深夜渡航   作:へるしぃーぼでぃ

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4/29~30─フェリー18時間

 

 

 

まずはフェリーの探索だ。

ケツがまだちょっと濡れているため、このままベッドで横になっていると不快指数が上がってくる。

気を紛らわすためにも、まずは船を散策しよう。間取りを実際に把握するのだ。

私は貴重品の入ったサコッシュだけを持ち、寝台から立ち上がった。

まずは先程のエントランスホールに出る。

後続の客が次々に案内され、たいへん慌ただしい。私は階段を上がった。

私たち乗客のスペースは寝台の階とこの階だけなので、便宜上二階と称すが、二階に上がるとそこには既に寛いでいる先人たちが。

ここは自販機コーナーが立ち並ぶ、いわば憩いの場だ。

床から伸びる紐に括られた椅子とテーブルが乱雑に並び、皆思い思いにダラダラしている。もう何度もこのフェリーに乗っているのだろう、歴戦の風格が感じられた。

私は自販機のラインナップを確認すると、その場を後にした。寛ぐのはもう少ししてからだ。

トイレの位置を確認、風呂場の確認をすると、私はデッキに出た。

当たり前だが、夜なので海は真っ暗だ。シトシトと小雨がまだ続いている。

フェリーターミナルビルから漏れる光と、道路の街灯、フェリーの灯り。

あとは大洗の街並みが遠くに見えるだけ。

建物の三、四階分ほどあるフェリーからの眺めだが、正直そこまでの面白みはない。

日が出れば海を眺められる。私はそれを期待して、船内に戻った。

さして広い空間でもない船内(小規模なゲーセンがあったのが驚いた)を探検し終えた私は、寝台に戻ると思案した。

 

(風呂に入るか、それとも夜食が先か)

 

浴場はすでに開放されている。

夜風と雨に晒されたこの身は中々に冷えていた。ケツのお陰で心まで。

しかし、着替えはすべてバイクと共にあるザックの中。風呂に入っても、再びこの服を着なくてはならないのだ。

 

(といっても、いい加減乾いてきたか)

 

散々散歩していた甲斐あってか、座っても気にならない程度にはなっていた。

お腹もそこまで空いていないし、私は風呂に入ることを決めた。

バスタオル、化粧水、ボディクリームを持っていざ、大浴場へ。

この『さんふらわぁ 』シリーズのフェリーには、そこらの銭湯と遜色ない風呂場が完備されている。

空間が貴重な船に、なんと贅沢な。ありがたい。

私はシャワーで体を流して即、ウキウキと湯船に浸かろうとして、……止まった。

熱い。

ハチャメチャに熱い。

冷えた体に温度差がキツ過ぎる。

私はシャワーに戻って体をゆっくりと温め直した。

一息ついて、ようやく湯船に浸かる。

まだ熱いが、いける。いけた。

じんわりと体の芯にまで熱が浸透し、頭の毛穴が開く。

しばらく放心していた。

熱いお湯も慣れれば極楽。

夜勤明け、夜の高速道路、ケツだけ濡れた約2時間の待ち時間……

疲れが湯に溶けていく。まだ北海道に着いてすらいないのだが──いや、逆だ。これから北海道に行くからこそ疲れを癒すのだ。全力で楽しむために。

そこそこの風呂好きとしては、この大浴場は最高だ。

なにせ足が伸ばせる。

ムダに長い四肢を持つ私は、もう足が伸ばせるだけで文句なし、満点である。

しかも目の前には大パノラマの窓があり、昼間ならば大海原が鑑賞できるであろう。

ひと通り満喫して30分ほど、風呂から上がった。

船内備え付けのドライヤーは人の吐息レベルという代物だったが、何とか乾かして寝台に戻ってきた。

と、そこで船内アナウンスが流れ、船が動き始めるらしい事を告げる。

目下の心配事は船酔いだ。私は三半規管が脆弱なので、他人の操作する乗り物にとても酔う。

酔い止め薬は持ってきたが、しかしまずは様子見といこう。酔う前に飲むのが正しい服用だが、これだけ大きい船だ。もしかしたら酔わないかもしれない。

あまり眠気もないし、私はサコッシュと一冊の本を片手に2階の自販機コーナーへと向かった。

そこには、さっき覗いた時よりもダラダラしている人間が増えていた。これから私もその一員に加わるのだ。

コンビニで購入していた水を飲み、窓際の席に座る。

外は闇夜で見えない。船はすでに動いているのかいないのか、判別がつかない。

私はしばらく読書にふけった。

 

 

 

しばらくして、なんだか地面が揺れていることに気付いた。

いつの間にか出航していたらしい──、地面じゃなくて船か、と思い直したのも束の間、本を読むのに地味に集中できない。

酔いの前兆だ。どうやら私は大型船でもダメらしい。

それにお腹も空いてきた。

もしかしたら空腹を満たせば平気になるかもしれないと思い立ち、私は自販機に向かう。

 

「うお」

 

存外、揺れる。

いや、最初はバランスを崩しただけだと思ったのだが、数歩進むとまたグラリとたたらを踏んでしまう。

揺れている。

まともに真っ直ぐ歩けない。

着地点をしっかり意識しても、フラフラと千鳥足になってしまう。澄ました顔でフラフラ歩く、実に滑稽な姿だっただろう。

しかし、他の客も割とフラフラ歩いていた。私だけじゃなくてよかった……

私はフラフラ歩きのまま、自販機からカツサンドを購入。そして隣の電子レンジへIN。

ボーッと待っていると、静かな空間に突如としてボンッと破裂音が鳴り響いた。

そういえばカツサンドの袋を少し開けるのを忘れていた……。他の客の視線が痛い……。

恐る恐る取り出すと、開けた覚えのない袋がしっかり開いている。中身は……少し散らかっているが無事だ。

私は逃げるように自分の席へ戻り、モソモソと食べ始めた。

時刻は4/30、3:00を過ぎた。

……また雨が降り始めたらしい。窓にパシパシと雨粒が当たっている。

絶妙な薄暗さの照明、客のボソボソと話す声、古びた自販機たち。

アングラな雰囲気だ。しかし悪い気はしない。

本を片手にカツサンドを食べ終えた私は、キリのいいところで立ち上がった。

さて、酔い止めの薬を飲んで仮眠しよう。

 

 

 

4/30、AM6:00。

目が覚めた。

薬と睡眠のおかげか、酔いはなくなっていた。

カーテンを開けると、窓の外が白んでいる。曇っているが、概ね晴れのようだ。

私は顔を洗ってサッパリした後、昨日(眠る前)と同じ席に座った。

曇った朝日だが、アングラな雰囲気は吹き飛んで一転、清々しいムードになっている。

人が少ないのも良かった。

私は少しボーッとした後、自販機に向かった。

シーフード味のカップ麺を買い、3分の待ち時間にリアルゴールドをチビチビ飲みつつバウムクーヘン(何味を食べたか忘れた)を一個消費した。

窓の外を眺めつつ、満を持して食べた熱いカップラーメンが美味いこと……

私は懲りずに本を読み始めた。が、しばらくすると少し気持ち悪くなってくる。完全に克服できたワケではなかったらしい。

休憩を挟みながら、時に甲板に出て潮風と日光を浴びる。

風が強い。

ともすれば飛ばされて海に落ちそうなほどの風量だ。下からは水飛沫が舞うし、とても長居できない。

私は船内に引っ込むと、その足で朝風呂に向かった。

朝風呂は控えめに言って、最高だった。

船の揺れに合わせて湯船が踊り、デカい窓ガラスの向こうには期待通りの大海原が望めた。

熱いお湯が寝起きの体に沁みる……。フェリーでの一番良い思い出は風呂に決定だ。

それからの私は再び本を読み、風を浴びて、バウムクーヘンをかじって寝台で横になる……、このサイクルを日中何回も繰り返した。

デカい船でも、私は酔う。本を読まなければもう少しマシだったかもしれないが、如何せん18時間の船旅だ。

積ん読していた本たちを三冊もピックアップしてきたのだ。是が非でも読む。

……結局、行きの船では半分しか読めなかった。一冊目の。

 

 

 

 

18:00頃、下船準備のアナウンスが流れた。

長いようで短った船旅が終わる。

と同時に、始まりだ。これから始まるのだ。北海道・道東の横断が。

18時間の船旅ですっかりクールダウンしていた旅の気持ちが、ふつふつと再燃してくる。

私はサンダルをしまい、厚手の靴下を履き、登山靴で引き締めた。

などと意気込むのはいいが、下船した後に向かう先は宿だ。

なにせ時刻は20:00。とっぷりである。

この北海道旅行で唯一の予約を入れた初日の宿で夜を明かし、ようやく真にスタートするのだ。

荷物とヘルメットを抱え、バイクの待つ階下へ。

すでに固定の解かれたバイクたちが、ドルンバルンと船内にガスと騒音を撒き散らす。中々にうるさい。

私もその大合唱の一員になると、来たる誘導に従って発進した。

ついに、ついに念願の北海道の大地に、車輪が上陸した。

テンションは最高潮。

そのまま苫小牧の埠頭を駆け抜ける。

初日の目的地は予約した宿だが、その前に目指すべき場所がある。

それは、彼の地を席巻するあの店。

そう、日本初のコンビニ店、セイコーマートだ。

 

 

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