ザボエラ転生 ~ダイ大世界をおっさんが生き抜く~ 作:リドリー@犬小屋
文字数が増えすぎましたので分割致しました。
長いので時間がある時にでもお読みいただければ幸いです。
呆然とした面持ちで座り込んでいた。
見苦しい弁明を怒りもせず最後まで聞いたミストバーンは、
呆れてしまったのだが、判断は大魔王が下すべきと考えている。
座り込んでいるハドラーを眺めながらミストバーンは、
どうしてこうなったのかとハドラーの弁明と状況を頭の中で整理していた。
ミストバーンは大魔王から、二年早くハドラーを目覚めさせるという命を受ける。
そのため、ハドラーにかつて大魔王から与えられた像を核として、
彼の精神体だけを覚醒させて、大魔王と謁見させるつもりだった。
だが、ハドラーが何を勘違いしたか、勝手に
新生魔王軍で自分が軍団長にしようと思った候補の一人、
ザボエラに声をかけにヨミカイン魔導図書館へ赴いたのだ。
一報を受けたミストバーンは、ハドラーを精神体にした呪法が彼の施したものゆえ、
自分自身でわざわざ出向かねばならなかった。
内心では"無駄に行動力がある"と、舌打ちをしていたが、
仮面の下に隠してハドラーを回収しに赴くことになる。
その場でザボエラ達とハドラーが一悶着あったが、
兎に角ハドラーの身の安全を図るために、
新造したシュバルツシュルトを20体近く無駄にしてしまった。
ミストバーンの
光の闘気を身に着けている竜水晶。
新造したシュバルツシュルトでなくば、
ハドラーも危うかったかもしれない
ミストバーンはザボエラの
苦手意識がある中、ハドラーを救出して
そうまで手を尽くして助けたハドラーは、情けなく弁明するだけ。
さきほどまで喚き散らしていたハドラーの話を総合すると、
ザボエラはあそこまで強大な魔法力を持ってはいなかったという事のようだ。
だが、魔族──地上にくる気骨のある魔族の中では──において、
自分に次ぐ強力な魔法力を誇っていたので、妖魔士団長にスカウトするつもりだったらしい。
寝ていたので仕方ないが、あまりにも過去の情報にしがみつくハドラーに対し、
ミストバーンは彼への評価がみるみる内に下がっていくのを感じていた。
だが、ハドラーを見限る、見限らぬも、決めるのは大魔王の裁定である。
そう臣下たる己に再度戒め、ハドラーに対して声をかけた。
「……ハドラーよ。お前はあと、誰に声をかけるつもりだったのだ」
「クロコダイン、という男に。ガンガディアから聞いていたのだが……」
その言葉を聞いたミストバーンは、内面の鬱憤があまりにも堪りすぎていたのか、
ハドラーの言葉に思わず失笑しそうになったが堪え、沈黙の仮面を微動だにしなかった。
しかし、押し殺したミストバーンの内心の述懐は、クロコダインへの称賛で溢れかえっていた。
"ハドラーよ。クロコダインにまず会いに行く選択を取らなかったのは正解だったな。
あの男だったら、手段のあるなしはともかく、
身に着けた絶大な闘気の技でお前を消滅させたかもしれない。
そのくらいのことはできる。いや、できるはずの凄まじい男なのだ!"
敵ではあったが、あの竜魔人バランと戦った後に自分と戦い、
最後まで堂々たる振る舞いだったクロコダインには、敬意すら抱いている。
その思いが奔流のように溢れそうだったが、これから大魔王バーンに出会う前に、
あまりにハドラーを意気消沈させては、取り乱して大魔王に対して無礼を働くかもしれない。
ミストバーンは内面の思考を横に置き、ハドラーに向けて軽く頷いた。
丁度、タイミングよく呼びに来たデスカールに先導され、
ミストバーンとハドラーは謁見の間まで静かに歩いて行った。
謁見の間にある玉座は、美しい水晶に覆われ、2mほど上には太陽を象った彫刻が刻まれていた。
玉座を隠すベールの後ろにはまだ誰もいない。
そしてその玉座から、数段低い位置に、近衛師団長キング・マキシマムという男が立っていた。
ハドラーはそのマキシマムを見て、目が離せなくなった。
初めて会う男であり、いままで話を聞いたこともない存在だったが、
ハドラーは一目見て、その男の武威に圧倒されてしまったのだ。
ハドラーも肉体を持てば、徒手空拳を主とする武闘家の一人である。
頑強極まりない肉体と、他の追随を許さぬ再生能力。
さらに強力無比な呪文を駆使し、生半可な相手には、
苦戦すら脳裏をよぎらぬ己の強さへの自負があった。
そのハドラーが眼前のキング・マキシマムには、一切勝てるヴィジョンが浮かばなかったのだ。
──違う──
その威風堂々たる佇まいに格の差を感じてしまったからか?
──違うそうではない──
かつて"魔王"ハドラーが港町サババで、ロカと戦った際に、
名を教える義理はないと言い放った彼に対し、ハドラーはこう答えた。
"勝者にその名を懐かしんでもらうことぐらいしか……
敗者にできることはないッ!"
ハドラーはかつてロカに言った、己の言葉を突きつけられていた。
いまの自分ではマキシマムと戦ったとしても、
記憶に残してすら貰えぬであろうという事実が、
ハドラーのプライドを著しく抉り、傷つけたのだ。
肉体がない精神体にも関わらず、冷や汗が流れる感覚を覚えた。
心臓が早鐘のように鼓動する錯覚が止まらず、
ハドラーの内面を非常に落ち着かないものにしていた。
先ほどミストバーンに対して吐き出したためか、
混乱がある程度落ち着き、取り乱している状況ではない。
大魔王バーンの御前で、無礼は許されないという程度の、
分別を取り戻しているはずだった。
ハドラーが必死に内面の動揺を抑えつつ、
絶叫したいほどの心の傷を押さえながら、
大魔王の登場を待っていた。
感覚が麻痺し、時間の経過を無限にすら感じる間、
ハドラーは磨き上げられた謁見の間の床をひたすらに凝視した。
そのハドラーを苦痛から解放したのは、堂々たるマキシマムの声であった。
「一堂、控えよ! 大魔王様がお越しである!」
ハドラーはその声に、一切の動揺も気負いもない、自信に満ち溢れた声に嫉妬した。
自分もそのような声を出せたはずだというのに……。
そう思いながら、足のない姿でしゃがみ、
薄布一枚……。
ベールの後ろに現れた大魔王の影に、
ハドラーは威圧感で肉体が潰されるような感覚を覚えてしまった。
精神体は肉体を持たぬはずであるのに、弱まった内面のせいか、
大魔王の威圧感のすさまじさ故か……。
動揺と混乱で、心が強風に揺れる葦の葉のごとく、揺らめいてしまっている。
そんなハドラーの動揺を、まったく意に介さず、少し楽しそうな声色で皆に話しかける大魔王。
「楽にせよ。この場は問罪の場ではない。
あまり堅苦しくならずともよかろう……。
さて、ひと悶着あったようだな、ミストバーンよ」
「ハッ……御宸襟をお騒がせ致しまして、誠に申し訳ございません大魔王様。
ハドラーが単身でザボエラを、妖魔士団長に勧誘に向かった由にございます」
それを聞いたハドラーは、精神体であるのに身を固くした。
大魔王から厳しく叱責されてしまうだろう、そう考えたからだ。
直々に"問罪の場ではない"という言葉はあった。
その言葉があったとしても、大魔王が怒りを見せれば、覆されてしまうだろう。
だが、大魔王はハドラーの予想を
「ふっ……ふふふっ……! ふはははははははっ……!!」
大魔王バーンは、朗らかに楽しそうに、闊達な笑いを漏らしたのだ。
膝をついていたミストバーン、マキシマム、デスカールが驚いて顔をあげる。
ハドラーは事態が呑み込めず、混乱を露わにしていた。
「ザボエラはお前の勧誘では動かなかろう。なにせ、余の勧誘も断ったのだからな……」
「だ、大魔王様! それは一体、如何なる事でございましょうか!!」
ほぼ常に冷静なデスカールが、狂信的に大魔王を信奉している事は広く知られている。
その彼が取り乱し、礼を失した形で大魔王に質問をした。
よほど機嫌がよいのか、デスカールが己を神と崇めている事を喜んでいるのか、
大魔王バーンは叱責もせず、親切にデスカールの疑問に応じた。
「余が幾つかの世界を夢の中で旅している事は知っておろう?
あの男、ザボエラは精神が特殊でな。
己の中に一つの世界を内包しているのだ。
そこで彼と話し、余の配下にならぬかと誘ってみたのよ」
「大魔王様のお誘いを拒むとは許せませぬ!
このデスカールにお命じ下さい! ザボエラの首を取れと!!」
「落ち着けデスカール。大魔王様に対して、無礼だぞ」
「こ、これは、申し訳ございません!」
思わず激高したデスカールをミストバーンが咎める。
大魔王は鷹揚にデスカールを許し、話の続きをし始めた。
「あの男は余に……余が大魔王としていまの計画を立てた頃の、
最初の志を思い出させてくれたのだ」
その言葉はやけに穏やかであり、ミストバーンはどれほどザボエラが、
大魔王の心を捉えたのだろうかと思いを巡らせた。
よほど上機嫌なのか、大魔王は楽し気な調子のままに、言葉を続ける。
「そのような男、容易く誘いに乗るとは思えぬ。
殺されずに戻れたことは僥倖であったな。
のう、ハドラーよ?」
「はっ……ハハ~~ッ!」
デスカールの暴走のおかげで、少し冷静さを取り戻したハドラーだったが、
大魔王から名指しで声をかけられ、また震え上がってしまう。
気の利いたことも言えず、平伏するのみのハドラーである。
その後、全員にハドラーの今後について、大魔王から直々に説明がなされた。
キング・マキシマムの成長を見ると、最初から大魔王の魔力で完璧なお膳立てをしてやるより、
少しでも早く復活させて、実戦で経験を積ませて、自ら鍛錬し己の努力で強くなるべきだろうと。
幸いというべきか、魔界は乱れている。
一年後、蘇ったハドラーに対して、反抗する諸勢力を平らげることを以て、
修行となして魔界において力を高めるべしという命が下った。
「ハドラーよ。お前には最強の肉体を与える予定だ。
元々、最高レベルの素質を持った身体を、余の魔力と暗黒闘気で強化したもの。
それを生かすも殺すも、そなたの修練次第よ」
「はっ……必ずやご期待に沿えるよう、大魔王様の御為に……戦います……」
「期待しておるぞハドラー。研鑽を積み、己の強さを磨き上げるのだ。
それまで、眠りに就き、心を平静にしておくよう努めるのだぞ」
その大魔王バーンの言葉に、隠し通せていたかと思っていた、
内心の動揺すら手に取るように把握されていたとハドラーは驚愕した。
身を固くするハドラーに対して、大魔王はさらに声をかける。
「余がそなたに期待したのは、類まれな覇気。
微動だにせず大魔王の言葉を考えているハドラー。
つまり、魔界で反抗勢力を平らげねば、魔軍司令にはなれぬという事か。
では、いまの自分はどういう身分なのか。
大魔王の意向で軍勢と力を得て、再度地上へ挑めると思っていたのに……。
魔界の強豪と戦わされることになるとは。
勝てなかったらどうなるのだ?
流石にその場合、大魔王はいつまでも笑ってはいないだろう。
自分は大魔王にその資質を問われているのか……。
気分が最底辺まで落ち込んでいるハドラーは、よくない方向へ思考を進めていた。
頭を垂れたハドラーは、大魔王バーンが去ったことにすら気づかず、
思考の海でおぼれてしまっていた。
しかし、キング・マキシマムが声をかけたことで、初めて頭を上げた。
「ハドラー殿!
大魔王様の許可があれば、あなたにバーン様仕込みの古代拳闘をお教えしよう」
「マキシマム……殿……」
「フッ……勝手な事を言うなマキシマム。
まずは、大魔王様からお許しを得ねばな」
「おっと、そうだったなミストよ。
いやはや、吾輩の勇み足であったか! では、失礼するハドラー殿!!」
親し気な様子に二人は気心がしれた友人なのかと考えるハドラー。
そして、巨体に似合わぬ、軽やかな足取りで去ってゆくマキシマムの背中をハドラーは見送る。
そのマキシマムとは対照的に、ハドラーの顔は暗い。
孤独な思いに囚われ、ハドラーはただただ謁見の間に立ち尽くすだけであった。
独自設定
ハドラー
勇者アバンと獄炎の魔王では、早い段階で精神体になって飛び回り、
ザボエラをスカウトしていました。
恐らくこれから眠りに入るのだと思われますが……。
本作では最初からずっと眠りに就いておりましたが、
起きるのを早められて、更に魔界で修行しろという事になりました。
ハドラーは試練が続きますが、再起しますのでご安心ください。