ザボエラ転生 ~ダイ大世界をおっさんが生き抜く~ 作:リドリー@犬小屋
次回は来週の木曜日23時頃を予定しております。
大魔王領へ侵攻する魔界の猛者や列強の抵抗を鎮圧できたと思った矢先のこと。
魔界辺境に現れたスカルスパイダーという強大な魔物が頭角を現してきたのである。
頭蓋骨のような肉体から、直接八本の蜘蛛の足が生えているおぞましい姿の魔物である。
スカルスパイダーは凄まじい邪気を発し、魔物たちを支配下にいれて瞬く間に大軍を築いた。
その膨れ上がった軍勢が大魔王領に攻め寄せ、戦線は混乱の只中にある。
そのスカルスパイダーを倒すために向かったハドラーが、敗死したという報が入り、
石でできた寝台に横たえられていたハドラーは飛び起きる。
「ハァ……ハァ……ハァッ……!
お、オレはどうしたのだ……」
ハドラーが覚えている最後の記憶は、心臓をスカルスパイダーに抉られ、
高々と放り上げられた末に、地面へ叩きつけられた衝撃だったはずだ。
混乱しているハドラーに対し、その場にいたデスカールが話しかけてくる。
「落ち着かれよハドラー殿。
あなたの肉体は、ミストバーン様と崇高なる大魔王バーン様の暗黒闘気によって、
何度でも蘇生することが可能な最強の肉体です」
「そうか……。
では、オレは死したとしても、何度でも挑戦できるというわけか」
「……どう考える、ハドラー?」
ミストバーンが直接声をかけたことに驚くハドラーとデスカール。
ハドラーはミストバーンをにらみ返しこう言った。
「オレの心が折れぬ限り、戦い続けられるならば武人として本望。
大魔王様の御ため、オレは折れず曲がらず戦い続けるのみだ!」
それを聞いたミストバーンは深く頷いた。
直後、大きな足音が聞こえ、その場にいる全員が誰が来たか理解する。
「ハドラー殿~~~! 無事だったか!!」
「マキシマム。心配をかけたな。オレは大丈夫だ」
「そうか……。ん? ハドラー殿、顔の黒い模様が大きくなっているぞ?」
マキシマムに映る自分の顔を見て、以前からあった顔の黒い模様が、
大きくなっていることに気づいた。
右の瞼の上にだけあった黒い模様が、左の瞼の上にも増え、上下に牙のように刻まれていた。
「それは、暗黒闘気の影響ですな」
ミストバーンがデスカールに頷き、その意を受けてハドラーに説明した。
元々、暗黒闘気に才能を見せていたハドラーが、死の淵から蘇るたびに、
強化された肉体に暗黒闘気の刻印が刻まれていくという事である。
「ほう! いますぐ、スカルスパイダーの軍勢と戦いたいくらいだ!」
「待て待てハドラー殿! さすがにそれは危ないぞ!」
マキシマムがハドラーを止めた。
更に顔の模様ばかり気になっていたが、ハドラーは額の辺りが痒いような、
何かあるような違和感を覚えた。
それについてデスカールに尋ねようと思ったが、マキシマムから驚くべき話を告げられる。
なんと、この場の全員を大魔王が呼んでいるというのだ。
ハドラーは霊体で初めてここに来た時は、緊張と震えでまともな思考ができなかった。
いまではその時の事を一笑に付せるほど、心身ともに充実している。
蘇生したてで若干、体が重いが精神は漲っているほどだ。
ハドラーは堂々と顔をあげて、御簾に顔をあげて敗退を大魔王に陳謝した。
「申し訳ございません大魔王様。
ですが、オレにおまかせいただければ、次こそは彼奴を打ち破ってごらんに入れます!」
「ふふふ……よい覇気だハドラー。
だがな、余も久方ぶりに試したいことがあってな。
此度はデスカールに軍勢を任せ、蘇生したばかりの肉体は労わるがよい」
頭を深く下げたハドラーを眺め、大魔王はワインを飲み干してこう言った。
「余の極大呪文を披露するため、ミストバーンとマキシマムがいればよかろう。
そなたらが前衛として立てば、余が魔法使いに徹することも容易い」
「大魔王様。戦場へ向かわれるのですな!
このマキシマム、近衛師団長として必ずやお守りいたしますぞ!」
「うむ、期待しておるぞ……」
大魔王は上機嫌でそう言ってのけた。
マキシマムは嬉しそうな顔をして胸を張っているが、ミストバーンは慌てている。
表情が分からないはずの闇の衣でも驚愕が分かるほど、
ミストバーンは目を見張って大魔王バーンを諫めた。
「大魔王様、なにとぞご自重くださいませ。
大魔王様が前線に出ぬための
御身をお守りするべき側近と軍勢でございますれば、どうぞ玉座でご観戦ください。
前線に出るなどお止め頂けますよう、ご再考のほどを切にお願い致します」
スムーズに話すミストバーンがよほど珍しかったのか、
ハドラーが"こいつこんなに喋れたのか"という驚愕を張り付けた顔で見ていた。
「ミストバーンよ。そなたの忠心は嬉しく思うぞ。
だがな。余も久々に戦場の空気を吸ってみたいのだ。
それに、先にも言ったが、そなたとマキシマムがおれば、余には誰も指一つ触れられまい?」
「ミストバーン。これは大魔王様からの信頼の証だぞ。
吾輩とお前でお守り奉ればよいではないか!」
「…………畏まりました」
ミストバーンはため息をつきながら頷くという器用な真似をして、大魔王の言葉を了承した。
スカルスパイダーが率いる軍勢は、大魔王領を超えて
その総数は二万ほどで、スカルスパイダーの邪気で狂暴化しており、
死を恐れぬ軍勢はさほど強くない魔物が多いというのに、大魔王軍の兵を圧倒していた。
そこへ、
両翼をザングレイ率いる百獣魔団と、メネロが率いる妖魔士団が固めているが、
総数にして九千あまりだ。
スカルスパイダーが辺境でかき集めた軍勢に対して、
質では上回っているものの数では及んでいない。
だが、大魔王軍の士気は高い。
なぜなら、大魔王バーンが謁見の間の御簾の向こうから初めて姿を見せたからだ。
ハドラーは威圧感を感じながらも、そのあまりの老体に、
野心がムクリと鎌首をもたげる事を抑えられなかった。
あの細い首など、暗黒闘気みなぎる自分の
容易く落とせるのではないか……と不敬な考えが浮かんでしまう。
その瞬間、大魔王と目が合った。
「フフっ……試してみるかハドラー?」
余裕のある笑みを向けられてはハドラーとしては、
ご無礼をと冷や汗をかいて頭を下げる他なかった。
「ハドラー殿! 大魔王様に殺気を向けるのはよくないぞ!」
「よいよい。よいのだ、マキシマムよ。
もとよりハドラーは、そういった野心の強さをこそ見込んでいる。
蘇生直後だというのに、そのような覇気を見れて満足しておるぞ」
「ハハーッ!!」
その時、スカルスパイダーの絶叫のようなおぞましい声で、
魔物たちが一斉に大魔王バーンの首を取るために進軍してくる。
スカルスパイダーが広範囲に毒をばら撒いてくるが、
まずスカルスパイダーの軍勢に当たっている不死騎団はアンデッドがメインである。
そのため毒の影響をあまり受けてはいない。
百獣魔団と妖魔士団は左右から、不死騎団を援護している。
それを満足そうに眺めていた大魔王バーンは、
マキシマムとミストバーンに距離を取るように言って、おのれの魔法力を解放した。
「むうう……ッ! かあああっ!!」
ドオオオンッ!という音と共に、強大な大魔王の魔力が解放され、魔法力が渦を巻く。
大魔王を中心にクレーターができて、その場に立っている大魔王の威圧感が膨れ上がったことに、
ハドラーは驚愕の表情を浮かべた。
いままで、御簾の向こうでもあれほどの威圧感を放っていた大魔王様が、
本気で魔法力を解放したら、これほどであったのか、と。
スカルスパイダーの軍勢が思わず足を止めるほどの威圧感であったが、
大魔王バーンが両腕に
その場ではハドラーが敏感に気づいた。
己も
大魔王が操る爆烈呪文の集める強大な魔力に、ハドラーは圧倒された。
だが、恐怖ではない。
これほどの高みがあるなら、目指す価値があるという向上心だ。
「
ふふ……加減を忘れてしまうかもしれぬが、許せよ」
その言葉を聞いて、スカルスパイダーがまたおぞましい叫び声をあげて、
彼の支配下の魔物たちに大魔王バーンを抹殺するべく命令を下す。
無数の殺意が駆け抜けてくるが、彼らが大魔王バーンに届くことはありえなかった。
荒れ狂う暗黒闘気の刃。命中したものを抉り貫通する暗黒闘気の球体。
それらを駆使するミストバーンはさながら荒れ狂う闇の台風だ。
一方、大魔王バーンの側近くには、マキシマムが率いる
彼らはその世界最硬度の肉体で、スカルスパイダーの軍勢の魔物たちを容易く粉砕した。
「見よ。そして、誉とせよ。大魔王の極大呪文で滅ぶ己を、な……。
とくと味わうが良い。
大魔王の両腕にハドラーが放つ
巨大な爆烈エネルギーの球体が出来ており、
それを体の前で合わせることによって極大呪文が解き放たれた。
大魔王の
軍勢の中心にいたおぞましい姿の巨体に直撃し、両断する形で爆烈呪文のエネルギーが貫通する。
スカルスパイダーを直撃した
凄まじい大爆発を起こして、巨大なクレーターを作り上げた。
主を失ったスカルスパイダーの軍勢は、不死騎団、百獣魔団、妖魔士団に抗うこともできず、
散り散りに逃げ去り、抗う者たちも容易く倒されていく。
まさしく、勝利を告げる一撃だった。
見上げる大魔王軍の将兵は、大魔王様万歳の声が自然に唱和してゆく。
「ふむ……こんなものであったか」
大魔王バーンはあまり浮かない顔をしているが、
マキシマムは
ハドラーは大魔王バーンの眼前にまで近づき、膝をついてこう言った。
「大魔王様! すさまじい極大呪文をお見せいただきありがとうございました!
いずれ、この領域に達するよう、一層の精進を行うつもりでございます!」
「……大魔王様の領域に達する? 不敬だぞハドラー」
ミストバーンがハドラーを叱責するが、大魔王は満足そうに笑って彼を宥めた。
「そう怒るなミストバーン。
久方ぶりに極大呪文を使ったが、なんとも嬉しいことを言ってくれるではないかハドラー。
その気概、忘れぬようにな」
「ハハーッ!!」
頭を下げたハドラーの横を通り、ミストバーンとマキシマムを連れて去る大魔王バーンは、
内心でその破壊力と破壊の齎した跡を、脳裏で比較していた。
それは、破壊神シドーが放った、謎の呪文の威力の跡と比べていたのである。
調査させた西ホルキア山脈の抉られた痕跡から推測するに、
破壊神シドーの使った呪文は、いま自分が使った
それを確認するために、今回、一千年ぶりに極大呪文を使ったのだから。
大魔王バーンは叡知と魔力を残した老いた肉体を本体として、
若さと力をもう一つの肉体に分離させている。
つまり、真大魔王バーンになっても、魔力自体はいまと変わらないのだ。
異世界の存在を知り、そこへ侵攻するために最強の軍勢を作り上げる。
その新たなる目標を得る前の自分であれば、悔しさに憤ったかもしれない。
だが、いまの自分は山の頂に立ち、誰もやってこない事に、
退屈を持て余していたかつての己ではない。
山の頂から望む、さらなる高みの海原が広がっている事実を示され、
己が挑戦者であるという現状にいるということに、
まるで極上の美酒を味わったかのような感動に包まれていた。
大魔王という高みを見て、己を強くするべしと強く胸に刻んだハドラー。
そのハドラーに高みを見せた大魔王すら、
更に強くなるべく気持ちを高ぶらせていた。
そして、あの場にいた誰も気づいていなかっただろうが、
大魔王バーンはハドラーの更なる変化に気づいていた。
ハドラーの額に極々小さな、角のようなものが生えていることに……。
魔界辺境で大魔王バーンに従わない勢力を叩き潰し、
軍門に下った勢力を糾合している冥竜王ヴェルザー。
急なスカルスパイダーの大魔王領への侵攻は彼の暗躍があってこそである。
「大魔王の
スカルスパイダーは直撃で消し飛んだよしにございます」
「フン……!
ベリアルの報告に不満げな感想を漏らす冥竜将ヴェルザー。
実際に辺境で戦って、大魔王領へ侵攻を企てている大小の勢力を潰してはいるのだが、
今回のように屈服させた列強を大魔王領へ送り込んでいるのは彼の仕業だった。
「まぁいい。ところで、バズズはどこへ行ったのだ?
あやつはキルバーンの報告書を吟味しているというが……」
「暗号で書かれていましたから、解読しながら読み進めていると聞いております。
大魔王バーンと側近のミストバーンを
推論が書かれていると言っておりましたが……」
そう話していた二人の側に、
その慌てふためいた様子から、何か重要な情報を解読したのだろうと考え声をかけた。
バズズは促され解読した内容を説明する。
「ミストバーンの真の姿についての話なのですが、
あくまでもキルバーンが見た情報を羅列したモノという前提でお考え下さい」
そう前置きしてバズズはキルバーンの残した報告書について説明を始めた。
キルバーンが大魔王の下に、道化兼刺客として押しかけてから数百年が経過している。
その間にミストバーンが闇の衣をはぎ、中の魔族の青年の姿を見せたことがあった。
その際、説明を求めたことがあったが、ミストバーンより、
"いらぬ詮索は無用! いかにおまえでもこの姿の真の意味を知れば
そう強く言われてからは、表向き詮索することは辞めていた。
「ミストバーンはご存じの通り大魔王バーンの懐刀。腹心中の腹心であります。
報告書には戦闘の時の強さも描写されていますが、かなりの猛者もこともなげに倒しております」
「……おかしいではないか。あのミストバーンがそこまで強いなら、なぜそれを隠す?」
魔界は力こそを尊ぶ世界だ。
己の力を誇り、広く知らしめようとする事はあれど、力を隠そうという事は慮外である。
尤も最強を誇る大魔王バーンは、存在は知られていてもその姿を見たものはほとんどおらず、
冥竜王ヴェルザーも同様であり、敵対者が遭遇した場合、待ち受ける運命は死のみだった。
強さを隠そうとしているかのようなミストバーンの行動に不審が広がる中、
バズズは同封されていた肖像画をヴェルザーに見せる。
キルバーン=ピロロは本人の戦闘力は高くはないが、様々な技芸に長けていた。
腹話術しかり、人形操作しかり、
そして、バズズが広げた肖像画を見たヴェルザーは息をのむ。
「……どういう冗談だ。この男は、大魔王バーンだぞ!?」
「若かりし頃のバーンということですか、ヴェルザー様」
「うむ……よく似た魔族か縁者か……影武者の可能性もある。
そうなると姿を秘するのも納得は行くが……」
バズズがキルバーンの報告書で気になった部分をヴェルザーに伝えた。
戦いでミストバーンが強いのはともかくとして、防御能力が異常だったと。
あらゆる呪文が通じず、闘気の攻撃も一切ダメージを与えない。
一応、衝撃はあるようで、力自慢の魔物が殴り飛ばせば普通に吹っ飛ぶが無傷で、
殴った魔物の腕が折れていたという……。
「ぬううう……。まるで、
だが、
「まさか、動ける
それを体現できたのがミストバーンという事では?」
ベリアルがうなり
アトラスは本人が呪文が使えないので、こういう時にまったく知恵を出せないのだが、
ぽつりと思いついたことを口にした。
「
地上に赴いたドルディウスという
「そんな都合の良いものが……」
「いや、お待ちを。アトラスの言、
呆れたようにいうベリアルの言葉にかぶせるようにいうバズズ。
キルバーンが皆既日食のおりに、大魔王バーン自らが動き、
ミストバーンとなにか儀式をしているらしい。
気になったキルバーンがさりげなさを装ってつとめて気楽に尋ねたが、
帰ってきたのは"詮索は無用だ"という言葉だけだったという。
「皆既日食……大魔王バーン自身が何かをするというと……。
考えられるのは凍れる時間の秘法か」
「ヴェルザー様それはいったい……?」
「施した対象の時間を止める呪法だ。
一見便利なように聞こえるが、最強クラスの魔法力がないと、
術者も凍れる時に閉じ込められてしまう諸刃の剣のごとき呪法よ」
つけくわえて
全ての攻撃が通じなくなってしまうと説明した。
色々とキルバーンの残した報告書から、情報を掬い出し吟味したものの、
ミストバーンの謎は解けず議論は堂々巡りをしていたが、
冥竜将ヴェルザーが突如笑い出した。
「ヴェルザー様……?」
「解けたのよ。ミストバーンと大魔王バーンの関係性がな。確証はない。
だが、恐らくはこれが正解だろう。だとすると、手は幾らでもあるということだ」
ヴェルザーの考えが正しければ、タイミングを間違える事さえなかったなら、
若き日の最強の大魔王バーンの肉体を手に入れることができるかもしれないのだ。
冥竜神への野心を燃やす冥竜王であった冥竜将は、魔界に輝く偽りの太陽を背に、
宿敵の謎を解明してやったと飽きるまで哄笑し続けた……。
独自設定
スカルスパイダー
ドラクエシリーズでは珍しい蜘蛛モンスターです。
モンスターズの虫系最強モンスターでした。
ドラクエ2で没になった「まだらぐも」が登場していたら、
彼が最初の蜘蛛系モンスターになっていたのですが。
本編の設定
魔界の太陽
魔力で作られた偽物であり本物ではありません。
昼夜もありますが、地上の本物のように、
生命をはぐくむような温かい光を齎すものでもないです。