ザボエラ転生 ~ダイ大世界をおっさんが生き抜く~ 作:リドリー@犬小屋
次回は来週の木曜日23時頃を予定しております。
第六十三話 旅の軌跡とその傷跡
動きやすいマントを羽織ったクロコダインとフォルケン王が対峙している。
フォルケン王はローブではなく、武闘家のような姿をしていた。
逞しい二の腕としっかりと筋肉がついた首には、かつてのベッドで臥せっていた面影はない。
一礼して、お互いに拳を交えている。
クロコダインが全力でないのは分かるのだが、別に手加減もしていないのが窺えて驚く。
フォルケン王が使うのは
旋回する防御壁を作りながら、相手の攻撃を絡めとる技。
マトリフ殿のかつての同門であるカノンの技であり、
現在はチョコマが一番の使い手である武術の技だ。
フォルケン王が手に闘気を集中し、それを光弾として放つ。
「龍撃波動拳!!」
「ぬぅ!!」
フォルケン王の拳から放たれた気の光弾を、クロコダインが掌に気を溜めて受け止める。
高齢であるフォルケン王は、自分の内側にある気だけではなく、
自然が持つ気──人間の身体にある気を内気と呼び、自然や世界にある気を外気と呼ぶ──
その外気を外気功として取り込んで利用することで、様々な技を繰り出している。
実は半年前、ブロキーナ老師がふらりとギュータにやってきた。
幻の賢者バルゴート殿の事は老師も聞いており、一目会いたかったという。
ギュータの武術に伝わる技術体系が、自分の武神流に酷似している事に気づき、
格闘に携わっている者達に、武神流を広く授けたのだ。
無論、フォルケン王もその中にいる。
フォルケン王は習熟が早く、外気功へたどり着けそうだったので、
その制御については、ブロキーナ老師が手ずから教えてくれた。
一通り指導を終えた後、老師はクロコダインにギュータの者達とフォルケン王の指導を、
今後は任せると託して去った。
つまり、クロコダインは免許皆伝で卒業ということになる。
人を教えるのもよい勉強になるとは老師の弁であり、
実際、クロコダインも私に、"己を見つめ直す良いきっかけになった"と語っていた。
「フォルケン王。
外気功はどうですか? 龍撃波動拳の威力が段違いでしたぞ」
「体はかなり楽ですな。
ただ、自然の気と同調するのに癖がありますので、慣れが必要でしょう」
そう言って、クロコダインが龍撃波動拳を受けた掌を、軟気功で癒やすフォルケン王。
クロコダインが気を溜めて受けた掌が、軽い火傷のようになっていたのが、
みるみる内に回復してゆく。
ギュータの創始者である幻の賢者バルゴート殿自身は仕込み杖を持っており、
おそらくは剣術も達者であっただろうし、娘のカノンは格闘にも通じていた。
その格闘技の直系はチョコマが継いでいるが、更に武神流が取り込まれることで、
気を使う武術の武神流と、呪文と格闘技を組み合わせたギュータ流の融合という、
面白い事が起きており、その第一人者はフォルケン王である。
これからの進歩を楽しみにしつつ、私はその場を後にして、
ロン・ベルク殿の工房へ向かった。
今日はカールから客が来ていると聞いているのだ。
ロン・ベルク殿の工房には、十名ほどのカール騎士団の騎士たち。
その先頭に立つのは、カール騎士団長の証を胸につけたホルキンス殿だ。
「お久しぶりです。ザボエラ殿」
あれから更に背が伸びたのかアバン殿より背が高く、一個の大剣のような引き締まった肉体だ。
かつては気難しそうな面も垣間見えたのだが、落ち着いて見える。
「おう、ザボエラ。丁度いい。お前も一文字刻んでやれ」
「よ、よろしいのですか師匠!!」
「オレは師匠じゃない。別に弟子にとったわけじゃないんだからな」
ロン・ベルク殿も否定はしているが、あまり嫌がってはいない感じである。
実は数ヶ月前にギュータへ訪れ、ホルキンス殿とロン・ベルク殿は一戦交え、
彼に認められていたのだ。
ボリクスに渡されたホルキンス殿の剣を見て、腕前を気に入っていたので、
両者ともに喜ばしい対面だったようだ。
その際に約束した、ホルキンス殿の為の剣が今回完成した。
ルーン文字も刻まれており、非常に強固な一振りとなっている。
流石にカール騎士団の全員分をロン・ベルク殿が仕上げることはできなかったが、
ホルキンス殿が特に腕前と心根を見て、優れた剣に溺れ振り回されること無く、
精進できる人間を選りすぐって連れてきていた。
ギュータでロン・ベルク殿に師事する鍛冶の職人たちが、数十本の剣を鍛え上げており、
ロン・ベルク殿がこの場にいる人間に合わせて調整している所だ。
一人の騎士に剣を持たせて振らせる。
「お前さんは力が足りんな。単純な腕力を闇雲に増やせってことじゃない。
重心をがっちりと据えて、己を地面からそびえる大樹だと思い太刀を振るえ」
「はい! ロン・ベルク殿!」
みなにアドバイスを送り、手入れについても事細かくアドバイスを送る。
私は以前より高速で移動できるメタッピーを渡して、
ホルキンス殿にフローラ様によろしくと伝えておいた。
「ザボエラ殿。アバン……殿に伝えてください。
たまにはオレの所に顔を出すように、と。
フローラ様に会えなくとも、オレに顔を見せてもいいはずです」
「わかりました。伝えておきましょう」
けっこうな荷物になったはずだがカールの騎士たちは、
ホルキンス殿の号令の下、走り出していた。
原作ではミストバーンの魔影軍団では埒が明かず、
それを理由として超竜軍団が攻めたはずだが。
その時とは状況が違う。
ミストバーンさえ本気を出さなければ、負ける事はないだろう。
問題は超竜軍団だが、誰が軍団長になるのかいまは予想もつかない。
カール騎士団の騎士たちを見送り、酒瓶を開けて軽く飲み干した後、
神妙な顔をしたロン・ベルク殿が私にこう言った。
「立派な男たちだ。みなが国を愛し、自分の腕に誇りを持っている。
カール騎士団の正統の構えを見たが、あれは己の命を張って、
背後の民を守るために振るう他者のための剣だ……。
己の為にだけ剣を振るってきて、剣を研鑽してきたオレには衝撃的だったよ」
「ロカ殿に聞きましたが、
"民の盾となるべく大地に根を張り、不退転の決意で立つ構えなり"
そう言い伝えられているそうです」
ため息を付いてそうかと一言答えて、腕を組むロン・ベルク殿。
「オレはあいつらを……無闇に死なせたくはないな。
オレたち魔族にとって、またたく間しか生きていないんだぞ?」
「まったくです。そのために我々で出来ることをやりましょう」
「しかし、こんな世界があるとはな。
昔は人と関わることに煩わしさを覚えていたが、いまは楽しくてしかたがない」
そう言ったロン・ベルク殿の顔は晴れやかだった。
人との付き合いを嫌っていた彼が、そのような心境に至ったことは、
私にとっても喜ばしい事だ。
その後、私はロン・ベルク殿と幾つか話をして別れ、ヨミカイン魔導図書館へ戻った。
数日後、私はベンガーナに来ている。
キングヒドラ率いる軍勢による侵攻の爪痕は、すっかり見受けられなくなっている。
王都もそうだが、村々なども再建されており、規模によって大小の砦が築かれていた。
クルテマッカ王の指示で、備蓄の食料が絶える事がない様になっており、
ドラゴンでも攻めてこない限り、一週間は立て籠もれる様になっている。
だが、籠城するだけでは敗北してしまうので、砦には連絡用の烽火台が設置されていた。
よその村の煙を見た村が烽火台に点火して、
一番遠い村からでも王都へ30分ほどで連絡が届くそうだ。
何度か私のアドバイスで行った避難訓練で、
烽火台の情報が届くまでどれほどの時間がかかるか試験運用した結果だ。
ベンガーナの戦士団は急ピッチで復旧が行われて、
キングヒドラの攻撃による被害を重く見た市民からの志願兵も受け入れた。
普段は定職に就いているが、事が起こったら武器を取って馳せ参じる兵たちだ。
彼らは主に戦車隊のサポートに就いている。
アキームにもあいさつに行ったが、非常に忙しそうにしていた。
彼は人一倍働いており、声をかけたらすぐに飛んできて、丁寧に対応してくれたのだが、
あまりにも忙しそうなので、早々に王に会いに行くことにした。
今回は指定された新設の砦などに
クルテマッカ王はベンガーナ復興の為に、王家が歴代貯めてきた私財も投入したという。
「国と民がなければ王はありえんからな。財貨はまた集めれば増える。
だが、命は失われればもう戻ってはこんよ。
なら、財貨を費やすことで守れる命を守るのが王の務めだ」
「心強いお言葉ですな。いつでも気軽に呼んで下され。
ワシの力の及ぶ範囲でなら、お手伝いさせていただきますぞ」
連絡用のメタッピーの新型を渡して、クルテマッカ王と固く握手をしてベンガーナを去った。
アキームとクルテマッカ王の様子を見る限り、
ベンガーナは大丈夫そうだなという感想を得ていた。
各国を回ってアドバイスをしていたが、今日はヨミカイン魔導図書館にいる。
マトリフ殿から数日前にメタッピーが飛んできて、
会いに行くから空けておいてくれと言われたからだ。
幾つかの手紙の返事を書いていると、竜水晶がマトリフ殿の来訪を告げた。
紅茶と茶菓子を置いて竜水晶が去っていくのを眺めながら、
マトリフ殿は独自に調べておいた事を私に話してくれた。
「ディードックから、不死鳥のかがり火を手に入れた時の話を聞いて来たぜ」
「おお、ありがとうございます。それで、どのような感じでしたかな?」
何か不死鳥ラーミアの手がかりにならないかと思って、不死鳥のかがり火を手に入れた時の話を、
ディードック殿に聞きたかったのだが、冒険に出て行って留守だった。
マトリフ殿が幾つか行先に心当たりがあると言っていたので任せていたのだが、
ようやくディードック殿に会えて話を聞いてきてくれたらしい。
話によると20年ほど前に、死の大地で凄まじい勢いの炎が立ち上がったことがあり、
ピンと来て見に行ったことがあったらしい。
その際、凄まじい数の魔物の焼けこげた死体と、あからさまに聖なる炎がくすぶっており、
それを特殊な髑髏の容器に入れて持ち帰ったという。
死の大地の西の方にある、地図で言うと細くなっている場所での話らしい。
羽でも落ちていれば良かったのだが、そういうわけにはいかなかったか。
具体的なラーミアに辿り着ける話ではなかったが、
一度訪れた場所にまたやってくる可能性もあるので、気にしておいて損はないだろう。
死の大地に奇襲をしかける予定はまだないが、
その辺りに
ただ、流石に大魔王バーンのおひざ元だ。
安易な偵察は流石に難しいだろうから、こういった情報は助かる。
夢で大魔王バーンが訪れた話は、マトリフ殿にも共有してあるので、
メタッピーをディードック殿に渡して、
死の大地に何か異変があれば一報を入れてもらう事になった。
お茶を飲んで、クッキーを美味そうに頬張っているマトリフ殿がこう切り出した。
「なぁ、ザボエラよ。
そろそろお前さんの呪いを解いてもいい頃じゃねぇか?」
「破壊神であるとか邪神が出てくるという呪いですぞ?」
「けどよ、けっこうな
数年前とは状況が違うだろうし、ずっと呪われてるのもいいことじゃねえさ」
マトリフ殿がそう言ってくれるのも、私の寿命に関する話があるからだ。
数年前、キルバーンの策でバラン殿が大魔王バーンと戦い、
竜魔人と化して暴走したことがあった。
その際、クロコダインがバラン殿をなんとか鎮めたのだが、続くミストバーンとの戦いで倒れ、
他の皆も危うい時に、私の寿命を対価にして、若返ってミストバーンを撃退したのだ。
だが、3分の戦闘で30年の寿命を対価として支払ってしまい、
本来なら私は886歳だが、いまの年齢は916歳ということになる。
つまり、本編のザボエラの890歳より歳を取ってしまったのだ。
魔族の寿命は厳密には分からない。
人間の寿命の10倍が相当するのだろうと思われる。
人間に換算すると、本編のザボエラは89歳で、ハドラーは35歳ほどだ。
人間でも100歳まで生きる者は稀だし、魔族が必ず1000歳まで生きれるか怪しい所がある。
逆に100歳を超える人間もいて、魔族でも1100歳を超える存在もいる可能性があるわけだ。
しかし、もしも私の寿命が917歳だったら、来年には死んでしまうだろう。
大魔王バーンは確実に数千年生きているのだが、凍れる時間の秘法で若さを保っているので、
こういう場合は例として特殊になるので、まったく参考にならないから困る……。
「打算みたいな話になっちまうが、お前さんは善良な魔族だ。
長生きしてくれれば、人間にとって強い味方がいてくれるのは正直助かる」
「マトリフ殿は今年、94歳でしたかな。
お元気なようでなによりです」
「ハハッ、肩も腰も痛ぇーけど、数年前より元気だな」
実際、マトリフ殿は原作より元気なように見受けられる。
パプニカの魔法兵団に指導していたり、レオナ姫やアポロを弟子にしており、
原作での吐血や疲労感が微塵も見られない。
やはり、ロカ殿の死や、パプニカで人間に絶望した心を抱えたまま、
10年ほど孤独に世を儚んで暮らすことがなかっただけで、
ここまで元気になるというのは意外ではあるが、嬉しい意外さではある。
「アンタほどじゃないが、人間としちゃオレも長生きなほうだからな。
オレは今年で94歳になっちまうが、100歳越えても生きるつもりではいるぜ。
まぁ、師匠は120まで生きたんだけどな……」
「幻の賢者バルゴート殿は、そんな年齢まで生きたのですか!?」
「師匠はまぁ、一見すると魔法使いにしか見えねぇが、剣士としても一流だったからな。
あの外見で剣術の腕も立つし、離れれば呪文が飛んでくるでずりーよな、師匠はよぉ~」
そうバルゴート殿に悪態をつきつつ、懐かしさで嬉しそうな顔をしているマトリフ殿。
魔法力の活性化が寿命に深く関係しているのでは……というのは、私の昔からの疑問ではある。
魔族も身体の傷の回復や再生に、魔力を使う事がある。
極めて高い再生力を有しているハドラーや大魔王バーンのような魔族は、
強力な魔力を誇っているし、高い魔法力を備えているのだ。
魔力が生命力に及ぼす影響というのは、確実にあるのかもしれないな。
魔族というのが、魔力の影響が大きい人類種族である可能性はある。
魔力との密接な関係性が、魔族の長寿の秘密であり、
魔法使いとして高い魔力を有していた幻の賢者バルゴート殿が、
人間としては破格の長生きだった理由かもしれない。
「お前さんは、呪いが解けたら300年は若返るんだろ?
別にずっと見守ってくれとは言わんが、300年好意的に人間を見てくれる味方がいる。
そう考える事ができれば、オレも安心出来るってもんさ」
「そうは言われても、マトリフ殿にはまだまだ仕事をしてもらいたいものですぞ。
呪いを解いたという後の皮算用で、先の事を考えてもらっては困りますな」
「ハッハッハ! わりぃわりぃ! お前さんが覚悟決めたら呼んでくれ。
アバンにオレ、ボリクスの嬢ちゃん、クロコダイン。
あとはロン・ベルクの旦那やバランの旦那を呼べば不足はないだろ?」
実際、最初に破邪の洞窟へ潜った時とは、仲間たちの
私の呪いを解いて、破壊神と戦ってみるという選択肢もあるかもしれない。
だが、様々なドラクエ作品の破壊神といった存在は、いずれも危険ではある。
もしも手に負えなかった場合、私が命惜しさに、
世界滅亡の引き金を引いてしまう事になるので、判断が難しくはあるだろう。
現状、ネックなのは繭に包まれて使えないボリクスの剣と、
バラン殿がまだ完全に本調子ではない事だ。
ボリクスの剣が繭から出て、バラン殿の竜闘気が完全に戻ったら考えたいと、
マトリフ殿に話したら彼も"準備はきちんと整えた方がいいだろうな"とは賛成してくれた。
その後、幾つか話をして、マトリフ殿と各国の情勢についての意見交換を行った。
現在、ダイとマァムはパプニカに留学している。
ダイは半年で、マァムは三カ月ほどだ。
そろそろ期限が終わるので、迎えに行く事となっている。
本来ならバラン殿が行きたかっただろうが、魔王軍の監視の目があるかもしれない。
私やボリクスが迎えに行く手はずになっていた。
マトリフ殿を見送って、ヨミカイン魔導図書館へ戻ろうと思った所、
膝から力が失われて、よろめいて倒れそうになった。
ケインが蜘蛛のように足を展開し、私を支えてくれる。
「どうされましたか
大丈夫ですか。眩暈でも起こしましたか?」
そうケインが心配げに声をかけてくる。
倒れる所まではいかなかったのだが、先行した竜水晶が戻ってくる。
「ザボエラ、どうした。汝は働きすぎなのだ。数日、休め。
予定は全部、取りやめるぞ」
そう言って私をおんぶしてヨミカイン魔導図書館へ連れて行ってくれた。
ザムザがその姿に驚いて、走ってくるが大丈夫だ大したことはないと宥めておく。
元気になってくれたのはいいが、私の事を過剰に心配する所があるので、
過度に心配することはないと言っているのだが、なかなか直らないな。
さきほどは少しふら付いたが、倒れるほどではない。
魔族は身体が頑健なためか忘れてしまうが、
私の肉体は916歳の老人なのだ。疲労が溜まっていたのだろう。
──この時の私はそう考えていた……。
独自設定
バルゴートの年齢設定
120歳に設定しました。
本編で98歳のマトリフが衰えてはいましたが、98歳であれだけ元気なら大したものですし。
バルゴートは伝説になった人物で、あれだけの蔵書を集め、
ギュータを作り上げた偉大な賢者として、
このくらいは生きたのかなと。