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雄英高校から電車で約1時間。
一花は職場体験先の事務所を訪れていた。
「雄英高校1年黒衣一花です。本日より1週間お世話になります」
「こちらこそ、勧誘を受けてくれてありがとう。所長のサー・ナイトアイだ。先日は通形が不快な思いをさせたようですまない。当人には重々言い聞かせた」
オールマイトの元相棒、サー・ナイトアイ。
一見細身のサラリーマン風の風貌ではあるが、その眼光は鋭く油断ならない。
個性は“予知“。
隠し事の多い一花に取っては天敵と言って良い相手だ。
スパイであればこんな危険な個性持ちのヒーローにはまず近づかない。
が、勿論、勝算はある。
サーの個性発動条件は社外秘とされているが、それほど頻繁に、自在に使えるというわけでもないようだ。
そうであれば、彼はもっと活躍していることだろう。
“予知“を使うにはそれなりに満たさなければならない条件があると見ている。
それに、
ましてや預かりの研修生が起こした猥褻物陳列の相手の未成年女子には。
なお、先日の一件は通形と担任のスナイプから頭を下げられ手打ちとなった。
所長指示での勧誘と証言から、オールマイトが元相棒に電話をしていたが、まさかの事情聴取をオールマイトから受けるとは思っていなかっただろう。漏れ聞こえた「は?」がひっくり返っていた。
「ウチの事務所は私の他、相棒(サイドキック)2名と研修生1名で運営している。はい、自己紹介。元気よく」
「サイドキックのバブルガールです!よろしくお願いします!」
「同じくセンチピーダーだ。個性は見ての通り百足。よろしく」
「俺は二度目まして!ルミリオンって呼んでね!」
「どうぞよろしくお願いします。ヒーロー名はブラックコートとお呼び下さい」
挨拶を済ませ、ルミリオンに事務所の中を案内される。
去年からここで世話になっている彼にはまだ後輩と呼べる者はおらず、一花が来たことで張り切っているらしかった。
サイドキックの2人が温かい目で見守っている。
「よし、これで一通りかな。午後は早速周辺の案内がてらパトロールに行く予定なんだけど、何か質問あるかい?」
「いえーああ、ルミリオン」
「何かな!?」
「無いとは思いますが、公衆の面前で服を落とすようなことはありませんね?特に年少の女児の前でやらかしたら、そのお粗末なモノ切り落としますので、そのおつもりで」
「お粗末!!」
何せこの男、過去の体育祭(全国生放送。ネット中継+アーカイブスあり)でやらかしている。
そのことを突きつければ、バブルガールは擁護を諦めた。
ナイトアイからは「年頃の娘さんがそう言うことを言うものじゃない」と婉曲した小言一つをいただいた。
庇いきれていないということは、何かしらしでかした事があるらしい。
事務所の床で両手両膝をついて「お粗末…」とうなだれていたルミリオンはセンチピーダーに慰められていた。
「だ、大丈夫。今の俺のコスチュームは髪の毛から作った特殊繊維製だから、個性発動しても脱げない仕様になってるんだ」
少しは立ち直ったらしいルミリオンが弱々しくニコッ…と顔を上げた。
「へえ、そういうのもあるんですね」
以前変装用に使ったカラコンにも同様の技術が使われているので当然知っているが、話の取っ掛かりとしては良いだろう。
体組織繊維製品を利用しているのはルミリオンだけだったようで、体験学習中に改めて話を聞かせてくれるとのことでまとまった。
気を取り直して、パトロールへと出立する。
この近辺を縄張にしている連中には行動を控えるよう通達したし、大きな面倒事は起きるまい。
可能であれば懐に潜り込んでオールマイト絡みの情報が欲しいところだが、ひとつのミスが命取り。
先ずは小細工はせず、誠実に、信用を得るところから始めるかと算段を立てる。
仮に収穫が無くとも、此処を切り抜けてしまえば、万が一の時に疑われるリスクは大幅に減る。
そんな考えはおくびにも出さず、業務の解説に肯首しながら質問を返す。
こうして、一週間の職場体験が始まった。
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職場体験も早3日目。
大きな問題もなく、緊張感はあれど平穏にこなしていた。
研修内容は活動内容は事務所によって異なるようだが、主にサイドキックの雑用の手伝いや訓練、奉仕作業やパトロールへの参加などがある。
基本的には、プロヒーローがどんな仕事をしているのかを間近で見ようというのが職場体験の趣旨だ。
お客様扱いのため、対応も甘い。
サーナイトアイにも気取られることなく、順調である。
サー・ナイトアイはオールマイトの元相棒とだけあって、真っ当な人物だ。
生真面目でストイック、けれどもユーモア第一。
笑顔のない社会に未来はないと、全く笑っていない顔で語っていた。
極めたオールマイトファンでもあるので、立場が違えば、ステインとも話が合ったかもしれない。
日課のパトロールも、サーとルミリオンと共に当たり障りのないヒーロー志望の学生としての会話をしつつ、市内を巡回する。
そして同じく日課のトレーニング。
身体作りは仕事の一部。待機時間はデスクワーク以外にも当てられる。
柔軟と基礎トレに加え、一花は通形と組手を行っていた。
「そこまで!」
「「ありがとうございました!」」
終了の合図と共に、組み合っていた一花と通形は離れ、お互い一礼する。
休憩に入り、一花はベンチに戻って体温を下げようとばさりとコートを脱いで投げた。
圧迫していたベルトやプロテクターがなくなり軽くなる。
中に着たシャツの襟を寛げると、首元から風が入り火照った身体に心地良い。
グローブも取りたいが、先に水分補給だと手を伸ばした。
ボトルを呷れば、僅かに袖口から手首が覗く。
コクコクと水を飲む度、白い喉が上下する。
「ふう…」
一息吐き、汗ばんだ額に幾筋か張り付いた髪を掻き上げた。
「?」
じぃ…と視線を感じて、隣を向く。
通形が水を持ったまま固まっていた。口の端から水が垂れている。
「通形先輩?」
「…はっ!」
声をかければ、通形は我に帰る。
「ごめんごめん!ちょっとボーッとしてた!」
やっべーなんか扉見えた、とよく分からない独り言をこぼしながら、通形は口を拭う。
「にしても君すごいな!段々反応が速くなる!」
「体育祭に向けて練習しましたから」
「この感じだと、色々応用効きそうだね!“感情支配“だっけ⁉︎」
「最近になって見つけた遣り方なので、他も考え中です」
汗を拭いながら、一花は平然と答える。
「ですが、1つでさえまだ全然ですね。持続時間も短いし、加減を間違えて“集中“しすぎて周りが見えなくなっていては、実践で使うには程遠い」
真っ赤な嘘だが、そういうことにしておく。
「先輩の個性は“透過“、でしたか?」
「うん!発動中は何でもすり抜ける!」
通形の個性“透過“。
その名の通りで、あらゆるものを、壁や地面にどころか、光や音、空気までもすり抜けてしまうらしい。
「俺の“個性“、強いと思うかい?」
「そうですね。一切の攻撃が通用しない、ある種絶対的な防御。それもありますが、それ以上に通形先輩自身が」
「俺?」
通形の“透過“はその個性だけならば、防御には優れていても決して強個性として分類されるものではない。
扱いも難しく、一歩間違えば真っ二つ。
現に、下調べしたが去年一昨年と成績は奮っていない。
それを鍛え上げ、ここまでにしたのだろう。
初対面では思わず担任のイレイザーヘッドに
雄英のBIG3、知る限りで最もNo.1に近い男、と。
純粋な憧れを抱き、夢を追い続け、ひたむきに努力する。
「ピーキーな個性を使い熟す技術も、その鍛えられた大きな身体も、先輩の努力の賜物でしょう?純粋に凄いと思いますよ」
「そうかな!?」
タハー!と通形は照れくさそうに頬を染める。
「私は見ての通り、先輩のように筋肉もないし、力も強くはありません。体質なのでしょうね。小さな子どもでさえ、抱えようとすればせいぜい2人。応戦しようとするなら1人が限度。この身を盾にしたところで変わらない」
この腕をすり抜けていった仲間が、この手から零れ落ちていった命が、どれだけあったか。
「目の前にいる者を守るのにすら、私の腕は細く短すぎる」
この数年でずいぶんと背も伸びた。
後ろ盾も、資金源も、頼りになる仲間も増えた。
それでも、まだ、足らない。
「だから、他で補う。パワーで足りなければ手数で。防御が低いのなら回避する。攻撃力が欠けるのなら道具で。個性でも頭でも何でも使って、私は私を補って、望む未来を叶えたい」
これは本心であった。
「いいね!Puls ultra!
通形はGoodと親指を立てる。
「俺もこの個性をものにするまでダメダメだったけど、サーに拾ってもらって、いろんなことを教えてもらって、ここまで来た。俺ももっと先に行く」
通形はサー・ナイトアイに見出され、技術面や予測思考を叩き込まれたのだと、楽しげに語ってくれた。
「ところでさ、ブラックコートってやっぱりそのコスチュームから?」
「ええ。いざとなると思いつかなくて」
ヒーローネーム決めの授業の様子を話せば、3年生の彼は1年次を懐かしむように笑っていた。
「あったあった!俺のルミリオンもその時付けたんだ!
「良い名前ですね」
「だろ!」
通形はまたぐいと水を飲む。
「ヒーローがマントを羽織るのは何の為だと思う?」
「何の為…?」
唐突な問いに、一花はコテンと首を傾げた。
身体を隠して狙いをつけづらくする防御、体温調節、空気抵抗の調整、収納、個性利用と思い付くものを指折り上げてゆく。
「あとは…止血の応急処置や救護ですかね」
「そう!ヒーローがマントを羽織るのは、痛くて辛くて苦しんでる子を包んであげる為だ。俺はそう思ってる。で!今思った!コートでだって、包めるなって!」
一花はぱちくりと目を瞬かせる。
つまりはだ。
適当に付けた意味のないヒーロー名に、意味をつけようというのだ。彼は。
小さな太陽のような眩しさに、一花は目を細める。
「そうですね。そう、なりたいものです」
そんな日は、未来永劫訪れないことを知りながら。
「ルミリオン、ブラックコート」
そこに、一旦自室に戻っていたサー・ナイトアイがやって来て2人に告げる。
「警察から緊急要請が入った。出動だ」
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ブラックコート
人を騙すには嘘とを混ぜると効果的。
元々ヒーロー憎しというわけではないので、普通に好感度は上がる。
ただ住む世界が違うだけ。
ミリオ
「守りたい」って思い、伝わったよ!
未来の後輩ウェルカムさ!
なんか扉見えた。
部下A(ヒロスデザイン担当)
ようこそ
部下Aさんは4話の「4:戦闘訓練」の最後に出たアレです。
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