夏油転生~異世界行ったらポケモ〇マスター~ 作:らららん
肉を食らう。これほど臭みの無く、脂濃い、旨い肉を食うのはいつぶりか。
「おい、ルーグス! ……ダメだこいつ、聞こえてねぇ」
「フフ、それだけ料理が美味しかったんでしょう。作った甲斐があったわ~」
「ルディも五歳の誕生日なんだから、もっと楽しそうにしろよ!」
「ルディ、あなたには後でプレゼントがあります。楽しいのはいいですが、疲れ過ぎないよう気を付けて下さいね」
「………誘っていただき、ありごうございます」
「いえ、旦那様方がやったことですので。感謝であればそちらの方へ」
今日は、彼とルーデウスの誕生日だ。同じ日に生まれた彼らを、何よりお互い友達であるから誕生日は一緒に祝おうとゼニスが企画し、実行した。
結果は大成功。彼はとても楽しんでいる。主に舌で料理を楽しんでいる。
「おいルーグス、いい加減目を覚ませ」
「ん? あぁ、ありがとうございます、楽しいです」
「こいつ!脳がバグってやがる。お前はもっと胡散臭い笑顔してるナチュラル煽リストだろ! キャラぶれぶれじゃねぇか!」
「…………」
「ダメだ、こいつの意識は今飯にしかいってねぇ」
ルーグスの目の前は、照り輝く肉たちで埋まっている。
彼は転生してそれほど不自由はなかったが、我慢しなければならないこともあった。
一つは娯楽。これは魔術と闘気、そして神子の力の研究が代替となった。二つ目は衛生面。今では三日程度水浴びしなくても平気になった。それ以上は我慢できないが。そして三つ目の、食事である。これは仕方なく諦めた。彼一人がどれだけ頑張っても旨い飯は作れないし、調味料も香味料もない。常備されているのは塩だけ。
だから旨い飯については諦めていた。そう、過去形である。
周囲が楽しく食べて飲んで喋っている所を、彼は食べて食べて飲んで過ごした。それがひと段落する。
「この料理を作ったのは誰でしょうか?」
「ん? 私とリーリャよ、ルーグス君」
「是非ワタシを弟子にしてください」
◇
「お前、アレ本気だったんだな」
「え、何のこと? それよりどうだい?このパンの旨さ。ワタシ、将来はパン屋になろうかな」
「………もういいや」
パクリと彼が作ったパンを食べるルーデウス。
そう、彼はゼニスとリーリャに新しく弟子入りした。彼の一日のスケジュールとしては、午前にリーリャもしくはゼニスに料理を教えてもらい、午後にパウロから指南を受け、それが終わった後ルーデウスと駄弁ったり座学をしたりする。もちろんだが、毎日しているわけではなく休みもきちんとある。その休みに彼は趣味の探求をするのだ。
「そういえばルディはこの前水聖級魔術師になったんだろう? すごいね、おめでとう」
「ありがとう………でもなんか、お前から言われても嬉しくない」
「人から褒められて嬉しくないなんて、もしかしてドMなのかい? この鈍間! エロガキ! 中身中年野郎!」
「そういうんじゃねぇって!」
彼らはいつも通りだ。先日、ルーデウスが水聖級魔術師となり、役目を果たしたロキシーは村を去った。
その時に彼は「ルーグス、近いうちあなたに会うことになるでしょうが、その時腰を抜かさないよう気を付けて下さいね」と言われ、「頑張ってください、ロキシーさん」と励まし、ロキシーは更に燃えることになった。王は人の心がわからない。
「俺のことが羨ましいなら、お前も聖級魔術を覚えろよ」
「いや、別に羨ましくないから遠慮するよー」
「……お前、頑なに魔術を勉強しないよな? なんでだ?」
「魔術は勉強しているよ、独学だけどね。ルディの言いたいこともわかるよ。答えは、ワタシは魔術教本からの知識を得たくないからさ」
ルーデウスは彼の話が気になるのか、視線で続きを促す。彼はそれに微笑む。
「前にも言ったことがあると思うけど、この世界の魔術は無駄が多い。技術が遅れているといってもいいかもしれない。遅れている理由が智慧ある者たちで技術を独占したのか、はたまた異なるのかは知らないけれど。そんな正しい知識かもわからない本を読みたいとは思わない」
「んー……お前の話もわかるけど、独学には限界があるだろう? 巨人の肩の上って言葉があるように、魔術も何世代もの人達が人生を賭して作ってきたものなんだ。俺が見る限り、間違った知識は教えられてないと思うぞ」
彼はルーデウスの言葉に頷き、そして悩む。
「どう説明すればいいんだろうね……。そうだな、ルディは前世でゲームをしてたかい?」
「そりゃもちろん! FPSもRPGもエロゲも、ありとあらゆるゲームをしてきた」
「それはすごい! ずいぶんやり込んでたみたいだね、前世は大学生とか?」
「え? あ、うん。そんなとこだな」
ルーデウスは嘘をついた。少し胸が痛むが無視をする。
「そのゲームをやっててさ、予想以上に金と時間を使った時、『こんなゲーム知らなきゃよかったのに』って思ったことはない?」
「めちゃめちゃある! 大して面白くもないのに課金してゲームクリアまでしたとき、虚無感で知らなきゃよかったってなる」
「そう、今回とゲームの話では多少意味が違うけど、世の中には知らない方がいいものもある。ワタシはそれを魔術本だと思ったまでさ」
なるほどな、とルーデウスは思う。彼は適当にみえて、しっかりと自分の考えを持っている。
感心するルーデウス。しかし彼は半分嘘をついている。
―――魔術はいつまでも趣味であってほしいからね。魔術を勉強しようとしたら、魔術が嫌いになってしまいそうだ。