深夜渡航   作:へるしぃーぼでぃ

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24.2/11~12─大乱闘凍った筑波山

 

 

 

「ッしゃ死ねぇえ!」

 

「ぎゃああ!?く、クソ……っ」

 

「よーし最下位だなぁ。はいじゃあレモンに塩乗っけて……はい直ぐテキーラ!」

 

ぐうぅ……!この令和の時代に、なんて時代錯誤な飲み方をさせるんだっ。

だが仕方ない。この空間の罰ゲームは皆に平等。私はまだ負けた回数が少ない方だし……仕方ない。

私はコントローラーを置いて、左手に琥珀に満たされたショットグラスを。

右手には小盛りの塩を振りかけられたカットレモンを準備する。

塩レモンにかぶりつき、すぐさまグラスを傾けた。

 

「……ッ!ぷは、はい飲んだ。次やろう次」

 

「ゥイご苦労。俺にももっとテキーラ飲ませろやカス共!」

 

「じゃあ飲ませるよ」

 

「うわぁ。すげぇカオス……」

 

──2/11、23:00。

 

兄宅にて、兄と私と弟と、弟の友達の4名で某大乱闘ゲームに興じていた。

そして上記の通り、対戦毎の最下位には塩レモンテキーラショットの刑という罰ゲームが待っている。

……テキーラはいいんだが、塩レモンがちょっとな。

罰ゲーム発案者の兄は美味しく呑んでいるが、正直キッツい。だからこそ罰ゲームなのだが。

ちなみに酒の強さでは兄が最強で、大乱闘(ゲーム)の方は弟がブッチギリで最強である。1体1(タイマン)だとほぼ確で弟が勝つ。

だが今の戦況は乱闘だ。加えてアイテム有り、ステージもランダムと偶然が絡む要素も多い。

今のところ、罰ゲームは平等に皆の喉を灼いていた。

一番テキーラを飲んでいる兄が赤ら顔で言う。

 

「あ。テキーラこれで最後だ。次でラストにすっか」

 

戦いは白熱し、いつの間にかボトルを一本カラにしていた。飲みすぎだろ。

時間はもうそろそろ日付が変わる頃合だ。

明日も休日だが皆それぞれ予定があるので、お開きにも丁度いい。

 

「よぅしラストバトル開始だぁ!」

 

「よっしゃぁ!」

 

「ぶっ殺す!」

 

「しゃあ!」

 

全員へべれけに酔っているので威勢よく叫ぶ。

それでもコントローラーは緻密に操作していて、口のうるささと手元の静かなガチャガチャ音が対比的だ。

ちなみにコントローラーの機種は弟とその友達はSwitchで、私と兄はゲームキューブだ。世代。

私と兄はさらに遡って64まである。カスタムするロボでスティックと手の平の皮がボロボロになるまで遊んだものだ。

話が逸れた。

そんな思い出に花を咲かせていたら、いつの間にか私と弟の一騎打ちになっていた。

まさかの兄が一抜け、弟の友人が二抜け。

 

「うぅ〜い!ザコが!兄をナメるなよ!」

 

「二人ともガンバ!塩振っとくね」

 

うるさい外野は無視して画面に集中する。

私のキャラはキツネで、弟はオレンジのメトロイドロボ。最終戦とあって互いに最も得意なキャラだ。

 

「うわっ。いつの間にか溜めMAXじゃん」

 

「フッ。使うまでもない」

 

3ストックからの互いにラスト残機。

さらにダメージ数値も、あと一発大技を喰らえば復帰はほぼ不可能な状態。

相手は私より格上の弟。だが乱闘ゆえに状況は互角だ。

 

一瞬の駆け引きが勝敗を分ける……!

 

小刻みな移動──

牽制の小技──フェイント、からの狐のダッシュ蹴りが入った!

だがまだ決定打ではない。

吹き飛ぶオレンジの機体が斜め上の空から落下してきて、私がトドメを刺しにジャンプして近付いた瞬間!

溜めMAX主砲が放たれた!──のをリフレクトバリアで反射し、弟を吹き飛ばした。

GAME SET!!

 

「しゃぁ!」

 

私は思わずコロンビアポーズだ。

弟が驚愕に目を見開く。

 

「っな!?なぜ主砲を使うなんて分かった……」

 

「いや、あからさまに使わないなんて言うから」

 

あんなん言われたら絶対使ってくると思った。

(じぶん)の方が強いという慢心かつ、私がバリア持ちのキツネだからこそ敢えてトドメは主砲でマウントしてくると読んだのがキレーにハマった。気持ちいいー。

わざわざ『溜めMAXじゃん』と私がセリフを零したのも布石だ。誘導だよチミィ。

フッ。ネットでばかり対戦しているから現場の駆け引きに慣れていないようだな。こちとら64のスマブラの頃からひたすら兄にボコボコにされてたんじゃい。

 

「はいじゃあ栄えある敗者の祝杯ー。よーしじゃあ解散!」

 

弟が最後のショットを流し込み、熱狂の大乱闘は幕を閉じた。

いやー酒飲みながらやる大乱闘は楽し過ぎるな。いつの間にか日付も変わってるし、水飲んで寝よう。

明日……というかもう今日か。私は登山する予定だしな。

 

 

 

 

──翌日2/12、10:00。

 

私はXJR1300と共に、1年ぶりの筑波山神社……の付近の駐車場に辿り着いていた。

予定外の深酒と夜更かしだったが、起きようと思えば意外と起きれるものである。あまり褒められた行動力ではないが。

さて、着いたはいいがひとつ問題があった。

 

「いやここじゃねーんだわ。俺が来たかった駐車場は」

 

道を曲がり間違えて、前回と同じ登山道となる神社の場所に着いてしまった。

筑波山にはルートがたくさんあり、今日は標高がもう少し上の通称『おたつ石コース』を登る予定だ。

私は駐車場を提供している店主に「停める場所間違えました」と伝える。停車わずか5分ほど。

店主からは「駐車料金返すよ」と言われたが、固辞。何も買ってないし、いいぜン百円くらい。

道程を改めて再出発。

今度は予定通り進み、グングン標高が上がっていく。

耳がバリバリと鳴る。

 

「うおっ。雪あんじゃん」

 

道端には固まった雪があった。

そういえば6日頃(1週間前)に、珍しく関東平野に雪が降り積もったのだった。

もう1週間経つから完全に油断していた。平地では瞬で消える雪も、山の上では平気で残っているようだ。

しかし、言うて1000mにも満たない筑波山だ。

降雪量も大したことないし、そんなに影響はないだろうとこの時の私は楽観視した。

 

「よし着いた」

 

お目当てのおたつ石コースへ向かう、つつじヶ丘駅に無事到着。

山頂まで一番短いコースとあってか、そこそこの賑わいだ。

バイクを専用駐車場に停め、辺りを見渡す。

ほどほどの賑わいを見せる売店や、山へ伸びていくロープウェイ。

登山道の手前には何やら変なオブジェがいっぱい並んでいる。なんだあの一角は。

駐車場の道端にも、やはり溶けかけの雪が散見された。

冷たい風が吹き抜けていく。気温は紛うことなき冬だ。

 

「けっこう寒いな。とりあえず、行くか」

 

さっさとザックを背負い、さっそく出発した。

 

──10:30、筑波山おたつ石コース登山開始。

 

「……って、意気込んだけどもう疲れた」

 

だが開始5分でもう息が上がってきた。

なだらかな石段を登ってきただけだが、昨晩のテキーラの影響かもうダルい。

目の前にはちょうどベンチがあり、これ幸いとドッカリ座る。

 

「ふぅ……。外套ももう脱いどくか」

 

駐車場では風に晒されて寒かったが、今は山の斜面が風をガードし、太陽光がポカポカと降り注いで暖かい。

これから登っていくのだし、今のうちに脱いでおかないと汗だくになってしまう事受け合いだ。

服を脱ぐためにまた立ち止まるのも面倒くさいしな。

 

「よし!行くか」

 

酒気を体から排出するように深呼吸し、立ち上がる。

なんとなくまだ頭がフワフワする感覚があるが、酔いはない。寝不足気味なのは否定できないが。

まぁ歩いていればだんだん調子が出てくるだろう。

登山再開だ。

 

「お?もうここか」

 

黙々と歩くことしばし。

やはり動くことで体の調子が整ってきた私は順調に進行し、懐かしの弁慶茶屋跡に到着した。

今日も今日とて人がわんさか居る。

短いコースだとは知っていたが、こんなに短いとは。おたつ石コース。

立ち休憩もそこそこにさっさと次へ進む。

ここからは前回登ったのと同じルート──白雲橋ルートなので、サクサク行こう。

懐かしの奇岩たちを横目にスルスル登っていく。

だが標高が上がってきて、問題が発生した。

 

「ウッソ。地面凍ってんじゃん」

 

登山道が岩石地帯に入った頃、岩の表面がカチコチに氷漬けになっていた。

嘘だろもう昼前だぞ。

たかだか標高800mくらいでこんなに影響出るのかっ。正直ナメていたぞ、筑波山。

 

「だが、俺にはマイニューギアがある!」

 

そう、私は1月の荒船山での反省を活かし、買っておいたのだ。雪・氷に対応する装備を!

私はザックをガサゴソ漁り、新しい装備を……軽アイゼンを取り出し……

 

「やべ。持ってきてなかった」

 

家に忘れてきていた。

なんという事だ。せっかく買ったのにこれではなんの意味もない。

 

──軽アイゼン。もしくはチェーンスパイク。

軽く雪が積もったり、今回のようなちょっと地面が凍っている場所を歩くのに必要な登山アイテム。

マジで今の状況が最高の使い時なのに、どうして持ってきていないのか。

前日に酒盛り夜更かしするからである。

 

「まぁ無いモンはもうどうしようもない。……どうするか」

 

嘆いていても仕方ないので私は切り替えた。

問題はこのまま進むか撤退するかだ。

無論、こんなのは悩むまでもない。

撤退だ。

こんな人がいっぱい居る場所で、しかも岩場で転んでみろ。大惨事だ。

 

「帰るのが圧倒的に正しいんだが……」

 

そう、登山はムリせず安全にが鉄則だ。

……まぁ、目の前には、 スニーカーでズンズン登っていく人たちで溢れているのだが。

 

「ふぅ。とりあえず、もう少し登るか。そしてロープウェイで下りよう」

 

すでに一度登った道。

知らない道ではないし、何よりもうすぐロープウェイの駅に到達する。

下りの凍った岩場はさすがに怖いので、脳内で登山ルートをそう修正した。

まぁ、一回くらいはロープウェイに乗るのも乙なものだろう。

凍結を周りの人たちと同じく悪戦苦闘しながら気を付けて登り、11:30──

 

「ふぅー……無事に着けた」

 

筑波山、女体山山頂へ到着。

雲ひとつない快晴だった。

 

「ここもメッチャ凍ってんのかよ」

 

安堵も束の間。山頂の岩場も凍っていた。

道中よりもさらにしっかり凍結している。

頂上で人も密集しているし、ヘタしたら大事故に繋がるぞ、これ。

こんな怖いところには居られない。

景色もそこそこに私はさっさと離脱し、ロープウェイの駅へ向かう。頂上から結構下るんだな。

並ぶのを覚悟していたが、意外にも人混みはなく無事にチケット購入。

 

「出発は20分後か。なんか店あるし見て回るか」

 

駅と併設された売店・食事処を適当にブラブラ。

他には展望テラスもあるので、そこでボーッと過ごす。

テラスにはそこそこの人が居て、独身成人男性には少し肩身が狭い。

 

「……軽アイゼンを忘れたのが悔やまれる」

 

試し履きは自宅でしたが、やはり現地での使用感を味わいたかった。

おあつらえ向きに凍っていたし、惜しいことをした。

……というか反省するのはその前だな。

酒飲んで夜更かしした次の日に登山なんてするもんじゃない。大人しく二度寝でもするんだった。

 

「よし。時間だな」

 

黄昏ていたらアナウンスが流れた。

さっそくロープウェイに乗り込み、約1時間掛けて登ってきた山を数分で下山。

文明の利器スゲー。

ちょうど昼時だったので、駐車場の売店で五平餅みたいなヤツを購入。

モグモグしながらこの後の予定を考える。

 

「予定より早く下りすぎて時間が余りまくった……」

 

本来の予定なら男体山→前回とは逆向きで自然研究路を歩き、下山する流れだった。

ロープウェイだって使う気は無かったので、その道程が消し飛んで爆速で下山して、ハイパー暇になってしまった。

 

「そういえば、そこそこ近くに新しい道の駅が出来たらしいな」

 

ふと筑波山に来る前に小耳に挟んだ情報を思い出し、検索。

ふむ。今の時間なら丁度いい感じの距離だな。行くか。

そうなると長居は無用。

五平餅の串を捨て、さっそくバイクに跨った。

 

「今日は消化不良だったから、また違うルートから登りに来るぞ、筑波山」

 

初めて二度登りに来た山だ。こうなったら全てのルートを制覇してみるか。その内。

そうして威勢よく筑波山を後にした私だったが、1時間後、道を間違えたまま気付かず直進してしまい、全然知らない場所で佇む私が居た。

 

「あークソ!やらかした。通り過ぎ過ぎてすげータイムロス」

 

それでも何とか目当ての道の駅に辿り着いたのだが、これがまた曲者だった。

道路にはみ出るくらい大繁盛、渋滞していたのだ。

加えて、2月のくせに暖かい気温がイライラを加速させる。

山の上は寒かったが、平地はもはや暑い。気温差ァ……

 

「最悪だ……、暑い……でもここまで来たからには寄りたい……腹減った……」

 

サンクコスト的な見切りが悪い私である。

苦労して駐車して店内に入ったはいいが、やはり中も人、人、人。

もう15時だというのに食事処も満席という始末で、結局サイフを開かず道の駅を後にした。

 

「ぐぅ……、腹減った……」

 

家を出てから行動食と五平餅しか食べてない。

こんな事なら道に迷った時に見かけたラーメン屋に寄るんだった……、いや、道の駅で飯を食う予定だったから食わなかったんだけど……。

結果的に道の駅を目指したのが間違い……そもそも軽アイゼン忘れたのが失敗……よりも遡って、昨晩の酒盛りの時点で今日の登山は止めるべきだったな。

今日は反省の多い1日となった。

こんなんじゃ来週に予定している、雲取山の登山が不安だらけだ。

 

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