ザボエラ転生 ~ダイ大世界をおっさんが生き抜く~ 作:リドリー@犬小屋
次回は来週の木曜日23時頃を予定しております。
デルムリン島へのグラコス襲撃から、三週間余り後。
この間に決まったことがある。
パプニカのレオポルド王とマトリフ殿が協議の上、
水の神以外の儀式を、他国に正式に依頼することになった。
聖地が近い国々、ロモス・カール・オーザムに依頼するという話である。
今回のグラコスによるデルムリン島襲撃の件を、書面としてまとめあげ説明した上で、
地水火風の神=精霊に対しての儀式を担えないかという打診だ。
パプニカ一国では難しいという事を周知して、世界レベルの重大事であるという、
精霊に対しての儀式の知識を分散するという考えもある。
それに対して三国から、正式に受諾するという返答があったらしい。
まず、近いし返事が一番早かったロモスと話し合う事となった。
返事が来てすぐ、マトリフ殿が特使として派遣され、ロモス王と会談の席を設ける。
パプニカの教導の下で、儀式を学んできちんと執り行えるようにした後、
地の神=大地の精霊に対しての祭事を継承してくれることとなった。
ロモスに対して頼むという形になるので、聖地としての体裁はパプニカで整える。
祭壇は大地の精霊と話し合って、洞窟の地下にあった朽ちたものを、
地上に再現する形になって、華美にならないよう作ることになった。
カールとオーザムについては、現在、日程を調整中だ。
マトリフ殿、三賢者のコルキ殿が説明と交渉に当たる。
アポロも同行し、次代の三賢者として外交を学ぶよい機会になるだろうと、
マトリフ殿は語っていた。
水の精霊はバルジ島を望む辺りに、地上の神殿を作ることになりそうだ。
どうもレオナ姫との相性がよく、小さな分身体は今後もレオナ姫と行動を共にするらしい。
本体は海底神殿にいて、海のモンスターたちを教育しているという話である。
朗報としては将来的に水の精霊が海のモンスターたちを使って、
海底各地に神殿を立てる予定だそうだ。
海自体を聖域化して魔王からの邪気の影響を、
海中のモンスターが受けないようにする事が可能らしい。
だが、神殿自体は防御力が乏しいので、
私が
今回の事件の顛末を伝えに、フォルケン王の下へ訪問したところ、
ウルス村から海のモンスター達が、ピタリと悪事を働かなくなったという知らせがあったという。
レオナ姫にやり込められている姿が思い浮かぶため、どうもうっかりな印象があるのだが、
水の精霊自体はなかなかやり手で、海のモンスター達をよく指導してくれているようである。
グラコス襲撃の事後処理が終わった後、キングヒドラ辺りから続いた事件について、
お互いに情報のすり合わせと、感じた違和感や疑問を話し合う事となった。
アバン殿とマトリフ殿は、都合をつけてヨミカイン魔導図書館へ訪問してくれた。
まず、両方の事件に深く関わった私が、知っている範囲の事を全て説明する。
途中、幾つかの質問がありながらも、事件のあらましを聞いて、
マトリフ殿がまず感想を述べた。
「あのキルバーンってのは、ヴェルザー十二魔将の好戦派を抑えてたわけか……。
なかなか、政治的に大した男だったってことだな」
「彼の死によって抑えが効かなくなったヴェルザー十二魔将を、
キングヒドラとグラコスがけしかけ、大魔王領へ攻め入らせたという事ですね」
「それによって他者の耳目から外れた、キングヒドラとグラコスが、
地上を攻めてきたという事になりますな」
ヴェルザー十二魔将については、古参が三名。
ベリアル、バズズ、アトラスという、悪霊の神々と呼ばれる連中がいる。
ボリクスに聞いたところだと、彼らはいわゆるヴェルザー一族が十二魔将にいた時代から、
魔将の地位にいたというか、唯一の一族外の幹部だったということだ。
つまり、古くからいるそうなので穏健派として、
キルバーンと同様に抑えに回っていたのだろうと。
だが、弁の立つキルバーンが死んだことによって、
ヴェルザー十二魔将内の好戦派を、抑える事ができなくなったようだ。
新参の十二魔将がやけに好戦的な件について、
理由をボリクスに尋ねた所、
"魔界の将軍になっとるやつが、大人しいわけないやん?
武勲を立てて横に並んでる奴より上に立つ。大体、みんなそんなこと考えとるわけや"
という話だった。
武功を得て、権力争いで有利な位置に立つ。
新参者たちが抑えが効かなくなったのも、力を重視する魔界なりの論理でいけば、
理屈が正しく通るわけである。
新参の魔将たちの浮足立つ野心に、キングヒドラとグラコスが油を注ぎ、
残るヴェルザー十二魔将が激発させられたということか。
マトリフ殿が人差し指を立てて言う。
「問題としては、だ。魔界の混乱がどんなレベルかって話じゃねぇか?
これから数十年続いて地上侵攻がなくなる話なのか? もう勝敗が決しちまったって話なのか?
数年で収まるが、面倒な小競り合いが続いてるって話なのか……色々考えられるぜ?」
「魔界へ行ってみてみる事が一番確実でしょうが、キングヒドラとグラコス両名を見ても、
ヴェルザー十二魔将はなかなかの猛者です。
土地勘のない魔界で、そんな強者と遭遇して勝てるかどうか怪しいですね」
「まぁ、言ってみりゃ、敵地だからな。
いくら現地で偵察して情報を得ても、持ち帰れなきゃ意味がねぇよ」
「冥竜王軍と大魔王軍との戦いが、もしも戦争規模でしたら危険度が跳ね上がりますね」
二人が話し合っているが、確定した情報は魔界へ行かねば手に入らない。
更に現地偵察は危険が大きいし、避ける方が無難だという事に決着したようだ。
私としては、数十年の混乱があれば、
大魔王バーンの地上破壊計画が中断するので歓迎ではある。
だが、私の夢に現れた大魔王バーンの様子からすれば、
そんなレベルで混乱が引き起こされていたら、
あんなに泰然自若としていられるか怪しい所だ。
「連絡を密にして油断せぬようにするべきでしょうな。
ワシの考えでは、混乱は数年で収まるはず。何しろ大魔王バーン配下は精鋭ぞろいですからな」
魔界の情勢は楽観視せず、これまで通り修行したり、軍備を整えて、
きたるべき新生魔王軍に備える事となった。
その考えの根拠としては、いささか希薄だが、
私の夢の世界に訪れた大魔王バーンが落ち着いていたことをあげた。
驚く二人に、彼と話した内容を紙に纏めておいたので、
それを渡すことで情報の共有を行った。
二人の反応は驚愕半分、興味半分と言ったところか。
すぐに理解が驚愕を塗りつぶし、幾つかの疑問に回答すると、
マトリフ殿は私に問いかけた。
「しかし、大魔王が別世界を回ってるってことは、違う世界の知識を得てるってことだろ?
つまり、それを地上侵攻に役立てるかもしれねぇ」
「そうですな。ただ、彼の雰囲気としては、現状は単純に楽しんでいるように見えましたな。
もちろん、得た知識を、マトリフ殿の危惧の通りに使う事は、十分考えられますが」
紅茶を飲みながら話を聞いていたアバン殿が、
優雅にティーカップをテーブルに置いて話しかけてきた。
「大魔王その人と、話ができるというのなら……。
停戦ですとか、地上破壊を思い留まらせることは可能でしょうか?」
そうきたかぁ……。確かにそう考えるのは道理だ。
戦闘ができない場所で、敵の陣営の首魁と話だけできる。
ならば、停戦交渉は可能ではないかと考えるのも無理はない。
しかし、原作の彼の気持ちを知っていると、恐らくそれは無理なのだ。
多分、神々に対しての彼の気持ちは、彼のアイデンティティに根付いたことなのだろうから。
もっと単純に話してしまえば、大魔王バーンの人生における悲願であるはずだ。
「ザボエラの話を聞く限り無理だぜ、アバンよ。
ザボエラが意地について話した時、奴さんがそれに応じて語った言葉、覚えてるかい?」
"思い出してみれば、余にとっての出発点は神々に対しての怒りであったな。
魔族とドラゴンを魔界へ押し込めた彼奴等。
なにゆえこのような理不尽を、なしたというのか……。
神に問い質し、是非を問わんと欲する、意地からの出発だったやもしれぬな"
大魔王バーンは私にそう話した。
思い出したようで、アバン殿は表情を引き締めた。
「大魔王にとっては地上を破壊して、魔界に太陽を齎すことは、
長い年月にわたる悲願、なのでしょうね……。
一朝一夕で、それを覆すのは厳しいでしょう」
大魔王が訪れる件については、恐らく侵攻を止めて欲しいというのは、
逆鱗に触れるだろうから、そういった交渉はしないということ。
それ以外でこちらが有利になることであったり、それこそヴェルザー陣営との戦いは、
どういった戦況であるのか?
そこまで露骨ではないにしろ、魔界の情勢について、
聞いてみてもいいかもしれないという意見になった。
次にマトリフ殿が、効果の高い聖水を作り上げる事に成功したという話をした。
私が幾つかやり方を提案して、マトリフ殿が実地で試した事である。
ドラクエ10の錬金釜による聖水+聖水=賢者の聖水というのは、
普通に考えれば同じものを混ぜても量が増えるだけで、錬金釜の力が大であるという所だろう。
それゆえに、ドラクエ9のレシピである、聖水+魔力の土+花のみつ×3を試してもらったのだ。
花のみつ×3というのが曲者で、アイテムとして供与される花のみつ一個が、
一体どの程度の量なのか分からないので、マトリフ殿は試行錯誤の日々だったという。
つい先日、通常の聖水の倍程度の魔法力が回復する、
新しい聖水の精製に成功したという。
アイテム名は賢者の聖水なので、賢者の聖水でいいのではと思ったのだが、
マトリフ殿が"アイテム名までエラソーなのが気にいらねぇ"と言っているのだ。
「パプニカは賢者の国なのですから、パプニカ名産という事が伝わります。
それでいいじゃないですかマトリフ。
あなたもパプニカで大魔導士やっているんですから、
名称一つでヘソを曲げる事もないでしょう?」
というアバン殿の大人の意見で、賢者の聖水という名称がそのまま使われることになりそうだ。
アバン殿が
なかなか進まなかったらしいが、輝石や聖石を使って、
シルバーフェザーとゴールドフェザーの試作品を完成させたということだ。
シルバーフェザーが沢山完成したら、私に使ってもらう事で、
ボリクスの剣のルーン文字を刻む作業が、劇的な速度で進むことになるだろう。
個数が大量に作ることができたら、持参して私に使ってもらう約束をした。
マトリフ殿が指をパチンと鳴らした。
「重大な話があるぜ。デルムリン島の連中の話だ」
「幾つか想像がつきますが、なんですかマトリフ?」
「こないだ、ザボエラと話し合ったんだが、デルムリン島のモンスターに、
連携を教えてやってくれねぇかってことになったんだがどうだ、アバン?」
少し難しい顔になったアバン殿は、私たちに尋ねてくる。
「それは、彼らをモンスターを軍隊化したいという話ですか?」
そうではないことは知っているだろうが、敢えて聞くという事は、
デルムリン島のモンスター達を軍隊化=魔王軍化させたくない。
そういった、アバン殿の意思の表明だろう。
そのアバン殿の不安を払しょくするために、
モンスター達に連携を教える事の趣旨を説明する。
「アバン殿もご存じの通り、デルムリン島も安全地帯ではありません。
通常の
その場合、デルムリン島のモンスター達が、凶暴な輩に虐殺される恐れがありましょう」
「別に魔王ハドラーみてぇに、軍隊化させちまおうって話じゃねぇよ。
グラコスがいい教訓になったが、長所と短所を知って補い合えば、かなり強くなるのは確かだ。
あいつらがあのデルムリン島で、幸せに暮らせるように、自衛のための力が必要だろ?」
ブラス老は人語が話せるし、頭がいいモンスターだ。
基本的に穏やかで細々とした数字の管理に長けているので、恐らくは兵站向きだったのだろう。
魔王時代のハドラーが、ブラス殿にデルムリン島でモンスター育成をさせたのは、
人事としては非常に優れたやり方だったと思われる。
ただ、臨機応変の対応は難しそうではあるので、軍隊化してブラス殿が一々指揮をするよりは、
大目標……例えばデルムリン島の海岸を守ると決めて、
小部隊ごとに目標を達成するため行動する方がよさそうではある。
言ってみれば冒険者のパーティーのように、連携を取れる個別の部隊化が望ましいかもしれない。
私たちの話を聞いて、砂糖もミルクも入れていない紅茶の香りを楽しんでから、
グイッと一気に飲み干して、アバン殿が話し始める。
「まぁ、あなた方がデルムリン島のモンスターを軍隊化して、世界征服するとは思っていません。
ただ、その魔王ハドラーの記憶も生々しいでしょうから、
モンスターを訓練するのは危険視される恐れがあります」
私がやはり難しいかと残念さがにじみ出した表情をしていると、
アバン殿がニコリと笑ってこう言った。
「ですが、自衛のための力まで否定されることはないでしょう。
正義なき力は無力ですが、力なき正義もまた無力ではあります。
彼らが踏みにじられぬよう、私がバラン殿と話し合って、モンスターたちの力を伸ばしましょう」
原作で何度も聞いた、アバン殿の基本的な理念を聞くことができた。
忙しいのかマトリフ殿は先にパプニカに戻り、アバン殿と二人で話をすることになる。
「実は破邪の洞窟へ入りまして、一人で様々な修行を行っていました。
そこで、
迷った末にヒュンケルに対して、先日、使ってみました」
なんと……。事前に注意しておくべきだったか?
何か進展があったのであったら、まず最初に話をしているはずだが……。
私は続きを促し、アバン殿の言葉を待った。
「
使用することによってその場まで転位することが可能です。
ただ、これにも弱点がありまして、転位先にいる相手が、
術者を仲間だと思ってない場合は、呪文が発動しないのです」
少し考えれば分かるが当たり前の話である。
例えば、遠くから見た国王の顔を覚えたからと言って、
彼の側に自在に
転位先の相手が術者と親しいであるとか、そういう条件は必要不可欠だ。
「あの子は私を憎んでいるのだろうな……。
そう思い、確認ができたことで、再会した時の心構えができました。
恐らく、再び会いまみえた時、ヒュンケルは全力で向かってくるでしょう」
ソファから立ち上がって静かに言葉を紡ぐアバン殿。
「そのヒュンケルの全力を受け止めて、負けない強さを得ねばならないと思っています。
彼を立ち直らせることができるように……!」
なるほど。きちんと、アバン殿の中で受け止めて、それでなお歩みを止めぬ覚悟を決められたか。
だが、ヒュンケルに拒否されたと思い続けるのは、また気分としていいものでもない。
恐らくヒュンケルは、
出入りができない結界内にいるから、
直接的に正解を言うわけにもいかないので、間接的に言える範囲でフォローしてみようか。
「マトリフ殿に聞いた話なのですが、魔王ハドラーが籠るヴィオホルン山の地底魔城。
その火口は見えたのに、見える場所に飛べる
移動ができなかったと伺いましたが?」
一瞬、アバン殿は虚を突かれた顔をして、私の方をじっと見る。
だが、その顔に理解の色が浮かぶのに時間はいらなかった。
「はい、そうですが、それが……。
いや、そうか。なるほど、そういうことですか……」
頭のいいアバン殿だからこそ、私が出したヒントで答えにたどり着いたようだ。
ヴィオホルン山の火口には、結界が敷かれていて、
現在ヒュンケルがいる場所に、
阻害する結界などが敷かれているのではないか、という私の意図が正しく伝わったようだ。
「結界と
幾つかその関係性について認めた書物がありますな」
「そんな書物がありましたか……。ザボエラさん、どこにあるか教えていただけませんか?」
「それは、アバン殿。どこに、ではなく、ヨミカイン魔導図書館をご利用いただきたいですな。
地下6階の11026の棚の、85番にある本に、
ヨミカイン魔導図書館に初めて来た時に、分かる範囲で使えそうな呪文について、
詳細に記されている本は片っ端から読んでその場所を記憶しておいている。
いずれ必要になるだろうし、聞かれた時に応えられた方がよいだろうからだ。
マトリフ殿曰くの、"無数の呪文と知識をかかえ、皆の危機をはらうのが、魔法使いの役目だ"
という奴を私は少しでも実践しているのである。
アバン殿はびっくりした顔をしてこちらを見て、照れくさそうに頭をかいて笑った。
「図書館ですからね。利用させていただければよかった……」
「ご用命いただきたいですな。
ワシも伊達にヨミカイン魔導図書館、館長を名乗っているわけではありませんぞ?」
少しおどけて言って見せた私の言葉が面白かったのか、
アバン殿が明るい笑い声をあげていた。
先日、マトリフ殿に励ましてもらったのだから、そのお礼というわけではないが、
マトリフ殿本人ではなく、アバン殿を元気づけられたならよいではないだろうか。
こうして、六年目の日々の残りは、マトリフ殿に同行して各国を訪問し、
精霊に対しての儀式についての説明と折衝を行って回った。
更にデルムリン島へ行ってはモンスター達に、
パーティーとしての連携を教えるアバン殿へのサポート。
バラン殿やダイに呪文についての講義を行ったりと、
忙しく過ごす事となった……。
独自設定
幾らでも暗殺に使えてしまうので、このような設定になりました。
勿論、
それで