2023年は出掛ける年にしよう。
登山に目覚め、バイクと車とフェリーを駆使して様々な場所へ向かった(当社比)。
そんな私がその年最後に出向く事になったのは、スーパー林道だった。超林道だよ。スゴそう。
「おあーっ、寒い!」
9:00、抜けるような青の晴天。群馬の多野郡にて。
私は凍えた身を温めたくて道の駅に漂着していた。
ここら辺は渓谷といった感じがしっくりする地形で、道がたいへん走りやすくついトバして来てしまった。
真冬なので冷たい風がさらに冷たく感じ、ガクブル震えて店内に入る。
「はー、あったか。生き返る……」
暖房に感謝しつつ、コーヒーと焼き芋を購入。最高だ。
目の前には神流川が流れ、それを眺められるように雰囲気のいいテラスが設置されていた。いわゆるリバーサイドテラス。
私は吸い込まれるようにそこへ座った。
「焼き芋うめぇ」
寒い冬空も、温かい食べ物と飲み物があればなんのその。
まだ早朝だからか、他の客は疎らだ。
そのほとんどの人の手には飲み物か焼き芋が握られている。これだけ寒いと食べたいよな、ホクホクの焼き芋。
澄んだ空気が流れる。
皆、テラスに座り、太陽で輝き山の影で暗い川を静かに眺めている。
非常に居心地のいい空間が醸成されていた。
「よし、行くか」
まだ全然食べ終わらない、割とデカめな芋をちびちび食べながら私は歩き始めた。
この道の駅にはそこそこ長めな吊り橋が掛かっており、神流川の向こう岸に渡れるのだ。
何故か他に渡る人が現れず、私が第一渡渉人になる。
「おぉ……けっこう高さあるな」
吊り橋の造りはしっかりしているが、割と揺れるし普通に真下も見える。わざわざ橋の中央の一部をくり抜いて網を張り、川を覗きこめる造りになっていた。
でもれが普通に楽しいので順調に渡っていく。焼き芋を食べながら。
「うおっ。凍ってんじゃん」
橋を半分以上渡り、山の影に差し掛かった所。
そこには霜が降りていた。橋の材質的に、気を付けなければ滑りそうだ。
歩調をゆっくりしっかりと意識して歩く。
「さすがに凍ってると怖かったな」
無事に渡りきった。
向こう岸には何か立派な社が建っていたので、コレを見に来たのだ。
他にも五重の塔とあずまやがあり、どうやら町産スギ材の神流杉で作られているようである。
まだ新しめだったので木材のいい香りがした。
一通り建造物を眺めて満足した後、吊り橋を帰る。
私が中腹に差し掛かったところ。
目の前から子連れの家族が渡り始めた。子供たちが先行している。
余計なお世話と思いながらも、待ったを掛けた。
「あー、すみません。向こうの影になっているところ、あそこら辺は霜が降りて滑りやすくなっているので気を付けてください」
突然見知らぬ人から声を掛けられた子供たち。面白いくらいに動きを止める。
私は不審がられないように大人組に会釈。というか、私はどちらかというと大人組に話しかけたつもりだった。
大人たちにもちゃんと私の声は聞こえていたようで、しっかり会釈を返してくれた。よかった。
「あ、どうも」
私が渡りきってから渡り始める家族。いい警戒心だ。滑らないよう気を付けろよ。
もう一度テラスに座り、吊り橋を渡る家族を眺めながら焼き芋を完食。
正直、内心心臓バクバクだった。
見ず知らずの他人に注意喚起とか、別に悪い事をしてるわけではないのに何故か罪悪感が湧く。
これだからコミュ障は。
「さて行くか」
家族が戻ってくる前に出発。逃げた。
ブオオオ、とエンジン音が寒空に響く。
「それにしても人通りが少ないな」
時刻的にももう混雑してもおかしくない時間帯だが、ツーリング民すらあまり見かけない。
思いがけず穴場に、私は懲りずにバイクの速度を上げた。
あまりにも順調過ぎて、瞬く間に次の道の駅に到着。
またしても神流川のほとりに建つ道の駅だ。
「ん?バイク専用駐車場があったのか」
駐車してから気付いた。
道の駅の向かい側、道路を挟んで向こうに屋根付きのバイク駐車場が。
といっても移動するのが面倒・コッチの駐車場ガラ空きなのでそのまま散策開始。
「建物メチャクチャ綺麗だな。最近オープンしたのか?」
どうやらリニューアルオープンしたらしい。
なんでもこの道の駅、群馬で一番最初に道の駅に認定された由緒ある場所らしい。今まで来たことなくてゴメン。
そして中に入ったのだが、生憎とまだ営業の活気はなかった。
まだ10時前だしな。客もほぼ居ないし、施設は新しいが淋しい雰囲気が漂っている。
でも私は人の少ない空間の方が好きだ。
店内を物色し、テラスへ出てそのまま神流川の河川敷へ。道の駅から直通だ。
川のせせらぎに耳を澄ませる。
「人がまったく居なくて居心地いいな。……ん?」
孤独を満喫していると、川砂利のこの河川敷に何処からか車がやって来た。
おいおい、いいのかここを車で走って……
車がやって来た方を見ると途中まで轍があるので、一応大丈夫らしい事が窺えた。多分。知らんけど。
不審な車はそのまま私の目の前を横切って行き(私はすでに道の駅の敷地内へエスケープ済)、川べりで止まった。私はさらに屋内へと避難する。
「釣り人かな?まぁいいや」
不審者が来てしまったので孤独タイムは終了。
そして時間も11時を回ったので、少し早いが昼メシを食べよう。
実は目を付けていた、いの豚のロース重をレストランにて注文。
他に客も疎らなので、直ぐにきた。
うな重のような器で運ばれてきたロース重。
カパッと開けると、タレの匂いが鼻腔をくすぐった。
これはもうウマい。
「いただきます」
ああ……ウマい。
肉が体に染み渡る。
先ほど焼き芋を食べたが、移動している内にすっかり冷えていたので料理の熱がじんわりと肉体に広がっていく。やっぱちゃんとしたご飯は最高だ。
「ご馳走様でした」
味噌汁と小鉢物もキレイに完食。
ふー……と余韻に浸る。
さて、もう少し休んだら今日の本来の目的地に向かいますか。
本日向かう場所は3つ。
上野スカイブリッジ。
不二洞。
そして
最初に目をつけたのはスーパー林道だった。グーグルマップを見ててその名前のスーパーさに目を奪われてしまったのだ。
しかし、いくらスーパーと言ってもただの林道なので、そこを走るだけでは些か味気ないと思い、近場の上記2つもついでで寄ってみる事にしたのだ。
ん?道の駅は目的地にカウントしないのかって?これはあくまで休憩だから。満喫はするが。
「よし。満腹になったし準備万端」
この先は飲食店に寄る予定もないので、腹ごしらえを済ませた私は意気揚々とバイクに跨る。
もう昼時目前だというのにまだ閑散気味な駐車場を出発。
「えーと、ここかな?ここだな」
私はバイクにナビ機能を搭載していないので、頭に叩き込んだ地図を頼りに目的地へと向かう。
大通りを外れて、傾斜のキツく整備もビミョーな、暗くて狭くて連続ヘアピンカーブな道を往く。
こういう時はバイク便利だな。こんな狭くて急坂な道に車でなんて来たくない。車はオートマだから、下りの時のエンジンブレーキ心許ないし。
順調に高度が上がって、そろそろ「この道ホントに合ってんのか?」と思い始めた頃。
「よかった。着いた……」
木々が拓け、生きている建造物と駐車場が見えた。
上野スカイブリッジと、総合案内所だ。
下の道を走っている時にもチラリと見えたが、高さ90m全長200m越えとあってかなりデカイ。山の中なので余計に白い橋が目立つ。
「駐車場広いな」
不二洞への受付の建物の前と、橋の手前と二段構造の駐車場。
私は橋の手前の方にバイクを停め、下りた。
「先に橋行くか」
スカイブリッジは目の前なので、早速渡ることに。
橋の手前の一角には、イルミネーションの枠が鎮座していた。今は昼間なのでただの装飾と化している。
「夜中にこんな所に来るか?道中恐すぎるだろ」
夜中にあの道を登ってくるかと思うと、道なり的にも雰囲気的にも恐すぎる。
まぁこの橋の向こうにキャンプ場があるので、その人たち用なのかもしれない。
「100円か」
橋を渡る前に案内板があり、そこに入場料を投入。
後腐れなく渡る。
「うーん。景色はいいけど、あまりにもしっかりした橋すぎる」
足下は網目だしまさに『天空廻廊』なのだが、造りがガッシリしていて安心感満載である。
別に、レジャー的な要素を期待して来たわけではないが少し肩透かしであった。ゆっくり景色を眺めたい人にはいいかも。
それはそれとして、景色は素晴らしい。
森の山の中、ポツンと高みで佇むロケーションは実に好みだ。
橋の真ん中でしばし黄昏れる。
「あ〜……向こう岸も見に行かなきゃ」
黄昏れタイム、終了。
渡った先にはキャンプ場やカフェなどがあるらしい。ぶっちゃけ寄るつもりはないが、ちょっとどんなモンか見に行く。
そうして橋を渡りきると、小さなトンネルに迎えられた。中はイルミネーションが光っていてネオンに明るい。
トンネルを抜けると、そこはキャンプ場だった。やたらと
私は散策した後、展望台に立って今渡ってきたスカイブリッジを眺めた。
良い所である。
良い所ではあるが、私はこの場所のターゲット層ではないな。
「ふぅ。洞窟見に行くか」
カフェも本日閉店で、キャンプ場も無人。
景色を眺める以外にやる事ないので、私は橋を渡り返した。
「うわ、人来た」
橋の中腹地点で、反対側からバイカーと思しき成人男性の集団が迫ってきた。
会釈して通り過ぎる私。
キャッキャッと無邪気にはしゃいでいるおじさんたち。かわいい。
そんな彼らを尻目に総合案内所へ。
次の目的地である不二洞へは、ここからこのまま歩いて行くのだ。
すこし寂れた雰囲気の、閑散とした案内所。
受付のおじさんから1人分のチケットを購入。
「けっこう歩くから気を付けてねー」
おじさんに見送られ、案内板に導かれるまま進む。
「ホントにだいぶ歩かされるな。しかも坂道」
案内所の裏手にある公園を過ぎ、そこそこ急勾配な舗装道路を行く。
前方から、見学を終えたであろう青年2人組が下りてきた。その若さで2人で鍾乳洞巡りとはだいぶ仲良いな。
「着いた。……物々しい扉だな」
──12:00。
折り返した道の先は行き止まりになっており、不二洞の案内板とそこへ続く扉があった。
え、この扉入っていいヤツ?関係者以外立ち入り禁止的な雰囲気なんだけど……
しかし扉の上にはきちんと『不二洞』と銘打ってあるので、扉を恐る恐る開ける。
「マジで入っていいのか?コレ」
中は遥か奥までトンネルの通路が続いていた。少し登りに傾斜している。
ここはまだ洞窟ではなく、ただの通路だ。まるで誰も居ないトンネルの工事現場に無断で侵入したような後ろめたさを感じながら、厚底のブーツが反響する空間を進んだ。
(すごい非日常感だな)
山、森の中。
誰も居ない薄暗いトンネルで。
洞窟へひとり向かって歩く。
ここから怪談チックな語りが始まりそうなポテンシャルがあるが、私に怪談の才能はない。
突き当たりにはまた扉があり、それを潜るとようやく鍾乳洞とご対面した。
「おぉ……あったか」
年間を通して温度が一定な洞窟内。
ここまで寒かったので常に手袋をしながら行動していたが、脱ぐ。
目の前には螺旋階段があり、登っていく。
鍾乳洞探索では珍しい、縦移動だ。
カツン、カツン、とゆっくり歩く。湿っているので転びそうなのである。
けっこう長い螺旋階段を登る途中にも、柵の向こうから鍾乳石のデコボコが私を歓迎してくれていた。
階段を登り切ると、不意に足下から声が響いてきた。どうやら人感センサー付きの音声案内らしい。
「びっくりした……。ちょっと怖ぇよ」
薄暗い洞窟の中、無機質な女性の声が静かに木霊する。案内はありがたく聞くが。
その後も、仏教にちなんだ名前を付けられた鍾乳石に近づくたび、その内容を音声が述べていく。
鍾乳石は赤や紫などで綺麗にライトアップされており、割とカラフルだ。
中でも『灯の柱』が圧巻だった。
この洞窟内で最もデカイ石柱。赤いライトに照らされて、まさに火が立ち上っているかのようだ。
あと、個人的に気に入ったのは『手洗い鉢』だ。
天井から伸びる鍾乳石の先端から滴る水を受け止めて窪み、鉢状になって蓄えている石筍。
一見すると地味な光景だ。だが考えてみてほしい。
鍾乳石や石筍が1cm伸びるのに、約50~100年と言われている。
目の前には膝くらいまで伸びた石筍の手洗い鉢と、天井から垂れる鍾乳石。
遠い未来、天井と床の双方が繋がって石柱になる過程の、その一瞬を私は今見てるのだ。
「鍾乳洞ってヤベェ……意味分からんくなる」
何千・何万年もの間、小さな小さな変化を続けながら変わらず存在している洞窟。
タイムスリップしていると言っても過言ではないのではないだろうか。
……過言かな。過言かも。
でも1cm砕いたら、そこはもう100年前の代物だぞ?どういう事だよ。
ともかく、人間のスケールで考えると途方もない年月で作り上げられた空間だ。自然の神秘、というありきたりな表現が本当に迫真に迫る。
「マジで恐い所だよな。洞窟って」
道中、突然飛来してきたコウモリにビビりながら進みに進んで、不二洞の最奥、『空穴』にて。
天井に小さな穴が開き、そこから眩い太陽の光が注いでいる。
その光を見上げながら、私は思いを馳せた。
調査された洞窟で安全を確保された私たちからすれば、外から差し込む光を見て「綺麗」などと気の抜けた感想しか出ないが、昔の人はこの光を見て九死に一生を得た感覚だったろう。
不二洞は1200年前に発見され、約400年前に初めて探検が成功された。
この迷宮のような洞窟を、昔の人は一体どうやって歩き回ったのだろうか。
順路もなく、明かりもなく、装備も今ほど発達してない時代。
全容すら分からない中、よくもまあ突入できたものである。入口の螺旋階段とかも昔は当然無いわけで、あの縦穴をどうやって攻略したんだ。凄すぎるだろ昔の人。
私は閉所恐怖症のケがあるし、絶対にマネ出来ないししたくない。
「外出ても森の中だしな」
最奥から少し戻って出口へ。
午後の太陽に目を細める。
出口は見晴らしのいい高台だった。テーブルや椅子があり軽い休憩所のようになっている。
関東最大級の洞窟だからな。ただの観光気分で来たら思いの外疲れること請け合いだ。
「いい所だったな、不二洞。金払って見る価値ある」
正直そこまで鍾乳洞に興味はなかったが、来てよかった。割とオススメ。みんなも過去に思いを馳せよう。
「さて、メインのスーパー林道に行きますか」
休憩を切り上げ、不二洞に別れを告げた。
駐車場へ戻るのだが、やはりと言うかなんというか、けっこう下る。
加えて、ビルの工事現場の足場みたいな簡素な狭い道だ。カンカンと軽い足音が山に木霊する。
右手は崖になって切り落ちているし、登山してなかったらちょっとビビりながら歩いていた事だろう。
そんな感じで不二洞の入口の扉にまで戻ってきて、そのまま駐車場、バイクへ。
スーパー林道への道のりを再確認し、出発。
「さらばスカイブリッジ、不二洞。いい所だったぜ」
もう一回来るかと言われたらちょっと唸るが、来て損はない秘境だった。
さて、余韻に浸りながらバイクを駆るが、スーパー林道への道のりは割と近い。
「ここ真っ直ぐ行って、突き当たり曲がりーの……あとはもう一度突き当たりまで道なり」
林道へと続く林道を走る。行き先も道だからややこしいな。
午後を過ぎて傾きの増した、冬の太陽の中で。
「うおっ、なんだアレ」
道中、山の一部がハゲ上がっていた。
木の根元部分だけが残り、その根元にはズタ袋が被されている。
ただの伐採だろうが、まるで死体が列を為して並んでいるようだ。まぁ実際に死骸と言えばそうなのだが。
他の車通りもなく、ひたすら山道を走る。
その後も2回、伐採の跡があった。ここら辺はそういう専用の場所なんだろうか。
「お。ここか」
そんなことを考えながら走っていると、目当ての突き当たりに当たった。
ここから念願のスーパー林道である。
「といっても、特に何かあるわけじゃないんだけど」
スーパー林道と聞くと何か凄そうだが、ぶっちゃけちょっと広めのただの道だ。正式名称、特定森林地域開発林道だ。
まあでも実際走ってみて、普通の林道とは一線を画すなと感じる。
普通の林道は、細くて狭くてグネグネしてて、ひたすら森林の中だから景色も無いし、道路には枝やら石やら流水やら、運が悪ければ陥没もしてる。
対するスーパー林道。
メッチャ快適。フツーに整備された山道だわコレ。
調べたところ、結構長いダートの部分もあるようだが、今日走ったところは全て舗装されていた。
バイカーにとって楽しいコースだ。今のところ他に走っている人は居ないが、夏場とかはツーリングの場になってそう。
ちなみに冬期は封鎖される。
今私は走れているが、この来週には封鎖される予定だとネットに書いてあった。ギリセーフ。
「展望台に続く道は……っと」
基本的に良質な道が続くだけのスーパー林道だが、何ヶ所か展望を望める場が整えられていた。
今日の最終目的地はそのひとつである。
「あー……さっきの小脇の道かな?戻るか」
展望台へと続く、それっぽそうな道を通り過ぎてしまったのでUターン。林道から外れて小脇に逸れる。
「うわっ、段差エグッ」
道幅は狭く、しかもだいぶ高低差のある減速ロードハンプにガクンガクンと揺らされる事(5、6ヶ所ある)、しばし。
道が行き止まった。
「着いたか」
──13:10、
駐車場は狭い。
バイクの切り返しもやっとなくらいなので、車で来るには不向きそうな場所だ。
巨大な一枚板のテラスと言えばいいのか。
その手前に停車し、エンジンを切る。
途端に静寂が訪れた。遠くの山あいからバイクのエンジン音が薄く聞こえてくる。
「おー。スゲェ景色いい」
テラスの先端に立てば、その景色が一望できた。
冬の抜けるような青空に、流れる雲。照る太陽。黒く連なる山々。
長い手すり部分には、この風景から見える各山頂の名前が写真と共に紹介されていた。ありがたい。
「お、スカイブリッジある」
私が先ほど渡った、白い橋の姿も見えた。数刻前にはあそこに居たのに、不思議な感じだ。
それから心ゆくまで黄昏た。
あとは帰るだけだし、時間も腐るほどあるので存分にゆっくりする。
「あーあ。落書きされてるよ」
下品な内容が手すりの一部に記されていた。まったく、DQNは情緒がねぇな。
ふと、何やら話し声が聞こえた。
背後を振り返る。
「居たのか、人」
行き止まりだと思っていた向こうに細い道が少しだけ続いており、その真の行き止まりに1人のおじさんが居た。
彼は小型バイクを傍らに停め、椅子を展開し、誰かと電話中だった。こんな所にもQOL爆アゲ野郎が居るとはっ。
まぁあちらさんは私の事を完全無視しているし、私も見なかったことにしよう。
もう一度景色を眺める。
「今年も終わったな」
さて、『出掛ける年』と定めたこの1年。2023年12月初旬。
まだ今年は20日以上残っているが、今のところもう予定は無い。年末はゆっくり過ごすつもりだ。
……しかし、こうして日記として
思い立ったが吉日の精神は我ながらアッパレだが、頭がパッパラパーなので現在も無事なのはひたすらに運が良かっただけだ。
登山は本当、誰か経験者と行ってください。私は変わらず1人で登り続けるが。
「来年はどうしようかな」
今年はたくさん出掛けたと自負しているので、少し自重しようか。
北海道という、長年重い腰を上げられなかった夢のツーリングも達成して満足感に溢れているし。
あぁ……樽前山を登頂出来なかったのは悔やまれるな。
後は富士山も山頂ガスって景色見れなかったし、その内リベンジしたい。
「ま、なるようになるか」
来年の抱負を見つけようとしたが、特に思い至らなかった。
今年の『出掛ける年』『歩くのが嫌いではない』が天啓すぎたのだ。これほどの衝動に出会うのはもうあまり無いだろう。
暇で退屈な人生を送っているしな。
こうして生涯の趣味を見つけた2023年は、穏やかにその幕を閉じた。
「やべぇ……今どこだここ。ッギャー!?圏外じゃん!」
御荷鉾スーパー林道からの帰り道。
ここら一帯はすべて圏外(私のスマホのキャリアは。電話おじさんは違うキャリアなのだろう)だったので、帰り道を調べてなかった私は苦戦を強いられた(調べとけよ。いやどうせ覚えきれないから現地で調べようとゴニョゴニョ)。
そうして知らない道から下ったのだが、最終的に吊り橋の道の駅に戻ってきて結局行きの時と同じ道から帰る事になった。
なんとも締まらない終わり方である。
2023年編、真の完結。