一輪花の咲くまで   作:No.9646

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1話 プロローグ

 

ーーーーーーーーー

この場所では子供は物だった。

売り買いする商品であり、使えなくなれば処分される消耗品。

買取られた先がここよりマシなのか、大人達の会話を聞いているとそうでもないらしい。

この前のはよかった、直ぐ壊れた、またご贔屓ーそんな言葉から察するに、売られた先では消耗品になるのだろう。

消費されない為にはどうするか。

価値が有ればいい。

壊すには勿体ない、手放すには惜しい、手入れをして大事にしなければと思わせるだけの価値が。

幸か不幸か、少女は一般的に美しいと称されるだけの容姿があった。

表情のない少女は、さながら人形の様だと評判だ。

叩き込まれる教育を瞬く間に吸収する才気も、最早暴力にも等しい訓練に耐え得るだけの身体能力もあった。

少女には個性もあった。

眼を見た者の感情を操るそれをはじめに使ったのは自分自身だった。

ガラスに写ったぼろぼろの写身、いつもと違う色をした瞳から溢れる燐光を目にした瞬間、恐怖、嫌悪、苦しみ、希望ー一切の感情が消え去った。

すっと心が楽になった。

それからは『余計な』感情は生まれる度に消していった。

慣れてくると鏡を見ずとも消せるようになった。

燐光もなく、瞳の色の変化も抑えて、ひっそりと少女は自分の心を殺していった。

繰り返し、繰り返し。

従順に、高い価値を示せば、大人たちの少女の扱いは他の子供らと変わった。

身綺麗に整えられ、檻に入れられる事もなく、不必要に痛めつけられることもなくなり、十分な食事と寝床、高度な知識や技術が与えられた。

強く、賢く、美しく、従順な少女は理想的な商品見本として非売品になった。

同じように能力の高いものは残され、仕事を与えられ、時折貸し出される。

しばらくしたある日、少女は子どもたちの世話を命令された。

担当の男は子供嫌いだった。

あの甲高い声が癪に触ると、一度売約済みの商品を傷めてしまい、上役からこっ酷く叱られていた。

部屋()の中にはいつも数人から十数人の子供たちが入れられている。

数は減ったりもするし増えたりもする。

比較的丁寧に扱われているモノを集めた部屋もあれば、傷だらけで最早起き上がる体力のないモノが床に転がっている様な部屋もあった。

食事を持って各部屋を回る。

小さな女の子が、泣いていた。

食事にも目もくれず、只々泣き噦る。

命じられた以上、彼等の面倒を見なければ。

少女は女の子を泣きやませようと、個性を使った。

女の子の前で膝をつき、両手で頬を挟んで、視線を合わせる。

個性を発動させると、左眼から柔らかな黄緑の燐光が溢れた。

恐怖を消し去り安らぎを与えるように。

 

「もう大丈夫」

 

これでもう怖くない。

一時的にとはいえ、恐怖から解放された女の子は頬を涙で濡らしたまま、笑顔で少女に言った。

 

「ありがとう、おねえちゃん」

 

彼女の心に、何かが生まれた。

他の子供たちと過ごす内、触れ合う度に、彼女の中で少しずつ、色んなものが増えていった。

時には言葉を掛けてやり、時には怪我の手当てをして、時には寄り添い眠り、時にはー

焼石に水をかけるような行為ではあったけど、僅かでも彼等の慰めになって欲しかった。

子供たちは相変わらず増えたり、減ったり。

彼らの中には、希望を捨てない者もいた。

 

『すぐに』『必ず』『ヒーローが助けに来てくれる』

 

いつか、きっと、誰かが。

それまでに後何人犠牲になればいいのか。

もう、十分待った筈だ。

ある時、救いを装って糸が垂らされた。

けれどもそれは本当に蜘蛛の糸だった。後ろで大蜘蛛が巣を張っていた。

また減った。

誰も彼等を救ってなどくれない、助けてくれない。

だったら。

 

「私がー」

 

その後、ある日の朝。

 

『次のニュースです。本日未明、○県○市の児童養護施設で火災が発生しました。近隣住民から火の手が上がっていると通報があり、消防隊が駆けつけ消火活動にあたりました。出火元である施設と隣接する建物を含む2棟が全焼。火は既に鎮火していますが、焼跡からこの施設の職員と見られる複数の遺体が発見されており、行方不明者も多数いるもよう。ヒーロー、消防隊員らが現在も懸命に捜索活動を続けー』

 

ーーーーーーーーー

 

「お呼びでしょうか」

「よく来てくれたね、葬」

 

古巣を出て数年。

あれから少女は、死柄木(はふり)と名を得ていた。

何本もの医療用チューブに繋がれた、顔のない男によって。

子供たちを守り生きていくには金が要る。

それ以上に、後ろ盾が必要だ。

強大であればあるだけ良い。

何より、後ろに守る者がある以上、選択肢など存在しない。

葬は男に父と呼ぶように命じられた。

義理の親娘として、直属配下として教育を受けた葬は、年若いながらも部下を持つまで成っていた。

いずれは同じく死柄木の姓を与えられ、義父の後継となる義兄の側近になることが決められている。その為の義妹だ。

 

「オールマイトが雄英高校に教師として赴任するという話は知っているね」

「はい」

 

下された命は、雄英高校へ潜入しての情報収集だった。

 

「相手の陣中に潜り込まなければならないが、能力的にも年齢的にも君が適任だ。やってくれるだろう?」

「畏まりました」

 

2、3の要点だけ確認事項を問い、葬は礼をとる。

 

「良い子だ」

 

下げた頭を男の大きな手が撫でる。

 

「葬、君には期待しているよ」

 

男の焼け爛れた口だけの顔が、笑みを描いた。

 

「はい、お父様」

 

 

ーーーーーーーーー

少女

大丈夫

大丈夫、私が

私が守るから

 

お父様

例のあの人

 

 

 





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