深夜渡航   作:へるしぃーぼでぃ

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5/4─黄金道路、襟裳岬

 

 

 

5/4、6:00。

そこでようやく二度寝から這い出てきた。4時に一度目が覚めたが、時間だけ確認してそのまま寝てしまっていた。

前日までの起床時間と比べれば、格段に遅い時間帯。この時になってようやく当時の私は、どうやら疲れが溜まってきているようだ、と自覚した。

ともあれ、北海道の大地を走り回れるのも今日が最後。17:00までには苫小牧フェリーの埠頭にまで辿りつければいいので、まだまだ気楽だ。

最後のバウムクーヘンをもそもそと食べる。最後まで残っていたのは、栗味。買ってから4日が経ち、もはや切り株はボロボロに崩れていた。

 

(そこまでお腹は減ってないな……)

 

昨日はロクな夕飯を食べていない(豚丼で満腹だったのでそのまま寝た)のだが、あまり空腹ではなかった。

しかし何も食べないのは良くないので、納沙布岬で購入したサンマラーメンを実食。

バウムを食べながら、お湯を沸かす。沸いたお湯を魔法瓶に移した後、残りのお湯でラーメンを作り、すする。

中々に滋味なお味だった。朝メシに丁度いいなサンマラーメン。

食い終わったらそそくさとテントを畳んでいく。

あらかた荷物をザックに詰め終え、私はひと息つきながらコーヒー豆をミルで挽いた。先ほど魔法瓶に入れたお湯でコーヒーを落とし、さらにひと息。

少し豆が多すぎたようで、だいぶ苦いコーヒーに仕上がってしまった。

苦いコーヒーを啜りつつ、今日のルートを探る。

と言っても、ずっと海岸線沿いだ。襟裳岬を目指せば必然、そのまま苫小牧までほぼ一直線ルートを辿ることになる。道を間違えることはないだろう。

 

「よし」

 

7:00。

モーニングコーヒーでだいぶまったりし過ぎたが、おかげで目は覚めた。

今日の天気は曇り時々晴れ。気温は多少肌寒い程度。

結局この北海道旅行、最終日まで天気が崩れることはなかった。そこら辺はだいぶ運がいい。

このまま最後まで楽しむとしよう。

 

 

 

8:00頃。

私は海岸線沿いの、黄金道路なる道をひた走っていた。

中々に大仰な名前の道だが、別に金ピカなワケではない。単純に金が掛かりまくったのが由来らしい。

なんとも俗っぽい由来だが、しかし走ってみれば分かる。

右手は山、左手は断崖絶壁の海。そして数えるのも億劫になるほどの覆道・トンネルの数々。

山からは土砂や雪崩、海からは延々と波が侵食してくる地形。よくもまぁ整備したものである。人間ってスゲー。

 

「うーむ、しかし臭い」

 

この黄金道路を走ってしばらく、私は少しだけ参っていた。

どうにも、海のニオイがキツいのだ。塩が圧縮されたような苦いニオイが舌にまで回ってくるようで、海なし県民である私には非常に苦痛だった。ニガリを飲んだらこんな感じかもしれない。飲んだことないけど。

景色は素晴らしい。

元より山道の覆道を通るのが好きな私にとって、薄暗いトンネルの中、立ち並ぶ柱の向こうから光る海が広がる光景は絶景だった。インスタにアップしたら確実にイイネが貰えること間違いないだろう。インスタやってないけど。

 

「ん?」

 

ふと、数多ある覆道の入口に、赤い文字で何かが書いてある事に気づいた。

『昆布作業中』。

 

(……どういう事?)

 

私の脳内で、擬人化された昆布が何かの作業をしている光景が思い浮かぶ。

次の覆道にも同じ文言が書いてあったので、路肩に止まって文字を見上げてみた。

『この先昆布作業中、安全運転お願いします』。

前後の文が陽の光で消えかかっており、ほとんど読めない状態だ。

断崖絶壁の下を覗くと、海の中に確かに昆布らしき物体がそこかしこに漂っている。

おそらくこの昆布を回収する人間が居るのだろう。

覆道の外側には、たまに駐車スペースが設けてある。

私が一回そのスペースに駐車してみると、両端には断崖絶壁を降りるための階段があった。

そこにはたまたま先客のおじさんが居て、私を尻目にその階段を降りていった。手には釣竿とバケツを持っている。

私はおじさんの行く末を眺めていると、岩場をヒョイヒョイと移動し釣りを開始した。どうやらあの人は昆布作業者ではないらしい。

とりあえず、走行再開。金の掛かった道路を走る。

途中、何やら小高い小さな駐車スペースを見つけた。

停まって階段を登ってみると、そこには黄金道路の記念碑の石が飾られていた。

ここはどうやら撮影スポットらしい。

私がちょっとゆっくりしていると、次から次へと旅人らしき人たちが停車してくる。駐車場は小さいので直ぐにいっぱいになった。

私はバイクなのであまりスペースは圧迫していないが、そこまで長居するような場所でもないのでそそくさと退散した。皆も記念撮影が終わればさっさと掃けていく。トイレも何もないので当然だ。

ほんのちょっとだけ休憩できたので、このまま今日の目標地点までノンストップで駆ける。道も一度だけ曲がればいいので非常に楽チンだ。

そして9:30。到着する、本日の第一目標地点、襟裳岬。

 

「っう、ぉぉおおおおお!?」

 

到着したので停車しようとしたのだが、如何せん……このっ、風がハチャメチャに強い……!?

最初は駐車場の海側の隅っこに停めようとしたのだが、空から海から風が吹き荒れてくる。

バランスを保つことすら難しい。私は何とか駐車場の中央のスペースまで戻り、バイクスタンドを立てた。

いやマジでなんなん!?強過ぎないか、この風!

200kg越えのXJRが風だけで倒されそうだ!

あまりにも風が強くて、私はヘルメットを被ったまま襟裳岬の探索を開始した。風を真正面から受けたら呼吸すら困難な空間だ。変質者と言うなかれ。

他の観光客はよく平気だなぁと思いつつ、ヘルメット男は岬の方へ。

襟裳岬で一番高い位置に来た。岬の先端部は眼下にあり、その先には海に沈んでいく日高山脈の末端が。

 

「……」

 

こうして見ると感慨深いな……

三日前にはこの日高山脈の頂上付近を通過してきているのだ。あの時は見上げた山だったが、今は見下ろす立場。旅の終わりが近付いてきてるのをひしひしと感じる。

しかし、感傷に浸るにはまだ早い。あと半日もあるのだ。浸るのは帰りの船の中で腐るほどできる。

私は風に抗って、襟裳岬の施設内へと入った。

 

 

 

 

そこは中々に充実した施設であった。

というより、風から避難できたことがメチャクチャ嬉しい。マジでこの強風は体力も心も削る。

無風な、そして暖かな室内へと歩を進めると、様々な展示があった。

近隣の生き物写真や、風景。

風土や文化の説明。

そして全世界の風の流れを、襟裳岬を中心に部屋一面で表しているモノもあった。

けっこうお金掛かってるんじゃないか、この施設。

中でも私が一番捕まったのは、シアターだ。

全編20分くらいのミニシアターで、襟裳岬ヒストリーが一挙に観られる。

これを私は通して観た。存外面白く、割とあっという間な20分だった。アザラシ可愛いよアザラシ。

 

「ふぅ。……割と時間押してきたか?」

 

時刻は10:20。

苫小牧までの道のりは、まだ180km残している。ちょっと余裕ぶっこきすぎたか?

と、これが本州ならヤバかっただろう。

だがここは北海道。ひとたび道路を走れば1km1分換算で算出できる地。つまり3時間の道のり……

まだイケる……!

逆算してまだまだ安全パイだと確信した私は、まだ行っていなかった襟裳岬の先端部を目指した。映画を観て体もだいぶ温まったし、風がナンボのもんじゃいと歩を進める。

そう意気込み勇んで外に出て、風に煽られて速攻でヘルメットを被った。やっぱ風、強過ぎるな……

地味に長めな下りを行き、到着する先端部。ぶっちゃけ何も無い。

何やら木製の鳥居や石碑があったりするだけで、ただの岩の上の砂利だ。

空にはこんな強風にも関わらず、ウミネコが優雅に飛んでいる。アイツらスゲェな。

運が良ければ眼下の岩場にアザラシが見れるらしいが、残念ながらこの時は居なかった。生アザラシ、ちょっと見たかった……

そこそこ満喫したので、そろそろ戻るとしよう。

あぁ、そういえばお土産を買わなければならないな。最終日だし、この辺で買い集めていかないと。

私は岬から駐車場の方へ戻り、年季を感じさせる土産屋へ入る。ちなみにもちろん、ヘルメットは装着したままだ。

そこそこの繁盛を見せる店先で、何を買うか物色する。

私が選ぶお土産の種類は食べ物一択である。

基準は日持ち・値段・持ち運びやすさ・ご当地感・そして少しの奇抜さ。

そして発見した、その全てに合致する食べ物を。

昆布饅頭(12ヶ入)。

見つけた瞬間思った。

コレだ、コレしかない。

お土産の定番・饅頭に、特色の昆布をブレンドする奇抜さ。

個数よし。値段よし。日持ちよし。持ち運びよし。全部よし!

早速購入し、バイクへ戻る。

サイドバックにねじ込み、……入らなかったので、ザックを縛っている紐の間に通す。

まかり間違っても落としたらいけないので、しっかりと締め付ける。よし、職場用のお土産ゲット!

あとは家族と、親戚にちょっと買うくらいか。そっちにはもう少しマトモなお土産を買っていこう。

さて、ではさっさと退散しよう。この強風にはまったく慣れる気配がない。場にいるだけでダメージを追うヤツ──いわば地形ダメージだ。

バイクに跨ってからスタンドを上げる。跨る前にスタンドを上げたら、強風により転びかねないのだ。

 

「よし、帰ろう」

 

風に負けないようにエンジンを吹かし、私は強風吹き荒れる襟裳岬から脱出した。

 

 

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