深夜渡航   作:へるしぃーぼでぃ

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7/29─道の駅のと千里浜、独り飲み

 

 

 

千里浜なぎさドライブウェイから脱出した私は、早速今夜の宿に向かってバイクを飛ばした。

もう夕方もいい時間、急遽予定変更しての宿泊で予約もしてないので、ちょっと急ぎ足である。

ドライブウェイ地帯からそう離れていない場所の、民宿。

駐車場に辿り着くと、意外にもガランとしていた。客っぽい車が二台程度しかない。

斜陽の中、住宅が並ぶ路地にエンジンの音がうるさく響く。

バイクを停め、静けさが襲ってくる中、人気(ひとけ)のない民宿を恐る恐る訪ねた。

 

「ごめんくださーい……」

 

無人だが、玄関の鍵は開いていたので営業はしているはず。

しばらく反応が無かったが、奥からバタバタと女将が出てきた。

 

「遅れてすみません。宿泊ですか?」

 

「はい。予約とかはしてないんですけど……」

 

話はトントン拍子で進み、無事に今夜の寝床を確保できた。素泊まりだ。

駐車場の空き具合を見た通り、今日は客が少ないようだ。土曜日なのに運がいい。

キツい西日から逃げるように、バイクから荷物を解いてせっせと部屋に運ぶ。キャンプ用品めっちゃムダな荷物と化したな。

しかし、部屋の中も暑かった。当然だ。

クーラーを発動し、ツナギを脱いでシャツと短パンスタイルになる。

 

「まだ早いけど風呂入るか」

 

女将によるとすでに湯が沸いているらしく、汗だくな私は速攻で入浴を選択。というか部屋が暑いので居てられない。

ツナギをハンガーに吊るし、他の荷物の整理はほっぽって浴室へ。

一番風呂をキメた。

 

「あ゛〜……疲れた〜」

 

温泉でもなんでもない普通の風呂だが、広い浴槽で体を存分に伸ばせて最高だ。

天井を見上げながら、今日の思い出を振り返る。

 

「マジで道間違えすぎた……」

 

思い返されるのは当然、アホすぎる道間違いだ。アレがなければもっと余裕を持って行動が出来ただろうに。

遠出する時は道迷いする前提で活動しているのだが、今日のはあまりにもヒドかった。明日どこに行くにせよ、今日のような愚行は犯さないようにしたい。

よし反省終わり。私は遊びに来ているのだぞ。こんな暗い気持ちになる時間がもったいなさすぎる。

風呂から上がり、気を取り直してマップを開く。

まず調べるのはメシ処だ。なんかウマいモン食って元気をチャージするのだ。

こういう時は普段行かないような店に……お、居酒屋があるここ行こう。

私は普段、飲み屋には行かない。というより徒歩で行ける距離に飲み屋がないのだ(代行?高ぇ)。

だからこういう、宿泊した時くらいしか居酒屋に行く機会がない。

そうと決まれば早速行こうと思うのだが、少しばかり早かった。

16:10。居酒屋の営業開始は18:00。散歩でもして暇を潰すか。夕涼みにも丁度いい時間であるし。

他にも色々検索して行きたい所をピックアップし、いざ散歩開始。タオル片手にサンダルで外に出る。

……の前に、喉が渇いた。何故か異様に牛乳が飲みたい。風呂上がりだからかな。

民宿から徒歩1分の、地元民が愛用するようなスーパーに来店。

牛乳パック200mlのみを購入し、店先でズコココとストローで一気飲みする。

牛乳は夏バテ防止に最適です。あと普通に美味い。

ゴミ箱が中々見つからないというアクシデントがあったが、なんとか発見しお次は菓子屋へ。

菓子といっても和菓子屋だ。なんか美味しそうだったので、おやつ感覚で寄ってみた。

 

「いらっしゃい」

 

おばあちゃんに見守られる中、果汁アイスバーとフルーツ大福をひとつずつ購入。

他に客も居なかったので、許可をもらって店の中でアイスバーをいただく。

パイナップルその物も入った果汁バーは非常に食べ応えがある。だいぶガッチリ凍っていて、歯で削るようにして食べた。もう少し溶かしてからの方がよかったな……

フルーツ大福──ぶどう大福は帰ったら食べよう。

ちまちま食べ終え、サコッシュに大福をしまい、お礼を言って退店。

 

「ちょっとは涼しくなったかな」

 

外に出ると、完全に夕方といった雰囲気。ヒグラシが鳴きそうな情緒がある。

お次の散歩コースは海辺だ。

住宅街を突き抜けた先に、千里浜なぎさドライブウェイの延長線上にあたる海岸へ出れる。

のと里山海道の真下を徒歩で潜り、砂浜へ。

 

「おお……」

 

正面に海、右手には太陽。

まだ熱さの残る、きめ細かい砂。

遠くから聞こえる人の声と、波の音。

夕暮れ時に砂浜を独りで歩くという、謎の憧れが達成された。いやその憧れ自体を今自覚したのだが。

砂浜手前の、コンクリートの高台の縁を歩く。流石に風呂上がりのサンダルで砂の上を歩きたくはない。

背中に太陽を浴びながら、海を眺めて歩く。

けっこう暑い。西日が。じんわり汗をかいてきた。

本来なら風呂に入ったら外出しないマンなのだが、これも旅行の魔力か。

そこでふと気づく。

私は、風呂上がりに汗をかくのがイヤなのではない。

『自宅の布団』を汗などで汚したくないから外出しないのだ。

私は入浴を終えた後、そのまま就寝するタイプである。

つまり、自宅の布団ではない旅行先のベッドなどは汚れてもまったく構わないから、今はお出掛けに抵抗がないのだ。

私の中にそんなロジックが自覚される。そうか、私は自分のお布団を汚したくなかっただけか。

そんなどうでもいい気付きを得たが、だからといって今好んで汗をかきたいワケではない。太陽光と砂の反射熱から逃げるように、住宅街の方へ舵を切った。

 

「こっちは涼しいな」

 

西日で伸びる建物の影で体感温度がグッと下がる。

そのまま風情も何も無いコンクリートの道を1kmほど歩いていくと、目的地に着いた。

道の駅、のと千里浜だ。

ドライブウェイから民宿に向かう途中に通り過ぎていて、目を付けていたのだ。

広くて綺麗な駐車場……からは入らず、裏手の住宅街から侵入する。なんか道があったのだ。

敷地に入ると、目の前には足湯コーナーがあった。後で入らせて頂こう。

店内に入り、適当に物色。

これから居酒屋に向かうので飲食物を買うつもりはなかったのだが、ちょっと気になるモノを見つけてしまった。

地元のビールだ。なんかオシャレなデザインのヤツ。

あまりにも気になり過ぎたので購入。

先程の足湯(熱い!)に浸かりつつ、グイッと一杯。

 

「……すっげー苦い」

 

フルーツ系のビールなのだが、皮の渋味を凝縮したような感じでずいぶん大人な味だ。ワインすら飲み慣れていない私には少々キツい。

あまり時間を掛けると飲みきれなさそうなので、勢いよく飲み干す。

 

「ウィ……酔った」

 

足湯しながら空きっ腹にビールガブ飲みと、中々やんちゃした私は、足をタオルで拭きフラフラと歩く。

足湯の目の前には何やら巨大な砂像があるのだ。

胡座をかくイカつい顔をした仏像(?)の、高さ2mほどのサンドアートが鎮座している。

近づいてみると本当に砂で出来ていて、よくこんなにデカい像を作れるものだと関心する。

像をグルリと見て回ると、背後には何故か人と軽トラがキャトルミューティレーションされている絵が彫られていた。ずいぶんお茶目な製作者である。

ひと通りサンドアートを満喫して缶を捨て、時刻を確認。

ふむ。17:30か。割といい時間だ。

私は1kmの道なりを、違う道から歩いて戻る。

途中、神社があったので軽くお参りをし、夜の帳が落ちてきた閑静な住宅街をゆっくり歩く。

泊まる民宿とは道路一本を挟み、駅前。

そこに私セレクトの居酒屋があった。

 

「いらっしゃい!おひとり様で?」

 

頷き、カウンターに勧められ着席。

真後ろで宴会中の地元民の声をBGMに、メニューを見る。

さて何を食べようか。とりあえず生中を頼んで、そのアテを選ぼう。

刺身の盛り合わせに……ほう、生牡蠣ですか。食べましょう食べましょう。

たこの唐揚げ?食べたことないな。頼もう頼もう。

お、川エビの素揚げだ。これ最高にウマいやつ。食おう食おう。

ビールだけだとあれだな。冷酒も飲みたい。

頼んでは食べ、頼んでは飲んで、積ん読していた電子書籍を読みながら晩酌を謳歌する。久しぶりのお酒うまいっ。

っつーか、たこの唐揚げ初めて食べたけどメッチャ美味しい。海辺の居酒屋の特権だな(後日、居酒屋ではポピュラーなメニューと知って愕然とする)。

あ〜。酒がイイ感じに進み、フワフワと心地よいほろ酔い状態になる。

19:30……、テーブルの上も綺麗に片付いたし、もうそろそろお(いとま)するか。

 

「ありがとうございましたー」

 

会計を済まし帰路に着く。辺りはすっかり夜の闇に包まれていた。

私はサコッシュからヘッドライトを取り出そうとして、足下に何が居るのに気付いた。

 

「おー、猫ちゃん猫ちゃん」

 

居酒屋の隣の魚屋の真ん前に、デンと毛並みのイイ茶猫がエジプト座りで鎮座していた。

耳がカットされているし、半ノラ猫だな。見ず知らずの私が結構近くまで寄っても逃げないのが証拠だ。……というか微動だにしないぞコイツ。

猫の前に座り込んでジッと見る。

猫も眼光鋭く見返してきて、あ、これは餌をあげない限り触れないヤツだなと確信。

ぜってぇこの魚屋のおこぼれに預かってるわこの猫ちゃん。

見れば魚屋はまだ電気が点いており、その中で片付けでもしていたであろう従業員と目が合った。

従業員は私と猫の姿を見ると、苦笑して会釈してきた。私もニゴォ、と会釈する。

よし、帰って寝るか。

ふてぶてしい猫ちゃんに別れを告げ、帰路に着く。

ヘッドライトで足下を照らしながらフラフラ歩いていると、どこからかお囃子のような音楽が聞こえてきて思わず足を止める。

祭りでもあるのだろうか。その割には人の気配は皆無なので、練習とかだろうか。

先ほど寄った神社の方から聞こえてくる気がする。行ってみようか……

 

「……めんどいな」

 

もう眠い。あと、暗くなった知らない土地を呑んだ状態で歩くのはあんまりよろしくないだろう。

私はお囃子に背中を押されながら、生ぬるい風を押しのけて民宿に帰った。

 

 

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