深夜渡航   作:へるしぃーぼでぃ

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7/28─のと里山海道、能登島

 

 

 

目が覚めると5:00だった。

どうやらベッドに横になった瞬間、爆睡したらしい。

久しぶりにお酒を飲んだからな。そんなにアルコール摂取したワケではないが、移動の疲れもあったのだろう。

ともあれ、そこそこ早起きできてよかった。今回の旅の目的は千里浜なぎさドライブウェイのみに焦点を当てていたので、他はノープランなのだ。

ソーラーモバイルバッテリーで充電させていたスマホを持ち、驚愕する。

 

「充電が……されてない!?」

 

どうやらモバイルバッテリーを充電させるのを忘れていたらしい。これは非常にマズイ。充電コード持ってきてないんだぞっ。

いやいや、こういう時のためのソーラー充電器だ。バイクを運転しながらブラ下げとけば大丈夫。

そんなワケで今日のルートを画策する。

 

「ふむ」

 

第一プランとしては、能登半島一周コースだな。

次点で能登島のみを一周コース。

そして最後に、このまま民宿でダラダラ過ごして直帰スタイル。目的自体は達成してるからこその選択肢。

とは言っても、やっぱりせっかく早起きしたのだから観光はしたい。上二つのどっちかだな。

じゃあどういうルートを辿って行こうかという話になるが……のと里山海道が、能登半島のど真ん中を突っ切っている。

海道の終点である能登空港に辿り着いた時刻で、その後の進路を決めよう。

昨日和菓子屋で買ったぶどう大福を朝食とし、備え付けのテレビでなんか児童アニメを横目に流しながら荷造りする。

そして6:30頃、朝日を反射するバイクにザックを括り付け、いつでも出発完了状態になった。

ちなみに服装は、昨日の私の汗を吸ったツナギだ。無論、下着とシャツは綺麗なモノに着替えているが、ツナギばかりはどうしようもない。

すでに昼間のように明るく暑くなっており、どうせ汗だくになること確定なので、この格好で能登を走り尽くします。

バイクを走らせると、風はまだ涼しくて丁度いい塩梅だった。どうかこのくらいの気温で安定してくれないだろうか。ムリだよな。

お腹はそこまで減っていないので、とりあえず朝メシは調達しなくていいかとコンビニをスルー。そのままのと里山海道へ突入する。

そして案の定……

 

「あれ?もしかして進行方向、逆じゃね?」

 

またしてもやってしまった。

昨日は左手に見えた千里浜なぎさドライブウェイが、今は右手にある。完全に行きたい方向と真逆に進行している。

 

「何やってんだ俺は、朝から」

 

昨日の反省は何だったのか。ぶっちゃけアレは反省ではなくただの後悔だったから、さもありなん。

直ぐに海道から下り、再び入って本来のルートに戻る。

早朝なので道が空いているのが救いだ。

海岸線沿いを通り過ぎると、辺りは一気に森に飲み込まれた。海辺から一転して、360°が木、木、木である。

この道路は高速の亜種みたいなモノで信号が無いため、代わり映えのない風景の中をノンストップで走り続ける。

 

「あー……、ここかな?」

 

快速バイクを減速し、辿り着いたのは別所岳SA。

ここには絶景を拝める展望台があるらしく、小休憩がてら寄ろうと思っていたのだ。

少し複雑な形状の駐車場にバイクを停め、周辺を見る。

時刻はまだ7:30のため、当然ショップ系はまだ開いていない。

自販機でコーヒーを啜りつつ、そういえば展望台らしき建物が見当たらないことに気付く。

いや、あった。

ちょっと丘になっている向こう、なんか木々の間に隠れるようにして建造物があった。

少し分かりづらいな。コーヒー缶片手に近付くと、建造物の手前に何故かヤギがいた。

 

「メェー〜」

 

コイツ、すっげー鳴く。

そこの売店でエサ販売でもしているのか、人が近付くとメチャクチャ鳴くのだ。

しかしスマンな、今の私は自分の食料すら持ち合わせていないんだ。むしろ私の方こそ何か食べたい腹具合である。どうしてコンビニに寄らなかったんだ。

そんな感じでヤギを無情にも通り過ぎ、木々に隠れた建造物へ近づく。

割と大きい建物で、デカい柱の下にエレベーターが備わっていた。入り口の上の隅っこには蜘蛛の巣が張っている。

三階分ほど上昇し、ストップ時の内臓がフワッとする感覚に嫌悪感を感じながら、外に出る。

 

「うお」

 

エレベーターから出て、左手。

それは、まるで絵画のようであった。

建物の縁で四角く切り取られた、空と海と森の風景。

差し込む朝日と建物の影のコントラスト。

他に人も居らず、静謐な雰囲気が漂っていた。

据え置きされているベンチ用と思われる平らな自然石すらも、絵画の一部として溶け込んでいる。

吹き抜けていく夏の風が涼しい。高いからか。

一面ウッドデッキで、一歩進むたびにガコン、ガコンと靴底が鳴らされる。

テラスに出てみれば、ガラス張りの手すりの向こうに朝日に輝く七尾湾と、能登島が見れた。

あの島には絶対行こうと思いつつ、独り占めの景色を堪能する。

予想以上にいい場所だ。人の居ない早朝に来たのは大正解だな。

まったりしていると、背後でエレベーターの開く気配がした。

独占期間は終了か。私は名残惜しくも移動を開始。

エレベーター……と思ったが、その奥に別の通路があった。なるべくならエレベーターに乗りたくない私はそちらを舵を切る。

 

「めちゃくちゃアガる通路じゃん」

 

スロープと階段で徐々に高度が下がっていく、緩やかな空中回廊。上りの時もコッチの方がよかったな。

若干の後悔をしつつ、駐車場に戻ってきた。いやぁいい場所だったな、能登ゆめてらす。

飲み干した缶を捨てバイクに跨る。

とりあえず終点である能登空港にまで行ってみて、そこのコンビニで軽く何か食べるか。

 

 

 

 

というわけで8:30頃、コンビニに辿り着いてパンを食べながら道を検索する。

能登半島の先っぽまで、まだだいぶ距離がある……。海道もここで終了なので、軽快な道のりはここまでだ。今日帰宅する予定だし、それを考えると割と時間ないな。

日和った私は、道を戻って能登島を観光することに決めた。せっかくここまで来たのだからすべて堪能すればいいものの、気持ちは若干帰宅寄りだったので仕方ない。

今来た海道を逆走し、途中で下りて能登島方向へ。森の中を進んでいく。

途中、小さめの道の駅があったのでトイレ休憩を挟んだ。

まだ9:00だが、すでに暑い。ザ・真夏日だ。

汗だくの中トイレを済まし、店内を少し物色してクーラーの恩恵を浴びて、早々に発つ。

灼熱の気温の中を疾走していると、前方から爽やかな風を感じた。

 

「お、割と近かったな」

 

森が開け、一気に視界が広がる。

海──七尾湾だ。

目の前にはデカめの橋──中能登農道橋が架かり、その向こうに念願の能登島が見えた。

 

「海の上は涼しいなー」

 

バイクで一瞬だけの涼を感じつつ、入島。

能登島に入る手前に『あなたは今日90台目の来町者です』のカウンターがひとつ増えた。ギリ100以内。

勢いよく島に入ったはいいが、ここでまたしても迷った。

目指す場所は道の駅のとじまなのだが、本来曲がるべき道をスルーしてしまい、かつそれに気付かず爆走してしまった。

まぁそこまで広い島ではないのですぐに修正し目的地に到着したのだが、本当に反省を活かせない男である(迷うことも醍醐味とか言ってる時点でお察し)。

さて、そんな感じで道の駅に着いたのだが、特に目的はない。

能登ミクルソフトクリームをペロペロしながら適当に散策し、私はとある方向を見る。

 

「ガラス館か……」

 

道の駅の相向かいに、ヤケにデカくて目立つ建造物があった。能登島ガラス美術館だ。

正直、興味はない。しかしこれといって特にやることの無い現在の私は、物は試しと入館してみる事にした。

作品が点在する丘状の庭を練り歩き、小綺麗なエントランスに入る。

 

「こんにちは。ガラス館へようこそ」

 

受付にて入館料を払い、静かな空間へと入っていく。

……思えば、美術館なんて入ったことないぞ、私。

建物や空間そのものも美術品かのような空気を感じながら、恐る恐る歩を進めていく。

左手には様々なガラスの工芸品が並び、私を出迎えてくれた。

 

(まぁ、メッチャ綺麗だなとは普通に思うな)

 

ガラスなだけあって皆キラキラしている。

用途不明な壺っぽい形状が一番多いか?いや用途とかはないんだろうけど。

ガラスケースの向こうにあるガラス作品を見ながら、順路を辿る。

芸術作品だけではなく、世界各国のガラス民芸品の展示なんかもあった。

ガラスじゃなくて陶器じゃね?みたいなのもあったが、すみません。私には細かい違いが分かりません。

 

(こんなんよく作れんなー)

 

模様を覗くと反対側の模様と重なり、それがひとつの絵柄になるヤツとか。名状しがたいスゴい形したヤツとかをボーッと眺めては進んでいく。

ピカソの作品とかもあった。なんか見覚えあるなと思ったら、中学美術の教科書に載ってたヤツだな。見覚えあるだけでよく知らんけど。

他にも、目の前に立つと数秒後、向こう側の景色が見えなくなるなんて仕掛けの作品もあった。原理は分からん。

 

「ふぅ。けっこう疲れた」

 

そうしてかれこれ1時間ほど満喫し、外に出た。

外気の潮の乗った熱風が、エアコンで冷やされた体に気持ちがいい。

丘の上に並ぶガラス作品越しに海を眺めながら、この後の予定を考える。

もう11:00近い。能登島から群馬にまで帰るとなると、このまま直帰するしかなさそうだ。

 

「能登半島を満喫するには二泊三日必要だな」

 

今回は千里浜がメインだったので、目的達成後の行動がズイブンと杜撰になってしまった。

能登島だってまだ水族館とかあるのだが、ちょっと寄っていく時間は無さそうだ。

 

「潔く帰るか。今度はアッチの橋を渡っていこう」

 

能登島に繋がるもうひとつの橋、能登島大橋。

そこから帰路に着き、能登からおサラバする。

 

「またその内来よう。今度は先っぽを目標地点にして」

 

決意新たに、高速に乗る前に近くの道の駅──能登食祭市場にて昼メシを食らう。

海鮮丼弁当と生牡蠣だ。

牡蠣は昨日の居酒屋でも食べたが、いくつ食ってもいい。だってオイシイんだもの。

贅沢を言うなら蒸し牡蠣も食いたい。なんか旨みが凝縮してる感じがするんだよな。熱を通すと貝はよりウマイ。

若手のファミリー層に囲まれながら、独り飯を食う。

……流石の私もちょっとだけツラいものがあるぜっ。

それでも普通にご飯を食べ終え、灼熱の日照りの中、カンカンに熱されたバイクへ戻る。

熱っっっつ。黒のシート部分が燃えるようだ。

ヘルメットをわざわざ持ち運んでて良かった。バイクと一緒に置いておいたら被れなくなってたところだったぜ……。

もうお昼も回り、太陽光がさらにギラついてきた。

さっさと高速に乗り、温風を浴びながら運転する事しばし。

 

「アカン。なんかスゲー眠い」

 

昨日はぐっすり眠れたんだがな。お昼ご飯を食べて陽気な日差しの中、一直線の道は危なすぎるか。

私は高速から下りた。

まぁ実は、ちょっとだけ寄りたいところがあったから丁度いい。

道の駅、氷見で金箔ソフトクリームを食したい。

なんか金沢では金箔ソフトが定番らしい。バイク乗りとしてコレを見過ごすワケにはいかないのだ。

そうしてやってきました氷見。

早速金箔ソフトクリームを拝もうとしたのだが……しかし、無い。

金箔を扱うお店はあったが、肝心のソフトクリームが売っていなかった。

おかしい。マップの情報では確かに金箔ソフトの痕跡があったのだが……っ。

っく、無いものはしょうがない。

私は自販機で炭酸飲料を購入し、足湯に浸かった。

休憩して眠気を飛ばすことがメインだからな。うん。損は無い。無いったら無い。

……また来よう。能登半島の先端と、金箔ソフトクリームを食べにいつかまたリベンジしに来よう。

汗が滴る中、上半身のツナギを脱いでまったり足湯を堪能しながら、そう思った。

 

 

 

 

その後はほぼノンストップで群馬にまで帰ってこれたが、赤城高原にて渋滞に捕まってしまった。

SAに避難し、軽食を食べながら暇つぶし用の本をパラパラして渋滞から逃げた。

ちなみにこの時にソーラー充電器でスマホを充電してみたが、20%くらいしか回復しなかった。うーん、もっとキチンと日光に当てないとダメか。

結局、帰宅できたのは20:00過ぎだった。

やはり、石川県くらいの距離となると二泊必要か。次に活かそう。

 

 






24.1.1能登半島地震、お悔やみ申し上げます。
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