ザボエラ転生 ~ダイ大世界をおっさんが生き抜く~ 作:リドリー@犬小屋
皆さんも熱中症にはお気を付けください。
ダイ大で読んだ時はモノクロだったせいか、
魔界をそれほど恐ろしくは感じなかった。
しかし、実際に足を踏み入れてみると威圧されるものがある。
分厚い雲に覆われ、空もあり太陽も存在はしている。
だが、それらは作り物だ。
地上の太陽とは違って、生命を育む温かみを感じない。
大魔王バーンの太陽コンプレックスはこうやって培われたのだろうか?
遠くまでむき出しの岩が続く冷たい大地と、
崖の下を流れるマグマが生命の存在を拒絶する冷酷さを持つように感じる。
昔発売されたパーフェクトブックに、
"この環境に嫌気がさした者たちが、
はぐれ魔族や地上のモンスターになったのである"
と書かれていたが、なるほどこれは魔界を嫌になるのも無理はないと言える。
そのように物思いに耽りつつ休んでいる。
ようやく息が整ってきた。
持参した魔法の筒に水筒を入れておいたので、
まさか、水筒を用意して水を入れ忘れてしまうとは……。
やはり便利だな
何故休んでいるのかといえば、魔界へ到着した直後に、
魔界の魔物たちに襲われたのだ。
それを撃退して、一息ついている所なのである。
「流石は魔界の魔物たちよ。なんともすさまじい強さだった!!」
巨岩に腰を下ろし、声を弾ませながら、
真空の斧を握る手に力がこもるクロコダイン。
魔界の猛者という題名の一枚の絵のようだ。
「クロコダイン様は、素晴らしい武人ですが、
武人ならざる
そのクロコダインの横で、
目はないはずだが、ジト目でクロコダインを見やり、
若干呆れ気味に答えているように私には見えるケイン。
「……ふぅ……手荒い歓迎じゃったのう……」
深いため息をついて、水筒の水を飲み干すのは、
疲弊した私、ザボエラだ。
こちらが何者であるかの
極めて好戦的な部隊に襲撃を受けた。
シュプリンガーを中心としたドラゴン族。
メッサーラ、ウィングデビルなどの悪魔族。
冥竜王ヴェルザー麾下の強力な部隊だ。
なぜヴェルザーの陣営だと分かったかというと、
シュプリンガーが身につけている鎧や盾に、
明らかにヴェルザーを象った紋章が刻まれていたからだ。
戦いの後、クロコダインの傷は私が回復呪文で癒した。
ケインも呪法で破損を修理する。
私自身は、持参した魔法の聖水でMPも回復した。
現在は私が休憩を提案して、思い思いに休んでいる状況である。
戦闘しながら広い場所へ動いたので、
地上から転移した場所からは離れてしまった。
少し歩いて、そちらの方へ向かう。
魔界へ到着した直後の場所に戻ってきた。
スターキメラの翼を使い、
出現した場所の地面には魔法陣が描かれている。
これを目印として
研究施設というよりは城のような建物だ。
立派な佇まいではあるが、
ボロボロで当然ながら手入れもされてはいない。
在りし日の栄華を密やかに伝えるだけといった感じか。
しかし、魔界のモンスターは強かった。
ダイの大冒険を読んだ時も感じたが、
実際に戦ってみるとよく理解できた。
根本的に魔物としての
恐ろしく戦い慣れている。
ピクニック気分だった魔の森などとは、
散策の際の緊張感がまったく違う。
クロコダインがいなかったら相当に苦戦しただろう。
私とケインだけでは、勝つことはできただろうが、
疲弊した上での辛勝になっただろう事が容易に想像できる。
そう戦いの後に色々考えていると、
研究所を見やりながら、クロコダインが声をかけてきた。
「中を確認してみないのかザボエラ?
折角来たのだ。書物などがあるやもしれんぞ」
「ふむ、そうじゃな。
瓦礫をどけてもらうかもしれんから、手を貸してくれんか」
「おう、任せろ。
しかし、魔界に来ただけあって、強い連中がいるな」
「まったくじゃな。
しかし、お前さんもあまり敵の攻撃をまともに受けてはいかん。
さっきは深手を負わされとったからのう」
「うむ。魔界の武具は強いのだな。
若干焦ったが、よい緊張感だった」
クロコダインは嬉しそうだ。
魔界到着と同時に、彼の猛者と戦うという目的が達成されたのだ。
しかしながら、さすがは魔界というべきか、
クロコダインの鋼の皮膚をあっさり切り裂く剣を持つ強者がいた。
それを見た後だというのに、私を敵の攻撃から庇ってくれる。
思った以上に義理堅い。それに応えねばならんだろうな。
地上に戻ったら、何か防具を用立ててやらねばと思ったところだ。
「
主にお使いになっていた研究室は、こちら側ではございません。
内部構造が
案内できますがいかがいたしましょうか?」
「分かった。頼むぞケインよ」
ケインに道案内を頼もうと思っていたら、自ら名乗り出てくれた。
実際、内部構造など知っているわけもないので助かる。
三人で奥深く進んでゆくと、かつてのザボエラの研究室に到着した。
入り口のドアは壊れていたので、クロコダインに外してもらう。
尤も私だけなら入れそうな隙間があったのだが。
天井が広い研究室は半分が書棚で埋まっていた。
場所が物騒でなければ、じっくり調べたいところだが、
書名だけを見て何冊か本を集めておく。
集めた本をケインが魔法の筒に入れている中、
恐らくザボエラの愛用していた机を私は見つけた。
「
しっかり赤く光る。つまり、何か罠がしかけてあるという事か。
ケインに作業を中断させて、罠の解除を頼んだ。
毒が噴出する罠が仕掛けてあったらしい。
その後は魔法の鍵が施されているとのこと。
ならば、使う呪文は一つ。
「
「ほう、便利だな」
クロコダインが感心してそう漏らす。
鍵が
引き出しがきしむ音をたてながら自動で開く。
そして、中には真っ黒い表紙の本が入っていた。
一ページ目をめくってみると、日付が書かれていて、
どうやらザボエラの日記ではないかという事が分かった。
興味は惹かれるが、読み込んでいる時間はない。
そう考えながら、日記を引き出しから取り出してみると、
その下に何か金属の感触がある事に気づく。
「
「ふむ……どこか他の引き出しや、宝箱の鍵かのう?」
「……いえ、これはもしや……!! 毒草庫の鍵では!?」
珍しく大きな声を出すケインに毒草庫について尋ねてみる。
どうやら体内に取り込む毒素の素になる植物を、
彼自身が育てたり乾燥させて保存させる倉庫があったらしい。
ザボエラは体内に数百種の毒素を保有しており、
それを必要に応じて調合してポップを麻痺させた神経毒や、
不発だったがクロコダインを意のままにする毒を用意する事ができた。
私は別に毒素などに詳しいわけではないので、
この能力を持て余していた。
ザボエラが毒についての豊富な経験を基にやっていたことのようで、
まずどの毒素と毒素を調合すればよいのかという知識が無かったのだ。
元々、このザボエラの毒素を体内に保有する能力それ自体が、
ザボエラ生来の能力というわけではないのだ。
勇者アバンと獄炎の魔王で腕をロカに切断されたハドラーが、
ザボエラから供与された魔鉱石という石を喰らっていた。
食べ続ける事によって、魔族の骨格が金属化していくという作用を持っている。
恐らくはこれが後年の
それと同様の改造をザボエラは己に施していた、
長年かけて毒素を体内にため込んで、
意のままに調合できるようにしてきたようだ。
そのように考えている間に毒草庫に到着した。
入り口が狭いので、クロコダインは外で待つとのことだ。
私とケインは中へ入っていく。
「そういえば、お前はなぜそんなに嬉しそうなのじゃ?」
「
どのような部屋なのかずっと気になっておりました!」
好奇心旺盛な事だと思ったが、
内心落胆していないのだろうかと心配してしまった。
何故なら内部には枯れ草ばかりだったからだ。
それも当然だろう。
きちんと手入れをしてやらねば、ちゃんと植物は育たない。
どうやら地上から土を持ち込んでおり、
魔界の荒れた大地にはない環境ではあった。
しかしながら、
世話がされねば植物がもつはずもなかったのだ。
ケインは枯れ草を興味深そうに触っている。
私はあるモノを探していた。
引き出しや戸棚を探っていたが、
薬品棚の引き出しの奥に小さなノートがあった。
パラパラッとめくってみると、
そこにはザボエラの体内に注入した毒素についての、
その詳細が描かれていた。
これがあればいま少し、
体内の毒を有効活用できるだろう。
毒草庫を出てクロコダインに話しかけると、
頼んだものを収納した魔法の筒を持ってきてくれた。
赤い宝石、魔法玉などの鉱物系素材。
あまぐもの杖、せいじゃくの杖、いかずちの杖などの力を持った両手杖。
全て魔法の筒に入っている。
時間にして40分ほどの滞在だったが、また魔界の魔物に出会うのは危険だ。
そう後ろ髪をひかれつつ、名残惜しいが研究所を後にする。
ザボエラの研究所から出て、
地上へ戻ろうとクロコダインに声を掛けようとした時、
少し離れた所にある崖から、小柄な影が落ちてくるのを確認した。
クロコダインが巨体に似合わぬ俊敏さで走り込んで滑り込む。
彼の体が大きいためか、ギリギリで影を受け止められたようだ。
「ザボエラ! なにやら子供のようだ! 意識がない!
看てやってくれんか!」
やはり、器の大きな男だなクロコダインは。
油断ならない魔界でも、子供を助けるとは。
そう考えながら近寄っていくと、
良からぬ呪文が近づいてくることが分かる。
振り返ることなくクロコダインの横に立ち、
弾き返した呪文を喰らったにも関わらず、
一切揺らぐことなくそびえ立つ、
その小山のような存在は
「貴様らなにものだぁ! そのガキを渡せ!!」
怒りのこもった野太い
その暴力的な圧力に、思わず顔を顰めてしまう。
ただの声であるのに、それほどの圧がこもっているのだ。
現れた姿は、ただただでかい。
クロコダインより、二回り以上大きな巨体だ。
縦も横も太く腕が長いこの姿は……赤いギガントヒルズなのか?
あまり知性は感じられないが、初めて話しかけてくるドラゴン族。
少しコンタクトを取ってみるか。
「ワシらは怪我人を診ているだけよ。
魔界とは子供を助ける事すら許さぬ、
狭量な世界なのかのう?」
「なに、子供を助ける、だと!?
ブッ……ブワーッハッハッハ!! こいつは傑作だ!
貴様らはお人よしの間抜けかぁ!」
赤いギガントヒルズは、こちらを小馬鹿にして、
まさしく爆発するような声で笑いながら言った。
クロコダインは憮然としている。
だが、かなり怒りを覚えているようで、
強く握った拳は岩をも砕きそうな力が込められている。
「ザボエラ。この子を頼む。
衆を頼んで子供を追い回すなど卑怯者のやることよ!」
「かまわん。ワシが治療しながら援護をしよう。
ワシもあのデカブツには腹を立てておるわい」
真空の斧を片手に持ったクロコダインがゆっくり歩んでいく。
一人の悪魔が馬鹿にしながら、攻撃をしかけるが、
それを丸太のような太い腕でいなし、真空の斧を容赦なく腹に叩き込む。
上下真っ二つになった悪魔が、凄惨な死にざまを見せたのを合図に、
赤いギガントヒルズがこう叫んだ。
「このドラゴン・ウー様に逆らうバカどもを血祭りにあげろ!!」
ドラゴン・ウー……ドラクエ7初出の巨大な直立したドラゴン型モンスター。
肥満体のような体と、長く垂れ下がった巨大な両腕を振るってくる。
収集品
あまぐもの杖、せいじゃくの杖、いかずちの杖。
魔法玉などの素材。
幾つかの書物。
ザボエラの日記。
毒草庫のノート。