深夜渡航   作:へるしぃーぼでぃ

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24.1/14、人生2回目スノーボードへ(.20年初回)

 

 

 

 

「というわけで、先週俺はあの山に登ったんよ」

 

フロントドアガラスの隙間から、シュゴオオオ……と静かな風切り音が車内に響く。

北関東自動車道を爆走している現在。

ちょうど目の前に荒船山の山容が見えたので、私は運転席の弟に指で差し示した。

 

「え。あんな山あったんだ」

 

弟が素直に驚いた声を上げる。

荒船山の奇形をたった今認識したようだ。ウチからいつでも見えるんだけどな、一応……

興味がないと、山というデカいモノですらこうして認識できないらしい。

やはり興味関心を持つことは重要だと、図らずとも第三者を介して確認できた。

弟のおかげで持論が補強された私は、ついでとばかりに誘ってみた。

 

「変な形の山だろ。登山してみる?」

 

「やだ。俺はボードだけでいい」

 

北関から関越に移るJCT(ジャンクション)のカーブで、私の登山の誘いはGと共に流された。

 

──現在、私は弟の運転で神立スノーリゾートへと向かっていた。

今回の目的は、スノーボードだ。

暇を持て余していた私に、ボードに激ハマリしている弟から珍しく誘われたのだ。

弟はいつも、一人もしくは友人などと行くので、私が誘われるのは本当に珍しい。というか初めてである。

久しぶりに兄弟水入らずのお出掛けと相成った。

だけど私、まったく滑れないんだよな……

蘇るのは苦い記憶……。私の人生初スノーボード──……(長い回想に入りますが、日記なので大目に見てください)

 

 

 

 

──2020年1月。

この時はまだ登山の『と』の字にも意識が向いていない頃。

ツーリングしてたまにキャンプするのが休日の過ごし方だった私は、冬の寒さに負けてコタツでグータラ生活を送っていた。

 

「暇だな。なんか新しくやってみるか」

 

というわけでウインタースポーツをほとんどやった事の無かった私は、思い立ってスノーボードに挑戦してみたのだ。

もちろん、一人で。

この時はまだ弟もスノボを始めていない。頼る人もいないし、そもそも誰かに頼る気もなかった。私は誰かと行動を共にすることが苦手なのだ。

社会人になってからすっかり独身ムーブが板についた私だった。もちろん悪い意味で。

人に頼ることを恥とする哀れなモンスターは、さすがに雪道はバイクで走れないので、スタッドレスを履いた車でGOする。

そうして辿り着いた川場スキー場にて。

 

「よく分からんがとりあえず受付に行こう」

 

下調べをまったくしていなかった私は、溢れるパッションのままに屋内へ足を運んだ。

天気は若干の降雪に、そこそこの風が吹き荒れていた。あまりよろしくない天気だ。

だが久しぶりの雪・初めてのアクティビティに私のテンションはうなぎ登りだった。

ウキウキで受付を済ませ、靴を選ぶ。28cm。

だがここで本日最初の関門が立ちはだかる。

 

「……ふむ。どうやって締めるんだ?」

 

スノボ専用の(ブーツ)の、履き方である。

長〜い紐に、ダイヤル。金具。

私はしげしげと眺めて推理する。

長い紐は単純に締め上げるだけか。ヨシ。

ダイヤルの方は……押したり引いたりするとパコパコ動き、回転する。なるほど。これで金具を引っ張ったり緩めたりするのだろう。

……だがなぜか締まらないな?

 

(うーん、やべ。分からん。カンニングしよう)

 

今、私は大学生と思しき団体に囲まれていた。

傍目からも彼ら彼女らは経験者と初心者の混合パーティだったので、レクチャーしている場面を盗み見て履き方を覚えた。

固定完了。

 

「よしよし。っうお、歩きづらッ」

 

足首の可動域が封印されてしまった!こんなにガッチリするのかスノボ靴。

歩けないことはないが、ハチャメチャに歩きづらい。

周りは普通に歩いているように見えるが、全員この窮屈な状態なのか……!?

私は戦慄しながらフラフラと歩き、ボードを受け取る。

ボードは左足が前に来るレギュラーを選択。

正直どっち向きでもイケる感じがしたが……、とりあえず早速雪の上に行こう。

 

「あ、やべ。サングラスを車に忘れた」

 

外は雪と風が舞っている。裸眼では厳しいだろう。

一応持ってきておいたサングラスを車に置きっぱだった事を思い出し、一旦ボードは専用の置き場に置いて車に戻る。

 

「すこぶる歩きづれぇぜ……!」

 

履き替えるのを面倒くさがって、スノボブーツのまま館内を歩く。

だが段々歩き慣れてきて無事に車に辿り着き、サングラスを入手。

 

「ついでに帽子も買っとくか」

 

館内ショップにて赤のニット帽を購入。なんとなく被った方がいいと思ったのだ。

この時の私の格好は、冬にバイクを乗る時の装備まんまである。

アウトドアショップのオシャンティーで機能的なお高いヤツらだ。

 

「いざ」

 

そんな感じでようやく雪原に出た。

平日だというのに結構な人集りだ。人が居ないのを期待して来たが……結果的に人が居て良かった。

何故なら、手本に出来るからだ。

……ほう。平坦な場所ではボードに片足だけ固定して移動するのか。

じゃあ早速板に足を乗っけて……足を固定するのはどうやって……?キョロキョロ。なるほどそうやるのか。

こんな感じで盗み見てスノボのスキルを伸ばしていく。我ながらあまりにも不審者ムーブすぎる。

 

「おー。滑れる滑れる」

 

スー、と平坦な場所を片足で滑って移動する。なんか割と普通に出来るな。これは才能が開花してしまうんじゃないか?

そんな感じで滑る感覚を何回か練習し、いよいよ本番に赴く。

受付にて購入したリフト券は胸ポケットにしまっており、ピピ、とゲートにかざして入場。

さぁ、第二の関門、リフト乗降だ。

 

「まぁ何とか出来そうだな」

 

行列の先頭を見ながら乗り方の学習をしていく。

リフト席の前に入るタイミングが命だな。

まぁ係の人に「行け!」って言われるから、その通りに動けばいいだけだ。

そして私の順番が来た。

 

「はい前入って!」

 

係の人に誘導されて動く。

私ともう一人、知らないお客さんと横並びになって勢いよく座った。存外揺れる。

ボードが少しガリッとしたが、大丈夫だろうか?地味にリフトのスピードが速いので、ヘタしたら足首とかグネりそうだ。

安全バーが下ろされ、そのまま足が地面から離れていき、ボードの重量が片足に伸し掛る。

 

(重いなボード……!)

 

固定していない方の足で下から支えてブラブラしないようにする。

皆平気な顔しているが、結構ハードじゃないか?ボードを支えるの。

ともあれ、後はこのまま座して待つだけだ。

ショルダーバッグからスマホでも取り出したいところだが、落としたら恐い。中々の高度感だし。

だったら景色を堪能したいところだが、生憎とこの天気だ。遠くの景色はホワイトアウトしている。

そしたらもう、真下を滑っていく彼らを見るしかないだろう。

凄い勢いで滑っていく上手い人。

手を繋いで、滑れない人を先導している人。

派手に転ぶ人。

 

(楽しそうだな)

 

もう少ししたら滑れるかと思うとワクワクしてきた。

初めてのスノボなので上手く滑れるかは分からないが、脳内イメージはもう完璧だ。

私は、私が華麗に滑走している姿を眼下に幻視した。

段々寒くなってきたし、早く滑りたい……!

そんな私の気持ちとは裏腹に、ガコン!とリフトが止まった。

 

「うお、なんだ?」

 

キョロキョロ見回す私を他所に、直ぐにリフトは動き出す。

リフト乗降失敗ストップタイムを、この時の私は知らない。

その後も何回かストップを繰り返す事しばし。

ようやく降下場所に来た。

この時になってようやく私は「これ、降りる方が難しくね?」と気付く。

必死になって前の人の降り方を見やった。くそっ、見づれぇ……!

そして直ぐに私の乗るリフトが到達……

 

「っう、ぉおおお!ッぐはァ!?」

 

前の人が着地と同時に滑っていったので、私もマネして何とか滑り出したが……。

乗降口から脱した瞬間、緩い傾斜でバランスを崩し派手に転倒した。

幸いにもリフトを止めるハメにはならなかったが、転んだショックが強かった。っバカな、脳内イメージでは颯爽と駆け抜けていけたのに……っ

このちょっとした傾斜だけで、いとも容易くバランスを崩してしまった。

ヤバいな。スノボ、私が想像していたよりも難しいかもしれんっ。

転んだ場所はまだ乗降口の真ん前なので、次の人が次々やってくる。

私はハイハイでその場から離れた。

 

「はぁ……はぁ……立ち上がるのすら難しいっ」

 

隅っこに避難した私は、両足を固定していざ滑走の準備を始めるが、色々上手くいかなかった。

雪に埋もれて固定具が見えない。

両足固定したら上手く立ち上がれない。移動しづらい。

人が多い。

 

「おいおい、一筋縄じゃいかないなスノボ」

 

まだ滑り出してないのにこの有様である。

ぶっちゃけもう帰りたくなってきた。

初めての事を単独でやり始めるのは、メンタル的によろしくないなと今は思う(登山も一人でやり始めたが、非推奨です)。

だが今は一人でやるしかない。実際に滑って感覚を掴めっ。

 

「よし。行くぜ!」

 

傾斜の前に立ち、前方に誰も居ないことを確認し、いざ!

 

「……お。お、お、……ぉぉおおお!?」

 

私の初めての滑走は、真っ直ぐストレート。

斜面に対してボードを直角に構えたのだ。私は愚か。

案の定、直ぐにスピードに乗る。

メ、メチャクチャ恐い!?

ブレーキっ。ブレーキどうやるんだ!?減速するにはぁぁあああ!!

ズシャァアア!と見よう見まねでボードを傾けた瞬間、派手に転倒。

スピードが乗っていたので何回転もして、ようやく停止した。

ヒュウゥ……と冷たい風と雪が私の背を撫でる。

 

「こ……こわ〜。スピードの制御が出来ねぇ……」

 

バイクや車に乗ってるんだからスピードには耐性があると思っていたが、違う。

アレらはブレーキ機能が正常に機能するのを知っているから恐くないんだ。

対してスノボ初心者は違う。

減速・停止技術を習得していないから、スピードが出ると一瞬でパニックになってしまう。

早急にブレーキの技術を習得せねばならない。

 

(でも、流石に見ただけじゃ分からないな……)

 

周りには軽快に滑る人たちが大勢居るが、私は『見れば分かる』ほどの優秀な観察眼は持っていない。

この身で失敗しながら覚えていくしかない。

 

「でももう恐くなっちゃったな」

 

もう一度滑り出すのが、もう恐い。

雪の上だからダメージ少ないと思われるかもしれないが、意外と固まっているのだ。雪。

ケツ痛い。

しかしもう、滑っていくしか選択肢はない。

私は覚悟を決めた。

 

「行くぞ……!ぉおおお!」

 

前方に人が居なくなるのを待って、滑走。

とにかく今は下りる事を優先。再びストレートで滑る。

だが。

 

「うお!?」

 

雪の段差で足を取られ、あえなく転倒。

盛大に転んだ。

 

「ぐっはぁああ!?……痛ッてぇ……帽子とグラサン飛んだ……」

 

またしても数回転し、今度は装備品が吹き飛んだ。

私はキョロキョロ辺りを見渡し……ギョッとした。

背後から人が転んできたのだ。

 

「うおおお!?」

 

咄嗟に腕とボードでガード。

普通に激突したが、なんとか大ケガは免れた。

 

「うああすみません!大丈夫ですか!?」

 

「……は、はい。大丈夫です」

 

私にぶつかったのは、私と同じ初心者ぽい人だった。

その背後には付き添いらしき人が立っている。コッチは経験者ぽい。

二人はしきりに謝ってから、その場でレクチャーを開始する。

私は聞き耳を立てた。

 

「だから、最初はジグザグにゆっくり滑るんだって。ボードはもう斜面に対して真横でもいいくらい」

 

なんと。ちょうど今私が知りたかった情報だ。

二人がそのまま滑っていくのを、私は座り込みながら見送った。

なるほど。確かにメッチャゆっくり滑ってるな。あれなら私でも出来るんじゃないか。

帽子とグラサンを回収し、私も試してみる。

斜面に対してほぼ横移動だが、ゆっくり滑れる。

しかし。

 

「おいおい方向転換どうやっ……ッんぐぉお」

 

ゲレンデの端の斜面の壁にぶつかった。

危ねぇ……もし逆の端に行ってたらアッチは崖状の斜面だ。あれ落ちたらどうするんだ?

方向転換の術も急務だ。

こればっかりは自分の感覚を掴むしかないだろう。

ッぐうぅ、中々滑れないな。想像の中(イメージ)じゃ華麗に滑れてるんだがな。

 

──持論だが、やった事ないのにやたらイメージが上手いモノは、実際は輪をかけて全く出来ない。

理想が高すぎて落差があり過ぎるのだと思われる。

さらに今回の私は師事も受けてないので尚更だ。

スポーツは抜群の運動神経がない限り、一人でやり始めるものではないと身に染みた。

 

「でも、今は頑張って下りるしかない……!」

 

とりあえず一度屋内に帰りたい。

私はその一心でゆっくり斜行したり、人が居ないタイミングで真っ直ぐスピードに乗って滑走した。

 

「っぐは!?……ックソォオ!」

 

転倒。横転。ひっくり返る。

まったくこれっぽっちも上手く滑れず、私は雪からガバッと起き上がり思わず叫んだ。

吹き荒れる風が叫び声を攫っていく。

ていうか寒い。

風が明らかに強くなっている。

それに度重なる転倒で服の隙間から雪が入り込み、冷たい。

気は荒ぶっているが、物理的に体温が奪われていた。

早く戻らなければマズイ。

だがまだ建物すら見えていないし、一体どれだけ滑ればいいんだっ。

焦りから視野が狭まり、ただでさえ初心者丸出しの動きも精細さを欠いていく。

地面の雪が固い。

受け身に失敗して手首が痛い。

それでも少しずつ少しずつ滑っていき、ようやく……

 

「はぁ、はぁ……、っ帰ってこれた……」

 

施設にまで戻ってこれた。いきてる。

最後は緩やかな斜面をゆっくり転ばずにフィニッシュし、ボードから足を取り外す。

 

「あぁ〜疲れたっ」

 

ボードを立て掛け、そこら辺の椅子に座り込む。

大変な目にあった。ボード難し過ぎる。

私はスマホを取り出そうとして……バッグが雪だらけになっているのに今気づいて雪を払い落とす。バッグの隙間という隙間に雪が入り込んでいた。

 

「バッグも預けといた方が良かったか」

 

今更ながら後悔に、こちらも今更ながらスマホで『スノボ 初心者 滑り方』で検索。

だがあまり有用な記事は見つけられなかった。やはり最終的には自分の感覚がモノを言うらしい。

大学生スノボ初心者のもう二度とスノボ行かないブログを読みながら、そのままダラダラと休憩する。

 

「人、多……」

 

私が座ったのはレストランのある場所だった。

時刻も昼なので少し食べようかと思ったが、あまりにも人が並んでいたので結局食べなかった。

しかし、それよりもスノボだ。

もう一度滑りに行くか、どうするか。

自分があそこまで滑れないとは。もうまったく上手く滑れるイメージがない。

何より、ケガが恐いな。

すでに手首がジンジンする。転ぶ時に変な着き方を何度もしてしまった。

あとケツ。臀部も痛い。雪がなんであんなに硬いんだ。

正直もう帰りたいが、まだ一回しかチャレンジしていない。金も機会も勿体なさすぎる。

せめてもう一度挑戦するのが勿体ないに対しての回答だが、予感がする。

手首折れるな、と。

私は迷った。

滑らないと勿体ないが、ケガはしたくない。

上手く滑れればいいが、もうイメージが湧かない。

とりあえず私は、ボードを持って一度外に出た。

 

「うーん。寒い」

 

体は完全に冷えきっていた。

平坦な場所で片足滑りをしながら、次の行動をどうしようか考える。

すると視界の端に、その場所が映った。

 

「お。初心者用?」

 

そこは、リフトの隣に設けられた小型の勾配。

段差のないエレベーターが稼働し、そこで何人かが滑る練習をしていた。子どもも居る。

 

(これだ!)

 

リフトに乗って山奥からのロングラン(私的には)するのは恐いが、この小さい坂なら直ぐに帰れる。

ここで練習して、自信がついたらリフトに乗ろう。

そう思って早速練習を開始したのだが。

 

「痛ぇー!」

 

雪がもはや氷。

3回くらい滑走したが、雪が固すぎて練習どころではなかった。雪じゃなくて氷だよコレ。

私の答えは決まった。

 

「よし!帰ろう」

 

13:30。

私は帰宅を決意した。

雪がパラパラ舞い散る中。

川場の道の駅にやってきた私は、隣接する温泉に浸かって正面の雪山を眺めていた。

 

「うわっ。めっちゃケガしてんじゃん」

 

裸になって気付いた。

右肘から前腕部に掛けて、線状にアザと少々の血が出ていた。

これ、激突された時のヤツだな。形的に相手のボードのエッジにやられたみたいだ。

あの時は興奮状態で痛みが無かったのか。今も正直そんなに痛くないが、見た目が痛々しい。

 

「はぁ〜……ウインタースポーツ、ムズい」

 

体をよく洗ったあと、露天風呂にてしみじみと呟いた。

 

「うん。スノボはもういいな!」

 

私は自分の人生からスノボを除外した。

 

 

 

 

──それから数年後、2024年1月。冒頭。

除外したはずのスノボに、私は再び挑戦する。

頼むぞ弟よ。私に滑り方を教えてくれっ。

 

 

 

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