夏油転生~異世界行ったらポケモ〇マスター~   作:らららん

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ロキシ―の受難

 この村の子供は天才しかいないのでしょうか。

 

 ロキシーは遠い目をして思う。自分は井の中の蛙だったと、世界は広いのだと。だって、あんなにも自由に魔術を使う子供もいるのだから。

 

「見て、ピカ〇ュー」

「めちゃくちゃ似てるじゃん!」

 

 ウォータボールを無詠唱で使うなんて当たり前。そこからなにやら動物を作って遊ぶまでが最近の子供なのである。

 

 最近の子供は進んでいますねー。あのぐらいの年の時、私は何をしていたでしょう。あ、家に引き籠っていましたね。

 

「最近は原子レベルで水を操作する特訓をしてるんだけど、なぜか魔力消費量が上がって真面に操作できないんだ。なんでだろうね」

「先生が言うには、そういうものらしいよ」

「何それ、ウケる」

 

 あれ、ちょっとイラっと来ましたね。ここは大人の凄さを実感させましょうか。

 

 ロキシーは立ち上がる。今、彼女の中の矜持が、ここで立たねばいつ立つのかと彼女を奮い立たせている。このままでは彼女の矜持が死ぬ。

 

「ゴホン、ルーグス。あなたは魔術がどうやってできたのか知っていますか?」

「いえ、知りませんけど」

 

 ロキシーは話す。太古の昔、戦が絶えなかった時代にハイエルフが作ったものこそが魔術である。その最古の魔術は精霊の力を借りて行使されたものだと。それを人族が真似したのが、今の魔術であると。詠唱などもその時出来たものだと。

 それは神話の話だった。本当か嘘かもわからない。信じるか信じないかの話。

 

「という話です。どうです、興味深い話でしょう?」

「えぇ、とても。ボクとしても不思議だったんですよ。なぜ、詠唱なんて無駄なものがあるのかって」

「………え? 無駄ですか?」

「はい、無駄でしょう? 魔術を探求している人なら必ず、詠唱は無駄だと考える人もいたと思うんです。なのに現在に至るまで、無詠唱は一般化されていない。それっておかしくないですか?」

「いえ………無詠唱というのは、元々の才能から来るものなので一般化は難しいのでは」

「いえ、無詠唱は才能ではありませんよ? これは地道な魔力制御の賜物です」

 

 ロキシーは茫然とした。

 無詠唱が、才能ではなく努力によるもの。それはロキシーからしてみれば、青天の霹靂であった。そういうものだと、ロキシーは師から教わったのだから。

 

「ボクは、その神話が無詠唱の一般化を阻止していたんだと思います。無詠唱はできないのだと、そういうものだと言っているように聞こえる。まるで洗脳ですよね」

 

 彼は一つの疑問が解け、上機嫌になった。彼の中で、詠唱なんていうシステマチックで無駄なものがどこから来たのか、不思議だったのだ。蓋を開けてみれば、ただの神話が原因だったのだが。

 

「…………」

 

 ルーデウスは居心地悪く状況を観察していた。

 一言で言うと、気まずい。ルーデウスにとってロキシーは先生で、可愛い女の子だ。そしてルーグスは同郷の友達という、唯一無二の存在だ。彼は、どちらの味方をすればいいのかとても迷った。

 

 前世の彼は、ナチュラル煽リストではなかった。保険の営業という仕事柄、人を観察して会話で相手を気持ちよくさせるのは得意だったからだ。

 しかし、それにはストレスがかかる。相手の顔色を伺う仕事上仕方のないことだが、とてつもないストレスがかかる。そのストレスから解放され、さらに同郷という存在にあった所で、最近の彼はハイになっていた。

 

 だから、ブレーキを踏むべきところで平気でアクセルを踏む。

 

「んー、ルディの魔術勉強してるところを見ようと思ってたんだけどいいや。ボク、庭でパウロ師匠と稽古してくるよー」

 

 ―――それは悪手じゃろ。

 

 ルーデウスは、脳内のイマジナリー的存在がそう言っているように聞こえた。

 ぎちぎち、と錆びた鎧のようにロキシーを振り返る。

 

 ロキシーは俯いており、その表情は伺えないが間違いなくショックを受けている。

 

 ルーデウスは、まず褒めることをした。

 

「せ、先生! 授業をお願いします! 僕、先生の魔術が好きですから! 治癒魔術を使える先生凄い!」

 

「フ、フフフ」

 

 ―――お、笑った! やはりロキシーはチョロいぜ! このまま褒め殺しだ!

 

 最低な事を考えるルーデウス。しかし、今のロキシーにその言葉は届いていなかった。

 

「私の授業には興味がないと? 私の魔術が無駄だと? フ、フフ、フハハハハハ! やってやりましょう! ルーグスをぎゃふんと言わせるのです!」

 

 ロキシ―は燃えた。それはもう激しく、これまでの人生で一番ぷっちんした。

 ハイになったロキシーに、ついていけないルーデウス。

 

「ルディ、今日の授業はなしです! 私は魔術の修行をしなければいけません!」

「え、ちょ………せんせーい!」

 

 その後、ゼニスから家庭教師で雇ったのだから仕事をしてくださいと正論を言われ、渋々従った。諸行無常。

 

 ―――ぎゃふんと言わせるのは、数年後に持ち越しですね。

 

 ロキシ―の熱は消えていなかった。

 

 

 

 

 ロキシーとルーデウスが勉強をしている頃、彼とパウロは森に来ていた。

 

「いいか、ルーグス。俺はお前の師匠として、剣の腕を買っている。だから魔物討伐も見せてやるが、お前は俺から離れるな。戦うな。見るだけだ……いいな?」

「分かってますよ、師匠」

 

 よし、とパウロは頷く。

 彼が森を歩いていると、パウロからいくつも注意された。

 

 歩き方が悪い、周りを見ていない、連絡が出来ていないなどなど。子供相手にいう事ではない。しかし、この数カ月の鍛錬でその辺りの信頼はあった。この程度では潰れない、という信頼が。

 しばらくそうやって歩いていると、パウロが止まり、彼と視線を合わせ、手でサインを送った。

 

 それを確認し、静かに見ろというサインだと分かり、指示に従い木陰からゆっくりと見た。

 そこには二足歩行のデカいイノシシ、ターミネートボアがいた。

 

「大物ですね」

「あぁ、ルーグス。お前はここで待て」

「分かりました。ご武運を」

 

 パウロは素早く接近した。

 ターミネートボアがパウロに気づいたのは、パウロの剣の間合いに入ってからだった。

 

 ザン、と横なぎに剣を振る。それだけでターミネートボアの首が取れ、戦闘終了した。

 

「なんだか、呆気ないですね」

 

 もっと血沸き肉躍るような戦いを見たかった彼は、一瞬で終わったことに残念がった。

 

「呆気ないって、いいか? ルーグス、戦闘なんてそんなもんだ。長く続く方がおかしいからな」

「まぁ、そう言われれば納得するしかないですけどね。あ、ちょっと試したい魔術を使ってもいいですか?」

「あ?何するんだ?」

「解析って魔術を開発中なんですよ、それをこの魔物に試すだけです」

「あぁ、そんくらいだったら構わないぞ」

 

 ありがとうございます、そういって彼は魔物の死体に近づき手をかざす。そしてうまくいったのか、ニッコリ笑って離れた。

 傍から見ていたパウロには何が何だか分からない。

 

 解析の魔術を研究しているのは、本当である。魔力制御に長けた彼は、自身の魔力でレントゲンのような効果を出せるのではないかと実験中なのだ。

 

 しかし、今やったのはそれではない。

 では何をやったのか。

 

 彼に聞けば、『ただの趣味だ』と答えるだろう。

 

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