ザボエラ転生 ~ダイ大世界をおっさんが生き抜く~ 作:リドリー@犬小屋
次回は来週の木曜日23時頃を予定しております。
勇者アバンと獄炎の魔王第二部が始まって、魔斧の人が出てきて喜んでいます。
アバン流斧殺法が編み出されて、明らかになるのが楽しみです。
マァムは昨晩、パプニカで出来た友人たちと別れを惜しみ、
夜遅くまで話し込んでいたそうで、眠くて仕方ない様子である。
眠そうにうつらうつらしては、ボリクスに頬をつつかれ、
ダイには心配されてしまっていた。
ヨミカイン魔導図書館へ到着した時、その様子を見たグランナードが、
勢いよく走ってきてマァムに声をかける。
「マァムのお嬢、すげー眠そうじゃねぇか!」
「夜更かししとったからなマァム。
ダイはうちと
「うん……ごめん……お願いねボリクス……」
グランナードがマァムを背負って、肩の突起に軽々と荷物を吊るし、
ヨミカイン魔導図書館の中へ入っていった。
竜水晶がボリクスとダイにお茶とお菓子を渡して、
二人は美味しそうに食べている。
私がパプニカで留守中の出来事をロカ殿に聞いているので、
その間、二人には休憩してもらっていた。
ロカ殿には、この後ダイを連れて、ボリクスとデルムリン島へ行く旨を伝えた。
さらにパプニカで四賢者の一人、大地の賢者に叙される話をすると、
ロカ殿は心配そうな顔をして、私に尋ねてきた。
「大丈夫か? ザボさんは権力から遠ざかりたいって話してなかったか?」
「その辺りはマトリフ殿が気を使って下さったので大丈夫じゃよ。
あと、レオポルト王にも、かなり配慮していただけたのでな」
名誉職よりの存在で、国政に関わるわけではない事と、
私が好きそうな権限をくれたりと、配慮された立場だと説明した。
難しい顔をしていたロカ殿も、話を聞くにつれ表情が和らぎ、
頭を掻きながら納得してくれたようだ。
「まぁ、マトリフが一枚噛んでるなら、まずい事にはならないだろうな。
その辺りは気を使ってくれたんだろうが……」
「ワシとしては死後に、ザムザに対して魔導図書館の館長という地位と付随して、
引き継げるというのが魅力的かのう」
「縁起でもない事をいうなよザボさん!
あんたはみんなの要なんだから、いざという時はオレが身を挺して守るからな!」
ロカ殿に叱られてしまった。
ただ、現在、私が死んでしまったとしても、マトリフ殿が色々と引き継いでくれるだろうし、
クロコダイン、アバン殿、バラン殿、ロン・ベルク殿と、猛者がみな味方にいてくれる。
この世界が原作程の被害を受ける事はないと思うのだが……。
そう考えていると、真剣な顔のロカ殿が私に熱弁を振るった。
「本来、オレはマァムの成長を見届ける事なんて、できるはずもなかったんだ。
それを、英霊にしてくれて、現世にいることが出来て見守れた。
あんたには感謝しかない」
「なに。こちらこそ、ロカ殿には助けられておるよ。
あなたのおかげで、ヨミカイン魔導図書館を気軽に留守にできるからのう」
「はは、照れるぜ。オレはあんまり褒められることが少なかったからな。
今日もザムザが力があるって褒めてくれてさ……あ~!!」
急に大声を出したロカ殿が、ザムザからの言伝があったことを思い出して、
私に知らせてくれた。
「ザムザが研究が成功したって伝えてくれってよ。それだけで分かるってさ。
ただ、最終段階でデリケートな作業だから、手が離せないって事らしいぜ」
「ほぅ……。流石じゃのうザムザ。いやはや、こんなにも早く。
ロカ殿、言伝ありがとうございます」
「なぁに。しかし、これからダイをデルムリン島まで連れていくのか……。
あんまり無理するんじゃないぞ。アンタは働きすぎだからな」
ロカ殿にも心配をかけてしまっているようだ。
無理はしないと話をして、私はダイとボリクスを連れてデルムリン島へ向かう。
眼下では、ロカ殿とマァムが手を振ってくれていた。
デルムリン島では先んじてメタッピーで帰る事を伝えてあったためか、
海岸でモンスターたちが待っており、そわそわするラーハルトと、
腕を組んで待つバラン殿が対照的だった。
ニヤニヤした顔のボリクスが、私にこう話しかけてきた。
「なぁ、
バラン、指がめっちゃ速くパタパタ動いとるで」
「ふむ。待ちかねたんじゃろうな」
「ほら、ダイ。父ちゃん待っとるんやから走って行ってあげーな!」
「うん! 父さーん!」
素直にうんと頷いて、走り出すダイ。
それを確認したのか、すごい勢いでモンスター達とラーハルト、
バラン殿が勢いよく一斉に駆け寄ってきたので砂煙が大変な事になっていた。
アバン殿は数日後にやってくるそうだが、ブラス老がアバン殿の料理の秘伝を学んだらしく、
ダイの帰郷を迎えるパーティーは様々なメニューが並び、盛大に開かれた。
話したいことが沢山あったようで、珍しく饒舌なダイが、
留学であった様々な出来事を話し、それをみなが真剣に聞いてた。
上手く説明できないことは、パプニカにちょくちょく顔を見に行っていたボリクスが、
知っている範囲で補足を付け加えている。
笑い声が絶えない、和やかであり心が豊かになるパーティーだった。
そして、バラン殿が穏やかな眼差しでダイを見つめている事が、
非常に私の印象に残った。
みな楽しい時間を過ごした後、はしゃぎすぎたのか眠りについてしまった者もいた。
バラン殿がダイとボリクスをベッドへ運んでいった後、酔いを醒ます為か海を眺めているようだ。
私も静かな南の海を眺めるのもよいと思い、バラン殿の横まで行くと軽くあいさつした後に、
ダイの留学についてバラン殿は感想を話し始めた。
「ダイは留学でよいものを沢山得たようです。
最初は少し不安がありましたが、パプニカで学ばせて良かった……」
「友達が多くできたと言っておりましたな。
やはり、世界の文化はパプニカを中心にしている所もあります。
よき学びになったのでしょう」
私の言葉を聞いて頷いたバラン殿は、海を眺めて重いため息をつく。
「ザボエラ殿。
私は……取り返しがつかない罪を犯してしまいました……」
「バラン殿、それはまさか……」
私はすぐにピンときた。
だが、私はそれ以上言葉にせず、バラン殿の言葉を待った。
話は彼の妻であるソアラが死んだ時、怒りと絶望から、
アルキードを吹き飛ばしてしまった事についてだった。
アルキード国王や重臣たちに対してはいまでも怒りがある。
だが、アルキードの民には罪はなかった。
自分と同じように子を愛する父や母。
その両親に愛され、健やかに育つはずだった多くの子供たち……。
彼らを巻き込んでしまった事は、許されない事なのではないか、と……。
「ダイを育ててゆく最中、幸せの中でふと考えてしまったのです。
多くの人々の未来を奪い取ってしまった私に、
いまの幸福を享受する資格があるのか、と……」
もしかすると、
ダイと共に暮らす幸せな日々を噛みしめる中、気づいてしまったからだろうか?
同じように幸福に暮せたはずのアルキード国民の未来を、
摘み取ってしまった事への後悔が、重くのしかかっていたからということかもしれない。
さて、これについては考察などでも色々と言われていた。
私も連載から数年後の時点での考えと、そしていまではまた意見が違う。
かつてのは読者としての視点からの意見であり、いま私が思っている事は、
この世界に生きる一人の存在としての考えだ。
目の前で気落ちしているバラン殿を励ますためにはどうするべきか?
私の中では、すでにかけるべき言葉は決まっている。
努めて気楽な声を出して、バラン殿に私はこう尋ねた。
「ヴェルザーを倒した時、バラン殿はお幾つでしたかな?」
「……当時私は……23でした」
「ふむ。失礼ですが、その頃のバラン殿に政治の御経験はおありかな?」
あるわけがないだろう。
あるわけがないが、きちんと口にしてもらう必要がある。
これは、バラン殿に明言してもらう事が大事だ。
彼の心を軽くするために。
「いいえ。
人の世の政については、まったく知識がありませんでした」
私は手ごろな岩を見つけて、バラン殿に座るように勧める。
こういう時、老人の外見であることで、年長者としての余裕が出てくれるのが助かる。
……出ているかどうかは、自分では確認できないのだが。
「意図の分からぬ質問を失礼致しました。
バラン殿を困惑させるために口にしたわけではありません」
「いえ。ザボエラ殿を信頼しておりますから……」
「結論からいいますとな、バラン殿。
あなたが
23歳の戦いにだけ明け暮れた青年が、国を相手に上手く立ち回る事は無理でしょうな」
当時、ソアラ王女の心を射止めた、旅の騎士がバラン殿だった。
実際原作でも、
"それを快しとしない家臣たちも多かった。
このままでは見ず知らずの男に次期国王の座をとられてしまうからだ"
との述懐があり、"人間ではない"であるとか"魔王軍の手下だ"と、
家臣から王に
その状況で当時23歳の人生経験が少ない若者が、
身柄の証をたて、騎士や重臣たちの誤解を解き、
己の立場を確固たるものにしてゆくことができたのだろうか?
正直、私にも無理な話だ。
しかしながら、
人の世を上手く生きていくために役に立つ要素は一つもないのだ。
権謀術数渦巻く宮廷で、立ち回っていく処世術は教えてくれない。
それらを強大な"力"として振るい、アルキード王の座を簒奪し、
権力を手に入れて圧政を敷く……などという事をバラン殿はしなかった。
妻子との住まいを軍勢に攻め立て られた際も、切り抜けられたであろうに、
人間たちを傷つけられないと無抵抗で投降した。
さらに彼は処刑の瞬間まで、人間たちにその力を振るおうとはしなかった。
その野心をくじき、首謀者を誅殺するための存在で、無条件に人間の味方ではない。
にもかかわらずソアラ王女を、人を愛したからこそバラン殿は、
人の世で生きるなら、人を守り、人の法に従おうとしたのだ……。
私の言葉に困惑するバラン殿に、私は努めて優しく諭すように話す。
「あなたに悪い所はありませんぞ、バラン殿。
本来なら若き騎士と姫を、きちんと導いてやらねばならぬのは年長者の責任。
それを、当時のアルキードでは誰もできなかった。
全ては周りの責任と言わざるを得ません」
「いや、ザボエラ殿、私は……」
「バラン殿。話には続きがあります。聞いていただけますかな?」
そう言って、バラン殿の言葉を一旦遮る。
勇者アバンが地上を救ったのは確かだが、冥竜王ヴェルザーをバラン殿が倒したのは、
それから二年後の事だ。
つまり、魔王ハドラーを倒して祝勝気分で復興に勤しんでいた地上を、
冥竜王ヴェルザーの侵攻から必死に守ってくれたのはバラン殿なのである。
もし、冥竜王ヴェルザーをバラン殿が倒していなかったら、
ハドラー魔王軍との戦いで疲弊していた地上は、
冥竜王軍によって容易く侵略されていただろう。
冥竜王の目的は地上を手に入れる事だった。
その際、地上の人間たちが反抗した場合、彼が慈悲深いという保証はない。
彼の主観では地上を長きに渡って専有したのが人間種族だろうし、
皆殺しにしてドラゴンの楽園を築くつもりだった可能性もある。
彼も大魔王バーン同様、地上を人間に与えて、
魔族とドラゴンを魔界へ追いやった、神々を憎んでいるのだから。
当然、その恩恵に与った人間も、憎悪の対象だっただろう。
そうでなかったとしても、ヴェルザーは別に平和主義者ではない。
人間を奴隷として支配する、そういった方向に進んだであろうことは想像に難くない。
場合によっては闘技場で、人間同士殺し合わせるような、
娯楽で人命が消費される可能性もあった。
そう考えると、地上を
地上を侵略しようとしていた冥竜王ヴェルザーも、
人間にとっては危険な存在だったというのは明らかだ。
それを命を賭して戦って倒し、地上を守ってくれたもう一人の勇者。
名誉もなく、称賛されることもなく、労わられることもなかった人類を救った英雄……。
それが当代の
もっとも、歴代の
その運命にこそ、私は憤りを感じる。
ドラゴンの戦闘能力。魔族の魔力。そして、人の心。
人の心がある存在を、そのような戦うだけの装置として扱うやり方。
あまりにも酷な宿命を、神々によって押し付けられていると言わざるを得ない。
私はこれらの事をバラン殿に丁寧に説明した。
そう思った事はなかったと、ただただ使命を全うすることが、
自分の存在意義であったというバラン殿は、
心の力が"純真"だと考えられたダイの父親に相応しいだろう。
私は話の締めくくりとして、バラン殿にこう語りかけた。
「地上にいま生きる全ての生き物が、あなたに恩があるのです。
冥竜王ヴェルザーの侵略から守ってもらったという、巨大な恩が」
「……ザボエラ殿……」
「で、あるにもかかわらず、若く経験のない二人が欲した小さな幸せを摘み取る様な真似を、
アルキード王国の王や重臣を含めた年長者たちがした。
ワシは一人の大人として、その理不尽をこそ弾劾する!」
私はバラン殿の肩を叩き、しっかりと目を見据えてこう言った。
「誰に称賛されることもなく、冥竜王ヴェルザーと戦い打ち倒した英雄バラン殿。
そのあなたが背負うような罪は、一欠片もない!
このワシが保証いたしますぞ」
バラン殿は静かにうつむき、そしてただただ静かに泣いた。
私は彼の感情の整理がつくのを待った。
「ザボエラ殿。私はあなたに仕えたい」
「バラン殿それは……」
「騎士とは本来、誰かに剣を捧げ仕える者の事を指す言葉だ。
あなたはパプニカで大地の賢者という称号を得たとか」
他人に言われると、まだ気恥ずかしい感じがあるな、大地の賢者。
「大地とはこの地上であるとも言い換えてもいいだろう。
地上を守るために戦ってこられた、あなたこそに相応しい称号だ。
私は大地の賢者の騎士として、あなたと共に地上を守り、
戦い抜くことをここに誓う」
「お受けしましょうバラン殿。ですが、我々は主従ではなく同志ということで。
ともに地上を守るため、そこで暮らす人々の幸福を守るために戦いましょう」
「はい、必ず……!」
そう答えたバラン殿はふと手を見ると、
私に離れる様に言ったバラン殿は、
出会った頃のようなゆるぎない、強大な闘気が噴き出し、
バラン殿を守るように勢いよく立ち上った。
「おお……これは!
ここ数年、ここまでの
「バラン殿の決意に、あなたの中の
これで懸念点が一つ消えたと満足げに思った瞬間、ふらついた私は岩に手を突いたが、
抵抗むなしく意識が薄れて行き、バラン殿の私を呼ぶ声を聴きながら、
私の意識は闇に閉ざされた。
年表
16年前 ウロド荒野での戦いで勇者アバン、凍れる時間の秘法を使用。
マァム誕生。
15年前 勇者アバンが魔王ハドラーを倒す。
13年前
12年前 ダイ誕生。
11年前 アルキード王国崩壊。
オフィシャルファンブックの年表だとこうなっています。
勇者アバンと獄炎の魔王で判明した部分を、私が追記した部分もありますが。
もしバランがいなかった場合、魔王ハドラーが勇者アバンに倒された直後、
疲弊した地上へ冥竜王とその軍勢が溢れ出た事でしょう。
そうなると、ハドラー魔王軍より強いであろう冥竜王率いる軍勢に、
地上の戦力では抗う事ができなかったと考えています。