ヘッポコ機人は夢を見る   作:星野林(旧ゆっくり霊沙)

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攻勢計画

 小型漁船となった伊達丸は連日大漁の魚を水揚げし、港に届けた

 

 宮澤食品の業績もこれにより上昇傾向である

 

 そんなある日のこと、伊達丸が漁をしていると網に機人がかかった

 

「うわ!? ふ、藤原さん! 機人が釣れました!」

 

「ああ、たまに釣れるよ。ただ、壊れてるし、死んでいるから海に戻すのが習わしだね」

 

「死んでいる? ……これが?」

 

 人間とは違い機械生命体である機人はスクラップにしない限り朽ちることはないとされる

 

 ただ修理不可とされた機人はスクラップにされ、新たな機人の材料とされる

 

 海底に沈んでいたこの子も過去の戦役で水没した機人だろうと藤原さんは語る

 

「……持ち帰っても良いですかね」

 

「良いんじゃないか? 水没していた機人なんて腐るほどあるし……」

 

 スクラップにも金がかかるし、労力もかかる

 

 スクラップ機人を工場で運んで分解して使えるのを選別して……それで生まれてくる機人は小銃等の最低クラス

 

 だったら新しく作った方が安上がりだし、労力も少なくてすむ

 

 そもそも国内で機人修理専門の工場は少ない為、死亡判定された修理不可能の機人は戦場で放棄されたり、海に捨てられる

 

 私は船の中に工具を持ち込み、魚を洗うホースで釣れた子の体内を丸洗いをした

 

 機人の体は幾つかのパーツに別れている

 

 頭部、胸部、腹部、下部、四肢、そしてコア

 

 瞳に輝きがないこの子の胸部を体中にあるラインと呼ばれるくぼみ……生きていると青く光る部分に添ってアーク切断と呼ばれる方法で解体していく

 

 電源は私の船舶用の動力源からでる電力を用いて行った

 

 ジジジジジ バチン

 

「ふう」

 

 胸部が取れたので体内が露になる

 

 そこにはコアを中心に生態機械類が埋まっており、機人の心臓や内臓に当たる部分である

 

 食べたものをエネルギーに変え、エネルギーにならない物を排泄物にし、エネルギーを全身に送り出し、思考能力すらこのコアで行われている

 

 人間は脳で思考等をするが、機人は脳、心臓、小腸、肝臓、腎臓……更にはそういった臓器の回復能力までもがコアに集中している

 

 抜き取ったコアは青いキューブ状であり、これが大きいほど機人としての格が高いとされているし、機人の成長能力に直結しているとされている

 

「綺麗……海に沈んでいても……何年経過してもあなたは完全には死んでいないんだね」

 

 もちろん酸素不足、エネルギー不足により輝きは限定的であるが、完全に死んでいるわけではない

 

「どうやってエネルギーを分け与えれば良いかな?」

 

 脱け殻となった肉体は海水によって錆びており、修復には相当時間がかかるだろうと思われた

 

 それでも伊達丸は家の風呂に重曹を大量に入れて錆びとりを実行

 

 コアも綺麗に洗って乾燥させる

 

「うーん、でもこれだけだと復活はしないよなぁ」

 

 錆びをとり、身体中を綺麗にしてもコアにエネルギーが行かない

 

「こういう時は」

 

 本屋でたまたま有った機人の応急処置についての本を参考にする

 

 エネルギー充電に使われるのはコアエネルギーパッチと呼ばれる物が有るらしいのだがそんなものが市場に出回ることも無く……ここで機人の修理は頓挫してしまう

 

 空いている部屋の所に寝かせて置いておく

 

「綺麗にしたら美人さんだなぁ」

 

 髪の毛とかは無くなってしまっているけど、顔の作りから美人だとわかる

 

「いーなーいーなー私田舎娘っぽい顔だし……」

 

 嘆いても顔は取り替えられない

 

 伊達丸は一旦修理を留めるのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 小型漁船としての経験値は凄まじい勢いで上がっていった

 

 まだ大幅な進化は無いが、船の内装は秋になる頃には旧式だった魚群レーダーは最新とはいかないが新しくなり、ライトの数が増えたり、海水から飲料水を作る機材が追加されり、冷蔵庫の質が良くなったりと改良が続けられている

 

「機人の成長力は凄いな……」

 

「いえいえ私は軍用にもなれないポンコツですし」

 

「それでも凄いよ! 伊達丸のお陰で大漁なこと多いしさ!」

 

「……この調子なら来年には次の進化もできるかもしれませんね」

 

「次の進化か……そしたら人員の追加もしないとな」

 

「漁業部門10人しか居ませんが……増えますか?」

 

「宮澤社長が走り回ってるから何とかなるでしょ。軍に行くよりは生き残れる確率も高いし、なんだかんだ配給前に食料を少しちょろまかせるのはでかいし」

 

「ノルマ以上は政府買い取りですが、配給の魚は干物ばっかりで新鮮な魚は少ないですからね」

 

「殆ど缶詰め行きだからなぁ……新鮮なのが一番だし」

 

 皇国の食料生産は南満州と台湾の獲得によってだいぶ安定したものの、昔のような機械化農業ができるほど安定した燃料の供給ができないのと、機人出現までの約10年で機械化技術の衰退が発生していた

 

 合衆国では今なお大規模農業ができているらしいが、衰退戦争によりF1種を作っていた会社の破綻などで固有種への原点回帰が起こったりもしている

 

 皇国では衰退戦争前は人口が1億近く居たのが30年で5000万人まで減少しているのが衰退戦争の悲惨さを現している

 

 まだ国として残っているのでまだまし、巨大国家であったソビエト、世界最多の人口を誇った華中国民政府も自国で核を使いながら防衛戦争をしていたが消滅した

 

 だから国体が維持できているのは幸運なのである

 

 ただ皇国は若い世代が兵士にされていることにより成人男性の割合が崩壊気味であり、建て直しのためには兵士の機人の割合を増やすしかないのだが……機人の生産量はなかなか上がらない

 

 もし……今の軍が致命的な失敗をした場合……攻勢に失敗した場合皇国は建て直しが効かないダメージを受けるかもしれない

 

 しかし、皇国を維持するためには資源地帯の確保が必須

 

 破滅を避けるために拡張を続ける皇国の破綻はじわりじわりと近づいていた

 

 

 

 

 

 

 

 皇国……いや、皇国機人にも派閥というのがある

 

 大きく分けると3つ

 

 陸軍、海軍、民間である

 

 陸軍機人は主に大陸を中心に活動しており、数が一番多いのが特徴で、戦車、自動車機人の発言力が強い

 

 常に最前線で戦っているため消耗率も高いが、生き残りの成長率も一番高いのが特徴である

 

 海軍機人は船舶故にシーレーン重視の思考が根強く、戦艦機人が一番大きい顔をしている

 

 皇国は世界3番目の海軍力を有しており、精強と名高い

 

 日本海海戦、千島海戦、沖縄海戦、黄海海戦でディクラインを撃滅した今の日本の基盤を作ったという意識が強く、国防の要は海軍であると考えている

 

 最後に民間は一番肩身が狭い

 

 上記2つからは前線にでれない落ちこぼれとか後方でぬくぬくしている軟弱者と言われている

 

 数も多くない為派閥として機能していないのではないのかと思われるが、愛知工廠が民間から成り上がった巨大工廠であり、派閥=愛知工廠となるが無下にはできない影響力が存在した

 

 そんな工廠機人達が年に1度の会議……帝国会議が皇都東京にて開催されていた

 

「これより帝国会議を開催する」

 

 東京工廠の号令で会議が始まる

 

 この会議は言わばもう一つの政府であり、この会議の決定は皇国政府も無視することはできない

 

 議長である東京工廠なんかは大臣クラスの影響力を保持していた

 

 ただ人間の最終決定には従うというルールが存在しており、一応上は人間であると決められていた

 

 機人達はそれに不満はない

 

「さて、今年も面子が変わらないことに安堵すると同時に残念に思う」

 

「全くだ。工場機人の数は多少増えたが工廠クラスが増えないのは問題だろう」

 

「「「しかり、しかり」」」

 

「増えないものは仕方がない。無いものを願っても仕方がないだろう。問題は国民の疲弊がそろそろ限界点を突破しかねない点だ。肥料を作れる工場機人が火薬製造に駆り出されている影響で肥料の生産能力が低下、農作物の収穫量に影響がでている。救民をしないと飢饉が発生したら国が詰むぞ」

 

「その為には前線より素質のある者を引き抜いて後方で育てて工場機人にするしかないが……」

 

「冗談じゃない! 今満州から機人を引き抜けば数年前から計画されている攻勢計画の破綻は愚か戦線は崩壊の可能性すらある! 断固拒否だ」

 

「落ち着け京都、東京の話はわかるが合衆国のような余裕は我らが祖国には無いぞ」

 

「……私は攻勢計画の延期を進言したい」

 

「海軍に身を置く神奈川としては東京の意見に反対である。皇国はゴム、石油、ボーキサイトが足りていない。それらの資源は大陸及び東南アジア地域確保をしなければならない。でなければ備蓄資源を切り詰めて機人製造を行っている皇国の機人製造力は大幅に低下するだろう」

 

「しかし、このままでは干魃や冷害で国内で餓死者がでるぞ! そうなればただでさえ困窮している国民が更に追い込まれる」

 

「確かにそうだが……」

 

 結局東京機人が提案した攻勢作戦の延期は却下された

 

 この決定が大きな分岐点となることをまだ誰も知らない

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