樽前山を下山し、最初に行き着いたコンビニにて。
時刻8:50。
復活した電波で今後のルートを再検索する。
初日から大幅なルート変更を余儀なくされたが、まだ山一個分の修正だ。液体燃料パワーを使えば誤差の範囲である。
そして導き出される、新しいルート。
ほぼほぼ直進だ。北海道の道は分かりやすくてたいへん助かる。
一通りの道順を頭に叩き込み、再出発。
山を下りて苫小牧市街地、少し肌寒い程度の絶好のツーリング日和だ。
樽前山へ行くために通った道を逆走──フェリーの埠頭──昨日泊まった宿へと続く道──と通り過ぎ、そのまま直進。
車線は片側一車線になったが、車線の幅それ自体が広い。これならどこでも路肩に止まれそうだ。
道はまっすぐ続く。
どこまでも見通せる景色の向こうに、山脈が見えた。
日高山脈だ。
今日の私の宿は、あれを超えた先にある。
……メチャクチャ遠いな。地図で見るより圧倒的な『距離』を感じ取れる。
本当に今日、あんな方まで行けるのか?
このGW北海道ツーリングは4泊5日(フェリー泊抜き)。1日の移動距離はだいたい200kmを超える。
これが長いか短いかは各人の価値観に左右されるだろうが、私は丁度いい距離だと思っている。
本州ならばいざ知らず、ここは北海道。
1km1分換算というどんぶり勘定で、約3時間半の道のり。山登りも観光も、十分な時間が取れるというものだ。
現実の壮大な景色に少しだけ気後れしたが、まだ9時を過ぎた頃。現在地は今だ苫小牧を脱出した所とはいえ、時間の余裕はまだまだあると見ていいだろう。
果てしなく直進が続く道路で、私は悠々自適にバイクを走らせた。
長い。
ずっと直進が続く。
地図を見てソレは理解していたが、如何せん長い。長すぎる。
曲がる目印にした建物がいつまで経ってもやって来ない。
すわ見落としたか、路肩に停まるか?と思うが、あまりにもドライブが快適すぎてバイクを停止させることが憚られるのだ。
(おかしい。感覚的にはもう曲がっていてもおかしくないんだが……)
今だから思うが、あまりにも直進すぎて距離感と時間感覚が麻痺していたのだと思う。
実際は2、30分──およそ30kmの直進。……結構長いか。私は初めての北海道の洗礼を受けていたようだ。
かくして私は不安を胸に抱きながら、愚直に直進を続けた。
そして9:40。辿り着いたのが道の駅『あびらD51ステーション』。最初の休憩スポットだ。
……良かった。予定通りだ。道は間違えていなかった。
ここで一度目の休憩兼、道のりの確認である。
安堵した私は早速駐車場に入ろうとして、誘導員に足止めされた。
「すまんねぇ。バイクの方はあちらに駐車でお願いします」
私が入ろうとしていたのは施設と隣接しているA駐車場なのだが、案内されたのは道路を挟んだ向こう側のB駐車場だった。どうやらバイクはうるさいのであっち行けという事らしい。
A駐車場も結構空いているのだが、誘導されては仕方ない。ガラガラのB駐車場に大人しく駐車した。
「ふう」
直進していただけだが、異様な疲労感に襲われた。
登山の疲れもあるだろうが、しかしあまりにも直進すぎた道路の不安による心労が強い。
グーグルマップよ、北海道の道には省略線描いた方がいいんじゃないですか?
バイクと融合解除して、体をほぐす。
山で食べた朝飯のエネルギーはすっかり枯渇していたので、ここでしっかり補給しよう。
ここの施設は、充実していた。
お土産コーナーに食堂、
出店で巨大なホタテ一枚とツブ貝三個を食べ(全部込みで600円!)、食堂では豆乳ソフトクリームを頂いた。
北海道で初めて食べた海鮮は、非常に食いごたえがあった。ツブ貝ってあんなに中身が詰まっているんだな……。身が取れなくて勢いよく引っ張り出したところ、体液と醤油が荒ぶって実に大変だった。
貝を食べ終え、豆乳ソフトクリームを舐めながらバイクに戻って道を再検索していた時である。
一台のバイクがやってきて、A駐車場に入ろうとした。
案の定誘導員に止められてB駐車場を勧められていたのだが、そのバイクはそのまま走り去っていってしまった。そんなに誘導されるのがイヤだったのか?
そんなバイクを見送りながら、ソフトクリームを胃に収めた。
さて、思いがけず休み過ぎた。
水を飲んで口の中をスッキリさせると、バイクと合体。
道順も今度は完璧。英気もたっぷりと養った今、私はなんの憂いもなくあびらステーションを発った。
と思ったが、ここで若干の憂いが発生した。
そう、給油タイムである。
私は北海道に来るのは初めて、かつ1日200km行軍を予定している。満タンならばギリギリ1日を走り切れる燃費のXJRだが、私はそんな土壇場など経験したくない。
そんなワケで、私は100km走ったら給油しようと決めていた。
ちなみに最後に給油したのはフェリー乗船前、高速から下りて直ぐのタイミングだ。
樽前山へ行き、戻って、次なる目的地へ向かうこの途中、とうとう半分の道のり(樽前山往復してるので厳密にはまだだが)である100kmを超えたのだ。
さて、おあつらえ向きに個人経営のガソスタが見えてきた。
来店し、レギュラー満タンと告げ、しばし談笑し、お礼を言って出発した。
これで憂いは払拭された。未踏の地でのガソリン満タンの状態は、とても心強い味方となる。
11:00。
給油してから走り続け、次の休憩地点、道の駅『夕張メロード』に着いた。
ここは中々にインパクトが強かった。
何せ熊がいるのだ。何匹も。
メロンを被った熊のマスコットが。
「いやちょっと恐いわ」
リアル熊の写真に、覆面レスラーのように目鼻口部分を切り抜いたメロンを丸々被せている、通称『メロン熊』。まんまである。
メロンの筋がまるで浮き出た血管のようだ。
そんなひと目見たら忘れられないマスコットキャラクターが、そこかしこに居た。
「ぬいぐるみになってもちょっとなぁ……」
店内に入ると早速メロン熊の洗礼……もといメロン熊コーナーがお出迎え。
めちゃくちゃグッズが多い。すごい推してくるな、メロン熊……。
こっち見んな。私は残念ながら君のことがあまり得意ではない。
私は彼らから目を背けた。
この日は店内の半分が休業していた。コロナ規制緩和後の初のGWなのに、運が悪い。
夕張メロンソフトクリームを食べたかったが、致し方ない。小一時間前にソフトクリームは食べているワケだし、そこら辺をもう少しブラブラして出発しよう。
近くには割と敷地の広い無人の神社があり、軽く参拝。
そして道の駅に戻ると、気になっていた店に足を向けた。
(道の駅に入る前、何か恐ろしいモノを見た気がしたんだよなぁ)
道路を挟んで向こう側、そこにはまさかのメロン熊専門店が。
店先には薬局のカエル人形よろしく、少々デカめのメロン熊が鎮座している。迫力がスゴい。
店の目の前でグーグルマップのレビューを見ると、やはり店内はメロン熊一色のようだ。
本当に力を入れてるな、メロン熊……。
私はあまり彼が得意ではないので、来店せずに踵を返した。
せっかく北海道に来たのだから寄れる機会があれば寄っておけ、と思わなくもないが、無闇矢鱈と寄るのも如何なものかと思う。
もし、買わされる『圧』を掛けられたらたまったものではない。
私は夜逃げする気持ちで夕張メロードを後にした。
夕張メロンを食べ損ねたのが唯一の心残りだ。
274号線をひたすら走り、辿り着いた道の駅『樹海ロード日高』。12:20。
景色も良いし道に迷う心配もなくて、北海道の道はたいへん助かる。小説にする分には書くことがなくて困るが(ノンストップなので写真などの記録もない)。
しかし一本道の長さも大体分かってきた今、もはや不安要素はない。
それでも一応道順は再度チェックしながら、道の駅を探索する。
それにしても、バイクが多い。そこら辺からブォンブォンドルルンと活気づいている。私もその活気要因の一員ではあるのだが、バイク集団となるとその活気は段チであった。
ここはお土産が充実していたが、まだ買うには早すぎた。道の駅では特に何も買わず、隣接するセコマで
缶コーヒーは見たことの無い銘柄を見つけ、舌鼓を打ちつつ散歩する。
すると、何やら石が直列に埋め並べられている建物があった。
『日高山脈博物館』。
丁度、これから通る予定の山脈の博物館があった。
最近、ブラタモリなどで少しだけ鉱物関係を履修していた私は興味を惹かれた。
ちょっと寄ってみようか……。
別に見たところで「ほうほう、あ。なるほどね?」くらいの感想しか出てこないが、それでもいいのだ。それでも。
さぁいざ入館。……しようとして、自動ドアが開かなかった。
「なに……?」
なんと、まさかの休館。
せっかく素人が息巻いて冷やかしに入ろうとしたが、門前払いであった。
まぁ仕方ない。どうせ私が入ったところで深く理解はできないし、実は入れなくてちょっとだけ安堵していた。
しかし残念な思いも確かなので、私は缶コーヒーを飲み干して少し黄昏た後、速やかに出発することにした。
この時、空には暗雲が立ち込めてきていて……
道の駅を出発し、私は数時間前に想っていた日高山脈──それを通り抜ける峠、標高1000mの
「うおおお!気持ちいー!」
天気は、快晴。
遮るものなど何もない。私の峠越えは、それはそれは素晴らしい景色に祝福された。
道の駅を出発した時は雨に降られるかと思われたが、峠に入り、頂上と思しき箇所を通り抜けると、後には青空が広がっていた。
山脈が雲を堰き止めてくれたのと、道幅が広すぎて爆速で峠越えを完了したからだ。道路が走りやす過ぎる。
なんと素晴らしい。
進む眼下には広大な畑とミニチュアな街が望め、背後を振り返れば日高山脈の雄々しい姿が一望できる。
特に山脈の姿は圧倒的であった。
現在の私は1000mを下っている途中だが、振り返った背後には2000m級の日高山脈が視界いっぱいの大パノラマに映るのだ。肉眼で見ているのに、もはやCGかと目を疑うほどの絶景。筆舌に尽くし難いとはこの事か。
さらに、北海道特有の特大ヘアピンカーブのお陰で、バイクを走らせながら景色を見る余裕がふんだんにあった。
走り心地も然ることながら、悪天候も撒けてすっかり気分爽快だ。
あまりにも走るのが気持ちよすぎて、展望ゾーンをスルーしてしまったのがちょっとだけ心残りだ。
峠を下り終えて、町。
私は道の駅『しかおい』にてようやくバイクを停車させた。14:50。
ほぼノンストップで走り続けてしまった私は地味に疲れていて、バイクのシートに再び座りこんだ。
道の駅『しかおい』は、だいぶ広い駐車場を有していた。
少し小さめの道の駅の施設に、ちょっと向こうには美術館らしき建物が見える。
さすがに美術館に行く体力も時間も心許なかった私は、フラフラと施設の方に入った。
そんな私を出迎えてくれたのは、チョウザメ。
何故か入口にデカめの水槽があり、中には数匹のチョウザメがゆうゆうと泳いでいた。
彼らが泳ぐ姿をボーッと眺めた後、店内に入る。内装は実に素朴な感じで、野菜や雑貨が数多く売られていた。
正直、今の私に買うものはない。目的もなく店内を隅から隅まで練り歩き、ふと購買欲が刺激されるモノを見つけた。
焼さつまいも大福(2個入り)。
鹿追産さつまいもペーストを焼いて、甘い餡にした大福。
これが非常に美味そうに思えた。
思えばこの時、軽食ばかり食べていてちゃんとした昼食を食べていなかった。『あびらステーション』で食べたツブ貝とホタテが結構腹持ちが良かったのだ。
『しかおい』ではその大福だけを購入し、チョウザメに別れを告げ、バイクに戻った。
道の確認と、もうそろそろ夕飯の確保に動かなくてはならない。
今夜の寝床はキャンプ場を予定している。どこか適当なスーパーで糧食を買い漁るのだ。
検索すると、ヒット。近くにAコープがあった。
全国展開するスーパーだが、ここは北海道。どんな品でも本州とはひと味違うに違いない。
そんなムダに高い希望を胸に、来店。だがそこで気付いた。
(……特に食いたいメニューが思い浮かばないな)
あまり料理などしない私は、数多ある商品の山の前で困り果てた。
そして結局買ったのは、袋麺の生ラーメン、味噌と醤油のラーメンの素、ミンククジラの刺身……
いずれも産地は北海道という、ちょっとした悪あがきをしつつ。せっかくの北海道だというのにテキトーな献立で買い物を済ませるのであった。
……どうせ、私の調理はコッヘルにぶち込んで煮る一択だ。
GWとはいえ、夜の北海道は寒いだろうし、ラーメンという選択は妥当なのだ。妥当なのである。
そんなしょっぱい買い物をした後は、私の腹よりもまずバイクをお腹いっぱいにしてあげなければならない。
トリップメーターの表示は150km。こうして数字で見ると中々の貫禄を感じる。
Aコープから出て比較的直ぐの所にスタンドがあったので、これ幸いと給油。
北海道特有の長すぎる直線道路を走りながら、思考する。
さて、今日の予定の残すところは後、入浴と寝床に辿り着く事のみ。
時刻は16:00過ぎ。
今日の活動を終えるには丁度良すぎる時間だ。
では行こう。標高810mの、道内で最も高い場所にある湖、然別湖へ。