深夜渡航   作:へるしぃーぼでぃ

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5/4─エンルム岬、寿司、ピーマンソフト、そして……

 

 

 

襟裳岬から脱出し、11:10。

私は目に入って一発目のセコマにて休憩を取っていた。

岬からだいぶ離れたお陰か、すでに高威力の風は吹いていない。風が凪いでいる事に安堵したのは初めての体験である。群馬にもからっ風とかがあるが、比べるのもおこがましいほどの威力差。

これが試される大地、北海道……ッ。

ひと通り戦慄しながら、ご当地らしき微糖コーヒーを一杯。

風で冷えきった体が温まる……

 

「ふぅ」

 

さて、気を取り直して旅程を進めたいが、ぶっちゃけここから先は特に予定はない。

道すがら道の駅に寄ろうかというくらいで、まったくのノープランなのである。我ながら勿体なさすぎる旅の仕方だ。

そして、時間が微妙に押しているという現実もあった。

17:00に着けばいいとタカを括っていたが、よくよく考えればフェリー乗船にあたって諸々の手続きをしなければならない。予約してあるからといって、そのまま顔パスで乗れるワケではないだろう。

つまり、もう少し早く苫小牧埠頭へ到着しなければならない。

どこかで停車するにしても、給油を除いてあと二、三回が限度と見た。

もう少しゆっくりしていきたかったが、仕方ない。

私は缶を捨てバイクに跨ると、気持ち急ぎで車体を走らせた。

 

 

 

 

実は、黄金道路はまだまだ続いていた。

襟裳岬に行くために一度は別れたゴールデンロードだったが、私は再びその軌道に乗った。

海岸線、淡い光に包まれる覆道の中を、バイクで軽快に走り抜けていく。

 

「お」

 

ふと、覆道の中腹、海側に、ポッカリと駐車スペースがあった。

おそらくココも、昆布作業や釣り人のためのスペースなのだろう。

塀もなにもないバルコニーのような形状。そこにバイクをいい感じに停め、私は反対車線の、心許ない幅の歩行者通路へ。

写真を撮る。

覆道の薄暗さと、その隙間に差し込む光。照らされるバイクの向こうには大海原と岩礁。

うむ、やはり覆道は映えスポットであるな。映える映える。

素人ながら満足のいく写真が撮れて、ホクホクしながら運転を再開する。

普段は写真など撮らないが、記録という意味でもやはり写真は撮った方がいいと執筆中の現在、痛感している。今この文章を書くのにも大いに役立っているし。もっといっぱい撮っとけばよかった……

撮るといえば、この黄金道路の堤防にはウミネコが大量にいた。

堤防にいる、とは、人の腰丈の堤防の頂点座部分に、ウミネコが列を成して座っているのだ。かわいい。

車がすぐ横を通り過ぎても、誰もピクリとも動かない。人慣れ、いや、車慣れてやがる……っ。

ちょっと停まって写真を撮りたかったが、さすがに逃げられるだろうし、地味に停車スペースがない。撮影は諦めだな。

せめて彼らを眺めて癒されながら、私は黄金道路を通過していった。

 

 

 

 

しばらく走って黄金道路を抜け出し、ちょっとした町中に出てきた。

左手は変わらず海原が広がっているが、右手の山は内陸へと押しやられ代わりに家屋が立ち並ぶ。何となく、人里に下りてきた山猿の気分だ。北海道に猿いないけど。

 

「ん?」

 

ふと、海の方に突出したどデカい岩が目に入った。

それだけならば遠目に眺めてスルーするところだったが、見つけてしまった。

その岩に、階段が付属しているのを。どうやら登れるらしい。

私は急ハンドルを切って進路を変更した。

あんなのを見つけておいて、行かない選択肢はない。幸いにしてそこまでルートから外れていないというのもあり、即決だ。

ちょっとした小道に入り、中々に傾斜のキツい短い坂を登る。

その駐車場は砂利が敷き詰められていた。奥にはデカい岩を登っていく階段が確かにある。

他には、この岩の成り立ちを記した看板、かんらん岩のモニュメント、電波塔と、地味にモノが多い。

私は看板をひと通り読んだ後、さっそく階段を駆け上がった。

しかしこの階段、そこそこの曲者であった。

階段の一段一段が、全体的にナナメになっているのだ。意識して登らないと片側に体が寄っていってしまう。

ピサの斜塔と同じ感じだ。あれも建物全体が傾いているため、階段を上がっていくと片側に寄っていってしまうのだ。今回のはそこまで大仰な傾斜ではないが。

ともあれ、人目もないのでダッシュで駆け上がる。

そして辿り着く頂上。

岩の高さは約70m。そこから望む景観はさぞ素晴らしかろうと期待していたが……──

 

「うーん……、ここまでしか行けないのか」

 

辿り着いた場所は、なるほど漁港や街並みは一望できるが、海の広がる左手にはまだ岩が続いていて、せっかくの太平洋が遮られている。

正直、そこまでの展望ではなかった。

だが、良い場所であった。

立ち寄れないフェンスの向こう側では、岩肌に数多くの植物が生い茂っている。

空にはもはやお馴染みのウミネコが多く飛んでいて、ニャーニャーとやかましいくらいだ。

……ウミネコの鳴き声、猫というより、遠くの公園から響いてくる子どもの声みたいに聞こえる。ニャーというよりキャーだ。

日中になり陽光は暖かく、時折冷たい風が吹いて非常に快適だ。

特に、私以外誰も居ないところがいい。

私が通ってきた道路も一望できるのだが、一台たりとてコチラへ来ない。こんなにいい場所なのに。

思いがけずまったり空間に出会ってしまった。襟裳岬で削られた体力が回復するようだ。

しかし、あまりゆっくりしてもいられない。

私は寄りかかっていた手すりから体を離すと、階段を降り始めた。

バイクに戻り、時刻を確認する。

12:00。

そういえば、割とお腹が空いている。今日はまだマトモなご飯を食べていないので当然だ。

北海道の大地で食べる、〆のメシ。

さて、何を食べるか……

 

 

 

 

「寿司だな」

 

バイクを走らせながら考える事、数分。私は『解』に辿り着いていた。

海鮮丼・モノは食べたが、肝心の寿司をまだ食べていない事に気付いたのだ。トリを飾るにも相応しいし、昼メシは寿司で決まりだ。

……だが問題は、どこに寄るかだ。

運転しながら考えていたので、当然どこに寿司屋があるのか把握していない。道沿いに現れてくれれば世話ないが、そんなに上手い話があるか……。

もうチェーン店でもいいか、と一度どこかに停まって調べようかと思って信号待ちしていると、ふと真横に看板が見えた。

 

(アレは……、完全に寿司屋!)

 

個人経営の、カウンター席しかないようなお高そうな雰囲気の寿司屋があるではないか。

なんたる僥倖。

タイミング的に左折が間に合わず、一度直進してから曲がって戻って寿司屋に辿り着く。

駐車場は激狭。しかし海側にスペースがあったので、そこにバイクを停める。停めてても怒られない事を祈ろう。

一応、営業中かどうかをスマホで調べる。

店は目の前だが、いざ目の前で本日休業を突きつけられた場合よりダメージが少ない気がするからだ。ワンクッション挟む的な。

よし、営業中。突撃だ。

 

「いらっしゃい」

 

入って直ぐ、目の前のカウンターから大将の声が掛かったので会釈する。

予想に違わぬカウンター席と、それを囲むように座敷席が周りにある。

店内にはカウンターに二組の客が居るだけで、空いていた。良かった、正直混んでいたらどうしようかと思っていたところだ。

しかし、一応確認してみるか。

 

「すみません。予約とかしてないんですけど、大丈夫ですか?」

 

「あー、時間掛かるけどいいかい?」

 

?、つまり、これから予約客が来るってことか?それまで私の相手は出来ないという……?

しかしよくよく話を聞いていくと、どうやら予約客の話ではなく、ニギるのが遅いけど構わないかい?という話だった。

私はずっと空き席の確認をしていたのに、大将は調理時間を気にしていたのだ。

まったく噛み合わない会話に、食事をしていたマダムに笑われてしまった。くそぅ。

一悶着あったが、まぁいい。最後の北海道メシと洒落こもう。

金に糸目はつけない。クレジット払い出来ることは、レジの表示を見てすでに確認済み。心置きなく注文(散財)できる。

と言っても、ひとつひとつネタを頼むのはコスパが悪い。ここは十貫色々乗りセットを頼もう。

腹の空き具合的にも丁度いい量だ。

 

「大将、コレお願いします」

 

「あいよ」

 

あとは待つのみ。

熱いお茶を啜りながら、残りの道程を再確認。

残り100kmほど、時刻は13:00、道順はほぼ直進。

まぁ何とかなるか、といった感じだ。

最後にもう一箇所くらい寄れる余裕まである。

朝、出発が遅かったのでどうなる事かと少し後悔していたが、杞憂に終わりそうだ。

私は本当に運がいい。こんなに杜撰な計画……というよりほぼ無計画な旅をしておいて、ここまで順調に来れたのだ。

まぁ、キャンプ場や、寄る予定だった店が休業していたりしたが、旅を彩る些細なトラブルといっていいだろう。

バイクも故障することなく動いてくれた事だし、感謝に絶えない。

タイヤの溝、前後とも無くなってきたから帰ったら買い変えないと……よくこれで走って来れたなレベルで溝がないのだ。普通こういうのは旅に出る前にやっとくべきだろ私。

 

「へいお待ち」

 

大将の声に顔を上げると、まずは四貫やってきた。

マグロ赤身、ホタテ、ブリ、ホッキ貝。

どれもデカい。ツヤツヤしている。肉厚だ。これは予想以上に腹に溜まりそうだ。

 

「いただきます」

 

まずは定番のマグロ赤身からいただき、次いでホタテ、ブリと食べていく。

当然、旨い。そしてなんだろう……、濃い。

本州で食べる寿司よりも、味が、厚みが、存在感が濃く感じる。

普段寄らない、回らない寿司屋というロケーションも一役買っているだろうが、これが北海道の寿司か……

続いて甘エビ、サーモン、鯛、サザエ。

ガリを食べて落ち着く。

最後にイクラの軍艦と、ウニの軍艦だ。

どれも美味しかった……

〆に相応しいラインナップであった。

……ふむ、私に食レポの才能はないようだ。正直に言う。ただウメェウメェ言いながら食ってました。もうウメェ以外出てこねぇです。

 

「ご馳走様でした。お会計お願いします」

 

「あいよ。……アンちゃんは旅行者かい?どっから来たんだい?」

 

「あ、群馬です」

 

最後に当たり障りのない会話をし、大将と女将に快く送り出された。

食べ終わる頃には客は私一人しかいなかったので、けっこう喋ってしまった。ずっと一人の旅路だったからか、さすがの私も人肌が恋しくなっていたのかもしれない。

店から出て、バイクに跨る。停車時間3、40分くらいだったか。

満腹になったし、食べたいモノはあらかた食べて満足もした。

さあ、帰ろう。

 

 

 

 

……と言ったが、最後にもうひとつだけ食べたいモノが生えた。

次の道の駅『サラブレッドロード新冠』の、ピーマンソフトクリームだ。

さっきの寿司屋で調べていた時に発見して、これはもう食べるしかないと思った。

寿司で膨れた腹だが、食後のデザートくらいは入る。これが本当に北海道最後の食事だ。

そして14:00。道の駅に到着した。

 

「うわ、結構人いるな……」

 

敷地の広い駐車場にも関わらず、バイクの私ですら停める場所に困るほど混んでいた。時間帯的にも仕方ないか。

誘導に従いなんとかバイクゾーンにまで辿り着く。

さて、あまり時間はない。私は早速ピーマンソフトを求めて施設内へ入った。

施設内も当然、人でごった返していた。厚岸グルメパークといい勝負だ。

人垣を避け、一目散に突き進む。目指すはただひとつ、ソフトクリームコーナー。

そこは、少し広い休憩スペースだった。

ベンチやイスが雑多に置かれ、窓口に販売員が立っている。

そして横には、ピーマンソフトののぼりがデカデカと置いてあった。そんなに推してるのか……

ともあれ、ここはそんなに人が居ない。ゆっくり食べれそうで何よりだ。

 

「ピーマンソフトひとつください」

 

「はーい。300円でーす」

 

売店のお姉さんから受け取る、薄緑色のソフトクリーム。

写真を撮り、椅子に座っていざ実食。

……うん。割と普通のソフトクリームだ。なんなら普通のソフトクリームよりも爽やかな風味で食べやすい。

私の想像ではもう少し苦味が来るかと思ったが、予想外にスッキリとした風味だ。味ではない、風味。ぶっちゃけピーマン感は全然ない。

うーん、個人的にはもっとピーマンを押し出して欲しかったが、しかしコレはコレでウマい。

かつて静岡でわさびソフトクリームを食べた時も、名前からくるゲテモノ感に対して非常に美味だった。もしかたら緑色の食べ物はソフトクリームと親和性が高いのかもしれん。

 

「ふぅ。ごちそうさま」

 

そんなことを思いながら、私は瞬く間に食べ終えて席を立った。

やる事は終わった。後はもう帰るだけだ。

心配なのは、残り距離と時間。

ここまで余裕ぶっこいて来たが、やっぱりちょっとギリギリかもしれない。

おそらくまだ平気のハズだが、時間が近づいてくるとどうしても不安になってくる。小心者なのだ。

私は急ぎ足でバイクに戻り、エンジンを回す。

 

「お」

 

道の駅を出てすぐ、ガソリンスタンドがあったので給油しておく。これで完璧だ。

後はノンストップで走る。駆ける。走行する。

このまま一直線でもいいが、少しだけショートカットだ。

あらかじめ調べておいた箇所を曲がり、傾いてきた西日に向かってひた走る。

さっきまで走っていた道路は車の往来が激しかったが、ここはガランとしていた。やはり曲がったのは英断であったな。

石油コンビナートやガスタンクなどが立ち並ぶ、敷地が街一個分はあろう工業地帯を抜けていく。

これだけデカい敷地の工業地帯……海が、埠頭が近い。

目的地……いや、終点までもう直ぐだ。

目印のコンビニを曲がり、直進。そしてブチ当たる、見た事のある道。

 

「戻ってきたな……!」

 

あまりにも太く広い、片側四車線の道路。

遠くには登頂を断念した山、樽前山が夕日を背負って聳えている。

北海道の海の玄関口、苫小牧にとうとう帰ってきた。

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