深夜渡航   作:へるしぃーぼでぃ

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日光男体山
10/7、モアイ像、前日キャンプ


 

 

「モアイ像だ」

 

──11:10。

木漏れ日の差しかかる森林の中で、私はモアイ像と対面していた。

日光へと至る道の途中、みどり市にて。

ちょうど草木ダムの真下あたりに、私とモアイ像は居た。

 

「なぜこんな目立たない場所に……」

 

ツタや苔に覆われながらも、陽の光が差し込みやたら神々しい存在感を放つモアイ像。……の、顔のみ。

人の気配ゼロの、野生動物が現れても納得しかない場所。

このモアイ像を見つけたのは偶然だ。

出発前、マップを見ていたらたまたまモアイ像の文字を見つけ、今日こうして道すがら寄ってみたのである。

 

「他にはなんも無いな。マジでなんなんだコレ」

 

案内板もなければ説明文もない。

道端にバイクを置いて謎のトンネルを歩き、舗装されていない道をしばらく歩いて辿り着いたこのモアイ像。

見つけた瞬間は喜んだが、マジで他に何も無いので暇な人以外はあまりオススメできない残念スポットである。

まぁ傍らにはしっかりした吊り橋があり、そこから渡良瀬川の渓谷を静かに眺められるし、広い公園・先ほどの謎のトンネルなど地味に見れる場はある。

上の草木ダムに飽きた人には新鮮かもしれない。

 

「ふぅ……そろそろ行くか」

 

昼間はまだ温かさの残る10月、初旬。

さて、今回の行き先はかの日光である。

と言っても目的地は神社ではなく、恒例のキャンプ場と山だ。

東照宮には以前寄ったこともあるし、まだ神社を巡る楽しさに目覚めていないので今回はパス。

本日はいろは坂を抜けて中禅寺湖……を通り過ぎ、その先の温泉街にてキャンプだ。

そして明日、日光白根山に挑む。

ギリギリまだ雪が積もっていないと情報を掴んだので、まだ雪装備のない私は一念発起したのだ。

モアイ像に別れを告げ、落ち葉や枯れ木の積もる道を往く。

そこそこ長く、造りが中々堅牢なトンネルを潜ってバイクにまで戻ってきた。

 

「昼前なのもあってずいぶん暖かいな」

 

冬に移り変わる季節。

近年、もはや存在が怪しまれる秋の、貴重な秋成分を堪能しながらエンジンを吹かした。

 

 

◆◇◆◇

 

 

日光へ至るほぼ一本道の道路をノンストップで爆走し、私は久しぶりのいろは坂でブイブイ言わせていた。

 

「相変わらず恐くて楽しい道だぜ」

 

幾重にも折り重なるヘアピンカーブ。

上りと下りが完全に一方通行に別れて久しく、おかげでスイスイ登れて楽しい。

以前は対面通行していたと思うとゾッとする話だ。

寝坊して遅い時間の来訪──昼時だからもっと混むものと思っていたが、逆にスゴい空いていた。嬉しい誤算である。

そのまま渋滞に捕まることなく移動を続けたのだが、中禅寺湖を通る頃に嬉しくない誤算が。

 

「なんかメッチャ寒くなってきたな」

 

急に冷えてきた。

海抜1269mと日本屈指の標高を誇る湖であるが、まさかここまで冷えてくるとは。完全にナメていた。

格好も革ジャンと、まだまだ夏仕様のナメきった服装。ヤバい……マジで寒いッ。

戦場ヶ原の道の駅(みたいな場所)で一旦停まり、暖を取るために避難する。

 

「完ッ全に凍えた……」

 

ここへ来て風と、雨も少し出てきた。

自宅から出る時に一応は迷ったのだ。冬服装備を着てくるか。

しかし平地の温度は快適この上なく、置いてきてしまった。すこぶるアホである。

そこまでお腹は減っていないが蕎麦を注文し、その汁で温まる。メッチャうまい。沁みる……

 

「生き返ったぁ……。さて」

 

少し冷静になったところで、私は現実を直視した。

すなわち、日光白根山の姿を。

キレイに雪化粧が施されていた。

 

「雪スゲー降ってんじゃん」

 

ここから見える白根山は、見紛うことなく頂上付近が白に染まっていた。

コレはもう完全にアウト。帰宅です。

 

「いやキャンプはしていくが」

 

もう登山はほぼ諦めだが、まだだ。

温泉街に併設されたキャンプ場で一泊し、明日また改めて考え直そう。

そう思っていたのだが。

 

『熊が出没したのでしばらく休業です』

 

「なん……だと……っ!?」

 

目当てのキャンプ場に着くやいなや、入口にそんな看板が出ていた。

そんな……、下調べした時はそんな情報は……っ。

うーん。今日はトコトン上手くいかないな。

ガックリと肩を落として考える。

 

(今から帰るとなると、余裕で夜になっちまうな。ここは……)

 

バイクが気炎を上げる。

私は中禅寺湖にまで戻り、菖蒲ヶ浜のキャンプ場にまで帰還した。

 

「よしよし。こっちはやってるな」

 

ここは確か予約不可なので、よほど人でごった返してなければ泊まれる。……遠目に見てけっこうな人だかりだが、果たして。

バイクは受付の建物の前まで侵入できるので、車を専用駐車場に置いて貸出リヤカーを牽いている人たちを横目に颯爽と抜かしていく。

そして受付にて。

 

「ああ、一人?泊まれるよ。はい許可証」

 

すんなりと入れた。

よかった。これでなんとか人心地ついた。

早速、ザックを担いでキャンプ地の下見だ。

といってもこのキャンプ場、私は数年前に訪れている。

あの時はまだ世間がキャンプブームに目覚める前で、休日にも関わらず人が数えられるほどしか居なかった。

それが今はどうだ。

大多数が家族連れの、ワイワイガヤガヤニギニギとお祭りのごとく騒がしい。人口密度がハンパない。

キャンプで味わえるあの静謐な空気は皆無だった。

……キャンプブーム、一向に衰えないな。

まぁ嘆いていても仕方ない。繁盛してる分にはいい事だ。後片付けはちゃんとしてくれよな。

一抹の悲しさを感じながら、人とテントの隙間を縫ってイイ感じの場所を探す。

 

「ッねぇな」

 

予想通りだが、敷地のどこに行っても人人人。

ここだ!というテント地が中々見つからず、練り歩くこと数分。

 

「んー……ここだな。ここをキャンプ地とする」

 

敷地のほぼ中央、木々の生い茂る隙間になんとか空間を見つけた。

目の前にデカいテントが立っているが、逆に他のテントとはそこそこ距離が開いているので妥協だ。そもそも選択肢がない。

ムダに疲れてしまったし、さっさとテントを建てよう。

キャンプするなら椅子や焚き火台、タープ等も欲しいが、登山するようになってからキャンプ用品は最低限だ。

テントを建て、寝袋を広げて寝そべる。

さて、ひと段落着いたところで……

 

「……さて、どうするか」

 

15:00、今後の予定に思いを馳せる。

当初の登山予定だった白根山はムリだ。

さすがに雪山装備のない状態で挑むほどバカではない。余裕で死ねる。

となると観光……はあまり気分が乗らないなぁ。

山を登る気マンマンだったので、町を歩く程度ではどこか満たされない。そもそも結構な頻度で日光には来ているし。

 

「となると、アレか」

 

私はテントから這い出て、木々の隙間から上を見上げる。

日光男体山がそこにあった。

コチラの山は雪を冠っておらず、どことなく行けそうな雰囲気がする。

少し調べる。

…………よし、行けそうだ!

というわけで予定を変更し、明日は男体山に挑む。

登山アプリで計画を速攻で立てて保存。

ルートはほぼ一本。迷うことはない。雪がもしかしたらどこにあるかもしれないが……まぁその時考えよう。

 

「よし。あとは暇な時間だ」

 

明日の予定が決まり、グダグダだったメンタルが少し回復して元気になる。

日没までまだ長い。

あとはテキトーに本でも読んでてもいいが、どことなく落ち着かない。周りに人が多すぎる。

 

「散歩でもするか」

 

暗くなる前に風呂にでも入りたい。

このキャンプ場から東……かな?合ってる?まぁ道路沿いに行くと、色々と施設がある。

その中に確か温泉があったはずだ。数年前に寄ったし、潰れてなければそこに入りに行こう。

貴重品を持ち出して早速歩き出す。

バイクで行った方が早いし速いのだが、なんとなく歩きたい気分だった。

あと湖沿いに遊歩道があるので、そこを歩きたかったというのもある。

距離はそこそこあるが、明日のウォーミングアップと考えればちょうどいい。

重いザックも背負わず道も平坦……、歩くこと自体が苦でない私におあつらえ向きな暇つぶしだ。

道路へ行き、その脇道に入る。

 

「そこそこ整備されてるんだな」

 

木の根や石が所々飛び出ているが、道自体は割としっかり踏み固められていた。意外と歩く人が多いんだろうか。

 

「……」

 

右手に湖を眺めながら、歩く。

夕日になる前の、落ちかけてきた太陽の光が反射して眩しい。

吹き抜ける冬になりかけの風が、歩いて火照る体を冷ます。

交通量の多い、道路を駆けていく車たちを尻目にのんびり進んでいく。

そうしてのんびり独りの空気に浸っていたが、そこそこ遊歩道の利用者と邂逅した。

ベンチに座る老人たちに、道を塞ぐようにして歩く若い衆。

それらを歩いて通り過ぎていく私をランニングで走り抜けていく人が、疎らに数名。

 

「割と活用されてるんだな」

 

人通りに感心しつつ、私もベンチに座ったり小高くなっている場所で湖を眺めながら、だいたい四半刻ほど。

店先の連なる場所まで来た。

 

「夕方時なのもあって、けっこう長く感じたな」

 

まだ太陽は顔を出しているが、だいぶ地平線に近づいている。

気温も下がってきたし、目当ての温泉に少し躊躇いが生じた。

 

(ぜってー湯冷めするな。風呂には入りたいけど、この気温と帰り道、テント泊を考えると……)

 

結論、風邪をひく。

私は風呂を諦めた。1日くらい我慢しよう。汗もギリかいてないし。

帰りはバスを利用しよう。歩いている途中でいくつもバス停があったし、今目の前にもバス停がある。歩くのは苦ではないと言ったが、来た道をそのまま戻るのはあまりにも芸がなかった。

時刻表を見ると30分後くらいにキャンプ場方向へのバスが来るので、ひとまず目の前の喫茶店でオヤツをつついて暖まる事にした。

中禅寺湖には何回も訪れているが、この喫茶店にはまだ寄ったことがなかった。

 

「いらっしゃいませ」

 

入店すると他に客は居なく、マスターが独りグラスを磨いていた。

席に座り、コーヒーとチーズケーキを注文。

湖畔を眺めながら、改めて男体山関連の情報を調べる。

ふむ、6時から入山開始?登山口となる神社で受付しないとなのか。

コーヒーを啜ってケーキを頬張り、静かで暖かい店内でホッとひと息。

そうこうしているといつの間にかバスの時間が迫っていた。おっと。

コーヒーを流し込んで会計して、すっかり冷えた外の空気に身を晒す。

幸いにもバスはまだ来てなかった。よかった。

しかし、そのまましばらく待っていたが……

 

「来ねぇ」

 

時刻が過ぎたが、バスが全然来ないのだ。

遅延くらいで別に文句を言う訳ではないが、普段、バスを利用しないから不安が募る。

何回も時刻表を確認し私の認識が間違っていないが色々考えるが、やはり遅延説が濃厚。

……冷えてきた。

ジッと待っているのは少し堪える。

私は意を決した。

 

「歩くか」

 

冷たい風の中、バスがいつ来るか分からず、刻一刻と暗くなっていく逢魔が時。

動くしかあるまい。

バスを諦めたわけではない。バス停はけっこう小刻みに置かれているのを確認済みだ。

徒歩にてキャンプ場を目指す傍ら、道中のバス停にて遅延バスを狙う。

体を冷やさず運賃を踏み倒していくスタイル。かんぺきだ。

そうと決まれば早速行こう。いつ来るか分からないバスとのチキンレースの始まりだ。

 

「全然来ねぇじゃん」

 

何度も振り返りながら帰路に着いてしばらく、一向にバスが来ない。

それぞれのバス停で何度も時刻を確認していくが、1時間に1本くらいの間隔のバスはその姿を見せない。

すわ運休か?と訝しむが、この時の私に詳細を知る術は無し。

バス停を何個も通り過ぎ、キャンプ場までの道のりの半分地点ほどのバス停で私の歩みは止まった。

 

「お、耳寄りな看板があるじゃん」

 

行きの時は気付かなかったが、中禅寺湖周辺のバス停を示した案内地図の看板が立っていた。

その情報によると、次のバス停まで結構な距離があるようだった。

私はそれを見ながら、時刻を見る。

──17:00。

辺りは若干の帳が落ち始めていた。

 

(ここでバスを待つか)

 

もう頼りにならないバス停の時刻表を見ながら、歩みをストップ。

このまま歩いて帰ってもいいが、その頃には本格的に暗くなっているだろう。

この距離ならまだバスに乗れた方が速くキャンプ場に戻れそうだと判断し、待ちを決め込んだ。

数十分後。

 

「やっと来たか」

 

痺れを切らし始めたところで、ようやく、本当にようやくバスが来てくれた。

排出された切符を手に取り、乗車。

すっかり冷えてしまった体にバス内の暖房が沁みる……。

私はバスの中央部、左座席へ。

普段はバスに乗らないので、新鮮な気持ちでキョロキョロ見回す。

車内にはそこそこの乗客が居た。皆、観光客なのだろうか。

支払いは電子マネーも可……なのか?イマイチ分からんな。とりあえず現金を用意しておく。

誰かが先に降りてくれればその様子を参考にしたかったのだが、誰も座席を動かず。

走行している内にあっという間にキャンプ場付近のバス停にて着いてしまった。

ええと、支払い支払い。切符どうすんの?現金どこに投入だ?ここ?ちょちょちょっと待って。

支払いに少しまごつく。早くしろと運転手の視線が痛い。

焦りながらなんとか支払いを終え、降車。

私がひと息ついている間にバスは颯爽と去っていった。

 

「ふぅ……なんとか暗くなる前に戻ってこれた」

 

結果的にサ店で茶をシバいてきただけの散歩となった。

いつでも来れるとはいえ、せっかくの日光で何をやっているんだ感が強い。

ま、まぁ、明日の登山がメインだ。

その登山も本来の目的の白根山ではなく、妥協の男体山なのでガバガバであるのだが。

 

「テントに帰還」

 

グダグダ思いながら寝転がる。

ともあれ、男体山だって初めて登る山だ。

幸運にも雪の足は白根山で足止めされているようで、男体山の山肌は茶色と緑だ。

時期的には紅葉のシーズンだが、この年は暑さが長く続きほとんど便りはない。

紅葉を狙って来たわけではないが、なんとなく損した気分だった。

 

「上手くいかないデーだな、今日は」

 

18:00。

早めの夕食のラーメンを茹でながら、独りごちた。

ラーメンを食べ終えて、テント内で明かりを灯して読書していたが、眠たくなってきたので20:00頃には就寝した。

外では人口密度の割には静かだが、いつまでも人の声が楽しげに響いていた。

やっぱちょっと焚き火くらいはしたいなと思った。

 

 

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