人類最終防衛機構さん   作:アークナイツと東方にドはまり

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訓練ー酷評ー

 

ーー生得領域ーー

 

それは術者が持つ自身の精神性を示す現し世のこと

 

呪術師にとっては常識の知識であるその領域は、実際に見た者は数えるほどしかおらず、あの五条でさえ、領域展開なんていう神業を取得したときにようやく見ることができたと聞いた

 

『あーあ、コテンパンにされちゃったね、野薔薇ちゃん』

 

勿論、呪術師として未熟な私は見たことがない

 

というか、そんなものが私の中にあるのかすら分からなかった

 

『ごめんね。彼、やると決めたらやる子だから。手加減しないんだ』

 

でも、今は違う

 

多種多様な椅子が四方八方にある真っ白な空間

 

妙に居心地の良いこの空間こそ、生得領域とはいかずとも私の心象風景そのものだ

 

『でも大丈夫、彼は乗り越えられる試練しか与えない』

 

だからこそ、疑問がある

 

この子は誰だ?

 

『彼を乗り越えたとき、あなたはいつもと違うあなたになる』

 

私の前に立つ少女のことを私は知らない

 

黒いモヤで目を隠す彼女に私は会ったことがない

 

『だから、頑張ってね』

 

夢うつつな感覚の中で、不明な少女は私のおでこに優しく触れる

 

『この歪な世界な世界の中でちゃんとあなたも生きていけるように...』

 

途端、誰かに抱きしめられたような優しい温もり包まれた

 

『応援してるよ、野薔薇ちゃん』

 

体が浮遊感を覚える

 

意識が浮上する

 

視界が真っ白に覆われていく

 

『「さぁ、起きる時間だ」』

 

何もかもが見えなくなる瞬間、私は目撃した

 

『ふふっ、出来るなら彼と友達になってあげてね』

 

真紅に染まった赤い瞳を...

 

ーーー

ーー

ー

 

『……ーーー〜〜〜』

 

声が、聞こえる

 

『……ーーーぎぃやぁぁぁーーー……」

 

誰かの叫ぶ声が聞こえる

 

「この阿保共が、何度教えれば学習するんだ?」

 

「「イダダダダ!!ギブ!ギブ!!ギブ!!!」」

 

「じゃげぇっ、じゃげぇーーーー!!」

 

その声はもの凄く騒がしく、まるで寝起きに響く携帯アラームのようで...

 

「前にも言ったよな?術師がするのはチームプレイなんていう幼稚な遊びじゃない。スタンドプレイから成り立つチームワークだと」

 

「「サー!イエス!!サァァァァぁ゙ー!!」」

 

「ぐぇっ、」

 

「それがどうだ?お前らは特攻の役割を全うするどころか釘崎に役割奪われやがって」

 

「「い、いや!待て!あいつらは自分から挑んで行って!」」

 

「それを制御するのもお前らの役割だろうが、このトンチキ共が!」

 

「「グァァァァァァぁぁぁぁぁ!!!」」

 

「………ジャ………け………」

 

背中に感じる硬い地面を感じ取り寝ていたことを自覚した私は、騒音の不快さをトリガーに目を覚ました

 

「んん...っ」

 

「起きたか、釘崎野薔薇」

 

「あ、あれ、私...」

 

「俺にやられて気絶したんだ。減点だぞ、受け身ぐらい無意識で取れるようになれ。起きてすぐ戦闘なんてことも術師にはあり得るんだからな」

 

「気絶...?...あ、そうだ!私の喉ぉ...お、おぉ?治ってる?」

 

記憶が混濁したまま身を起こした私は封魔先輩の簡潔な状況説明によりボコボコにされたことを思い出す

 

薙刀が割いた頬、地面に転がった際打撲した体、ラリアットで潰された喉

 

てっきり私の体はボロボロで立ち上がるどころか、喋ることも出来ないと思っていたが、私の肉体は冗談抜きで全快していた

 

「負と負のエネルギーを掛け合わせ生み出す正のエネルギー、反転術式だ。硝子さんに直してもらったことがあるなら分かるだろ?」

 

「え、反転術式を使える人ってほとんどいないんじゃあ...」

 

「反転術式なんてのは覚えられれば誰でも覚えられる。まぁ、俺のは出力は高くても硝子さんほどの精度は出せんがな」

 

混乱する私を尻目に先輩は伏黒の下へと歩む

 

そして頭へと手を翳したかと思えば、その体を白い膜のようなもので包みだした

 

「ん...んん...んぁ?」

 

「おはよう、恵、酷評の時間だ」

 

「比佐嚴先輩っ!?」

 

翳された手から出たのはもちろん反転術式

 

実演された以上認める他ないが、術師世界でもSRレアな反転術式をアウトプット出来ることに唖然とさせられる

 

一方、頬をペチペチと叩かれては飛び起きた伏黒は辺りを見回して呆然と呟いた

 

「あ、そうか、俺は...」

 

抉れてる地面を見て悟る敗北

 

悔しさに落ち込むかと思ったが、私の予想に反して伏黒はどこか慣れた様子で先輩に尋ねた

 

「…先輩、今回の俺の反省点はなんですか?」

 

意外な伏黒の潔さに封魔先輩は溜息をついては「2つある」と告げた

 

「まずフィジカル、呪力操作はパンダに、呪力強化は棘に迫るほどレベルが上がってるが、素の身体能力が相変わらず雑魚だから上がり幅があまりに狭い」

 

「ざ、雑魚...」

 

「筋肉をつけろ。もっと飯食えよ、成長期」

 

「いや、これでも最近は結構食事量増やしてるんですけど」

 

「どうせご飯大盛りとか、夕飯おかず2品とかだろ?悟から聞いたが運動も毎日ぶっ倒れるまではしてないらしいな?」

 

「...」

 

「図星、か。いいか、俺達術師はな、一般人とはあらゆる面で異なるんだ。エネルギー効率然り、脳機能然り、肉体強度然り」

 

「足りないってことですか?」

 

「あぁ、大きく逸脱してるわけじゃないが、個人差がありすぎて一般人の基準は物差しにならん。健康と体調を気にするのはいいが、強くなりたいなら毎日死ぬほど鍛えて、限界以上に栄養を補給しろ。このままじゃあ一級術師にすらなれないぞ」

 

「か、体が持たないんですがそれは」

 

「安心しろ、泣き言を言えるなら十分に耐えられる。今日からそれを証明してやるから、楽しみにしておくといい」

 

「う、嘘...です、よね...?」

 

「...地獄を見せてやる」

 

ワザと真顔から美しい作り笑いをした先輩に伏黒は諦めたように項垂れた

 

逃げれないと悟ってるらしい。伏黒は現実逃避して封魔先輩が告げたもう一つの反省点を聞くことにした

 

「もう一つは、なんですか?」

 

「大まかには式神運用についてなんだが...それは後だ」

 

伏黒が追加で何かないか尋ねるが「まずは」と呟く封魔先輩は私へと視線を送った

 

まるでこれからお前を詰めるぞ、とでもいうかのように

 

伏黒もそれを理解しては黙って従う

 

しかし、伏黒にとっても、私にとっても黙ってはいられないことが一つあった

 

「...ところで、先輩たちは何を?」

 

先程から宙に浮いては直立不動で苦しそうに悲鳴を上げる二年の先輩達についてだ

※狗巻先輩は宙に浮いて8の字を描き続けている

 

先輩達の奇行の原因が何なのかは分かる。

 

初対面時に封魔先輩が使ってた、術式なのか"透明で巨大な手"によるアイアンクローだ

※狗巻先輩は胴体を掴まれて振り回されている

 

手の形の陽炎のような歪みが見えるから間違いない

※狗巻先輩の体が歪んで見えるから間違いない

 

けど、問題はなぜ封魔先輩は先輩たちをお仕置きとばかりに締め上げられているのかということ

※なぜ狗巻先輩はグロッキー状態になっても振り回され続けているのかということ

 

「阿呆共への教育だ、気にするな」

 

「あ、はい」

 

「「イギャァァァァァァ!!??!?!」」

 

「!!?!??!!!」パンパンパンッ!(何度もタップする音)

 

(いや、出来ないわ!)

 

教育と言われても悲鳴を上げる先輩達を無視することは出来ない

 

吐きそうになって顔を青くする人を見て無視することは出来ない

 

だってこれが実力不足による罰なら、次は私の番かも知れないのだから!!

 

「さて、釘崎」

 

「な、何よ...」

 

内心ビクつく私に対して私の前でヤンキー座りで座り込む封魔先輩は「お前には色々と言いたいことがあるがその前に一つ...」と前置きをした後、私にあることを尋ねてきた

 

「お前、なぜ最初からあの囮作戦を使わなかった?」

 

「...は?」

 

模擬戦でのタラレバを語った問い

 

伏黒へ酷評したことを振り返ると、この質問の意図は私に反省点を気づかせることにあるのだろうが、あまりに予想外で突然だったことから私は要領を得れず答えることが出来なかった

 

「「うぎゃっ!?」」

 

「「ぐわぁっ!?」」

 

そんな私の様子を悟ってか、封魔先輩は溜息をつきながらも立ち上がり、黒いグローブを履いた両手を握り込んでは自身の胸に引き寄せ始める

 

途端に巨大で透明な手が動き出した

 

アイアンクローを極めていた2年の先輩達を離しては地面に落とし、狗巻先輩と伏黒を掴んで先輩の近くまで引き寄せたのだ

 

そして始まるは私への酷評

 

「お前は最初、俺に煽られて先手を取ろうとした。しかし、それは真正面からねじ伏せられ、痛みと同時に危機感を刻まれた」

 

構えろ、そう言われた狗巻先輩は吐くのを我慢しながら封魔先輩と同じく拳を作った

 

「そして思いついたのが、棘の時間稼ぎ、恵による式神を使った撹乱と隙を作るための特攻、そしてお前の術式、恐らく拡張術式だろうが呪力を爆発させる技による決着」

 

「す、全て、分かってっ!?」

 

「経験の差だ、お前も呪詛師と何度も戦えばおのずと相手が何を狙ってるかがわかる。嫌がらせを事前に察知出来るのとおんなじ様にな」

 

かかってこい、そう言われた狗巻先輩は顔を青くしながらも封魔先輩に殴りかかった

 

「次の質問だ、釘崎、お前が立てたこの作戦、どこで失敗したと思う?」

 

「失敗...」

 

「作戦が成功しなかった要因はなにか、行動のどこに失敗があったのか、手段のなにを改善すればよかったのか、思いつく限りでいい言ってみろ」

 

駆け出した狗巻先輩が片手一本で投げられては悲鳴を上げて転がり、また駆け出しては投げられて悲鳴を上げて転がる間に私は言われた通り思案する

 

"作戦が成功しなかった要因はなにか"

 

「釘の数が足らなかったこと...?簪の使い時...?いや、そもそも...」

 

「…」

 

「分かりやい...そう、分かり易い作戦を立ててしまったこととか?」

 

「いいや、それは違う。予想はできたがお前の作戦は全てちゃんと俺に通じてたぞ」

 

捻り出した卑屈さのある答えが、予想外にもねじ伏せた本人に否定された

 

嬉しさより困惑が勝つ

 

「現に棘に時間稼ぎを任せたのは正解だった。お前が用意したすべての釘に呪力を込める時間を、恵が式神を顕現・操作させるために集中する時間を、棘は見事に稼いでみせた」

 

「くっ、蹴り飛ばせ!!!』

 

「こんな風にな!」

 

疲労と苛つきに少し大振りで飛び掛かってしまった狗巻先輩

 

だがその足は間合いの内側へと踏み込んだ先輩に躱され、肩で突進させられたことで悲鳴を上げる間もなく地面とキスする羽目になった

 

先輩は転がった後、四つん這いになりながら胃袋の中身を全部吐き出す末路を辿る

 

酷い扱いだがもう気にするだけ負けな気がした

 

「なら、私はなにを失敗して...」

 

「それを自分で探せ、今はそのための時間だ」

 

仮に先輩の言うことが本当で途中まで通じていたとするなら、私は失敗した原因がなにか本気で分からなくなる

 

だから思い返す

 

"行動のどこを失敗があったのか"

 

「伏黒は完璧に作戦をこなしてくれた」

 

「そうだな、脱兎の錯乱、蝦蟇の牽制、本人の特攻、俺はそれら全てに対処させられた」

 

「あんたの隙も作った」

 

「そうだな、多段攻撃による処理能力の限界、お前達が用意した攻撃に俺は結果的に隙を作らされた」

 

「"簪"もちゃんと死角から決めた」

 

「そうだな、恵に特攻させたことで動けなくした俺を、お前は確実に仕留めようとした」

 

「それでも防がれた、それならもう...」

 

そして一つの結論に至る

 

「私の技は知られてたとしか...」

 

前提条件の誤認、決め手としていた未知の技が既知であったこと

 

私がそれを言い切る前に気づく

 

特級術師である封魔先輩なら知れたはずだ

 

私の個人情報など特級の権力を利用すれば簡単に知れるはずだ

 

(卑怯なッ)

 

てっきり知らないものだと思ってた。知らないと思って自分の思いつく最大の作戦を立てて全力を尽くしたからこそ、私の中で怒りが湧く

 

怒りのまま叫びそうになる

 

「あんたっ、私の術式知って「思い返せ」...ッ!?」

 

だがその言葉は封魔先輩に頬を掴まれたことで止まる

 

「お前の行動を1から思い返すんだ」

 

驚愕で思考停止した脳が記憶を言われた通りに1から思い出す

 

1から思い返す

 

1から思い返す

 

(あ、そうか)

 

自分の最初の行動を改めて知る

 

(そうだ...そうだった...未遂でも私は"簪"を一番初めに見せていたんだ...)

 

そして理解する、"手段のなにを改善すればよかったのか"

 

「もう一度質問しよう、お前はなぜ最初からあの囮作戦を使わなかった?」

 

作戦の失敗は私の精神の弱さにあった

 

始まりと同時に先輩の挑発なんかに乗せられなければ良かったんだ

 

初めから挑発になんて乗せられず作戦を決行していれば、私の"簪"は未知のまま先輩に当たっていたんだ!

 

(それを理解するのも、ここまで言われなきゃ駄目なのね)

 

怒りは沸かない。自分の不甲斐なさが嫌になるだけ

 

「...戦いの基本は心・技・体の3つ」

 

落ち込む様子から全てを理解したことを悟った先輩は掴んでいた手を放す

 

「体力が常人の倍あろうと技術と心がなければ全ては無意味。技術が完璧であろうと体力と心がなければ全ては宝の持ち腐れ。心が伴わなければ技術と体力は生きはしない」

 

反抗する気も沸かない私に当たり前を諭す

 

「常に冷静であれ」

 

常識を語る

 

「話はまずそこからだ」

 

私は心に敗北を刻んだ

 

「さて、恵、お前の術式運用についてだが...」

 

私への酷評を終えた先輩は伏黒の元へと歩む

 

弱い私など興味ないかのように、会話の対象を伏黒へと移す

 

「いや、先輩...」

 

「あ?なんだ?」

 

しかし、その対応の酷さに伏黒の呆れるような声をあげた

 

先輩は伏黒に指さされて私に視線を向けると、「何をしろと?」と心底疑問そうに首を傾げる

 

「ちゃんと全部言ってあげてくださいよ、流石に面倒くさがりすぎですって」

 

「...メンタルヘルスでもしろと?慰めろとは随分お前も甘くなったな」

 

「違いますよ、変な勘違いはしないでください。俺はただ釘崎も鍛えるなら、初めから前を向かせた方が効率がいいと思っただけです」

 

「だから悪い所だけじゃなく良かった点も話すべきだと?」

 

「先輩は毎度言葉が足らないんですから。その肝心なところで面倒臭がる所、五条先生にそっくりですよ」

 

「この世最大の侮辱をどうもありがとう。だが足りないな、俺を動かしたいなら建前だけじゃなく本音も話せ。騙し隠しておいて誠意が通じると思うなよ」

 

説得を試みようとした伏黒は、先輩の指摘に視線をずらしては数秒の沈黙の後、言いづらそうに後ろ首を擦って少し小さめの声量で次の言葉を呟いた

 

「...俺もそうでしたが、強くなるには先輩の言葉は必要ですから」

 

真顔で伏黒の顔を見ていた先輩が目を真ん丸にして驚いた

 

「あいつの影響はこれほどなのか...」

 

私の気持ちを放置しての会話

 

伏黒の説得を受けた先輩は私の下まで歩んではしゃがみ込んでは、俯く私のおでこにデコピンをかましてきた

 

「いたっ!?」

 

「釘崎野薔薇。もう分かってるだろうが、お前はここでは最弱だ」

 

「なッ!!」

 

「身体能力、動体視力、呪力操作、呪力強化、あらゆる面で俺達に劣ってる。唯一アドバンテージ足り得る術式ですらお前の思考でマイナスだ」

 

「...ッ!」

 

慰めでもしてきたら殴ってやろうと思ってたが、なんと先輩がしてきたのは事実を使った心への追い打ち

 

告げられた事実に嘘はないからこそ私はその言葉は受け止める他なく、悔しさを拳を握る力を強めることで耐えるしかなかった

 

「だが忘れるなよ、そんなお前が俺をあと一歩のところまで追い詰めたんだぞ」

 

しかし次の瞬間には、意外にも称賛の声が入る

 

「え?」

 

これには思わず素が出てしまった

 

「術師の世界はなにもステータスの差だけで勝敗が決まる訳じゃない。技術、発想、環境、あらゆる条件で戦況ってのは簡単に一変する」

 

「あの時の戦況こそその最たる例だ」と言う先輩は真希さん達を1人づつ指差し始めた

 

「真希の特異な身体能力、パンダの人ならざるパワー、棘の異質な能力、伏黒の多種多様な式神。本来なら勝って当たり前の勝負において、お前らが残した結果はステータス差によるゴリ押しでの敗北だった」

 

最後に私へと指が向く

 

「だがそんな不利な状況の中、お前だけは思考を巡らせて俺を仕留める可能性を導き出してみせた」

 

先輩は伏黒達とは対象的に絶賛できる箇所を挙げた

 

その分析結果は先輩の冷静沈着さから決して慰めなんかじゃないとわかる

 

「余裕はあった、隠し玉もあったし、本気でやったわけじゃない。

それに課題だってある。恵の群れとしか扱えなかった脱兎の運用方法も、お前の本命を一つに絞る爪の甘さも、矯正するべき箇所は無数にある」

 

私を真っ直ぐ見るその瞳が本心なのだと教えてくれる

 

「それでも実力も足りないお前が突っ走った分を取り返そうと、全員の能力を組み合わせて解を示してみせたのは紛れもない事実だ」

 

嘘のない称賛なのだと気づかせてくれる

 

「お前は雑魚だが馬鹿じゃない」

 

だからだろうか...?

 

「成長出来ない訳じゃない」

 

私は簡単に"信頼"を置いてしまう

 

「釘崎野薔薇、お前には強くなるための不屈の精神があることを俺が保証する」

 

落としては持ち上げるその言葉に"信用"を超えて"信頼"を置いてしまう

 

「誇れ、お前はまだ強くなれる」

 

気づけば私は先輩の撫でを受け入れていた

 

だが、伏黒が傍から見られていることで気恥ずかしさを覚えていく

 

少し子供扱いしてないか?と苛つきも覚えてしまう

 

だから私は意趣返しとしてあざ笑うかのように言ってやった

 

「なるほど、あんたの事、少し掴めてきたわ」

 

「あ?」

 

「あんた、ツンデレってやつね?」

 

ピキッ、そんな音が鳴った気がした

 

伏黒も額を抑えて上を向いては「やりやがった」と呟いている

 

(え、私なんかやった?)

 

凍りついた空気の中、先輩は異様に綺麗に微笑んだ

 

「...俺は人を鍛える時には全員に段階的な目標を与えてる。お前ら1年に与える目標は次の3つだ」

 

私と距離を取りながら懐から取り出すのは3枚の呪符

 

「一つ、"昨日の自分より成長すること"

二つ、"術式なしの俺相手に善戦出来るようになること"」

 

その呪符には反転術式を込められていたのか、投げつけられた2年の先輩達は即座に回復し、状況を把握する暇もなく"透明で巨大な手"によって私達の近くまで移動させられた

 

「そして三つ、"術式ありの俺に一撃をいれること"」

 

"術式あり"という発言に先輩達がひりついた雰囲気を醸し出す

 

呪力がまさに今からあなたを攻撃しますよとでも告げるように揺れ動く

 

それを感じ取ってか私以外の全員が即座に、より強固な戦闘態勢を取る

 

「釘崎、俺はお前に不屈の精神があることを証明したが、そもそも俺は人を鍛えるにあたってそんなものを気にしたことはない」

 

先輩が嵌めていた手袋を脱ぐ一挙手一投足にすら、怯えるかのように体を震わせて警戒を強めていく

 

「逃げようとする奴、文句を言う奴、耐えられず俺を殺しに来る奴、その全員を俺は洗脳と結果で黙らせていたからな」

 

"透明で巨大な手"が霧散して消えた

 

「今回もそれは同様だ。悟から高額の報酬をもらってる以上、お前らがどんなに抵抗しようとあいつが満足するまで鍛える、鍛え潰す、鍛え壊す」

 

代わりに"帳"に似た"結界"が詠唱もなしに私達の周りへと展開される 

 

「だが乙骨曰く、逃がさないならせめてゴールは示してくれとのことだ。地獄が永遠に続く恐怖より、地獄から解放される希望のほうが何倍もやる気を出せるらしい」

 

先輩は十数メートル離れた地点で私達の方へと向き直り右手を空へと翳した

 

「俺もこれには一理あると思った。だからまぁ、温情だが見せてやる、これに耐えきることがお前らの最終目標だ」

 

初めて卑しそうに笑った先輩は堂々と技の名を告げる

 

『転換呪法・極ノ番"オーブ"』

 

翳されたその掌からはバスケットボールほどの"黒い球体"が出現した

 

それは宙へと浮き始め、途端にひび割れを起こす

 

「さぁ、俺に喧嘩を売るとどうなるかを知れ」

 

黒い球体から感じる蠢く残穢に私の脳は大音量で警笛を鳴らす

 

嫌な予感に私は遅れながらも防御態勢を取り、なにをされても今度は気絶しないように気構えるが、後から思えば防御なんて意味がなかった

 

『開放』

 

"黒い球体が崩壊する"

 

"砲弾並みの大きさと速度"

 

"マシンガン並みの数と連射性"

 

"一発一発が私の最大呪力出力と同等の呪力量"

 

"黒い球体の中から防御不能で回避不能な呪力弾が放たれた"

 

「嘘、でしょ...」

 

Q.これを食らっても私は耐えられる?

A.不可能、奇跡的に一発目を耐えられても、二発三発目で必ず気絶する

 

Q.これを喰らわずに私は生き残れる?

A.不可能、奇跡的に一発目を避けられても、二発三発目が必ず命中する

 

Q.ならどうしたらいい?

A答えは簡単、10のエネルギー<10の強化+拳の威力、つまり私の最大出力の呪力強化で全てを迎撃すればいい

 

「くそっ、くそっ!!!」

 

だがその難易度は極高だ

 

強化を維持し続けたことがない私にとって、インパクトの瞬間に最大強化をし続けなければならないのは、技量的にも不可能に近い

 

だが出来なければ地獄の痛みに気絶のコンボ

 

(なんてっ、なんて器の小さいやつ!)

 

先輩の卑しい笑みの理由がわかった

 

たった一度の手合わせで私の技量を知り、私の限界を試すような技を出して、私を嘲笑っているのだ

 

全て凌げればそれぐらい出来て当然だと言い、凌げなければ死ぬ目にあって未熟さを理解しろとそう言ってるのだ!

 

ただ私がツンデレって言った仕返しに!

 

「「「「「オラァァァァぁ゙ぁ゙ぁ゙アア!!!!!」」」」」

 

痛いのは嫌だ!気絶するのも嫌だ!だがそれよりこの人に嘲笑われるのもムカつく!!

 

私達は各々が全力で叫びながら自分達に向かってくる呪力弾を撃ち落とし始めた

 

一発目、金槌で打ち消す、だが呪力強化が甘かったせいか衝撃がダイレクトに腕に来る

 

二発目、金槌で打ち上げる、今度は力みが足りなかったのか手は後方へ弾き飛ばされる

 

三発目、手の痺れに金槌を地面へと落とした私は咄嗟の判断で呪力弾を殴りつけた

 

拳から血が噴き出る

 

先輩が恍惚とした表情を浮かべる

 

続け様に四,五目が飛んでくる

 

もうどうしよもないと悟った刹那、私はクソほど憎たらしい笑みを浮かべた先輩に向かってこう叫んだ

 

「この、性悪クソ野郎がァァァァぁ゙ぁ゙ぁ゙!!!」

 

私と伏黒は呆気なく吹き飛ばされた

 

 

 

ーーー

ーー

ー

 

 

 

砂埃立つグラウンド

 

死屍累々のように地面で倒れる一年坊

 

薙刀に身を預けたり、膝をついたり、尻餅をついたりして息を整える二年共

 

「結果は...耐えきれたのは二年で、一年は対処出来ずに気絶か」

 

俺は年齢に合わぬともタバコの煙を悪戯に目の前のアホどもへと吹かす

 

「身体能力は勿論のこと、耐久力、瞬発力、持久力は足りてないな。それに想定よりも呪力操作の精度が悪い」

 

あぁ、俺はこれから交流会までに雑魚を強者へとしなければならないのか

 

「救いは術式が奇特なこと、度胸があるのと馬鹿じゃないことと、悟の言った通り伸び代がちゃんとあること」

 

やることが多いな、グラウンド修繕然り、強化訓練然り、メンタルヘルス然り、呪具提供然り、宿儺の器の強化然り...

 

「訓練メニューは"狂気化クラス"..."洗脳クラス"..."廃人化クラス"のほうが丁度いいか」

 

「ひぇ...嘘でしょ...」と絶望する二年もそろそろ賢さを鍛えなければならない

 

「部隊は事件解決のために動かせないし、秤も顧客情報奪っては逃げてる最中、獄中共はそもそも信用ならん」

 

面倒臭さだけが頭に残る

 

「はぁ、宝具を使うしかないか...」

 

金と時間が飛んでいく

 

「...タバコが美味い...」

 

タバコの味が妙に体に染み渡るのだった




オリ主の強さの詳細はもう少し待ってください。

悟との手合わせで書きたいと思ってます。

ネタバレではないんですが、オリ主の術式はFateの宝石魔術と同様です。解釈広げ便利性を広げてますが、チートじゃないです。その理由もいずれ文字にするのでお楽しみに。

なお、極の番オーブはアニメ神之塔の夜が漫画の作中で使う技と同じです。
詳細は手のひらサイズの結界内に呪力弾を何発も抑え込み、回転数を操作して威力を上げて解き放つ、呪力を大量に使う効率の悪い技です。
あれ?合理性のあるオリ主がなぜそんな技を嬉々として使うの?

答えは次回に

次回!オリ主の術式とは?
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