深夜渡航   作:へるしぃーぼでぃ

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登山開始した記念すべき.23年は、低山も全部書き記します。
そもそも日記という体ですし。


2023年、日帰り集
23.1/15、鐘撞堂山~初めての登山~


 

 

 

 

私の初めての登山は、今にして思えばそれはまぁヒドいものだった。

謙遜ではなくガチで。

登山届・地図・理解している地図アプリ・登山知識・登山道具・同伴者──すべて無し。

携帯するのはサコッシュのみ。

中身はスマホ、サイフ、特大おにぎり2つだけ。

そして来る途中コンビニで買った、菓子パンやお菓子、ミネラルウォーターの入ったビニール袋を外付けし、振り子のように揺らして歩くスタイル。

極めつけは買って翌日の、まったく履き慣らしていない登山靴だ。家でちょっと試し履きしただけの。

 

「よーし。近場の低い山なら余裕っしょ」

 

そんな愚か者の戯言である。

誰かコイツを止めてくれっ。

 

 

 

──23年の正月休み中、私は『歩くのが嫌いではない』という天啓を受けてから、テンションが上がったままに行動を起こしていた。

その愚行一覧が上記である。

最寄りのアウトドアショップでサコッシュと登山靴だけ購入し、翌日には登山開始という思い立ったが吉日の精神。

即断即決と言えば聞こえはいいが、こと登山においては愚かとしか言いようがない行いであった。

 

 

 

「うーん。初めての登山が雨かぁ」

 

23.1/15、10:00頃。

曇天の下、私はバイクを駆りながら呟く。

家を出る時はまだ天気は持っていたが、道中でシトシト降り出してしまっていた。

それでも家に帰らなかったのは、ひとえに登山の情熱が燃え盛っていたからである。暴走しているとも言う。

ロケーション、事前準備、下調べ……もろもろ最悪の状態であるが、テンションだけは最高だ。

そんな感じで埼玉県の鐘撞堂山(かねつきどうやま)という初心者向けの山にバイクで向かっていた。

登山用の雨具すら用意していないのに、道中雨にパラパラ降られながらも初心者特有の楽観的思考で登山口へ到着する。

幸いにも雨は降り止んでいた。曇天なので油断はできないが。

 

「道は分かりづらかったけど、駐車場は広くて良かった」

 

砂利の敷き詰められた、少し荒れてるが広い駐車場に停まりながら独りごちる。

この登山口及び駐車場を見つけるのに、少々骨を折った。

グーグルマップで経路検索し、その線上で目に入ったここの空き地のレビューが無ければ登山口だと分からなかっただろう。レビューしてくれた人に感謝。

登山を始めるに至って、まずは登山口と駐車場情報を探さなければならないという知見を得た。

 

「さてと……」

 

バイクのサイドバッグから、コンビニで買った食料の入ったビニール袋をサコッシュへと紐付け、キョロキョロと辺りを見渡す。

車は2、3台停まっていた。恐らく登山者のモノだろう。

本当にここから入ってっていいのか少し不安だったので、他の登山者の存在に安心感とワクワクが募る。

登山アプリは、活用法をまったく理解していないジオグラフィカだけ。なんかカッコイイというだけでインストールした。

恐れを知らない私は、意気揚々とズンズン歩いていく。

駐車場の近くにはため池があり、そこから登山口が幾重にも開かれているのだが──

 

「?、どっから行けるんだコレ」

 

下調べ不足の私は、どこから行けばいいのか分からなかった。

登山口がどれだか分からず、アッチへ行きコッチへ行きうろちょろ。

親切なことに登山道を事細かに示す看板があったのだが、この時の私はそれに気付けなかった。

初めての登山の興奮で、完全に視野狭窄していた。

 

「んー、コレか」

 

そして私は結局、西回りの登山ルートに辿り着いていた。

見た感じメチャクチャ『登山』な道だったのだ。

周囲は木々が鬱蒼と生い茂り、曇りの天気もあって昼間だというのに薄暗い。そんな中へ、踏み固められた道がその奥へと続いているのだ。

私はテンション爆アゲで、しかし恐る恐る進む。

 

「うおお……っ、これ、ホントに入ってっちゃっていいのか?」

 

人生初の登山。

何度も来た道を振り返りながら山の中へ進んでいく。

なんとなく、関係者以外立入禁止の区域に無断で入ってしまったような感覚に陥る。

この時の心境はワクワク60不安40くらいでけっこうビビっていた。

それでも足を止めずに進んだのは、『せっかくここまで来たから』だった。

登山をやる上で、まっこと危険極まりない思考である。

 

──11:10。

 

そんな感じで圧倒的な準備不足・危機意識の欠如・無知蒙昧な私の登山はスタートした。

 

「おぉお……こんな所歩いちゃってるよ俺」

 

周囲は完全に森に囲まれている。

ちょっと戻れば付近は住宅や道路に囲まれているのだが、背の高い木々に遮られ、完全に『日常の風景』は遮断されていた。

 

「一気に『山』だな」

 

低山ながらも紛うことなき『山』の雰囲気に、私は慄きながらも歩く。

もう後戻りはできない(できる)。私は少しだけ冷えてきた頭で(冷えたからといって、バカなのは変わりない)、冬の空気を切り開くように進んだ。

道は明瞭だった。

歩く人が多いのだろう。落ち葉こそ大量だが、先人たちが踏み固めた地面が初心者の私を導いてくれた。

さわっ。

たまに道が二股に分かれていたりするが、どちらを選んでも少し進むと合流する。そういう事が何回もあったので、私は基本右回りで進むようにした。どっちに行こうか悩んでも仕方ないので。

 

「おぉ、すげー登山っぽい」

 

進むと、左右が切れ落ちて私が歩く登山道だけが浮いたような道に出会った。短いながらもまるで尾根を歩いているようで、テンションはうなぎ登りだ。

さわわっ。

ガサガサと落ち葉を無遠慮に踏み、山歩きのなっていない普通の歩みで歩く。

 

「っというか、さっきから頭に枝が触れすぎだろ」

 

さわっと、山に入ってから何度も頭に枝が触れていた。まるで木に頭を撫でられているようである。歓迎されているのか……?

ともかく、帽子が必要だな。後で買おう。

そんな感じで山に入って、30分ほど。

ふと、私に不安がよぎった。

 

「うーん。道、合ってんのかなぁ」

 

先人の踏み跡を辿って歩いているが、本当にこのルートは正しいのかと不安が鎌首をもたげてきた。

そもそもこの足跡は正しいのか?私が勝手に人の足跡だと思っているだけで、もしかして獣道を歩いてるんじゃないだろうか。

注意を促す看板も度々あったが、そう頻繁に設置されているモノではない。

不安になりながらも歩を止めずに行くと……

 

「……お。良かった合ってた」

 

木製の階段に出会った。そこそこ長めの。

この、山の中で出会う人工物のなんと安心感か。

流石の動物も階段を作ったりはしないだろうからな。上りはするかもしれないけど。

道を間違っていない確信を得た私は意気揚々と階段を駆け上がる(気持ち的に)。

一直線に伸びる階段の先はすわ頂上かと思ったが、まだだった。

上った先には標識が立っており、道は二手に分かれていた。

私はもちろん『鐘撞堂山山頂』の示す方へ。逆側は知らない道だ。

最後に気持ち急な坂を登り、そして……

 

──11:50、鐘撞堂山330メートル、登頂。

 

「ふぅ……着いたか……」

 

少しだけ息を切らしながら、山頂を見渡す。

そこそこの広さを誇る頂上に、トレードマークの物見櫓の見晴台。

丈夫な屋根のあるベンチと机もあり、その下ではお年寄りたちのハイカー集団が鍋で昼飯をつついていた。

……めちゃくちゃ憩いの場だっ。

周囲には屋根無しベンチがいくつもあり、単独やパーティ単位の人たちがチラホラ。

山というより、公園の休憩スペースといった方がしっくりくる山頂の様子だった。

 

(道中、まったく人と出会わなかったのにっ)

 

たまたまである。

それにこの鐘撞堂山、割と四方八方にルートが伸びているので色々な方向から人が来るのだ。

個人的な見解だが、私が通った西回りルートは一番人気が低いのではなかろうか(遠回りなルートなので)。

そんな感じで唐突な人だかりに気圧されながら、曇りな為まったく見えない景色を物見櫓から眺め、鐘撞堂山の由来の看板を読み、山頂すみっこのベンチに着席。

 

(とりあえず昼メシにするか)

 

家で握ってきた、特大梅干し塩にぎり2つ。

冬の空気に晒されてすっかり冷たくなっていたソレに、盛大にかぶりついた。

 

「……」

 

デカく握りすぎて塩味が薄く、冷えきっていてお世辞にも美味いとは言えないおにぎり。

だが山で喰うおにぎりは、それだけでウマかった。

低い里山だろうが、人がいっぱい居て情緒がなかろうが、山は山。

加えて初めての登山である。人生初の。

 

(うまい!!)

 

私はニヤケそうになる顔をなんとか取り繕いつつ、モシャモシャ食べる。

あっという間に平らげた私は、ミネラルウォーターをごくごく飲みながら手持ち無沙汰になった。

 

(うーん、やる事ないな)

 

せっかくの頂上、しかしメシを喰う以外にやる事がない。

初めての登頂で気分が高揚しているのだが、発散のさせ方が分からなかった。他の人に話しかけるほどのコミュ力はない。

このまま下山ではなんとも味気ないなぁ。

屋根付きベンチの下のハイカー集団はワイワイと楽しそうである。うーむ、これがぼっち登山か……

心の内に消化不良感を抱えながら、しかしここにずっと居座るのも変なので下山を決意。

だがここで問題が発生した。

 

(どこから下りるか)

 

先程も言ったが、この頂上は四方八方にルートが伸びている。

元見た道をそのまま戻るのはそれこそ味気ないので、せっかくなら違う道を行きたいという欲が出た。

 

 

──なんという浅はかな思考。

この時の私は、十全に扱える登山アプリも無ければ地図すら頭に入っていない。ルートを理解せず登ってきたのだ。

当然、別ルートの下山ルートなど知ろうはずもない。

自分が登山初心者で準備不足で知識不足な愚か者だということを棚に上げて、冒険をしたいなどと片腹痛い。

こういう思考が遭難者を生み出すのだ。

そしてそんな輩が、この時の私である。

私は遭難への一歩を踏み出し……──

 

(うーん、でもなぁ)

 

──私の中途半端に残った理性が、ストップを掛けた。

 

(方角的にはバイクの下へ戻れそうな道だけど……

だけど本当に?違う場所に下山してしまわないか?

別にこんな低い山なんだし、違う場所に下山したところで道路歩きゃいいだろ。

でもそれはそれでダルいな。

いっそ人に聞くか?めっちゃカッコ悪ぃな。

くそっ。じゃあしょうがねぇ……!)

 

「……来た道、戻るか」

 

悶々と考えながら、結局私は来た道を戻ることにした。

『不安』が『好奇心』に勝った瞬間である。

よくもまぁ、山頂(ここ)まで来といて今更ビビり散らかしたものである。

だが正解ではある。道が分からないのなら引き返そう。ビビり上等である。

そうして私はとんぼ返りし、12:30。

無事バイクの下へ下山した。

 

「たった1時間ちょいしか山の中に居なかったのか」

 

バイクの横でお菓子を貪りながら、呟く。

昼メシをゆっくり摂ったつもりだったが、それを含めても実質1時間で登り下りしてきた事になる。

標高300mはこんなものか。もっと長い時間歩いてたような気がするが……

少し拍子抜けしながらも、今日のところは帰路に着いた。

この消化不良感は、次の登山で発散しようと思い描きつつ。

 

 

──結果的には無事に初めての登山を終えた私だが、こうして振り返ってみると到底ありえない行動のオンパレードである。

無事だったのは100%ひたすらに運が良かっただけだ。

そんな危うい初心者登山が、まだしばらく続く……

 

 

 

 

 

.





.25年現在、多少は成長したがぶっちゃけ今も『足りてない』。
地図読み・天気予報・観天望気・道具の扱いetc…
登山は必要な能力が多すぎる。これがホントに無許可無免許無資格でやれていいのかッ
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