ザボエラ転生 ~ダイ大世界をおっさんが生き抜く~   作:リドリー@犬小屋

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次回は来週の木曜日23時頃を予定しております。




第七十五話 獣王会心撃

 

小高い丘の上から、ザングレイが大気を震わせる大音声をあげた。

 

 

「銀甲の凶蟲兵団の兵たちよ! 敵を前に逃げ出したことは許せぬ!」

 

 

百獣魔団に追い立てられた銀甲の凶蟲兵団の魔物たちが、

ザングレイのその言葉に動揺しているのが見て取れる。

 

 

「だが、銀甲の崩撃将ダバム殿の仇を討ち、敵を皆殺しにした暁にはオレが助命を請うてやる!

生きたくば掴み取れ! 敵の喉笛を食い破り、己の命を繋げ!」

 

「……上手いやり方ですね……」

 

 

アバン殿がそう評した後、銀甲の凶蟲兵団の兵たちが、戦いの雄叫びを上げた。

私もアバン殿と同意見だ。

ザングレイは逃げた銀甲の凶蟲兵団の兵たちに、

生存のチャンスをチラつかせ、士気を向上させることに成功している。

 

ただ、あの戦意溢れるザングレイとクロコダインを戦わせることは嫌な予感がしていた。

駄目で元々だが、一応、クロコダインに退くことを提案してみるか……。

 

 

「クロコダイン。戦わずに逃げる選択肢はないかね?」

 

「本気で言っているのかザボエラ。

瞬間移動呪文(ルーラ)で飛びでもしたら撃ち落とされるかもしれんぞ」

 

「それほど彼とあなたを戦わせたくないのですよ、ザボエラさんは」

 

 

アバン殿がフォローしてくれるが、恐らく逃げようとすれば、

クロコダインの言った通りの事になるだろう。

 

森の奥にも兵が配置されている気配を隠していない。

つまり、逃げようとすれば伏兵が追い詰めるという事だろう。

ザングレイは用兵にも長けているようだ。

 

 

「あの気迫。逃げては恥だ。すまんな、みんな」

 

「ええで。その間、あいつらはうちらが引き受けたるから!」

 

「任せたぞ。では、行ってくる!」

 

 

走り出したクロコダインに応じて、部下たちに"手出し無用!"と叫び、

ザンバーアックスを振りかぶり、丘の上から駆け降りるザングレイ。

クロコダインの鳳凰の戦斧と真正面から激突し、

凄まじい音がして戦いの火ぶたが切られた。

 

ザングレイのザンバーアックスは恐らく暗黒闘気であろう漆黒の闘気に包まれ、

クロコダインの鳳凰の戦斧と打ち合っている。

 

至近距離からザングレイが激しい炎を吹き付けるが、アバン流斧殺法の海嶺撃で切り裂く。

踏み込んだクロコダインが蹴りを食らわすが、ザングレイは真っ向から受け、

そのままクロコダインの脚を掴んで放り投げ、クッションとなった大木が数本へし折れる。

 

凄まじいパワーファイターの攻防が続いているが、私たちもゆっくり観戦していられない。

銀甲の凶蟲兵団と百獣魔団の魔物たちが我々を囲み、手出しをさせまいと攻めてきている。

蟲系モンスターで構成された銀甲の凶蟲兵団は死兵と化して突っ込んできていて、

百獣魔団の魔物たちは一歩引いて彼らをサポートしているようだ。

 

上手い戦い方だ。

自分たちの損耗を抑えつつ、良いタイミングで攻撃をしてくる。

もっとも感心してばかりもいられないので、私は岩石獣化呪文(レゴール)氷系呪文(ヒャド)系呪文を付与し、

氷の巨大な蛇を作り出して突っ込ませ、敵陣をかく乱する。

 

こちらは森の木々を利用して、パーティーで補い合って戦えばいい。

敵はこちらを囲んではいるが、地理的な条件で大軍で一気に押し潰せない。

囲んでいるのは確かに有利だが、地形を上手く利用してやれば、

そうそう容易くやられはしない。

 

 

「相変わらずエゲツないな、ザボ爺(ざぼじい)は!」

 

 

私が二度目の岩石獣化呪文(レゴール)爆烈呪文(イオ)を付与し、

敵に突撃させて爆発させたことを、ボリクスがそう評している。

 

軽口を叩きながらも直線的な閃熱呪文(ギラ)系ではなく、

爆烈呪文(イオ)系呪文を曲げて敵を攻撃しているボリクス。

 

業を煮やした敵が木を倒すと、その場に石壁を出現させるグランナード。

彼が戦闘開始直後に我々の周りに壁を作り上げてくれたおかげで、

それを利用してこちらは身を守りながら戦っている。

 

私は呪文を操る手を止めぬまま、二人の激突を視界に収めていた。

ザングレイとクロコダインの戦いは激突する力と力が大気を震わせ、こちらにも伝わってくる。

交わされる一撃一撃が並みの者が食らったら、跡形も残らぬだろう破壊力の応酬だった。

 

クロコダインが斧で放つアバン流斧殺法 地動撃を、ザングレイが蒼天魔斬で受ける。

力と力の押し込みあいが続くが、ザングレイがクロコダインを圧倒し始めた。

クロコダインを、力で上回るのか……。

 

そこでクロコダインがスッと力を抜き、ザングレイが体勢を崩したところ、

ズンッ!と地面に大きなヒビが入り、玄武鉄山靠を打ち込まれたザングレイが、

後ろに数メートル吹っ飛ぶ。

 

だが、おかしい。

クロコダインの玄武鉄山靠を食らったら、あのキングヒドラですら大穴を空けたのに、

鎧の胴の部分に穴が空いたが、ザングレイの肉体それ自体は無事だ。

 

 

「超魔手術で大猿系モンスターの、柔軟な皮膚を手に入れた。

鎧があり、暗黒闘気があり、この柔軟な皮膚があればそのような技は通じん!」

 

 

とは言っても、口から血反吐を吐いているので、ダメージはあったのだろう。

弱みを見せないための虚勢なのか……なんらかの執念なのか……?

そこで、ザングレイのザンバーアックスが炎を纏う。

いや、ザンバーアックスだけではない。

ザングレイ自身が炎を纏っているのだ。

 

 

ザボ爺(ざぼじい)なんやあれ! 火炎呪文(メラ)か……?」

 

 

敵と戦いながら、クロコダインの戦いから目が離せないでいるボリクスが私に尋ねる。

私も火炎呪文(メラミ)氷結呪文(ヒャダルコ)を撃ち分けながら答える。

 

 

「おそらくは魔炎気。炎の暗黒闘気じゃ。

攻撃力は高いが、己の肉体を焼く覚悟がいる諸刃の剣じゃのう」

 

「そんなんあるんか!? ザボ爺(ざぼじい)は物知りやな!」

 

 

アバン殿は近接戦闘ができる範囲に近づいてきた敵を、

グランナードと共に対応して倒してくれている。

私とボリクスは二人を呪文で援護することで、敵は近づけずにいた。

 

燃え盛るザングレイの魔炎気が吹き荒れ、

こちらにも焼け付くような猛烈な熱気が届いている。

 

 

「我が魔炎気で消し炭にしてやるわ! 斧無双・轟炎!!」

 

 

魔炎気を纏ったザングレイが、独楽のように回転することによって、

まるで巨大な炎の柱のようになり、クロコダインを飲み込むように押し寄せてくる。

 

 

「ほう……では受けてみるか。武神流……猛虎破砕拳ッ!!」

 

 

迎え撃つクロコダインは、高めた闘気を拳に集中して放つ猛虎破砕拳を放つ。

 

ザングレイが纏った魔炎気を吹き飛ばし、咄嗟に受けたザンバーアックスを粉砕した。

そのまま肩を打ち抜いたためか、ザングレイは出血しながら片膝をついている。

 

クロコダインが鳳凰の戦斧を構え、油断なくザングレイを睨む。

ザングレイは痛々しく焼けていた毛皮や皮膚が、

ボコボコと超魔手術の再生能力で回復しながら立ち上がった。

 

出血は治まっているようだが、流石に穴が空いた肩は塞がってはいない。

だが、ザンバーアックスを失ったのにザングレイの気迫には微塵も揺らぎがなく、

彼の漲る闘気は一切の衰えも怯みもないのが恐ろしい……。

 

 

「流石だ。ならば、このオレの奥義を見せてくれよう!」

 

 

轟ッ!と爆音と共に熱気と炎が周囲に巻き上がる。

更に自分を中心に、魔炎気を凄まじい勢いで噴き上げるザングレイ。

魔炎気はザングレイ自身をも焼いていた。

 

 

「死ぬ気か、ザングレイ!!」

 

「我が灼熱の疾駆を受けるがいい! デッドリーブレイズ!!」

 

 

轟音と共に膨大な魔炎気を纏ったザングレイが、恐るべき勢いでクロコダインに突っ込んだ。

百獣魔団はそれに慣れているのか距離を取ったが、

銀甲の凶蟲兵団が魔炎気の荒れ狂う炎に巻き込まれた。

 

その凄まじい炎と熱気が、暴力的な衝撃でこちらにも放たれて、

我々はグランナードの作った石の壁の裏に隠れる。

 

 

「なんやあれ! 自爆技ちゃうんか?」

 

「おそらく彼は己の命すら顧みぬほどの、

強い執念があるのでしょうが……」

 

 

アバン殿は感心するように、クロコダインを案じるように言う。

 

 

「やべぇ! いまのでクロコダインの旦那が!!」

 

 

グランナードの言葉で見ると、鳳凰の戦斧を構えつつも、

凄まじい火傷を負って血を流しているクロコダインの姿が見えた。

不死鳥の鎧はところどころヒビが入っているが健在だ。

だが、魔炎気の炎の威力は鎧に覆われていない部分を焼き尽くしている。

 

 

「ほぅ……まだ生きているか。真空呪文(バギ)系呪文でバリアーを作ったようだが……」

 

 

そう言いながらザングレイの魔炎気の炎が、先程より煌々と燃え上がる。

 

 

「笑止ッ!

オレのデッドリーブレイズで真正面から叩き潰してやるわ!!」

 

 

ザングレイは次のデッドリーブレイズを用意して、クロコダインに突っ込む。

だが、戦斧を背中に仕舞い、迎え撃つクロコダインの瞳には諦めの意志は見られなかった。

彼を中心に渦巻く闘気は目に見えるほどの気流となり、クロコダインが闘気の嵐の中心となる。

 

 

 

「ぬぅうううん……ッ! 獣王会心撃ッ!!!」

 

 

クロコダインの右手から放たれた闘気の嵐は、

ザングレイが纏うデッドリーブレイズの魔炎気と正面から衝突した。

 

ドォオオオオン!!

 

衝突の音と大気を揺るがす振動はこちらへ伝わってくる。

轟音と共に爆風と炎がこちらへ押し寄せてきたが、それが収まった頃に岩壁から顔を出す。

すると、その場に立っていたのは荒い息を吐いているクロコダインだった。

30mほど先で全ての鎧が砕け、地面を抉り、めり込むように突っ込んだザングレイが倒れている。

 

私たちはクロコダインの側に瞬間移動呪文(ルーラ)で急行した。

回復呪文(ベホマ)をかけながら話を聞く。

 

 

「やつの技は防御も回避も不可能。

ならば、この技で真正面から迎え撃つしかないと思った」

 

 

荒い息を吐きながら言うクロコダイン。

獣王会心撃。

闘気流を相手に叩き込む技だったが、いつしかクロコダインの闘気が強くなったことで、

荒れ狂う闘気の台風から放たれる、極大呪文を超える攻撃範囲を持つ闘気の竜巻を、

相手に叩きつける技へと進化していた。

 

ザングレイが身に纏った魔炎気を吹き飛ばし、

獣王会心撃の闘気の竜巻は彼をズタズタに引き裂いた。

ザングレイ自身が重い事もあってか、会心撃の威力で吹っ飛ばされた上に、

地面を派手に抉りつつめり込んでしまったようだ。

 

傷を癒した後、重いため息と濃い疲労を見せながらクロコダインは嘆息した。

 

 

「恐るべき強さだなザングレイは。

ギュータで戦った時と比べると雲泥の差だ」

 

「彼にも戦うべき理由があるのじゃろう。

しかし、これほどの猛者が百獣魔団を率いるとは危険すぎるな」

 

 

私は正直なところ戦慄していた。

恐らく味方の戦士たちで、パワーで強いのはクロコダインとバラン殿とボリクスだ。

その中でも、竜魔人になったバラン殿を止めた実績があるクロコダインは、

パワーファイターとしてトップクラスであり、耐久力や腕力で言えば比肩する者はいない。

 

そのクロコダインに対して、これほどの重傷を負わせるほどの戦士であるザングレイ。

魔王軍百獣魔団として地上へ侵攻した場合、どれほどの被害が出るか想像もつかない。

ならば、この場で倒す他ないだろう。

 

そう考えた時、ザングレイの周囲の地面が爆発するように吹き飛び、

大小さまざまな石が降り注ぎ、砂が舞い落ちる。

 

グランナードが地面から岩壁を出現させてそれらを防ぎ、

一旦距離を取るが驚くべき光景が目の前に広がっていた。

ザングレイが巨大な木の根のようなものに囚われ、そのまま連れて行かれそうになっている。

 

 

閃熱呪文(ベギラマ)!!」

 

 

私は呪文を放つものの、別の木の根に遮られてしまい、

意外なほどの速度でザングレイはそのまま木の根に救出されて、

いずこかへ運びされてしまった。

 

ザングレイを追うべきか思案している間に、目の前に驚くべき人物が姿を現した……。

本来はまだ眠りについているはずのハドラーが、肉体を持って立っているのだ。

そして、その横にギュータで出会った時と印象が少し違うメネロがこちらを睥睨していた。

 

 

「魔界にまでやってきているとはな、ザボエラ。……ただで帰すつもりはない」

 

「お待ちくださいハドラー様。ザングレイは回収したのです。

彼らと戦う必要はございません」

 

「フン……口惜しいがザングレイの身の方が大事。

運が良かったな。貴様らは見逃し……な、なにぃ!?」

 

 

ハドラーが突如絶句してこちらを、というか私の後ろのアバン殿を凝視している。

いかん、気づかれてしまったか。

 

アバン殿の知略を期待して同行してもらったが、まさかハドラーと出くわすとは思わず……。

彼への恨みを糧に生きているであろうこの時期のハドラーなら、ただですむはずがない。

 

 

「ここで会ったのなら丁度いい。

貴様を倒せば地上制圧も容易く済むだろう……アバンよ!!」

 

 

覇気溢れる声でそう宣言し、拳に力を籠めるハドラーの姿を見て、

私は次に取るべき手を必死に考えるのであった。

 

 

 




独自設定

海嶺撃
アバン流斧殺法の海の技です。
グロイサンが死んでしまったので、斧殺法の登場が危ぶまれていますが、
魔重剣のスイグンとの戦いで落ちてる斧を拾って戦う事を期待しています。

斧無双・轟炎
炎属性の斧無双です。本来の斧無双より攻撃範囲も攻撃力も高く、
ザングレイが使うと大体相手が消し炭になっていました。

獣王会心撃
闘気の溜めもほとんどなくなり、獣王会心撃を放つ瞬間も闘気の台風の中心にいるので、
敵の攻撃も通じないほどの技になりました。
難点としては味方が近くにいると危ない事です。

ザングレイ
いまこのような姿です。
以前は劇場版と同じ白い鎧を身に着けていましたが、
魔炎気によって燃え尽きてしまうため、炎に耐性のある鎧を纏っています。


【挿絵表示】


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