深夜渡航   作:へるしぃーぼでぃ

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.23、白砂山
9/17、キャンプ地へ


 

 

登山を始めて早半年……。

日本最高峰の富士山を踏破した私だったが、これまでの登山の総決算のような山行にブチ当たっていた。

 

「足元が泥でぐちゃぐちゃ……疲れた……」

 

「めっちゃ綺麗なキノコだなー。ぜったい毒だろコレ」

 

「稜線歩き楽しー!……けどやっぱ恐いわ。転んだらどこまで落ちんだよ……」

 

「山で食うラーメンうまい」

 

「ウワー!?土砂降りじゃねーか!」

 

良いことも悪いことも、すべてが降りかかる。

そんな登山だった……──

 

 

 

──白砂山。

標高2139m。長野、群馬、新潟の3県境に聳える巨峰。

今回はこの山を登る計画を立てた。

この山には野反湖というそこそこデカい湖がある。

そこの湖畔にキャンプ場があり、前々からキャンパーとしても活動していた私は以前から目を付けていたのだ。

……と、行きたいと思って実際に行くことはなく、月日は過ぎ、アルピニスト属性の加わった私はようやく重い腰を上げた次第である。目的が増えて行動力がアップしたのだ。

 

「迷った……」

 

そうしてまずは愛車のバイク──XJR1300でキャンプ場を目指していたのだが、さっそく道を間違えてしまった。

9/17、午後に差しかかる9月の炎天下、緑が鬱蒼と茂る山の中で。

革ジャンの私は曲がるべき場所を直進してしまい、間違いに気づくことなく山道を登ることしばらく。

私は四万温泉に辿り着いていた。

 

「…………そう、実は温泉に入る予定だったんだ!計画通りヨシ!」

 

登山の前に温泉で英気を養うのは常識である。

道を一本間違えれば……ゲフン、ちょっと道を変えれば温泉に辿り着けるのだから寄らない理由がない。想定外も想定内の精神だ。

 

ともあれ、秘境の温泉街はテンションが上がる。

私はUターンしながら(四万温泉自体も一度通り過ぎていた)道端にバイクを停め、入る温泉を検索。

やたらと施設の数が多くて迷うも、あまり混んでなさそうな所を選択して向かう。

細々とした道に翻弄されながらも、なんとか目的地に到着した。

こういう路地の絡み合う道は覚えづらくて適わない。すぐ近くなのに2回も停まって地図を確認してしまった。

 

「夏真っ盛りなのにすげー涼しいな」

 

バイクを停止させると、清涼な雰囲気が辺りに漂う。

そよそよと濃い緑が揺れ、近くの川から心地よい水音が響いてくる。

陽の光は眩しいが風は涼しく、居心地は非常にいい。

……惜しむらくは駐車場が満車な事くらいか。

私はバイクだから難なく停められたが、施設内はどうだろうか。人がいっぱい居たらやだなぁ。やっぱやめようかな……

しかし突発的な温泉巡りのため、あまり時間に余裕は保てていない。

温泉欲を満たすためなら多少混んでいようがこのまま突入するのが最短最速と信じ、いざ施設へ入る。

 

「あれ?意外と……」

 

もっと人でごった返しているかと思ったが、思いの外空いていた。

いやいやメインの温泉の方がいっぱいなんだろうと警戒してすっぽんぽんになるが、コチラもそんなに混んでいなかった。

 

「何か知らんがラッキー」

 

湯船に半分沈む、寝そべる人間の体にフィットするような丸みを帯びた石に寝転んで温泉を満喫する。

 

(あー〜、バイクに乗ってるだけで汗だくだった体が浄化されていく……)

 

夏の革ジャンはメチャクチャ熱いのだ。

ガラス張りの向こうには露天風呂と山の自然が広がり、さすがは秘境といったところか。

露店と室内風呂を交互に堪能し、30分ほどで出る。これ以上入っているとのぼせそうだ。温泉は好きなのだが、長居できない私である。

自販機で牛乳をラッパ飲みする。

風呂上がりの牛乳は格別だ。疲れた体に染み渡る……

その後さらに30分ほどダラダラと過ごして、ようやく立ち上がる。

 

「いい加減、道を戻るか」

 

そもそも此処には迷い込んできたのだ。道を引き返さなければならない。

一度通過(スルー)したお陰で、曲がるべき道はカンペキに把握した。後はもう2、3回曲がれば目的地へ辿り着く。

温泉で溶けた身体を再構築し、太陽光を浴びるバイクの下へ。

昼も近づき、気温はさらに上昇していた。

 

「さすがに暑ぃ。……ん?川の方まで行けるのか」

 

バイクを停めたその奥、少し草木が生い茂る方へ道があった。どうやら川の縁まで下りれるようだ。

せっかくなのでチョロっと行ってみる。温泉と夏の日差しで火照る身体を冷まそう。

道が、川に吸い込まれるような形で途切れていた。

浅めの川だが幅が広く、一帯が木陰になっていて非常に涼しい。椅子でもあれば完璧なロケーションだ。

深呼吸でフィトンチッドを吸い込み、気合い充填。

 

「よし、行くか」

 

ぶっちゃけゆっくりし過ぎた。

もう道間違いは懲り懲りなので、地図を頭に叩き込みバイクを走らせる。

といっても山道はそこまで複雑ではない。

軌道に乗ればヘアピンカーブをブイブイ言わして楽しむ余裕すらある。

そうして中之条の山域を爆走していると、見えてきた。

 

「昼メシ予定のカフェに到着」

 

──13:50、山道にポツンと佇む洒落たカフェ。

他に客は居ないようで、エンジンを止めると辺りが静寂に包まれた。

 

「やってる……か?」

 

調べた限りだと営業中だが、店内に人の影が見えないので少し不安がよぎる。

不審者ムーブしていると自動ドアが開き、店内へ。

店内を見回していると、奥からお姉さんが出てきた。

 

「いらっしゃいませー。こちらのカウンターで注文お願いします」

 

事前に目を付けていたパフェとコーヒーを購入。このパフェが昼メシだ。

店の外のテラスでパフェを待つ。

さっき私が通ってきた道が目の前にあり、たま〜に通る車をボーッと眺める。

 

「ん?」

 

ふと気付いた。

車道の向こう側に登山道があるように見える。

なかなかパフェも来ないし、ちょっと行ってみよう。

向こう岸に渡ると、本当に登山道があった。

少し行ってみたい欲に駆られるが、頼んだパフェが待っている。それに本来の目的地までの時間的余裕もそこまでない。

近くに案内の看板地図があったので、それを見て楽しむに留まる。ふむ、睨んだ通り、散策路があるのか。

 

「やべ、パフェ来た」

 

ふと店の方を見ると、店員のお姉さんがトレイ片手にキョロキョロしていた。

テーブルには私の革ジャンを置いてある。ちゃんと居るよの証だ。

私は急いで戻る。

席に戻ると二人組のマダム客が居た。テーブルは3つしかなく、私が中央を陣取っていたので背中越しが近い。

 

「注文のパフェとコーヒーです。ごゆっくり」

 

フルーツ盛り合わせのパフェと芳しいコーヒーが来た。間違いない組み合わせ。

現在地はそこそこの標高があるし、緑も豊かで比較的涼しい。

ウマウマと久しぶりに食べるパフェに舌鼓を打ちながら、温かみのあるカップでコーヒーを楽しむ。

昼食というにはあまりにデザートすぎるが、どうせキャンプ場に着いたら今夜は食っちゃ寝だ。

キャンプ場では食えないモノを食う贅沢を噛み締め、けっこうボリューミーなパフェを完食。

コーヒーをゆっくり飲みながらまったりしていると、店員のお姉さんが話しかけてきた。

 

「ここ、バイクのお客さんが多くて、写真を撮らせてもらってSNSに上げてるんですよ〜。お兄さんも、どうですか?」

 

うーむ。

店員に提示されたSNSは、登録してけっきょく使ってないヤツだが、まあいいか。

バイクを店先にまで転がし、フルフェイスヘルメットを被ったままパシャリ。

これから白砂山へ登山に行くとも伝えていたので、その話でも盛り上がりけっこう長居してしまった。

 

──14:30。

ようやくカフェから出発し、後はほぼ道なりに進んでキャンプ場に行くだけ。

ここから更に山道へ入る。

といっても舗装はされているから、単純に坂道・カーブ・道が狭いくらいのものだが。

……初めて来る道に加え、そんな山道のドライブは体感的にメチャ長く感じるのは私だけだろうか。

周りは木々ばかりで景色もないため、黙々とバイクを唸らせて走り続ける私。

着実に目的地へは近づいてるハズだが、一向に辿り着かない。

日もいよいよ斜陽に差し掛かってきて、焦りが募る。

だが焦りは禁物だ。

こんな所でコケたらダメージは計り知れない。身も心も。

すでに道なりはこの道一本なのだし、進めば絶対に着く。

 

……だけど、目的地、デカい湖があるんだよなぁ。もう見えてもいい頃合いなんだけどなぁ。

不安を感じつつも進み続け、およそ1時間後。

 

「……っ着いた!」

 

急に視界が開け、見えた。巨大な湖面が。

標高1500mに位置する、周囲12kmにも及ぶ通称『天空の湖』、野反湖。

湖が現れると同時、ビジターセンターの建物も出現する。

是非とも寄りたいが、今はもうあまり時間が無い。

施設を泣く泣くスルーし、直進。

明日、下山したあと寄りたい所存だ。

そのまま5kmほど湖の西側を走り続け、ようやく駐車場が見えてきた。

一面砂利が敷き詰められた、無骨な駐車場。

そこそこ車が停まっており、私もとりあえず停車する。

ここは白砂山登山口の駐車場で、まだキャンプ場ではない。

だがキャンプ場へ至るだろう道は、なんだか極端に細くなっていて進んでいいのか迷う。

しかしここで(たむろ)していても仕方ないので、とりあえずダメ元で行ってみた。

 

細い道を過ぎて、小さな橋を渡り、しばし。

 

舗装された駐車場いっぱいに停まる車たちと、立派な建物が見えた。

野反湖キャンプ場の受付の建物だ。比較的新しい装いである。

ちなみに予約必須なので、キャンプする為に訪れる際はお忘れなきよう。

受付し、一通りの説明を受けていざキャンプ場へ。

このキャンプ場は、この受付駐車場の建物からおよそ1km離れた場所にあるのだ。

なのでキャンパーたちは貸出のリヤカーに荷物を乗せ、えっちらおっちら軽い山道を歩かなければならないのである。

といっても私の装備は登山装備なのでリヤカーは不要……と言いたいところだが、キャンプ用に食料を大量に買い出ししてしまったので結局リヤカーを使う。

ザックと、バイクのサイドバックを取り外してリヤカーに積み、ゴロゴロ移動を開始する。

登山に慣れた身としても、リヤカーを牽きながらだとまた違う趣があるな。

 

轍に倣いながら、ヒィヒィハァハァすることしばし。

 

キャンプ場へ到着した。

そこそこな人が居て、テントを張る位置になかなか難儀した。

最終的にトイレのちょっと横に落ち着き、せっせと今夜の宿を建てる。

テント設営し、最後に受付でもらったキャンプ許可証をぶら下げて完了。

 

──16:10、ここをキャンプ地とする。

 

リヤカーは集積所になっている所があったので、そこに置く。

さて、もう夕方に差し掛かる時刻だが、夏なのでまだまだ明るい。

目の前には野反湖の一端が望め、景色が素晴らしい。

私は菓子を片手に貪りながら、キャンプ場を散策した。

 

「釣り人がけっこう居るな」

 

リヤカーを牽いていた道中も見かけたが、どうやら野反湖は釣りスポットらしい。

まぁこれだけデカい湖だ。さぞ獲物がいっぱい居ることだろう。

私もせっかくアウトドアしてるのだから、釣りを嗜んだ方がいいのだろうが、あいにくととんと興味が湧かない。

釣った魚って食っていいんですかね?

そんな感じで散歩しながらキャンプ場内を把握し、自分のテントに戻る。

 

「さて、後はダラダラするだけだ」

 

ザックの中身をすべてテント内に放出し(マットと寝袋は展開済み)、寝転がって本を読み始める。

ちなみに椅子や焚き火台は持ってきていない。登山で使わないし、荷物がかさばるからだ。

登山がメインになってからというもの、私の中でキャンプは目的ではなく手段になっていた。

でも焚き火の前でゆったり椅子に座る時間も至福なので、その内キャンプがメインのお出掛けもしたいものである。

 

「ん?雨だ」

 

テント内で本を読んでいると、パラパラと雨音が。

外からは子どもが元気な声で「うわー!雨だー!」と騒いでいる。

山の午後は天気が移ろいやすいからな。テント建て終えてて良かった。テント設営済みという無敵感は異常。

といってもにわか雨だったようで、テントを濡らすだけ濡らして雲は去っていった。

私は前室を開け放ち、湖を眺めながら早めの夕飯の支度に入る。

 

「明日は早いからな。食って寝よう」

 

明日登る予定の白砂山は、中々に歩行距離が長いので早朝出発が絶対(マスト)だ。

あと、暗くなったらマジでやることが無いので、寝るしかないとも言う。焚き火も無いしな。

 

「毎度、お得意のラーメンです」

 

私の料理レパートリーにて乱用されるラーメンを召喚。

クッカーとバーナーで中華麺をサッと茹で、スープの素、薄切り餅を投入。

そして今回は特別になんと、缶詰のコンビーフまで入れてしまう。スーパーで買出し中、肉を食いたい私の目に付いたのだ。

割と高かったコンビーフを贅沢にまるまる投入し、麺とともに解す。

 

「いただきます」

 

コンビーフ餅醤油ラーメン、実食。

………………うむ、味が濃い。

コンビーフの存在感が半端ないな。丸々1個投入は完全にやり過ぎたと思います。量も多いわ。汁も吸ってヤバい事になってる。ヤバい。

コンビーフに支配されたラーメンを頑張って食べる。

貴重な食料だ、残すことなど許されぬ。

 

「ご、ごちそうさま……」

 

うっぷ。

何か口直ししたい。

クッカー内に水をちょっと入れて飲み、トイレットペーパーで拭きながらビスケットをボリボリする。

料理素人が思いつきでアレンジするモンじゃないな。ただコンビーフをブッ込んだだけだが、見事にラーメンが破壊された。

私はその後、19:00くらいまで本を読みながら過ごした。

18:30には暗くなってきたのでテント用の充電式ライトを点けて過ごしていたのだが、なんとなく充電がもったいなく思われた。

寝っ転がって読む体勢にも疲れてきたしな。

椅子はなくてもいいが、座椅子……というか背もたれが欲しい。

そんなことを考えながら、用を足したあと、私は就寝した。

 

 

 

 

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