深夜渡航   作:へるしぃーぼでぃ

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5/2─阿寒湖、摩周温泉、そして…

 

 

だだっ広い青空駐車場にバイクを停めた私は、まずザックと紐の間に通したバスタオルを裏返しにした。

この晴天のおかげで乾き具合は実に良好。今も暑いくらいに日が照っているし、この調子で裏側も完璧に乾かしていただこう。

さて、では行動開始だ。

現在地からはまだ阿寒湖の姿は見えない。

私の居る駐車場から道路を挟んで向こう、立ち並ぶ家屋の奥にあるからだ。

地味に歩く事になるが、なに、登山を始めた今の私には苦では無い。荷物もサコッシュのみであるし、気軽なものだ。

てくてく歩き、少し寂れた感じの閑静な住宅街ぽい所を通り過ぎ、観光客向けの施設が並ぶ場所へ来た。

 

「うおっ。コイツは」

 

そこに、ヤツが居た。

まりもをモチーフにした、やけにいやらしい笑みを浮かべるもっこりしたアイツが。

まだ生きてたのか。すごい久しぶりに見たな……

別にそんなに好きなキャラでもないので、スルー。

すると、目の前から波の音が聞こえた。

阿寒湖だ。まるで海のように波が押し寄せていた。

 

「……」

 

整備された湖畔に、左手には湖に面したお高そうなホテルが建っている。

視界の奥には山が聳え、壮観な景色が広がっていた。

しばらくベンチに座ってボーッとし、時間を確認。

9:10。

そろそろ店が開いた頃だ。

私は立ち上がると、兼ねてより目を付けていた店に足を向けた。

もっこりしたまりもを一瞥し、豪華な装飾の施された足湯を少し覗き、目当ての食事処へ歩く。

……が。

 

「休みだと!?」

 

まさかの臨時休業だった。

諦めきれずにドアに手を掛けたが、もちろん開かず。

私はうなだれた。

……ま、まぁそこまでお腹は空いてないし、などと言い訳しながら、手持ち無沙汰になった私は周辺を練り歩いた。

真っ直ぐ歩いていくと、何やら小高い場所に鳥居が建っている所を見つけた。

ヒマな私は階段を登り、その小さい神社に立ち寄った。

特に何かがあるワケでもなく、適当に参拝した後、階段を下り再びブラブラする。

すると、遊歩道を見つけた。『ボッケ遊歩道』なる道。

私は導かれるままに草木茂る中へと吸い込まれていった。

木漏れ日の中、湖から吹く風と湿った土の匂いに包まれながら歩く。

意識して行ったことはないが、これぞ正しく森林浴なのだろう。フィトンチッド溢れてる。

人口の密度が低いのも幸いした。

観光客は数えるほど。そして何やら作業中の土木員や研究者みたいな人たちがチラホラ居るだけである。お仕事お疲れ様です。

そんな人たちを尻目に、私は優雅に散歩を続けていくと、何やら拓けた場所に出た。

そこは阿寒湖を正面に構えた、小高いスロープ状のビューポイントが。

傍らには例の『ボッケ』が、ボコボコと不気味な音を立てていた。

それらを一通りぼんやりと眺めて、再び歩き出す。

先程は森の中の遊歩道だっが、今度は湖の岸に沿って道が続いている。なんとも眺めの良い道だ。

波の音を聴きながら、凍裂したと思われる木々を横切っていく。縦に裂傷の走る木のなんと多いことか。

そんな感じでブラブラ森を歩き、30分ほど。

最初に阿寒湖を眺めたベンチの所に戻ってきた。

さて、中々にいい時間を過ごせたが、この後どうするか……

私はグーグルマップを開き、何かないか探す。小腹が空いてきたので、主に飲食店をタップしていく。

 

「パンくらいが丁度いいか」

 

そして目星を付けたのは、付近のパン屋だ。

私はさっそく赴くと、中々にオシャレな店内でピロシキとシュークリームを買った。パン屋でシュークリームなど初めて見たが、これが凄く美味しそうに見えたのでつい買ってしまったのだ。

保冷剤付きの袋に入れてもらい、バイクに戻ってきた私はさっそくかぶりついた。まずはピロシキだ。

このピロシキ、中には細かく刻まれた野菜がたっぷりと入っており、北海道に来てからあまり野菜を摂取していない私にクリティカルヒットした。

揚げ物でもあるので、食いごたえもバツグンだ。

そしてシュークリームはと言うと、『雌阿寒シュー』という阿寒湖オリジナルシューだった。

これが驚くほど美味い。

サクサクの生地に、程よく固まったアイスクリームが共に口の中でとろけていく。

そこそこの距離を歩き、気温も高くなってきた今、甘く冷たい食べものは倍増しで美味かった。

他にも対を為す『雄阿寒シュー』などもあったのだが、胃の容量が少ない私は断念した。

次にまた訪れる機会があったら制覇したいものだ。

腹ごしらえを終えた私は、水分補給しながら恒例の道順の確認をする。

ここから先、もう何回か休憩を挟むが、真の目的地はとうとう目の前に迫っていた。

野付半島──。

残り距離は100kmと少しくらいだろうか。

北海道の距離感で言えば、もはや目と鼻の先である。

私は準備を整え、周りに誰もいない広い駐車場でエンジンを掛けた。

GWだというのに、こんなにガラガラで大丈夫なのか?と無駄な心配をしつつ、発進。

すると、私の停めていた駐車場から出て直ぐの所に、広めの駐車場を備えたセコマがあった。

そちらにはバイクが何台と停まり、優雅に休憩している。

確かに、こちらの方が快適そうだ。セコマのお陰で小陰もあるし……

次に来たら今度はコチラに停めよう、と思いながら、阿寒湖を後にした。

 

 

 

 

しばらく峠の道を走っていると、景色の向こうに突出してデカい山が見えた。

私が食べ損ねた方の山、雄阿寒岳だ。

その山を眺めながら走行していると、イイ感じの展望駐車場があったので停車。

記念に写真を撮り、しばし眺める。

裾野が広く、これぞ山という綺麗な形をしている。七合目くらいまで木々が生えた富士山のようだ。

雪もないし、登ろうと思えば登れる。だがそんな予定も時間もないので、私はそそくさと出発した。

あくまでゴールは野付半島なのだ。観光の時間を十全に確保するために、寄り道は必要最低限で行く。

エンジンを轟かせて、恒例の走りや過ぎる峠道を抜けると、これまた恒例の直線すぎる道路に出た。

あまりにも直線すぎるので思わず来た道を振り返ると、今超えてきた山から綺麗〜に一直線な道路が伸びていた。こんな光景、本州では見られないんじゃなかろうか。

バイクを停めて写真を撮らなかったのが悔やまれる。

改めて北海道のデカさに感服しながら、運転を続けて11:00。

道の駅『摩周温泉』に辿り着いた。

この時、気温気候は初夏かと思うほどに暑くなっていた。

バイクから下りた私は、堪らず外套を脱ぐ。走行している分には風を浴びるので丁度いい具合になるのだが、地に足つくとダメだ。暑い。

若干汗ばむ額を、天日干ししていたバスタオルの角で拭く。バスタオル便利だな。

鼻水をかんでから(これは流石にティッシュ)、ゴミをゴミ籠に捨てて探索を開始する。

もう日中という事もあり、人の数が多かった。北海道へ来て初めての混雑ではなかろうか。

人混み溢れる施設内にはアイヌの展示物が飾られており、それを適当に見て回る。

すると、突然背中を叩かれて声を掛けられた。

 

「ちょっと、コレ見て」

 

「?、はい?」

 

振り向けば、知らない婦人に展示物を見るよう催促された。

婦人はなんの反応もない私の方を見ると、ハッとなって謝ってきた。

 

「あ、すみません!人違いでした!」

 

「あ、いえいえ。こちらこそすみません」

 

どうやら人違いだったようだ。

婦人は、私のナナメ後ろに居た男性に近寄ると「間違えちゃった」と離れていった。どうやら夫婦らしいので、どうも夫人だったらしい。

そんな謎の一幕を経て一通り施設を見て回った私は、目星をつけた苺のアイスクリームを食すことにした。

購入口は施設内の物販ゾーンど真ん中。まさか店内で食すわけにはいかないので、外に出てベンチに座って舐める。

朝はどんより曇り空の冬の冷気だったのに、今は晴天の夏日だ。

目の前には妙な形の噴水広場みたいなのがあるし、足だけでも水に浸かりたいものだ。いやまぁ、家族連れの子どもたちが遊んでいるので近寄れないのだが……

家族団欒ウォッチングをしつつアイスを完食し、バイクに戻る。

本当はエゾシカバーガーなるものも食べてみたかったが、そこまでお腹が空いていなかったので断念した。もう少し大食漢になりたい……

バイクに乗っているだけなので、お腹が空かないのもムリはない。私はそう自分を納得させて、摩周温泉から出発した。

 

 

 

 

長い。

もう何度目かの直線すぎる長い道路をひた走る。

周りは広大な畑だらけ。遠くには山脈が連なり、青い空、切る風が火照った体を冷ます。

景色は変わらず壮観なのだが、少々見飽きてきた。

単調な状態に軽く眠気も覚えてきたが、停車するには何も無さすぎる。

さてどうしたものか、とダラダラ運転を続けているのと、ふとソレが目に止まった。

──時に北海道には、路肩に駐車スペースが頻繁に設けられている。

単純に長いドライブの休憩や、速い車を追い越させるため、チェーン着脱場などで利用するためだろう。

そのため、本当に駐車するためだけのスペースしかないのだが、ソコは違った。

まず、自販機がある。それだけでも珍しいのに、奥には平屋のトイレすらもあるではないか。

だが私の目を引いたのはそれらではない。

それは、物見櫓だ。

四階ほどの高さはある物見櫓が、畑の広がる平原にドンと登場したのだ。

私は急ブレーキを掛けて右折、その駐車場に駐車した。

止まると暑い気候の中、喉の乾きと眠気をどうにかするためにドクペを購入。最近はすっかり自販機のクリーンナップになってきた気がするな、ドクペ。

 

「ぷはっ。……よし」

 

ドクペを半分ほど一気に飲んだ私は、天高く聳える物見櫓に近づき、缶を片手にダッシュで階段を駆け上がった。

元々止まる予定のなかった時間だ、ゆっくり登っている時間はない。それに、ずっとバイクに乗っていただけだから軽く運動したかった、というのもある。

ダンダンダン!と本当に階段だけしかない建造物を二段飛ばしで登りきり、頂上。

北海道の大地が360°見渡せた。思わぬところに最高のビューポイントである。

曇り空が点々と浮かぶが、おおむね晴天。遥か遠くにいくつもの山々が並び、私の視界はそこでようやく途切れる。

マジで広いな、北海道……。

この景色を眺めながら、残りのドクペを飲み干していく。

完全に目も覚めたし、とてもいい休憩だった。

下りも二段飛ばしで落ちるように下降していき、バイクの下へ。

缶を捨て用を足し、私は気合を入れてバイクに跨った。

 

 

 

 

途中一度給油し、昼飯を予定していた店が見つからずそのまま爆走し、12:30。

私は大型ショッピングモールに立ち寄っていた。

休憩も兼ねて、私はある物を買いに来たのだ。

そう、モヤシである。

この時、私は何故だか無性〜にモヤシが食べたくなっていた。理由は不明。

わざわざ大型ショッピングモールの野菜コーナーから、11円のモヤシひと袋だけをセルフレジに通し、バイクに帰宅。

ちなみに、モヤシ単体で食べるワケではない。Aコープで買った生ラーメンがまだ後一食分残っているので、そこにブチ込むのだ。

今日こそはキャンプ場に泊まるつもりなので、ガス缶でしっかり沸かして食うのだ。半生ラーメンリベンジ。

そのキャンプ場まで──と、同時に野付半島まで、後は道を真っ直ぐ突き進めば着く。

新たな仲間モヤシを引き連れ、道を爆進。

そして13:30。

私はとうとう北海道の陸地より、太平洋の海原と対面した。

 

 

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