北海道遠征計画を立てる傍ら、週末の土日どちらかは基本、登山をしていた。
「なんかデカい岩があるらしい」
次はどの山を登ろうかと登山ビギナーの私はグーグルマップで検索を掛けていると、埼玉県にて男鹿岩というデカ岩を見つけた。
週末。
私は早速ザックを担いでバイクを飛ばし、9:10。
少し風の強い日。
弓立山なる山の麓の駐車場に立っていた。
「駐車場広くていいな。金払わなきゃだけど」
砂利の敷き詰められた広大な駐車場。
駅前のパーキングよろしく駐車料金を払わなくてはならない(.23年当時)が、きちんとした場所に停められるなら安いものである。
「人、全然居ねぇな」
他の車は2、3台ほど。
そこまで早い時間ではないのだが、あまりメジャーではないのだろうか。
まぁ人でごっ返してるよりかはイイ。
私は早速ザックを背負って出発した
「ここも道路を挟んで行くのか」
駐車場の出入り口には親切にも弓立山への案内板が。
それに従って道路の上を黙々と歩く。……登山って意外と舗装道路を歩くんだなと思う今日この頃である。
「ここか」
5分と掛からず『弓立山 男鹿岩 登山口』の標識へ到着。
素朴な標識の導く先には、深い森と階段が続いている。
相変わらず、登山と下界の境界線は意外と近い。里山とはいえ、一歩踏み込めばそこは普段生きている街とはまったく違う風景が広がっているのだ。
2月中旬なのに緑が深いのも、それに拍車を掛けていた。
──9:30、登山開始。
「全然景色がない」
階段を登ると、辺りの光景はすっかり森に覆われた。
階段が終わっても登山道はきちんと整備されているため迷うことはないが、風景は完全に『山』の中である。
まだ登山3回目なので初心者向けの山を選んだつもりだが(低けりゃ登れんだろ、という初心者的思考)、思いのほか森が深くて内心ビビる私だ。
「はぁっ、はぁっ……ふぅ、ちょっと休憩」
準備運動もせず登り始めてしまったため、早々に息が上がってしまった。
ちょうど目の前に倒木風のベンチが出現したので、これ幸いと座る。
白湯を飲んで
「おはようございます」
「おはようございます」
奥さんの2人組だ。
こんな登り始めて直ぐくらいの場所で早速休憩している私を尻目に、彼女たちは颯爽と歩いていった。つよい。
うーん。私も筋トレとかランニングをしているのだが、疲れる時はすぐ疲れてしまうんだよな。もっと強度を高める必要があるのか。
──山の歩法や呼吸法などまだ知らぬ私である。
「さて、行くか」
呼吸も落ち着いたところで歩みを再開。
だがこの弓立山、地味〜にツラかった。
緩い傾斜が延々と続くからだ。加えて景色は変わり映えしない森の中。
しかしスロースターターな私の体は一度休憩を挟んだことで準備が整ったのか、その後は快調に進んでいく。
「うお、木の根スゲー」
登山道一帯に木の根が蔓延っていた。
ザワザワと風に揺られる頭上の木の葉。そのスキマから降り注ぐ太陽光がキラキラと降り注ぎ、どこか神秘的な雰囲気が漂っていた。
実に写真映えするなとパシャリ。
景色こそないが、この空間そのものがイイ。
ソロの寂しさも良い味を出している。
(登山を始めて正解だな。性に合ってる感をひしひし感じる)
ふと、生涯の趣味という言葉が思い出された。
誰か芸能人だったか……。その人は釣りをやり始めて『あぁ、これは生涯の趣味になるな。なんでもっと早くやり始めなかったんだ』とテレビで語っていた。
私はソレを登山に感じた。
気ままに独りでもやれて。
景色や登頂に達成感を感じ。
程よいスリルに震えて、頂上という明確な目標に一直線。
そして心地よい疲れに包まれながら、筋肉と体力が鍛えられる。
(いやぁ、登山最高だな。体が勝手に鍛えられるってのがまたイイ)
私は『動けない体になりたくない。太りたくない』というネガティブな理由で軽い筋トレやランニングをしているのだが、その観点からしても登山は優秀だ。
まだ1000m以下の低山しかやってないが、普段の筋トレとランニングでは鍛えられない部位にクる感じがする。
結論。登山はいいぞ。
でもあんまり人が増えすぎるとせっかくの寂しさが薄れてしまうので、ブームは巻き起こらないでほしい。キャンプのヤツはもう手遅れだ。
「ん?あ、どうも」
「あ、どうもー」
ゴチャゴチャ考えながら、けれど無心に登っていると、先ほど私を追い抜いた奥さん2人に追いついていた。
軽く会釈して先に行かせてもらう。
そこからもうしばらく歩くと……
「お、もしかしてアレが……」
──10:10。
目当ての男鹿岩に辿り着いた。
「デケー」
調べた時に写真を見て知っていたが、やはり実物は迫力が違う。
背丈をはるかに超える岩の塊が、ちょっとした崖にせり立っていた。
この岩の上に登ってもいいらしいので、早速取り付いてみる。
(ザックは……背負ったままでもイけそうだな)
初クライミング……といってもそんな大仰ではない。
凸凹に手をかけ足をかけ、直ぐに岩の上に立てた。
上は割と平面で立ちやすい。
岩の背丈と小高い崖的な地形で、正面は落差があってけっこうな高度感が出ていた。
「おぉ、割と恐いな。……でも居心地イイ」
背後は木々が生い茂っていて風を受け止めている。
太陽の光がサンサンと降り注いで岩に反射し、ポカポカと暖かく快適な空間になっていた。
登山口から30分ほどでこの満足感。
道も一本道だし、登山と構えなくてもフツーに観光感覚で来れそうだ。
「こんにちはー。おー、デカい」
岩の上を満喫していると、奥さんたちがやって来た。
丁度いい。そろそろ行くか。
私は岩から下りて、代わりに岩に登る彼女たちを尻目に登山再開。
と言っても歩き始めたら直ぐに頂上だった。
最後に多少の急登を踏破すると──
「うおっ。広っ」
──10:25。弓立山426m登頂。
今まで深い森だったのが嘘のように、だだっ広く開けた芝生空間が出現した。
関東平野が一望できる、遮るモノのない大パノラマ。
今日は風が強く快晴という事もあり、はるか遠くまで見渡せた。
頂上にはすでに2組の登山者の姿があり、思い思いに過ごしていた。
「とりあえず登頂っと」
景色をバックに頂上を示す標識を撮る。
周りにはいくつか木製のベンチがあり、ザックを下ろしてそこに座ってひと息入れる。
お昼には少し早いがメシを食べよう。
ザックから菓子パンを取り出してモグモグしながら頂上を散策。
けっこう向こうにまで芝生の丘が続いており、行ってみる。
「えっ。なんか道路があるんだけど」
私が来た道からは見えない位置に、舗装道路があった。
まさかの車で登頂できるルートがあるのか、弓立山。
後で調べたところ、南側から登る登山ルートが存在していて、ほぼ頂上付近まで車で来れるそうな。流石に山頂までは車で来れないらしい。
しかし、下界と繋がる人工物があると少し……いやだいぶモニョるな。
何だか『ムダに疲れてご苦労さまw』と言われてるような錯覚に陥る。被害妄想だが。
これがさっき登ってる最中に『心地よい疲れ~』とかほざいていたヤツの内情である。人の感情とはままならない。
「お、スカイツリー見える」
気を取り直して景色を見渡せば、遠くの空に薄らとビル群とスカイツリーの姿が確認できた。
冬の澄んだ空気だからか、割とハッキリ見える。
たった400m。されど400m。
もっと高い山に登ったらもっと良い景色が拝めるんだろうな……
「よし、行くか」
パンのゴミを荷物に突っ込み、白湯を一口飲んでザックを持ち上げる。
気持ちを早くも次の山に向けながら、私は弓立山山頂を後にした。
帰りはサクサク進んだ。
男鹿岩にまたちょっとだけ登ったり、犬を散歩に連れてきている人とすれ違ったりしながら11:30。
「無事下山」
麓の駐車場に帰ってきた。
朝来た時より少しだけ車の数が増えていたが、敷地が広いので閑散としている。
さて、思いのほか早い下山となったが、実はまだやる事があった。
「よし。じゃあ温泉行くか」
この近くに雰囲気のいい温泉があるのだ。風呂好きを自負する私に行かない選択肢はない。
といっても、その温泉は過去に何回か行ったことがある。というかここら辺は割と来た事のある地域だった。
まだ登山に目覚める前の、キャンプだけをしていた頃。
ここから比較的近くにキャンプ場があり、その時に利用していたのだ。
「……と、温泉の前にそこの河原見てこ」
この駐車場、道路とは反対側に川が流れていて、そこへ下りていける。
山を登る前に階段が見えて気になっていたので、ちょっと覗いてみる。せっかく駐車料金を払ったんだから隅々まで満喫しよう。
「へぇ。メッチャ良いじゃん」
そこは、清流という言葉がピッタリ当てはまるような美しい景観だった。
せせらぐ水流。
転がる大小の緑の岩たち。
降り注ぐ木漏れ日。
まるで山奥の渓谷にでも来たような風景だ。
「岩がメッチャ転がってる」
巨岩、とまではいかないが、立派なサイズの石がゴロゴロ。
流れを塞き止めるように立ち並ぶその上に立ち、水面を覗いた。
水深はそこまでなく、川底がよく見えた。
なんだか存外に居心地いい場所を見つけてしまった。ここにイスでも持ってきてコーヒー豆をゴリゴリ淹れて読書でもしたらQOL爆アゲ間違いなしだ。
そう思いながら畔の探検を続けていると──
(ん?何か向こうに人影が……)
QOL高い人、居た。
イスに腰掛けローテーブルを展開し、ガスバーナーで何かコトコト沸かしつつ読書してるおひとり様の男性が。
チラリと一瞥され、私は会釈してそそくさと退散した。
すみません、せっかくのステキ空間をお邪魔してしまって。まさか本当に居るとは思わないジャン。
「じゃあ俺は温泉でQOL上げよう」
というわけでバイクに戻ってきた私は温泉に向かう。
歩きで行こうとしたが地味に距離があるので、湯冷めを危惧した私はバイクに跨って駐車場を出発。
5分と掛からず温泉へ。
「久しぶりに来たな、ここ」
通りから外れて小道を走った先。
雰囲気はこぢんまりとしているが、そこそこ広い駐車場にてバイクを停めた。
前回訪れたのは何年前か……。何も変わってなくて安心だ。
記憶を手繰り寄せ、勝手知ったる風に受付を済ませる。
入ってすぐの左手が畳の休憩所になっており、既にそこで休んでいる客のダラダラが感染してくる。
私も早くダラダラしたいので、早速温泉へ。
ところでこの銭湯、温泉へと続く縁側チックな廊下には足湯もあるのだが。
これってどのタイミングで利用すればいいのか。入浴前後のどちらでもビミョーな感じがする。
まぁとりあえず温泉だ。
ここはシャワーと内湯と露天風呂だけのシンプルな造りだ。他にはなんのギミックもない。
ちょっと向こうに行けばギミックたっぷりな他の温泉施設があるのだが、私は今居るコチラの方が好きだ。人も少ないし。
「ふぃ〜……あったまるぅ〜……」
そんなワケで入浴中はただボーッとするだけなので、割愛。
入浴後。
私は飲み物片手に足湯を満喫していた。
火照った体に2月の風が吹き抜ける中、足下はポカポカ。
そこにキュッと炭酸飲料。
………………あぁ、酒が飲みたい。
どうして温泉施設には酒を売る自販機が常備されているんです?温泉の後は呑みたいに決まってるからだっ!(血涙
炭酸飲料でノドを誤魔化しながら、ドライバーはひたすら黄昏れた。
この温泉施設は多分時間の流れがゆっくりになってるな。
静かだし、敷地は広くて全体的にゆったりしているし、人も少ないし。
……しかし、なんだ。
(腹が減ったな)
山頂で菓子パンを食べた以外、まともに食べてない。
私はスマホで近くのメシ屋を検索。
するとバイクでちょっと行った所に洒落たカフェがあった。
割とコーヒー屋巡りもするので、寄ったことの無いカフェに足を運ぶのに躊躇はない。
充分黄昏まくって湯冷めの心配もないので、バイクに跨り早速出発。
駐車場が見分けづらくて1回通り過ぎてしまったが、13:40、無事にカフェに辿り着いた。
「こんにちはー」
他に客は居なかった。
あたたかな木目の床と広いテラスに、シックな家具類。部屋の一角に立ち並ぶコーヒーの器具たち。
物珍しげに見ていると、奥から店長が。
「いらっしゃい。お好きな席へどうぞ」
席に座り注文表を見る。
さっき調べたところ、ここはガッツリ食べる系の店ではない。
あくまでコーヒーが売りで、食べ物は添え物という感じのカフェである。
しかし写真で見たワッフルが実に美味そうだったのだ。
しかも甘い系統だけではなく、ツナやベーコンエッグなどのメシ系もある。しょっぱ味のワッフルなんて食べた事なかったから是非とも食べたい。
私はツナワッフルサンドを注文。届くまでは電子本でも読んでいる。
待っている間にワイフの2人組が来店した。会話的に近所の人たちのようだ。
「お待たせしました」
聞き耳を立てながら読書しつつ待っていると、念願のツナワッフルが来た。もうお腹ぺこぺこ。
そもそもワッフル自体久しぶりだ。
一緒に運ばれてきたコーヒーで口を潤し、温かいワッフルを頬張る。
おぉ……サクリと出来たての食感に、奥からじわりとツナの脂が染みてくる。
美味い。
ワッフルの生地が良い。甘さ控えめでツナを引き立たせるような、その中にフワリと香る甘い匂い。
個人的に結構な新感覚だ。
添えられたサラダをさっさと食べて、ワッフルに舌鼓を打つ。コーヒーでひと息つく。
このワッフル、普通にプレーンでも食べたいし、甘い系も味わいたい。
だが残念ながら、もうひと皿食えるか腹が微妙なところだ。さっきまで腹ぺこだったのに、少食がにくい……ッ
今後にまた来た時の楽しみとして、今日のところは帰った。
割とカフェ巡りをします。
最初は小説書くのに居心地いい店を探してただけなんだけど、『あっちのカフェは?』『こっちのカフェは?』と居心地のいい所を求めてバイクで寄りまくる内に趣味のひとつと化した。