ザボエラ転生 ~ダイ大世界をおっさんが生き抜く~ 作:リドリー@犬小屋
次回は来週の木曜日23時頃を予定しております。
私はいまデルムリン島に来ている。
実際に魔王ハドラーとの戦いの後、リンガイア地方を回ったアバン殿に話を聞くためだ。
丁度、アバン殿が食事を作っていたのだが、私が話があると言うと、
アバン殿は誰かに食事を頼もうとしたところ、露骨にみなのテンションが下がってしまった。
なんとなく察した私は、先に食事を作ってから話をしようということで、外で待っていた。
食事が作り終わったようで、エプロンを畳んで、頭につけていた頭巾を外し、
私の横にやってきたアバン殿が話しかけてくる。
「お待たせしました。今日は私の料理当番でして」
「他のみなは、料理が上達しましたかな?」
「料理を始めたばかりのメンバーでは、ラーハルトが見込みがありますね。
バランさんとダイは……
「ほう……それはそれはそれは。
ボリクスも、もっぱら食べる方専門でしたな」
丸太を切り出して作り上げた机と椅子があり、
みながそこで夜空を見ながら食事をしたこともあった。
私は一通り話を聞いた後、
その上でリンガイアに神殿を作るにあたり、
聖母信仰について実際に訪れたアバン殿に聞いてみる。
私の話を静かに聞いていたアバン殿は、深く頷きながら記憶を手繰るように話しだした。
「チュゴナは懐かしいですね。ヒュンケルと一緒に旅をした時に、最初に訪れた村です。
リンガイアのあの地方には、聖母像が祀られている村々があり、
邪気を持った魔物を退けていました」
「実際にご覧になったのですかな、アバン殿?」
アバン殿の話はこうだった。
実際はその聖母像自体が、魔物の嫌う岩で作られていたためで、
その聖母像になんらかの聖なる力がある、というわけではなかったという。
「しかし、実際にその聖母に対しての信仰は、根強くリンガイア地方にはありますね。
ザボエラさんがわざわざ私に話を聞きにくるくらいですから、何かあるのですか?」
「ヨミカイン魔導図書館で文献を調べましてな。
明言はされてはいませぬが、どうもかなり高位の精霊なのでは……と当たりをつけておるのです」
アバン殿もかつて人間の神たち以外にも、神格がいた事が気になって調べたことがあるようだ。
それによると聖母というのは、不死鳥の背に乗って地上の人を救い、
いずこかへ去っていった慈悲深き存在くらいしかわからなかったらしい。
神々が姿を消してすぐの混乱期。不死鳥の背に乗って傷ついた人々を癒して回った聖人。
人だったのか精霊だったのか神だったのかは分からないが、
ある時、ふと地上から姿を消したらしい。
ただ、彼女によって救われた人が各地にいるため、
小さな村や街などでは聖母信仰が続いているようだ。
「リンガイア地方では聖母、他の地方では慈愛の聖人……。
他には慈悲の精霊など、様々な呼び名がありましたね」
「しかし、名前が残らなかったのが意外ですな」
「各地の言い伝えで共通している部分があります。
風のように現れ、名も告げず人々を救い、いつの間にか姿を消していた、と」
人との深い接触を嫌っていたのか、それともこの世界の滞在に制限があったのか……?
だが、その姿は救われた人々にとっては、好意的に映ったのだろうな。
きっと、聖母は別の村や街を救いに行くに違いない、と。
アバン殿から幾つか聖母像がある村の場所を聞き、地図まで作ってもらって、
私はヨミカイン魔導図書館の文献と照らし合わせる為、一旦戻ることになった。
数日後、私は意を決してギュータへやってきた。
ポップの顔を見ようと思ったのだが、やはり緊張する。
とりあえずロン・ベルク殿の元へ顔を出して、ジャンク殿を紹介される。
型通りの挨拶をした後、チョコマと歩いているポップを見かけたのだ。
チョコマもあの子供の頃から比べれば大人びてきたが、
天真爛漫なまま17歳になってしまった印象だ。
現在でも、血のつながりこそないが、
かつてのギュータをまとめていたカノン殿を非常に尊敬していた。
チョコマは呪文と近接格闘を組み合わせた戦い方をそのまま継承し、
いまでは往時のカノン殿を思い起こさせるほどの腕前になっている。
何気に極大呪文でも難易度の高い
ギュータでもトップクラスの使い手となっていた。
そのチョコマが私を見つけると、笑顔で両手を振ってくれている。
「
この子、ジャンクさんの所のポップっていうの」
「あ……えーと、ども。ポップです」
「もう、ポップ、
ロンさんに慣れたのに別の人で引っ込み思案じゃだめじゃん!」
「いや、チョコねーちゃん、魔族の人は独特の威圧感があるんだって。
なんか、こうやっぱり、オーラっつーの? そういうのが違うんだって!」
その二人のやりとりを眺めながら、私は内心穏やかではなかった。
覚悟してポップの様子を見に来たのだが、気持ちとしては大スターに会うようなものだ。
彼は一般人性の塊でありながら、作品で一番の成長株でもあり、
メタ的に言えば、たびたび伸ばされた編集の魔の手を掻い潜って、
なんとか生き延びた人物でもある。
まぁ、実際には一度死んでしまったが。
連載が延長されなかったら、バラン戦後に大魔王バーンとの戦いになっていたらしいので、
当然、ポップはそのまま死んでいただろうから、連載延長の判断には感謝しかない。
ともかく、勇者ダイが地上の勇者であるとするなら、大魔導士ポップは人間の英雄だった。
私にとってもヒーローだといっても、言い過ぎではない。
緊張しながら、それを表に出さないように挨拶をして、当たり障りのない話をする。
現在、11歳のポップは、当たり前だが普通の少年だった。
ランカークスはある意味普通の村だったので、ポップは退屈な毎日を送っていたという。
ギュータは呪文、武道、剣術、槍術、鍛冶、薬草学、魔法学etc……と、
様々な技術や学問が盛んにおこなわれており、ポップは興味津々なようだった。
「ギュータは様々な技芸に通じてますからな。好きな道に進まれるが宜しかろう」
「剣術とかカッコいいよなぁって思ってるんだけど、オヤジがやる気出しちゃってるから、
多分、オレも鍛冶屋の道に進むのかなーって思ってるけどね」
「ふむ。だが、親の仕事を必ず子が継がねばならぬということもないじゃろう。
己の人生は自分で選択肢を重ねて、選び取って行くものですぞ」
「へ~。先生みたいな感じだな、ザボエラさんは」
チョコマから話を聞くと、これから基礎の
新規住民は一応やらせてみることになっている。
もしも、呪文の才能があれば、できる範囲の呪文を契約させてしまうということだ。
攻撃呪文より、
非常に役に立つし、実際に
「オレが魔法使えるのかなぁ……」
「
自信なさげな顔をしながら、ポップが呟くとチョコマがフォローした。
魔法に関しては原作でもぶっちぎりの才能だったとは流石に言えない。
何事も挑戦だからやってみるのはいいだろうと、誰でも言えるような事をポップに言って別れた。
ポップの様子は楽しそうだったので、
ギュータの暮らしで色々学びを得て行ってもらえればと思っている。
何度も言うが、彼は一般人として暮らしているので、
もしも望まないならギュータで何か別の方面で活躍してもらってもいい。
無理やりに戦いの道に引きずり込むのは、どうも抵抗があるのだ。
原作の戦いは彼の成長を促進したのは確かだが、
それを理由としてポップに対して戦いを強制することは私にはできなかった。
それから、三日後。
私はボリクスと竜水晶、それにマァムを連れ破邪の洞窟にやってきた。
以前のようにカール騎士団の騎士隊が持ち回りで警備をしていた。
騎士団長になったのだから、ホルキンス殿はいないだろうと思っていたが、
丁度、年に数回ある騎士団長の巡察の時だったらしい。
以前から破邪の洞窟に降りたかったのだが、許可が出ずにいたので、
今回は是非にと同行したのだ。
二度目の破邪の洞窟の探索は、慣れたものだった。
押し寄せる魔物たちにボリクスがまず突っ込む。
彼女が撃ち漏らしたモンスターを、ホルキンス殿とマァムが豪破一刀で迎え撃つ。
「堂に入ったものだなマァム。まるで、ロカ先輩を見ているかのようだ」
「ホルキンス様も、また遊びに来てください。お父さん……父も喜びます」
何度かホルキンス殿はヨミカイン魔導図書館へ訪ねてきており、ロカ殿に会っている。
最初は会うなり号泣していたので、再会できてよかったという思いが強かったが。
「ホルキンス。怪我をしているぞ。我が治そう」
「あ、いや、大丈夫……です。竜水晶殿……」
どうも遠慮しているというか、照れているというかあまり、
竜水晶の方を見ないなホルキンス殿は。
そう思っていたら、ボリクスがホルキンスを肘でつついている。
「竜水晶が気になってるんちゃうかホルキンス?」
「お前のような子供と違って、ちゃんとした淑女である竜水晶殿は、
丁寧に扱わないといけないだろう、騎士として!」
「淑女なんか、竜水晶?」
「そういうカテゴリだと言った覚えはないが……。
聖母竜の力を受け継いだので女性人格ではあるかもしれん」
そうそっけなく答える竜水晶の返答は、あまり女性的ではないが、
ホルキンス殿は照れながら頭を掻いていた。
なるほど。内面はともかく、こういう女性らしいタイプがホルキンス殿の好みか。
照れ方が若い頃のロカ殿にそっくりな気がするので、
カール騎士団は奥手な人物を輩出しやすいのだろうか……?
流石に二度目であり、強力な戦士三人に、私と竜水晶が後衛として援護したり、
回復を行ったりしているので、大体、5時間ほどで地下25階までたどり着いた。
契約を開始したら、私が幻覚の炎に包まれるが、
気にせず周囲に現れる魔物を倒す様に話をした。
「聖なる力たくわえし、その力強き御言葉は……。
私がそう契約の言葉を紡ぐと、
思わず、魔法力を強くまとい身体を防御してしまうが、なかなか痛い。
その様子を見たボリクスが心配げに声をかけてくる。
「
「なに、問題ない。それより、ワシは何もできんから、周囲を守ってくれ。
頼むぞボリクス」
そう声をかけるが、気が気でないようで、こちらを見ながら戦っている。
その状態でもボリクスは圧倒的に強いのだが、思わぬ事故が起きても困る。
"
私の中に声が響くが、聞き覚えがあるものだった。明らかに人間の神の残留思念である。
私は声に出すと苦し気になりそうなので、心の中で答えた。
"人間の神の残留思念殿。お久しい。ザボエラですぞ。お判りになりますかな?"
"お前が何者であるかは問うておらぬ。もう一度言う。
……まずい。今更だが思い出してしまった。
人間の神の残留思念は、別れ際にこう言ってたことを。
"当分は会えぬだろうな。慣れぬことをしすぎて、無理を重ねすぎてしまった。
100年ほどは一切、外界へ干渉できぬかもしれん"
つまり、人間の神の残留思念のように会話ができるわけではないのか。
ズルはできないものだな……。こうなれば、試練を受けねばならないだろう。
私は覚悟を決めて、魂を示せという声に答えた。
"この世界を、人々を守り抜きたいという気持ちだけです。
後は安楽に私が過ごすために、世界を少しでもよりよく保ち、
これからの戦で世界が負うであろう傷を最低限にしたいという存念のみです"
返事はなく、ただ、強い光が私を包み契約が成功した。
私はみなを呼び、
全員で手を繋いで
ホルキンス殿がその感触を喜んでいるようで、またボリクスにからかわれていた。
ヨミカイン魔導図書館で文献に当たるが、聖母=ルビスという確証が得られてはいない。
傍証は集まっているのだが、やはり名前が伝わってない事で、確証に至ってはいないのだ。
できればリンガイアで神殿を建てる場合のプレゼンで、聖母ルビスという売り込みをしたいし、
四精霊のように名前がなかった者達はともかく、神や精霊の名前には力があるのだ。
ザムザが薬草の採取に出かけているので、
研究室にある水槽に入っているグレゴリーアに会いに行った。
全裸で浮いているので色々目に毒なのだが、ガラスの部分にザムザが布をかけているので、
顔だけ見えるようになっている。
「眠かったら後にするがどうかね?」
「いや、十分に寝てるから大丈夫さね。で、用事ってのはなんだい?
大地の賢者様にも分からない事があるってのかい?」
若干、からかい気味に聞かれたのだが、
何か知恵があるか知っている事があるかもしれないと思い、
グレゴリーアにも地上の聖母信仰について説明をしてみた。
「聖母ってのがピンとこないけどさ。不死鳥に乗った女ってのが引っかかるね。
魔界にはアピストって、女の精霊の話が伝わってるのさ」
魔族とドラゴン族が魔界へ押し込められたことを聞いたアピストという精霊が、
魔界の過酷な環境でも育つ作物を幾つか外界から持ち込んでくれたという。
混乱期、魔界の民はその事に感謝したというが、アピストは地上の聖母同様に、
風のように現れ、風のように去って行ったらしい。
「アタシのいた魔女の村の言い伝えだと、アピストは精霊だって話だったね。
魔族でも人でもない。もちろん、ドラゴンでもないからね。
で、不思議な力を持ってたってさ……」
「結局、行方知らずかね? そのアピストは?」
「そこからが勇壮っていうかなんていうかね。
どうやら、不死鳥を堕ちた魔王が狙ったらしいのさ。
そいつと刺し違えてアピストは死んだそうさね」
堕ちた魔王? 一体、何者だろうか。グレゴリーアの話だと名前が伝わってないようだが。
伝承や民話を集めたりしていると、固有名詞がなかなかないのがなんとも気になる。
ただ、確かに昔話だと、"おじいさんとおばあさんが山へ芝刈りに行きました"というような、
桃太郎の一節でもおじいさんもおばあさんも名前は出てこない。
意外とそんなものなのかもしれないのだが……。
グレゴリーアの話は続き、不死鳥はアピストの死を悲しみこの世界を去ったという。
アピストについては強い女性の存在ということで、
魔女の村でも興味を抱かれて研究されていたらしい。
その後、魔界では精霊アピストという名で知られ、女性の魔族からは信仰対象でもあったという。
話の腰を折らないように、私は黙っていたのだが、
アピストと言うのは精霊ルビス伝説で聞いたことがある名だ。
精霊の一族の一人で、まだ弱かった少女の頃のルビスの名は、
ルビス・アピスト・カリクティス……。
つまり、聖母はルビスということになるだろう。
「何かの足しになったかいザボエラ?」
「よいヒントになったぞグレゴリーア」
「ところでさ。
水槽から出られるようになったら、アタシも魔法の訓練しようかと思ってね。
アンタに先生になってもらいたいのさ」
「かまわんよ。ワシでよければ、幾らでも教えよう」
私はグレゴリーアの話をまとめあげ、リンガイア各地の民話や伝承を集め、
聖母ルビスの神殿を作る話をしに行った。
リンガイア王テオドル殿やバウスン殿に話を通したところ、
歓迎してくれて全面的に協力してくれるという事だった。
すんなり決まってしまって拍子抜けしたが、ついでにチュゴナの村の像を見に行くことにした。
ノヴァが案内してくれて、ボリクスとグランナードと共に村へ行く。
同行したグランナードに尋ねてみる。
「お前さんはこの像に近寄りがたかったりするのかね?」
「いや、別にそんなことはねぇぜ。まぁ、オレは心が清いモンスターだからな!」
「へへっ! 自分で言ってたら世話ないやんグラン!」
和気あいあいと話している所、私は聖母像が気になって、台座の部分に触れた所、
手を伸ばしたそのままのポーズで、何か見覚えがある雲が多い場所へ飛ばされた。
そこには真っ赤な赤い髪を伸ばし、背中には大きな天使の羽根。
白を基調とした床まで届くドレスを着た、一人の女性が立っていた。
一見すると天空人に見えなくはないが、この姿の人物……神格を私は知っている。
声をかけようかと思ったら、あちらから声がかけられた。
「あー、よかったぁ! 来てくれるの待ってたんですザボエラ!」
大分、フランクに話しかけてきたその人は、精霊ルビスだと名乗った。
独自設定
聖母像
勇者アバンと獄炎の魔王の最新話で、何か聖なる力があるとかではなかったので、
逆に使いやすくていいなと思って、使わせてもらっています。
ルビス
私は緑色の神の方が印象深いのですが、近年だと赤い髪なのでそれに合わせました。
丁度、精霊ルビス伝説の彼女も赤い髪の毛でしたし。