深夜渡航   作:へるしぃーぼでぃ

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5/2─設営、野付半島、晩ご飯

 

 

 

長い長い一本道の終点にて、私は2日ぶりの太平洋と再会した。

一昨日はフェリー上・海上だったが、今は北の大地を横断し、騎乗した状態。

長いようで短い──……やっぱ道が長すぎるな。私の小説力では表せない長さが、北海道にはある──旅の目的地周辺。

もう野付半島は目の前だ。

だがその前にやっておかねばならない事がある。

私は太平洋を左手に併走しながら、野付半島へと至る道を一度スルーし、直進を続ける。

数十分エンジンを唸らせていると、見えてきた。

尾岱沼(おだいとう)キャンプ場、その案内看板が。

私は案内のままに左折し、キャンプ場の敷地へと入る。

下調べしていた時から思っていたが、広い。

二十台は停められる駐車場に、施設から一番近い端っこにバイクを停めた。GWだというのに他の客──キャンパーの気配がまるでない。

すわ休みか?、と私は訝しみながらも管理人が居るであろう施設に入ると、細身の男性が出てきた。人が居てホッとする。

 

「こんにちは」

 

「こんにちは。おひとり様?」

 

「あ、はい。一泊で……」

 

そこからの手続きはつつがなく進み、無事に許可証とキャンプ場の案内図をもらえた。

さて、どこにテントを張ろうか。

図を見ると改めて、本当に敷地が広い。

ひとまわり高い丘のような場所にはロッジがいくつかあり、その他の場所がすべてフリーサイトのようだ。テント張り放題である。

私は敷地に入って真っ直ぐの、海を真正面に構えた芝生の端っこを選択。

近くにキャンパーは、いない。

少し距離の離れた木陰に何組が居たくらいだ。

私はさっそく荷物をバイクから解き、ザックの中からテントをまろび出す。

このテントは登山用のメチャ軽いヤツで、残念ながらまだ山で使う機会は訪れていない。つまりこのキャンプが初使用である。

と言っても自宅にて設営の練習は済ませてある&カンタンな構造なので、設営は順調そのもの。

ペグをコーヒーミル(ハンマーなど不要!)で打ちつけ、本日の宿が完成した。

 

「よし」

 

完成したテントの中に、広げた寝袋・空っぽのザック・その他もろもろを転がす。

そして貴重品だけを入れたサコッシュを腰に巻いて、私は再びバイクに跨った。

ここで14:00。

昨日とは打って変わって時間は余りあるほどにある。先に宿を押さえておく事の、なんと安心感か……。

気兼ねなく観光タイムと洒落こもう。

 

 

 

 

まず私が向かったのは、道の駅『おだいとう』だ。

真の目的地である野付半島へと至る道とは真逆の方向なのだが、時間に余裕のある今、私は無敵だった。

距離的にもそんなに離れていなく、ものの数十分で辿り着く。

道の駅『おだいとう』では、何やらジャンボ帆立なる料理が振舞われているらしい。オヤツがてら頂こうと施設に入ると、驚いた。

 

「え……、やってない……?」

 

レストランどころか、展望塔すら入れない。

辛うじて自動ドアは動いたが、無情なシャッターがそれ以上の侵入を阻んでいた。

壁際には各種パンフレットの置かれた机があり、壁には『臨時休業』の文字が……

 

(道の駅って、連休中に休業する事があるのか……)

 

そりゃあるだろう。それに臨時なのだから仕方ない。

出鼻を挫かれたが、しかしメインディッシュはこの後だ。気を取り直していこう。

トボトボと外に出て、叫びの像をボンヤリと眺めてからサッサとバイクに跨る。意外とデカい、叫びの像。

来た道を爆速で戻り、途中にあったセコマでバナナと水を購入し、キャンプ場を通り過ぎ、至る三叉路を海側へと折れる。

 

(さあ、ここからが真の目的地、野付半島への入り口だ)

 

一直線カーブの20km(全長26~28kmだが、一般車が立ち入れるのは途中までなので、私の体感距離を記す)の道。

グーグルマップで確認すると、北海道の片隅にチョコンと飛び出た地形だ。

このチョコン(・・・・)、が長い。実に長かった。

 

(おいおい、ンびゃッキロで走ってるのに、果てが見えねぇ)

 

それもそのはず。

片道20km、往復したらフルマラソン(42.195km)に匹敵する。

しかも道中は左右ともに、海。

海の向こうに山が見えるが、それがかえって断絶を感じさせた。

トドワラも、噂に違わず荒涼とした景色を演出している。波風のせいなのか、すべての木が同じ方向に傾いて伸びていた。

使われているのかいないのか、漁業関係と思しき粗忽な建物と、電信柱が道路に沿って延々と続く。

他には何も、ない。

 

(本当に『地の果て』だな)

 

走る。ひたすら走る。

途中、唯一の生きた建造物であるネイチャーセンターを通り過ぎ、その果てで私はようやくバイクを停めた。

『関係者以外立ち入り禁止』の看板、その目の前にある広い駐車場。

バイクから下りて、周りを見渡す。

一面、枯れ草色の地面。

無骨な電信柱が向こうにまで連なるのみで、本当に何もない。

観光地としては死の大地だ。無論、ココに来る人たちはコレが目当てなのだが。

 

「ん?」

 

そんな場所で、目があった。

道路を挟んで向こう側、枯れた草原に佇むソイツら。

鹿だ。二頭。

こんな何もない所で生活してるのか、コイツら……。いや、草食動物なら逆に快適なのか?

ジッと動かないソイツらを写真に納め、しばしボーッと眺め回す。

暑くもなく寒くもなく、丁度いい気温。潮風がそこそこ強い。

車は案外ひっきりなしに来るが、しばらくすると直ぐに来た道を戻っていく。

何もないからな。長居するような場所じゃない。

そういえば、電波だけは立っている。この立ち並ぶ電線たちのお陰だろうか。

私は地の果て到達記念に、SNSでツイートした。WiFi圏外ではSNS等を開かないと決めている私であるが、この時ばかりは解禁だ。

3日ぶりの電子の海を徘徊し、ふと視界を上げると、鹿たちはいつの間にか居なくなっていた。

……こんな場所に来てまでネットに潜るのは、もったいないよな。

私は立ち上がり、もう一度グルリと見渡して何も無い景色を確認すると、バイクに跨った。

 

 

 

来た道を取って返し、数分。

私は野付半島ネイチャーセンターに来ていた。先ほど素通りした施設である。

こちらは、さっきの何も無い一般人到達可能先端部と違い、人でごった返していた。ワイワイガヤガヤという感じである。

喧騒に包まれるまま施設に入ると、中も大盛況。立派に観光地めいている。野付半島の本体はココだったか……。

施設内では様々な展示があり、風景写真、半島の成り立ち、岩石の解説などなど、中でも剥製が私の目に入った。

アザラシ、ワシ、ハクチョウ、アヒル(首にバンダナ付き)、鹿……

臀部の曲線美が美しい……。

思わず写真を撮った。ほんの少しだけ姉畑先生の気持ちが分からんでもない気がした。

ちょっだけイケナイ気持ちになりつつ、いざトドワラ遊歩道の方へと向かう。

施設のやや裏手から道が伸びていて、そこを散策出来るのだ。やはり野付半島はその先端部より、ネイチャーセンター周辺がメインらしい。

この遊歩道は、一番奥まで行くとなると約2kmほどある。歩くのが苦手な人は、その半分程までトラクターが運行しているのでそれに乗り合わせられるようだ。

もちろん、私は歩きだ。せっかくの遊歩道、歩かなければもったいない。

道中には、植生を解説する小さな看板が点々と続く。それらを読みながら、砂利と植物と、海と風しかない道を進む。

時刻は15:40。

北の大地の寒さも相まって、夕暮れ時に差し掛かった景色が一層寂しさを演出する。

遊歩道を歩いている人間は、あまり居ない。

背後からトラクターが迫ってきているので、それが来れば賑わうだろう。

かと言って私はあまり人混みが好きではないので、さっさと先に進む。

トドワラ広場なる、少し開けた場所に出た。

トラクターはここまで。やたら新しいトイレがあり、その先には海の上を跨る木道が。

柵が無い、非常にシンプルな海抜1mほどの木道。人とすれ違う時、気を付けなければ落ちてしまう幅。

〜〜、非常にテンションが上がってしまうな!こういう道は大好きである。

私はさっそく歩く。

ガコン、ガコン、と登山靴と木道が、私の歩みを奏でる。響く靴の足音がいい。

背後以外、ほぼ一面海に囲まれた木道。シチュエーションは最高である。

気分よく歩いていると、正面から人がやってきた。

こういう時のために、木道の途中途中には(とっ)した部分がある。私はそこに避け、通行人が会釈しながら通り抜けていった。

しばらく独りで歩くと、木道が二手に分かれた。

私は先の短い右手を選んだ。

進んだ先は、トドワラ展望台。

展望台とは言うが、木道の幅が広がった行き止まりだ。流石に名前負けしてないか?

だが心地は良い。雰囲気が本当に、世界が終わって独り生き残った感がスゴいのだ。

しばし黄昏れる。

足下には浅瀬の海。太陽の光に紛れて何かが泳いでいるみたいだが、あいにくと種類は分からない。

木道の位置が地味に高いというのもある。

……もう少しゆっくりしていくのもやぶさかではないが、一応、この後に予定もある。

まだもう一方の道もあるし、行こう。

来た道を戻り、左手方向。

何故かこの部分の木道だけには両側に手すりが出現しており、子どもがダッシュしていた。

子どもの体格では手すりの下部隙間から落ちてしまう危険があるので、皆は走らないように。

木道の終点にたどり着くと、そこからは砂浜。……なのは両端だけで、中央部は砂利と、足首まで埋まる植物に、様々な残骸。

これが非常に歩きづらい。

波により運ばれてきたのだろう、何かの残骸たちがクッションのように足を包み込み、歩くのに倍くらいの労力がかかる。砂浜の方は歩いていいのかよく分からなかったので一応、敬遠。

この先に桟橋があるらしいので頑張って歩いたが、そこにあったのは輸送パレットのみ。なぜこんな所に……

後に残る道のりは、潮の満ち干きで消えてしまいそうな、砂だけで作られた細いルート。

この時、その先も先に子ども二人と母親らしき影があった。よくもまぁあんな所にまで……。

さすがに山靴であんなところに行く気は起きないので、私は踵を返した。

ネイチャーセンターからこの先端まで、約2kmほど。往復となるとそこそこ時間が掛かるので、頑張って戻らなければ。

足場の悪い砂浜部を戻り、木道をガコンガコン進み、砂利道にまで戻ってきた。

途中、私より遅れてトドワラ広場から出発したトラクターに追い越されながらも、何とかネイチャーセンターにまで戻ってきた。

16:20。

私はネイチャーセンターと道路を挟んで向こう側の高台に登り、海を眺めながらスマホで時刻を確認していた。

地味に歩き回ったことにより、お腹もだいぶ減った。コンデションは上々。

では予定通り、17:00開店の定食屋へと赴こう。

野付半島に目標を定めた時、私は同時に飯所に目星を付けていたのだ。我ながら抜かりなし。

ネイチャーセンターを出発し、野付半島の道のりを五感に焼き付ける。

良い所ではあったが、もう一度来るかと言われれば微妙な感じだからな。また来るその日まで、さらばだ野付半島。

 

 

 

 

長い野付半島から再びの三叉路を、キャンプ場とは逆の道に往く。

コチラ側は町並みが続き、その中から目当ての店を探す。

アレか?アレかな?とシールドを上げてトロトロ走りながら、見つけた。今宵の飯所を。

いそいそと広い砂利の駐車場にバイクを停車し、ふと気付いた。

開いてない……。

まさか、休業……

いや、まだだ。まだ慌てるような時間じゃない。時刻はまだ16:45。存外早く着きすぎていたようだ。

それに今日営業する事は何度も確認している。臨時休業でない限り大丈夫だ。大丈夫。

地味に時間が余りすぎた。そこら辺を散歩してこよう。

海沿いの町なので、向こうへ行けば海があるはず。

私はテキトーに歩きだし、信号を待ち、家屋を通り過ぎ、やたら綺麗に整備された芝生の丘を突き進むと、目論見通り海に出た。

妙に整備された海岸だった。もしかしたら何かの敷地だったかもしれない。

少し不安になった私はそそくさと戻ると、途中で気付いた。

綺麗な芝生エリアで、テントが何個が立っている事に。どうやらここはキャンプ場だったらしい。

私は尾岱沼キャンプ場しか目に入っていなかったので、このキャンプ場は存在すら知らなかった。町中から少し外れたキャンプ場……、なかなか最高な立地である。

私がこれから寄る定食屋に歩いて行ける距離だし、もしココに泊まる事を決めていたらお酒をキメる事が可能だった……

今さら言っても仕方なし。純粋に食を楽しもう。そこまで酒を飲みたい感じでもないしな。

横断歩道にまで戻ってきたが、それでもまだ時間になってない。

何かないかと周りを見渡すと、あった。

菓子屋だ。駄菓子系ではなく、ケーキ類や和菓子などの甘味を扱う、地元密着的な小さめの店舗のヤツ。

メシの後には甘いモノが食べたくなるだろうし、先に買っておこうか。

店に入ると、年季を感じさせる雰囲気の中に、ガラス張りの陳列棚に甘味が勢揃っている。まさに町のお菓子屋さんといった風情だ。

ケーキ美味そう。……だが保存が不安だ。もっと他の……、あぁ、あんドーナツ良いなぁ。

私はあんドーナツ六個入りを買い、バイクの下へと戻ってきた。

あんドーナツをひとつ食べながら、5分ほど。

ついに開店した。

 

「いらっしゃいませー」

 

ヤケに女将っぽい人がいっぱい居る店だった。

さっそく注文表とにらめっこし、今宵に相応しい品を見定める。むむむ。

……実に今さらだが、私は北海道に上陸してから2日目の夕刻──、つまり現在にて、ようやく『ご飯屋』に寄ったことになる。

ここまで道の駅とセコマ、……パン屋には寄ったか。しかし、それしか寄ってない。せっかくの北海道なのに。

だが勘違いしないでほしい。寄ろうと思っていた店はあったのだ。ちゃんと計画を立てていたのだ。

しかし、その尽くが休業。……と、見落とした。

GWと言えばそれまでだが、しかしサービス業にとっては稼ぎ時ではないのか……。まぁコロナ禍ではあるし、休業はもう仕方ない。

見落とした店に関しては、自分でもそんなバカなと言いたい。一本道の北海道で、どうやって見落とすというのか……

そんなワケで、本格的な飲食店に寄るのはここが初。道の駅では軽食ばかりだったので、ガッツリ食べたいところだ。

よし、コレに決めた。

 

「すみません。この海鮮丼と……」

 

注文してから、5分。一品目が来た。

豆腐だ。木綿の、シンプルな冷奴。なんだか無性に食べたかったのだ。

鰹節と生姜醤油で冷奴を食べていると、続いて次の品が。

鮭のルイベだ。ゴールデンカムイで見たヤツだと思って反射的に注文してしまった。凍らした刺身のヤツである。

シャクシャクと独特な歯ごたえのあとに、刺身のトロッとした感触がなんとも不思議だ。

思いがけず出会いに感謝していると、いよいよ最後の品が来た。

鮭にホタテにイクラ……もろもろ全部乗っけの海鮮丼だ。やはり北海道に来たとあらば海鮮を食わなければ。

切り身がデカい。粒がデカい。茶碗にふんだんに盛られた海鮮丼。

他にもホタテ稚貝のみそ汁などもあり、非常に充実した晩ご飯となった。

 

「ごちそうさまでした」

 

観光し、腹も満たされ、テントも設営済み。これぞ最高の一日ではなかろうか。

だが、まだ重要なタスクが残っていた。

温泉だ。

今日の汗を流して終えて始めて、この最高の日を締める事が出来よう。

カラの食器の前で素早く検索。

といっても既に目星は付けている。尾岱沼キャンプ場のすぐ隣の、旅館の日帰り温泉だ。

場所の再確認をし終え、さっそく向かう。

しかし、バイクを走らせている途中で気付いた。

 

(タオルはあるけど、着替えを持ってないな)

 

バスタオルはバイクのサイドバックに入れておいたが、肝心の着替えを携帯するのを忘れていた。

直通でお湯に浸かりたかったが、仕方ない。一度キャンプ場に寄り、テントの中から着替え一式を持ち出して再び騎乗。歩いても行ける距離だが、バイクで颯爽と向かう。

時刻は18:00。

時間的に日帰り入浴は厳しいか?と不安だったが、特に問題なく入館できた。

日が落ちる前にはキャンプ場に戻りたかったため、足早に歩き、速攻で脱ぎ、浴場へ。

 

「……はー〜〜……」

 

湯にはゆっくり浸かる。

日没まで残り30分くらいだろうか。

15分くらいは浸かれるな。十分だ。

露天風呂で沈んでいく夕日を眺めながら、私は悠長に温泉を堪能した。

さて、気持ち早く風呂から上がって帰路につく。

辺りはすでに薄暗くなっており、まさに夜の帳が下りる頃だった。

あまり頼りにならないハロゲンライトで道を照らし、往復5分も掛からないキャンプ場に帰ってきた。

14時ごろに設営していた時は周囲に誰も居なかったが、さすがに今は人口密度が増加していた。

隣にはバイクでソロキャンしているお仲間も。

すでに静まり返っているキャンプ場に、私のバイクのエンジン音がよく響く。すみません。

だが、まだ19時前である。そこまで非常識ではないだろう。極力クラッチは握ったまま入ってきたし。

だいぶ良い子ちゃんの集うキャンプ場のようだが、かくいう私もすでに眠い。

今日は3時くらいに起床してしまったし、温泉も2回入ったし、阿寒湖と野付半島でそこそこ歩いたし、200km以上移動してきたし……

うむ、寝よう。

最後に用だけ足し、バイク以外の荷物をすべてテントの中に放り投げ、最後はフカフカになったシュラフに我が身を投げ捨てて就寝した。

北海道道東ツーリング、上陸2日目、ノルマを無事達成し、おやすみなさい……

 

 

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