深夜渡航   作:へるしぃーぼでぃ

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5/3─厚岸グルメパーク、しらぬか恋問、晩成温泉

 

 

 

車石から出発し、根室の地をほぼ一周する形で戻ってきた。

道の駅『スワン44』を、午前とは反対車線から望んで通り過ぎる。

そのまま44号線を直進し、晴れて根室から脱出。そのまま道なりに進んでいく。

ここからはほぼノンストップで走り続けた。

渋滞もなく、信号も少なく、道も一本道。軽快な走りを見せる。

あまりにも軽快すぎて、ここの道程は何も記憶に残っていないほどだ。1日200km移動となると、どうしても移動がメインになってしまいがちである。

そんな私の記憶を呼び覚ますのは、やはりというかなんというか、恒例の道の駅だ。

 

「お」

 

疾走する私の視界に、道の駅へ案内する看板が目に入る。

道の駅『厚岸(あっけし)グルメパーク』。

丁度いい頃合に休憩タイムが来た、と私の目が冴えた。

実はこの道の駅──というより野付半島以降の予定は、キャンプ場しか調べていなかった。せっかくの北海道でなんて杜撰な計画を立てているんだとお叱りを受けそうだが、元来私は計画立案能力が高くない。苦手と言っていい。

フェリー含む6泊7日の旅程など、イチバン計画性が必要な部類だろうに。それをこんな場当たり的に消費するなど、金と時間のムダ遣い極まれり、である。

だが、ムダ遣い上等。

この旅にそんな高尚な理由なぞ無い。難しく考えず、己の気の赴くままに楽しめればそれでいいのだ。

……などと言い訳しつつ、徐々に減速し、看板の表示に注視する。

その時、気付いた。

 

(うお!?警察(パトカー)!?)

 

道の片隅に、まるでサバンナのライオンが獲物を見定めるように白黒赤のヤツが潜伏していたのだ。

危なかった……。道の駅に寄るために減速していなかったら危なかった。いやそんな捕まるほどのスピードは出していなかったけれども断じて。

北海道は道が広いし長いし大きいので、いつの間にか速度が出ている可能性が微粒子レベルで存在する。各位気を付けてください。

そんな感じでヒヤヒヤしながら、小高い丘の上にある道の駅に辿り着いた。

そこは、今までの道の駅で最も混雑していた。

 

(停めるトコねぇな)

 

バイクの私ですら駐車スペースがないほど。

たまたまバイクの団体が抜けていかなかったら、そのまま駐車場を一周して去っていったかもしれない。

13:10。

ともあれ、道の駅『厚岸グルメパーク』に無事駐輪。

久しぶりの人混みの中に突入し、ブラブラと下見する。

グルメパークと言うだけあって食い処ばかりだ。しかし悲しきかな、今の私はカニ丼によりお腹が膨れている。それにどこも混んでいるし、早々に施設内から離脱した。

バイクに戻り、水を飲みながら考える。

 

(お腹減ってないし人多いしで、もう行こうかな……)

 

休憩できたとは言い難いが、少なくとも水分補給はした。

残った水でヘルメットに付着した大量の虫の体液を拭き取りつつ、しかし心残りがひとつあった。

 

(ひとつだけ、アレだけ食おう)

 

アレとは、施設の入口の真ん前でバザーのように店を開いている、蒸し牡蠣の屋台。

リーズナブルな価格で、しかもデカい粒が三個。満腹のお腹に別腹が生じる。生じた。

 

「ひとつ下さい」

 

「あいよ!」

 

爆速提供。残り五皿くらいで品切れ目前だった。危ない。

プルプルと震える、蒸されたツヤツヤの牡蠣×3の紙皿片手に、施設の裏手に回る。

そこは人が居なく、芝生があり、眼下には厚岸湖が一望できた。

施設の二階からだともっといい景色が見れるため、コチラは閑散としているのだろう。ありがたい。

人心地ついたところで、いざ蒸し牡蠣。

 

「ッ!ウメェ……」

 

噛むと身が弾けて、旨みが一気に口内を満たした。

思えば、蒸した牡蠣を初めて食べたかもしれない。今まで食べたのはナマや、鍋に入った小粒の牡蠣、あとは牡蠣フライか。

どれもウマいが、この蒸した事によって凝縮されたであろう旨味がダントツだ。私の好物に蒸し牡蠣が追加された瞬間である。

あぁ、水じゃなく、ビールが飲みてぇ……

そんな欲望が生まれるが、不可能なので諦めの境地に至る。

身を味わいながら、手持ち無沙汰にカラになった牡蠣を見つめる。

……貝って見れば見るほど不思議だ。

この内蔵のひとつみたいな身体が本体だし、それが丸ごとウマい。殻で個包装されてるのもポイント高いし、なにより栄養満点。何だこの究極生物は。

貝に思いを馳せながら、完食。美味しかった……

思いがけず非常に満足度の高い休憩を過ごせ、元気百倍だ。残り100km超を走る元気が湧いてくる。

ところでこの道の駅、えらくゴキゲンな場所だった。

施設の玄関口やロビーには、謎の外国人?の等身大パネルが設置され、ズンチャズンチャと陽気な音楽がパリピの運転する車のように鳴り響いていたのだ。

人でごった返しているし、蒸し牡蠣に出会えていなかったらあまり良い場所として記憶されなかっただろう。

北海道でイチバン騒がしい場所であった。

 

 

 

 

午前の蟹に続いて、今は蒸し牡蠣にアップデートされた舌の余韻に浸りながら走行する。

すると、本格的に腹が減ってきた。

さっきは腹が減ってないと言ったが、牡蠣三粒は絶大な威力を発揮。私の腹を盛大に空かせる効果を発動していた。

 

(ここ最近は海鮮ばっかだったから……もうそろそろ肉が食いたい!)

 

実はすでに肉屋──豚丼屋を調べていた。現在はそこに向かっているところである。

ちょうどキャンプ場までの道筋に存在していたのだ。まさに天啓。寄らねば天罰が降るというモノ。

そんなワケで豚丼屋に至る道筋を辿っていた。

……辿っていたのだが、イカン。少し迷った。

どうやら曲がる道を通り過ぎてしまったらしい。気を付けていたのに見落としてしまった。

道の端に停まり、確認。よしコッチか。まだリカバリーできる範囲だ。

大通りを外れ、小道へ(といっても道幅は広いが)。

ズイブンと長い一本道を走り抜け、無事に目当ての町に突き当たる。

よし。後は店を探すだけ……

あった。

……あったが、おい、まさかウソだろっ。

やっていなかった。閉店していた。休業日だった。

 

「……」

 

目の前にあったコンビニに立ち寄り、駐車場の隅っこで再検索を掛ける。

休みというならば仕方ない。別の店を探すまで。

もう私の頭は豚丼一色になっている。ソレ以外ありえないのだ。

 

「お、イイのがあるじゃん」

 

グーグルマップで道筋をなぞっていると、豚丼を提供してくれる店を見つけた。

というか道の駅だった。次に至る道の駅が、おあつらえ向きに豚丼がオススメの場所だった。

なんという僥倖。天が私に豚丼を食えと言っている。

私は導かれるままにエンジンを吹かした。

 

 

 

 

15:10。

到達するは道の駅『しらぬか恋問』。

大通り沿いにあり、道の駅の施設の向こうには海が広がっている。立地、ロケーション共にだいぶ最高な道の駅だ。

バイクを片隅に停め、私は施設の中へと直進する。もう腹が減って──というより豚丼欲がはち切れんばかりに膨れていた。

店を発見し、席につき、メニュー表を確認する。

おぉ……!夢にまで見た豚丼が、理想的なまでの豚丼の写真が載っている!

私は早速注文し、ワクワクと待ちわびた。

…………が、なかなか提供されない。

店内はそんなに客数が居るわけではないのだが、如何せん豚丼が来ない。

豚丼への渇望が強過ぎたのもあるだろう。

もう日が傾いてきているのに道半ば、内心焦っていたというのもあるだろう。

私はここからキャンプ場までの道程をじっくりと確認しながら、待った。

そして、ついに来た。

 

「お待たせしました」

 

期待通りの豚丼だ!

デカめの茶碗に、肉厚のタレの絡んだ豚肉が4枚盛られている。

中央には枝豆がふたつ乗せられ、彩りも良い。

傍らにはネギとワカメのみそ汁。

完璧だ。

余計なモノのない、『豚丼』に集中できる環境と言えるだろう。

 

「いただきます」

 

ガッツくように食べた。

海鮮に慣れた舌に、脂質の肉がガツンと乗っかる。

これが『食いごたえ』というヤツか……ッ。

単純に肉が美味い。

久しぶりの肉がウマい。

タレが旨い!

量も私の胃袋にフィットするような丁度良さだった。

豚丼、完食である。

 

「ふぅ……」

 

カチャリと箸を置き、水を飲んでひと息。

またしても余韻に浸る私だが、しかし本当はそこまでの余裕はなかった。

ここからキャンプ場まで、残り90kmほど(!?)。そして現時刻は、15:40。

ここら辺でようやく私も、ちょっとマズいんじゃないか?と思い始めた。

私は食器を返却し、少しだけ道の駅を物色してからバイクに戻った。

そのまま流れるように跨り、出発。道順なら豚丼を待つ間に念入りに調べて記憶したので、このまま行くのだ。

気持ち、急ぎで道路を駆る。できれば日が出ている内にテント設営を済ませたいからだ。

それに日没後までバイクを走らせるなど、精神衛生上よろしくない。

途中のセコマに一回寄るくらいで、後はノンストップでキャンプ場まで達するつもりだ。それでギリ。

満腹の腹を抱えて、走る。

頭では急ぎつつ、心は平常心に努める。スピードはそこそこに。

隣を電車が通過していく。この線路と別れるところがターニングポイント──国道とお別れする分岐点だ。

線路とは反対側には、たびたび海が広がっていたが、この時の私に景色を楽しむ余裕はない。

ひたすらに走り、目当てのセコマで少量の食料と水を購入し、すぐに出発する。

セコマを過ぎてしばらくすると町並みは姿を消し、小高い山と畑、線路だけの道路となる。

バイクを快調に飛ばしていく。

そして、その線路もしばらくすると内陸の方に逸れて……、いや戻ってきた。まだか。だけど程なく……、もう少しかな……?

 

「……」

 

まっっったく、線路とお別れするタイミングが来ない。

よもやターニングポイントを過ぎてしまったのではないか、と不安がよぎるが、なかなか停車して地図を確認するタイミングが図れない。

いや、路肩には十二分にバイクを停めるスペースがあるのだが。

道が、道が良すぎるんだ……。走るのがマジで気持ちいいんだ、北海道の道路は。

それに、いい加減私も学習してきた。

北海道はデカい。長い。雄大すぎる。

とりわけ道の長さは、予想の三倍くらいは見積もった方がいい。それくらいでトントンだ。

時間に追われる今、そう頻繁に停車できない。いや、したくない。

私は覚悟をキめ、そのまま直進する。

すると、来た。

 

(ココだ!!)

 

記憶したマップと地形が合致する。線路は内陸へと去り、私の進行方向は森の中へと消えていく道。

私は電撃に打たれたかのように確信し、曲がった。

こうして文字に起こすと盛大なフラグ回収だが、しかし大正解だった。

私は森の中を突き進み、目印にしていたボーリングのピンのオブジェを確認した。なんか巨大なピンが鎮座しているのだ。目印にうってつけ。

 

(ヨシ!)

 

後はもう何回か曲がる箇所があるが、ここまで来れば勝ったようなモノ。

大通りから外れたのでほんの少し、ほんの少しだけスピードアップし、森の中を爆走した。

ふと、前方に車が一台現れた。

そのまましばらく、その車と伴走する。

マップ上では海岸沿いに走行しているハズであるが、周りは山森木々だらけで視界が悪い。

太陽も、いよいよ西日が強くなってきた。

人が居ない。

家屋もない。

畑すらも見当たらない。

まるで何かから取り残されたかのような錯覚に陥る。

逢魔が時の中、エンジンの音だけが鳴り響いていた。

 

(お)

 

曲がる予定の曲がり角に直面し、保険のためスマホを確認したが、圏外だった。マジか。

前の車もここを曲がって行ったし、おそらく合っているだろうと覚悟を決めて曲がる。速攻で追いついた。

ここまで来たら意地でもキャンプ場に着くしかない。もはや周辺に他の宿泊施設は無いのだから。

……もしかしたら、前を走る車も同じキャンプ場へ行く途中なのかもしれない。

曲がり道も同じだったし、こんな時間にこんな辺境の地を走っているのもそれなら頷ける。

先導車と崇めよう。

 

(っここが二回目の曲がり角!)

 

そんな物思いに耽っていると、森から開けた場所で久しぶりの信号──目印の信号に捕まった。

ここを曲がれば後はほぼ直進のみ。

後続車も居ないので、少し路肩に寄せて再びの保険確認。

今度は電波を拾った。そして、合っている。キャンプ場も割と目の前だ。

 

(なんとかなったか……)

 

ようやく人心地ついた面持ちになる。

だが、まだだ。

テントを設営するまで真の安心は得られない。緩む気を引きしめる。

 

「なに?」

 

信号が切り替わり、スマホをしまって前を見ると、なんと先導車は直進して行ってしまった。

同志ではなかったか……

だが、ここまで伴走してきた事にはたいへん感謝している。一人であの山中を走っていたら、さすがの私も物凄く心細かっただろう。

私は名も顔も知らぬ先導車に一方的に礼をした。心の中で。

先導車を失った私はまたほんの少しだけスピードアップし、来たるキャンプ場へ向かう。

また森の中へ突入し、たった独り走る。爆走する。疾走する。

そしてようやく到達した。海に面するキャンプ場へ。

晩成温泉キャンプ場。

森が開けた場所、今までまったくと言っていいほど人の気配がなかった空間が消えた。

キャンプ場周辺は人でごった返す……とまではいかないが、疎らに存在していた。

駐車場に停め、さっそく受付へ。

許可証をもらうと、テントを張る場所を速攻で見定める。

キャンプ場は二面あった。

ひとつは海を望める、開放感あふれた立地。だが人が多い。

もうひとつは道路を挟んで向こう。段差で一段下がり、景観の何もない、ただの芝生エリア。人は少ない。

私は人が少ない方を選んだ。ソロの宿命である。

テキパキとテントを張り、荷物を放り込み、そこでようやく時刻を確認した。

18:00ジャスト。

ギリギリ周囲はまだ明るい。なんとか……なんとか間に合ったようだ……。

肝心のテントを設営できたので、残るタスクはお風呂──温泉だ。

先ほどの受付の建物の奥が温泉なのだ。

タオルと貴重品だけを持ち、いざ温泉へ。

……北海道ツーリングも最終日目前。よほど疲れていたのか、ここから先の記憶が曖昧だ。

温泉の景観がまったく思い出せない。

おそらくゆっくり浸かったのだろう。

その後はテントに戻り、何かテキトーなモノを食べ、19時が過ぎる頃には寝入っていた。……と思われる。

当時はそこまで眠気を感じていなかったのだが、一日200km行軍は相当に体力を削っていたらしい。

皆さんはもう少し計画的に旅程を組まれますよう。

 

 

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