーが知ったら、
名誉魔王軍としてテムジンをスカウトしてもいいかもしれません。

水の精霊がポンコツ
本体はもうちょっとマシなのですが、
力がほとんどない分身体です。
本体の水の精霊と比較すると、大分頼りない感じではあります。

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