ザボエラ転生 ~ダイ大世界をおっさんが生き抜く~   作:リドリー@犬小屋

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第八話 魔界での激戦

子供の容態が気になるので、手早く決めるべく真空呪文(バギクロス)を敵に放つ。

こちらをよほど舐めていたのか、半数が直撃を喰らい大ダメージを受けていた。

 

しかしながら、流石は魔界の魔物か。

傷を負いながらも闘争心を失わず、こちらへ向かってくる者もいる。

翼を持っており空へ回避した悪魔系モンスターは、

真空呪文(バギクロス)の範囲外に逃げ、こちらへ襲撃をしかけてきた。

子供を治療する為に動けないのであれば、使う呪文はただ一つ。

 

 

「さて、おぬしらは真贋を見極める心眼を備えておるかのう……幻惑呪文(マヌーサ)!」

 

「な、なんだこれは!?」

 

「ジジイが沢山いる!!」

 

「呪文を撃ってくるぞ!」

 

 

敵には攻撃呪文を放ってくる私の幻覚が、無数に見えているはずだ。

私はケインに目配せをして、彼は私の意を酌んで跳躍する。

 

 

「慌てるな。幻惑呪文(マヌーサ)の攻撃はしょせん幻覚! 本物をさが……グハッ!」

 

「本物の攻撃も交じってるじゃねぇか!」

 

「ど、どれが本物だ……ギャーッ!!」

 

 

敵が呪文を使う無数の私に混乱している事に合わせ、

ケインが飛び回りながら火炎呪文(メラ)真空呪文(バギ)を敵に撃つ。

そうして体勢を崩したり、動揺した者を、

私が左手から放つ閃熱呪文(ベギラマ)火炎呪文(メラゾーマ)で仕留める。

 

何故左手だとわざわざ言及するかといえば、

右手はずっと回復呪文(ベホイミ)を使い続け、子供の怪我を癒しているからだ。

最近、ようやくコツを掴んで、両手で違う呪文を使う事ができるようになった。

 

だが、片手で攻撃呪文を使いながら、回復呪文を使う場合には、

回復呪文(ベホマ)を使用する事は現時点では無理なようだった。

大体、回復呪文(ベホマ)の消費魔法力が、極大呪文に匹敵するので、

極大呪文と同じカテゴリーなのかもしれないと勝手に推測している。

 

 

あちらでは接敵したクロコダインとドラゴン・ウーが、

真正面からぶつかり合っている。

クロコダインより二回りは大きいドラゴン・ウーが、

その丸太のような腕と、成人男性の太腿ほどもある巨大な爪で、

真空の斧と打ち合って重い金属音を響かせていた。

 

まさしく火花散る剣戟。

一撃ごとに重い音が空間にこだまする。

私であれば一撃で地面のシミになりそうなドラゴン・ウーの重撃に対して、

クロコダインは一歩も退かずに、十合近く斧と相手の爪を打ち合わせている。

 

埒が明かないと思ったのか、防御を捨て始めた。

互いに相手へ一撃を入れる事だけを重視した戦い方に変わっていく。

防御をかなぐり捨てているため、互いの肉が切り裂かれる音がする。

 

クロコダインの斧がドラゴン・ウーの小さな翼を斬り飛ばし、

ドラゴン・ウーの爪がクロコダインの皮膚を深く抉る。

魔界の冷たい大地が、両者の血の色で染まっていく。

意地の張り合いだが、見ていて大分痛い。

が、そこで均衡を崩す一手が打たれた。

 

隙をついたクロコダインの蹴りでよろけたように見えたドラゴン・ウーが、

口を開き凄まじい勢いの轟炎のブレスを吐いてきた。

いかん!?

 

ここからクロコダインに防御光膜呪文(フバーハ)が届くか!?

まだドラゴン・ウーの部下と戦闘中だ。

容易に近づけるものではない。

そう一瞬考えたが、炎に包まれたクロコダインはごくごく軽いやけどで済み、

一歩踏み込んで勢いが乗った拳を、ドラゴン・ウーの腹に決める。

 

 

「ぐふぉっ!!?

な、なぜだ! ブレスが直撃したはず!!」

 

「この真空の斧は真空呪文(バギクロス)の力を使うことができる。

貴様が口を開いた瞬間、ブレスか毒が来ると踏んで、

真空の斧で空気流のバリアーを作ったのよ!」

 

 

やはりクロコダインは戦闘勘が優れているな。

確か原作でポップの火炎呪文(メラゾーマ)を、

真空の斧の力で防いだことを再現してくれているかのようだ。

しかし、できると思っていても、

相手の攻撃の予兆から判断する力は彼自身のモノだ。

さすがクロコダイン。

 

 

「ぐ……うう……だ、だれや……」

 

 

ずっと回復呪文(ベホイミ)をかけていた少年が、

かすれた声で私に問うてきた。

意識を取り戻したようだ。

私はなるべく優しく答える。

 

 

「ワシはザボエラという。お前さんが崖の上から落ちてきてのう。

重傷を負ってるようじゃったので、治療しておるところよ」

 

「ほんまか……!? 魔界で……そないな……お人よし……」

 

「これこれ無理に喋ってはならんよ。

かなり重傷じゃったんだぞ。大人しくしていてくれんかのう」

 

 

大分薄汚れてはいるが、金髪の髪と白い肌をした整った顔立ちの少年だ。

だが、耳が尖っていない。

つまり、一見すると魔族には見えないのだ。

もしや、人間なのだろうか?

魔界には魔族と魔物とドラゴンしかいないと思っていたのだが、

もしかすると奴隷階級の人間がいると……?

 

 

「ドラゴ……ウーは……追ってきてない……か?」

 

「いま、そこでワシの仲間が戦っておるよ」

 

「え、なんやて!?

う、うちのことは……ええ……手助け……」

 

 

そこで気を失う少年。

いまの口ぶりだと、ドラゴン・ウーは相当強いという認識のようだな。

クロコダインとドラゴン・ウーの戦いに注意を払う。

ジャンプして地面を揺らし、

クロコダインの体勢を崩したドラゴン・ウーは、

両手の爪に闘気を凝縮し叫んだ。

 

 

「くらえええい!! ギガントネイル!!」

 

「ぬううううううん!!!」

 

 

真空の斧に闘気を集中し、なんとそれを左手だけで防ぐクロコダイン。

流石に左腕の筋肉が破裂せんばかりに力んでいる。

だが、空いている右腕に逆巻く闘気流が集中する!

これはもしや……!?

 

 

「うおおおおッ……獣王痛恨撃ッ!!!!」

 

 

クロコダインが繰り出した右腕から、

渦巻く闘気流の奔流があふれ出し、

轟音と共にドラゴン・ウーを巻き込む。

 

 

「なんで……俺様より……強い奴があああああ~~~ッ!!」

 

 

そのまま数十メートル吹っ飛ばされ、

崖にぶつけられて息絶えるドラゴン・ウー。

さすがのクロコダインも真空の斧に身を預け、

片膝をつき荒い息を吐いている。

治療が終わった少年をケインに任せ、

クロコダインの傍らまで歩いてゆき回復呪文(ベホマ)を唱える。

 

傷だらけで出血も酷いクロコダインの傷を癒し塞いでいく。

自分で使っておいてなんだが、回復呪文(ベホマ)の治癒力が凄まじいの一言だ。

呼吸を整えたクロコダインが、しみじみと勝ち誇るでもなく、静かに語る。

 

 

「相当な猛者だった。あの強力なブレスの火勢。

真空の斧の力なくては勝てなかっただろう。……オレの実力ではない」

 

「さて、そうかのう?

むしろ、あの真空の斧を見事に使いこなしたクロコダインよ。

おぬしの技量ゆえの勝利じゃ」

 

「そう言ってもらうと嬉しいものだな。

ところで、これからどうするのだザボエラよ?」

 

 

正直、かなり危なかった。

ドラゴン・ウーは私とケインだけだったら、まず確実に殺されているレベルの敵だ。

彼が精鋭部隊の親衛隊長であるとか、エリート部隊の指揮官だったら……その方がいい。

そうでなかったら、彼ほどの強さの魔物が、周辺警邏の兵の部隊長だったとするなら危険だ。

 

ヴェルザー軍の兵の層の厚さがどれほどのものか、考えるのが怖くなってくる。

ドラゴン・ウーのポジションはともかくとして、クロコダインに匹敵する腕前の男が、

ホイホイでてきたりしたら危ういと言わざるを得ない。

 

……このまま魔界に逗留するのは危険だ。

手に入れたザボエラの日記も読み込みたいし、研究所にあった素材や魔法の杖類は回収した。

毒草庫にあった毒素についてのノートも気になる。

なによりも、少年を連れて安全な場所へ行った方が良かろう。

 

 

「クロコダイン。そろそろ地上へ戻ろうではないか。

ワシの研究所を訪れ、収穫もだいぶあったからのう。

それに……さきほどの男、かなりの猛者じゃ」

 

 

そこで一旦言葉を区切り、クロコダインを見据えて言う。

 

 

「あのような強く獰猛な男が、

また出てきたら危険すぎるからのう……」

 

「猛者と戦うのはオレとしては望むところだが、

いま戦うのはごめん被りたいな」

 

 

かるく溜め息をつきながら冗談めかして言うクロコダイン。

では、地上へ戻るとしよう。

 

 

「ところで、どうやって地上へ戻るのだザボエラ?

瞬間移動呪文(ルーラ)では地下にある魔界からは出られまい」

 

「逆に地下から脱出する呪文に心当たりはないかね、クロコダインよ」

 

「なに!? そんな呪文があるのか?」

 

瞬間移動呪文(ルーラ)は有名だが、こちらはあまり知られてないのかのう。

迷宮脱出呪文(リレミト)というのがあるのじゃよ」

 

 

そういいながら手招きをして、少年とケインの下に戻る。

呼吸を整えたクロコダインはついてきて、ほうと言いながら私の方に向き直る。

 

 

迷宮脱出呪文(リレミト)……か。初めて聞く呪文だな。

そんな呪文も習得していたのかザボエラ」

 

「まあのう。無数の知識と呪文を抱え、

パーティーを危機から守るのが魔法使いの役目というヤツじゃよ」

 

 

マトリフの言葉を使わせてもらった。

クロコダインが腕を組んで、本気で感心しながら唸っている。

恥ずかしくなってきたので、迷宮脱出呪文(リレミト)を唱えてヨミカインへ一旦戻るとするか。

 

こうして、私達の魔界強行軍の旅は終わった。

収穫は多かったのだが、

まざまざと魔界の"強さ"というものを見せつけられた気分だ。

 

だが、この時の私はまったく気づいていなかった。

拾った少年──実は少女だったのだが──

が最大の収穫であったことを……。

 

 





獣王痛恨撃……オフィシャルファンブックに
"ハドラーが魔王だった頃にはクロコダインは
「獣王」と異名をとっており痛恨撃をマスターしておりました"
との記述があったのでこの時点で使える事に致しました。




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