ザボエラ転生 ~ダイ大世界をおっさんが生き抜く~ 作:リドリー@犬小屋
次回は来週の木曜日23時頃を予定しております。
大魔王の威を示すが如くそびえ立つ
その第四宮廷の主は、現在デスカールとなっている。
不死騎団長たるデスカールはザムザが出奔して以降、
超魔手術の責任者として研究施設全てを与えられていた。
ザムザが予期していたように、研究者としても有能なデスカールは、
超魔手術を更に一段階進め、多くの屍の上に超魔生物の研究をほぼ完成させていた。
……耐えられる体力の持ち主がいない、という点に目をつぶれば。
研究員達は忙しそうに動き回り、デスカールはその報告を受けては、
的確な指示を飛ばし、粛々と技術力の向上が図られている。
魔界の第四宮廷は、まさしくデスカールの庭であると言ってもいいだろう。
忙しい最中、デスカールは一冊の本を読んでいた。
ヨミカイン魔導図書館から盗み出した、英霊召喚の秘法。
その英霊召喚についての書を読破して、彼はかねてから考えていた、
自分自身の推論が論理的に可能だという確信を得た。
かつてガンガディアはヨミカイン魔導図書館の英霊を一掃したと言っていたが、
それは数が多すぎ、召喚を行った魔法使いの魔法力がさほどでもなかったのだろう。
それが証拠に、ヨミカイン魔導図書館を守ったロカは強かった。
ロカの強さが皮肉にもデスカールの推測を裏付けたのだ。
曰く、英霊の強さは召喚者の魔法力に比例する、と。
世界の全てには二面性がある。
太陽と月、王と奴隷、聖と邪、光と闇……。
つまり、正義の英霊を呼び出すことが出来ると言うことは、
邪悪な反英霊を召喚することも可能だ。
そして、彼はそのための材料をずっと保管しているのだ……。
地底魔城陥落の日に。
コロシアムでデストロールの遺骸を。
塵のようになった亜人面樹を。
そして──朽ちた地獄の騎士の亡骸を。
デスカールは手駒となり裏切らぬ強力な存在を欲している。
そのために危険を冒してヨミカイン魔導図書館へ侵入した。
強力な
得られた英霊の秘術は、危険に見合う価値を有していた。
すぐさま秘術に取り掛かりたかったが、高位の組織人である彼に、
自由な時間はあまりなかった……。
細かい陳情などは副団長であるヒュンケルに任せているが、
彼は戦士故、魔法使いの分野はデスカールまで回ってくる。
そういった訪問者が、日に何人かいるがそれとは別に、
本日は込み入った話をする客が、何人かくる予定があった。
その一人が、ノックもせずに入ってくる。
目の前にいる紫色の悪魔──バズズだ。
幾つかの情報交換をした後、イラついたようにいうバズズ。
「協力はこの一度だぞデスカール」
「構わぬよ。無論、約束は守る。
お前達が辺境で何をしていようと私は知らぬ。
大魔王様も……ご存じないだろうな」
「フン……あれだけキラーマシンを提供したのだ。二言はないと信じるぞ」
そう言い捨ててバズズは去って行った。
今回のパプニカ襲撃の黒幕はデスカールであり、辺境で戦力を集めていたバズズが、
無理矢理協力させられる形になったものである。
言いがかりの文言としては、
"大魔王様に知らせずに過剰な戦力を集めるのは謀反の疑いあり"
というこじつけだったが、よく動いてくれた。
無理にキラーマシンの提供も打診してみたが、
何体も提供してくれたのは非常に助かった。
あれのおかげで、パプニカの弱点が明確に分かったからだ。
キラーマシン系の技術は大魔王軍では使われることがほとんどない。
どちらかといえば、ヴェルザー軍がメインで使っていたものだ。
バズズはその方面の技術に明るい。
既に死んでしまったらしいキルバーンも、非常に有能な技術者であるが、
そのことを知るのは元ヴェルザー陣営の者達だけである。
かつての魔王ハドラーの配下の幹部の一人、ガンガディアが研究していたキラーマシンも、
ヴェルザー軍の放棄された砦で研究されていた技術の一つだ。
ガンガディアが魔界から脱出する際に、それを持って出たという逸話がある。
この魔界工学とでも言うべき技術体系は、
その理由についてデスカールは大魔王に聞いたことはない。
ミストバーン辺りは知っていそうな気がするが、尋ねることに躊躇いがあった。
もし若い頃に、大魔王バーンがキラーマシンを相手にして、
手痛い目にあっていたという話なら、非礼に当たるので聞けるわけもないからだ。
その後、次の訪問者がデスカールの部屋を訪れた。
非常に小柄なロードコープスである。
骸骨は表情がないはずなのに、どこか姑息さを感じさせる面持ちである。
彼は挨拶もそこそこ、デスカールから質問を受け、その全てに明瞭に答えている。
「いますぐにでも明確な主要各国の王都、王城の地図をご用意できます」
「何度か訪れたにしろ、正確に把握しているというのは大したものだな、テムジン」
「お褒めにあずかり光栄にございます、デスカール様」
骸骨であるのに後頭部に髪の毛を残す小柄なロードコープスは、
デスカールにテムジンと呼ばれていた。
彼とバロン、そして七人の部下達は、
デスカールが操る不死の禁呪法によってアンデッドとなっていたのだ。
邪悪な生命を得たテムジンは、デスカールに忠誠を誓い、
パプニカを攻めるために彼の知識を披露していたのである。
パプニカを宗教国家として自らが教皇になり、地上の諸国を支配するという野望は、
荒唐無稽すぎてデスカールとしては失笑を禁じ得なかった。
だが、それを表面に出すような愚を犯すことはない。
デスカールは、無表情な骸骨の顔を、これほど感謝したことはない。
それよりも思いもよらない拾いものだったのは、テムジンが長くパプニカの要職にあり、
各国へ旅をしたり使節として赴いたことから、主要諸国の王都と城の構造を記憶していたことだ。
つまり、リンガイア、カール、ベンガーナ、ロモスの王都と王城の構造を、
有用なレベルの精度で記憶しており、手始めにベンガーナの王城の見取り図を描いたことだ。
なぜそのような事を記憶していたかと言えば、テムジンがパプニカを手中に収めた後、
各国を屈服させるために戦争を仕掛ける時に、有利に勝てるための布石だったという。
デスカールは短い間に、テムジンの能力と野望の不均衡について考えた。
話していて分かる。経験と明晰な頭脳を持った能吏だ。
老人になってからも野望を捨てずに、好機を待つだけの忍耐もある。
その割に己の正統さについての部分が、まるで客観性を欠くのではあるが……。
デスカールが知るところ、現レオポルト王もその父王も特に悪政を行ってはいない。
言ってみれば善政と言ってよい治世であり、その治世を乱しているのはテムジンだ。
己の正当性を盲信し続け、それが妄執になり、
その妄言で構成される魑魅魍魎と言っていいだろう。
あまりのテムジンの滑稽さに、再度、デスカールは失笑しそうになったが堪える。
パプニカ攻めの際は力を借りると言った所、テムジンはデスカールに報酬を要求した。
「デスカール様……。
現王レオポルトとその娘レオナは、私に討ち取らせてください」
「構わぬが、わざわざ懇願するのはどういった考えか?」
「私の正当性をしっかりと教えてやりたいのです。貴様らこそが悪であると。
長年に渡って不当な王家が政治を行ってきたことを、
後悔させた上で懺悔の内に死を与えてやりたいのです!」
デスカールは唖然とした。
続いて爆笑しそうになったが、それを再度堪えた。
この妄執の化け物は、つまり善悪を完全に履き違えている。
テムジンの"世界"では彼は正しく、正統であり善なのだ。
だから、正義の使徒であるテムジンが、
悪の手先であるパプニカ現王家を正義の名の下に打倒するのだ、と……。
あきれ果てたデスカールの内心を悟らせぬように、
許可する旨を伝え、テムジンを下がらせようとした。
一点気になったので、情報がなかったオーザムとテランについて尋ねた。
すると両国は訪れはしたが、特にわざわざ構造を記憶していなかったという。
「あれは小国、いや、小さな街でございますれば、容易く攻め滅ぼせましょう。
攻略など考える必要もござりませぬ」
引き留めたことを詫びて、テムジンを下がらせた後、デスカールは一人哄笑した。
デスカールは大魔王バーン以外の他人を道具としてランクづけている。
たとえば、ザングレイは気難しいが、戦闘では強力無比な替えの利かぬ道具。大事に用いるべし。
メネロは野心を秘めているが、許容範囲であり多彩な能力は有用な道具。大事に用いるべし。
そのカテゴライズの中で、テムジンは有能だが壊れた道具。
いつでも使い捨てられる準備をしておくべし……と。
彼としては誰かに、偉大なる大魔王バーンに褒めて貰いたかった。
あの狂人の戯れ言を、笑わずに最後まで聞いたと言うことを。
デスカールは過去に思いを馳せる。
彼はマトリフの読み通り、幻の賢者バルゴートの同門であり、
弟子筆頭であったデズモールという魔法使いだった。
デスカールは師匠と同門の者達を皆殺しにし、アンデッドになる禁呪法の研究をしていた。
彼が目指すのは強力なアンデッドである。
通常のがいこつやら、ゴーストのようなチンケな存在ではない。
ノーライフキング。アンデッドの王。
強力な呪文を操り、人間を超えた魔法力を誇る存在だ。
アンデッドの研究において、素材として必要なのは死体。
つまり、死体を作るために多くの村や町を襲った。
ある日、研究が最終段階へ入った頃、バルゴートが仲間達とやってきてデズモールを殺した。
禁呪法は成功していた。
だが、人間の持ちうる範囲の魔法力では足りなかったのだ……。
そこへ、救いの主が現れる。
長年、魔界の神へ祈りを捧げており、それを大魔王バーンも知っていた。
アンデッド化の禁呪法により、デズモールはノーライフキングとなる。
その後、魔界の宮廷に招かれ、拝謁した際にかけられた言葉を、
デスカールは生涯忘れない。
"そなたほどの才、人であったことは息苦しかったであろう。
今後は余の下で存分に力を振るうが良い。遠慮はいらぬぞ"
既に骸骨の顔は涙を流せなかったが、彼は心の奥底で滂沱の涙を流した。
そして、その言葉で彼は解き放たれる。
人の名を捨て、アンデッドとして生きるため、大魔王に名をつけて欲しいと懇願した。
暫し黙考した大魔王は、魔界で死霊魔術の権威として名を馳せた、
魔族デスカールの名を提案した。
邪教の教祖であったデズモールは、喜んでその名を名乗るようになる。
この時、魔法使いとして卓越した才を誇り、邪教の教祖として外道な実験を繰り返した、
デズモールという人間は完全に死に、デスカールという強力なアンデッドが誕生したのである。
実のところ、デスカールは大魔王バーンの他の世界への侵攻という、
新たなる目標を聞いて疑問を抱いていた。
侵攻するだけならよい。
だが、デスカールにとっての神である大魔王が、他の世界へ行って戻らなかったら……?
その事を考えるだけで、デスカールは無くなったはずの肺が苦しくなり、
聞こえぬはずの心臓が発する音が大きくなる事を感じた。
大魔王軍において、未来のことを考えているのはメネロだけである。
だが、戦後の論功行賞において、最大の功績をあげて、
大魔王に望みを叶えて貰おうと考えているのはデスカールである。
彼はパプニカを担当とされることを、上司であるミストバーンにそれとなく聞いていた。
他の軍団が苦戦しているなら、横からその任地を奪い取って攻め落としてもいい。
そのためにもまず、パプニカを早急に攻め落とす必要がある。
今回、バズズたちヴェルザーの部下達が、辺境で猛者を集めていることを知っており、
その一人を借り受けてパプニカにぶつけたのもそのための試金石である。
功績を上げて大魔王バーンに翻意を促したい……。
だが、もしも、異世界侵攻の考えが変わらないときは、一時の裏切りの汚名を受けても、
大魔王バーンを彼一人の永遠の偶像の神とする算段は立っているのだ。
魔界の遺跡で発掘した、凍れる時間の秘法の書を手にしながら、
大魔王バーンの第一の信者であるデスカールは、静かに彼の意を通す計画を練っていた。
さきほどのテムジンがデスカールの考えを聞いたとしたら、それは謀反だと言っただろう。
つまり、人は他人のことはよく見えるが、己を映す鏡を持っているわけではないと言うことだ。
魔剣戦士ヒュンケルは、大魔王バーンに言上し、功績をあげる機会を欲した。
フレイザードが北に向かったのに対して、己は東へ向かい、
辺境で大魔王の治世に抵抗する列強勢力の鎮圧を行った。
その功績を以て、大魔王バーン直々にヒュンケルは、不死騎団副団長に就任。
デスカールが口添えしてくれたこともあって、ヒュンケルは当初、デスカールに好意的だった。
骸骨の外見に、亡父たる地獄の騎士バルトスを思い起こす所もあったからだ。
だが、その親近感が逆に作用してしまう。
デスカールのその後の行動を見た結果、疑念と反発心を抱くに至る。
バズズを脅して自分の手を汚さず、パプニカを威力偵察する。
現時点での戦力を把握した上、かつてパプニカの宮廷を騒がせた者達をアンデッド化。
パプニカのみならず、各国の王城や王都の見取り図まで書かせる。
事前準備が周到の領域を超え、ヒュンケルにとっては卑怯に感じられていた。
だが、この事を大魔王様に言上しようかと思った際、一つの考えがよぎって思い止まる。
もしもアバンが魔王軍地上侵攻で立ち塞がった場合に、
ヒュンケルとアバンとの一騎打ちを承諾させるための切り札に使えると思ったからだ。
ハドラーについても先般、魔界へやってきていたアバンを取り逃したという。
その一報を聞いてヒュンケルは、自分がいたらアバンを倒せたものをと激怒した。
そして、ハドラーに対しての侮蔑の度合いが増した。
ハドラーがアバンに負けたことで、父バルトスが死んだのだ。
そんな男が魔軍司令などという重責に就こうとは。
更に年を経て、衰えているはずのアバンにまんまとしてやられたという。
アバンが現れたなら己自身で決着をつけるため、
余人を交えず一騎打ちができる環境を整える。
その為にも無理を押し通す功績が必要だ……。
そうヒュンケルは考えるようになっていた。
チリリ~ン……チリリ~ン……
陰気な鐘の音が、ヒュンケルに誰が訪ねてきたか悟らせた。
不死騎団で執事を務めているリビングデッドのモルグだ。
戦闘能力に秀でている訳ではないが、組織運営に長けており、
他の気の利かないくさった死体などとは、比べものにならぬ知恵者である。
「ヒョッヒョッヒョッ……ヒュンケル様。
誠に申し訳ありませぬが……」
「また、テムジン達が何かしでかしたか?」
話によればテムジンがマミーたちを怒らせて、彼の部下たちと争いになったらしい。
疲れを知らぬアンデッド同士の争いは、どちらかがバラバラになるまで続く。
現場に到着したヒュンケルは、まずテムジンを押さえるべく動いた。
「闘魔傀儡掌!」
事もあろうに
闘魔傀儡掌で捕まえて、壁に叩きつける。
「ゲヒッ!? ひゅ、ヒュンケル殿! これは一体!」
テムジンの言葉には答えず、冷たい瞳でヒュンケルが彼を睨み付け黙らせる。
ガツン!と床の石畳が砕ける音がして、魔剣の鞘がめり込んだ。
その重い音で争っていた者達の動きが止まる。
「双方武器を収めよ! 城内で私闘に及ぶとは如何なる事か!
喧嘩両成敗。三日間謹慎していろ!」
骨の顔であるのに下卑た笑みが見て取れるテムジンは、
ヒュンケルの裁定に異議を唱えた。
「お待ちをヒュンケル殿。私はデスカール様直属ですぞ。
あなたに裁かれるいわれは……」
「調子に乗るなテムジン。デスカール団長に重用されていてもここでは新参。
オレは副団長である。わきまえて行動せよ」
そのヒュンケルに、横合いから鋭い一太刀が浴びせられる。
ヒュンケルは、鎧の魔剣を鞘から抜くことで受け、
なんなく攻撃を捌き、返す刀でそのまま剣閃を放つ。
アバン流刀殺法、海破斬。
斬撃をまともに食らったそのヴァルハラー……バロンは、
忌々しそうにヒュンケルを睨み付ける。
「くっ……」
「オレと遊びたいのかバロン?」
「名だたる魔剣戦士ヒュンケル殿であれば、私ごときの斬撃、
容易くあしらうと思っておりました」
「よく聞け。貴様らはあくまでデスカール団長が登用した者にすぎぬ。
だが、オレは大魔王様直々に、不死騎団副団長に任じられている。
貴様らごときとは職責の重みが違うことを知れ!」
テムジンは悔しそうにしながら、バロンを促し、部下達を連れて去って行った。
バロンは骸骨の顔で表情が分からぬながらも、鋭い視線をヒュンケルに叩きつけながら、
テムジンの後をついてその場を去って行った。
「お手を煩わせて申し訳ございません、ヒュンケル様」
「この程度、煩うというほどでもない。
あのような新参者の横暴、不死騎団内部の規律にも良くない事は明白だ。
何かあればオレにすぐ言え」
深々と頭を下げて礼を言うモルグを背に、
内心、ほくそ笑んでいるヒュンケルであった。
日に日に酷くなるテムジンたちの横暴。
それ自体がテムジンたちと、彼を登用したデスカールの立場を悪くする……。
デスカールにつきつける手札が増えるという算段である。
一つ、ヒュンケルにとっての誤算があるとすれば、
不死騎団内部の規律を正す日々が続いてしまうと言うことである。
もっとも、ヒュンケル自身、その事実にこの時はまだ気づいていなかった。
独自設定
テムジンの記憶力
彼が訪れた時点の各国の王都と王城です。
ほとんどがマトリフやザボエラの訪問とアドバイスで、
改築や改修を重ねております。
キラーマシン系の技術
魔王軍にマシン系の軍勢が存在しないことに対しての、
私なりの回答です。
いまでこそ、様々なロボット的なマシン系モンスターが増えましたが、
ドラクエ3までのモンスターですとあまりいないので、
軍団を形成できなかったのかなという気もします。
ドラクエ1~3までの間ではメタルハンターと、
キラーマシンの二種類しかありませんし。
ヒュンケル
本編開始三年前なので18歳なんですよね。
中間管理職やらされるの大変そうだなと思いながら書いてました。