一輪花の咲くまで   作:No.9646

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13話 若葉の芽吹く季節②

 

───────────────

 

「黒衣?」

「轟君?」

 

週末。

焦凍が母の見舞いに訪れた病院で出会したのは、クラスメイトの黒衣だった。それも制服だ。

 

「何でここにいんだ?」

「私は見学でーああ、リカバリーガール」

 

後ろを振り返れば、杖をついてやって来たのは小柄な老婆ー雄英の保健室の主リカバリーガールだった。

 

「おや、轟じゃないか」

「ども」

 

焦凍はぺこりと会釈する。

 

「アンタはどっか痛めたとかはないはずだけど、誰かの見舞いかい?」

「はい。2人は何でここに?」

 

聞けば、リカバリーガールはボランティア、黒衣はその見学に誘われたらしい。

リカバリーガールは雄英で看護教諭をしている傍ら、各地の病院へ慰問を行っている。

ここの病院は母が入院している精神病棟以外にも外科や内科の入院施設もあり、今日は偶々ここを訪れたそうだ。

 

「あたしゃもう現場にはほとんど出られないけど、こうして怪我人治して回ることは出来るんだ。あたしなりのヒーロー活動なのさね」

 

なるほど、と納得する反面、黒衣の方へ視線を向ける。

彼女は治癒系の個性ではない。

なぜ黒衣がリカバリーガールのヒーロー活動の見学者なのだろうか。

それを察したのか、黒衣が答えをくれた。

 

「この前の職場体験でパニックになった人を治す事があってね。その時の事を買われて、精神治療の方面を学ぶのも視野に入れてみないかと誘われたんだ」

「あたしの個性じゃ、身体の傷は治せても心の傷は治せないからね」

 

黒衣は今日は個性を使っての治療はしないが、治療の様子や雰囲気だけでも感じておけと見学するらしい。

 

「ヒーロー活動って言うと、どうしてもヴィランを捕まえる事や事件解決の方が派手で取り沙汰されがちだけどね。どんな形であれ、救けを必要としてる人がいる、救けられる人がいる。だから救ける。それが、ヒーローってもんさ」

 

オールマイトのように前線で戦うヒーローではないけれど、それは確かに、『ヒーロー』の言葉だった。

 

「俺も、見学ついていって良いですか?」

 

口をついて出た。

自分の個性では患部を冷やしたり傷口を焼いたりすることしかできないが、後学の為に見ておきたい。

そう頼めば、リカバリーガールが病院の責任者に掛け合ってくれて、OKが出た。

一旦病室に戻り母と、一緒に見舞いに来ていた姉の冬美に事情を話せば、焦凍の学校の先生に挨拶をと姉がついてきた。

 

「どうもいつも焦凍がお世話になってます!姉の轟冬美です」

 

病床の母が出向くのは避けられたので良かったが、少々気恥ずかしい。

姉には先に帰るよう伝える。

巡回は1時間ほど。

リカバリーガールの“治癒”を受けた人たちは皆、劇的に回復して驚きながらも喜び感謝していた。

治療法が少しばかり衝撃的ー刺激的で、面食らう人もいたが。

その中、ヴィランの起こした事件に巻き込まれて大怪我をした男の子は、怪我が治ったことでヒーローになる夢を諦めずに済んだ事で大喜びしていた。

男の子は“治癒“の副作用で体力を使い果たしすぐに寝入ってしまったが、焦凍は良かったと暖かい気持ちになった。

 

「黒衣は子ども好きなんだな」

 

巡回を終えた後の少し遅めの昼食時。

そんな事を口にしたのは、同じく隣でその様子を見ていた黒衣が、びっくりするくらい優しい表情をしていたから。

その慈愛に満ちた眼差しを向ける横顔は、とてもきれいで、どことなく最近会うようになった母が自分に向けるような顔に似ていた。

 

「うん。可愛いよね、小さい子って」

 

初め、焦凍にとって黒衣一花という少女は、話したこともないクラスメイトでしかなかった。

彼女と話すようになった切っ掛けは、体育祭での敗北と父親が声をかけていた事。

それまではクラスにそんな奴がいたな、くらいの認識だった。

他のクラスメイトとも碌に付き合いがなく、本当に自分は視野も世界も狭かった。

体育祭の後、ヒーロー基礎学でペアになる機会があったので、あの時父親と何を話していたのか訊ねたのだ。

回答は先日同じで、試合を褒められたという。

他所様まで変な事吹き込んでんじゃないかと懸念したが、杞憂だったようだ。

黒衣とはそれから少しづつ話すようになった。

話してみると、黒衣とのそれは存外悪くなかった。

中学の女子のようにベタベタしてこないし、騒しくもないし、黙りもない。

 

「子どもが怪我をしたり、怖い思いをしたりするのは心が痛む。私はリカバリーガールのように身体の怪我は治せないけど、ASDやPTSDに苦しむ彼らの救けになれるかもしれない。今日はいい経験になったよ」

「ああ。俺はそういうのできねえから、現場での応急処置とか、もっと勉強しようと思う」

「痛くて辛い思いや怖い思いなんて、しないのが1番だよ。原因がヴィランや事故なら、君の個性なんか、一瞬で広範囲に対処できるんだから、打ってつけじゃないか」

「そうか…そうだな」

 

それなら得意だ。

傷つく人が1人でも少なくて済むように、1人でも多く救けられるように、1秒でも速く、事件を解決するヒーローになろう。

エンデヴァーも、ヒーローとしてだけなら事件解決数トップを誇る。

職場体験でも間近で仕事ぶりを見てきた。

今回の職場体験では蹴られたが、エンデヴァーは黒衣も指名していた。

見込みがあるから仲良くしておけと言ったのも、サポートメインのサイドキック候補として考えていたらしい。

戦闘が制限される場所でのヴィランの確保、情報を吐かせるのにも有効だし、一般市民がパニックに陥った際の沈静化、被害者のメンタルケアなど、有益な人材候補だと。

メンタルケアが個性でできるなら。

父は、探せば黒衣みたいな心を治せる個性持ちがいたかもしれないのに、母を閉じ込めておくだけにした。

胸の奥にドロリとしたものが込み上げる。

 

「轟君」

「!」

 

呼ばれて我に帰った。

 

「顔に出てるよ」

「…わりぃ」

 

意図せず緑谷と話しているのを聞かれ事情を知っているからか、どうしたのか、何を考えたのか訊かれなかった。

 

「よく、怒りや憎しみを負の感情と表現するけど、別に悪いものじゃあないと私は思ってる。プラスでもマイナスでも、行動する為のエネルギーにはなるんだ。動かなきゃ何も変わらないからね」

「エネルギー…」

 

確かに、父親憎しで突き動いてた部分もある。

氷ー母の個性だけでトップになるのだと鍛錬を重ねてきたのは、そのエネルギーがあったからかもしれない。

体育祭で緑谷に発破をかけられ炎も使うようになり、抱えていた想いも少しずつ飲み込んで昇華しているけれど、まだ全て、とはいかない。ふとした瞬間に黒いものが噴出すことがある。

 

「大事なのは、感情に振り回されない事だよ。そういう状態は攻撃性を持ちやすいし、極端に視野思考が狭まる。心は熱く、頭は冷静に(Cool Head but Warm Heart)。君に良く似合う言葉じゃない?」

 

自身の“半冷半熱“の個性とも掛けたのか。

 

「そうだな、心掛けるようにする」

 

“感情支配“の黒衣は肩をすくめて、「私には必要ないけど」と戯けて見せる。

こういう、気を遣っていないような振る舞いも、気負わせないような心遣いが自然にできるのも、彼女の良いところだろう。

 

「お前といるの、楽でいいな。黒衣と話すの結構好きだ」

 

黒衣は残念なものを見るように眉を下げた。

 

「君、将来大変そうだね」

どういう意味かわからず、焦凍は首を傾げるのであった。

 

 

───────────────

金曜日の昼休み。

 

「今日の日替わりはメンチカツ定食だって」

「ありがとう。君も律儀だね」

 

心操は食堂で購入した弁当を一つ、黒衣に渡す。

彼女から週末にノートを借りる代わりにランチを奢る約束だ。黒衣はいいと言うが、気持ちの問題だった。

普通科ではヒーロー基礎学の授業は受けられない。入学時で躓き、既に大幅に遅れている以上、せめて知識だけは追いつきたい。

心操が黒衣にノートを借りるようになったのは、体育祭から少ししてのことだった。

 

「あの、ちょっと良いかな…?」

「ん?ああ、君は体育祭の時の。心操君だっけ」

 

心操が購買でその姿を見つけて、思わず声を掛けてしまった相手は、ヒーロー科の黒衣だった。

 

「あー…ごめん、急に」

「いいよ。今日は先約もなかったしね」

 

場所を移して、黒衣は購買で買った紙パックの野菜ジュースにストローを刺して、ミックスサンドを封解く。

体育祭でチームを組んだとはいえ、黒衣との関わりはそれだけだ。

ほとんど初対面に近い女子と2人で昼食という状況を理解してしまって、心操は視線を彷徨わせた。

ふと心操の視線が、彼女の腕に止まる。

 

「怪我、もういいの?」

「ん?ああ、リカバリーガールに直ぐに治してもらえたよ。痛みも違和感もないし、完治のお墨付きも出てる」

「そっか…」

 

良かった、と心操は胸を撫で下ろす。

怪我の回復ももちろんだが、話のとっかかりができた。

 

「体育祭の話、だけどさ。凄かった。俺と似た個性で、あんな派手な個性の連中とやり合って勝つって。しかも、人ひとり助けて」

 

心操は衝撃を受けた。

自分と同じ精神操作の個性でヒーロー科の入試に受かった同じ年の女の子がいたことも、そんな彼女が誂え向きの個性の持ち主と戦って勝つ姿も、子どもの落下事故を身体を張って救ったことも、何もかもが衝撃的だった。

あれが理想の戦い方なんだと、自分もああ成れるんじゃないかと、希望を抱いた。

一方で、心操は自分の不甲斐なさに腹が立った。

 

「黒衣さんは、どうやってあの入試受かったの?俺たちみたいな精神系の個性には不利な入試だったじゃん。俺、全然ポイント取れなくて。それで、落ちて普通科入ったんだ。まあ、最初から滑り止め受験してたからよかったけど」

「適当に鉄屑で叩き壊したよ。多少は個性で補助かけたけど、結構もろかったし。後は救助Pも結構取れてたかな」

 

あっさりと言えるくらい、黒衣は万全を期して備えていたのだろう。

黒衣の個性“感情操作”は掛け方で恐怖や躊躇いを消したりできるらしい。多少の性能差はあっても、やはり戦闘に向いているようには聞こえなかった。

 

「相澤先生みたいにプロヒーローだって対人特化型の個性の人はいるしね。何事もやりようだよ。足らない部分は他で補えばいい」

 

心操が、個性が効かない状況でも対応できるように備えていたかと問われれば、否だ。

実際、個性が効かないロボ相手の入試では散々だった。

救助Pだって、ライバルが減るくらいにしか考えていなかった。

全ては見通しの甘さ、自分の弱さだ。

 

「…凄いな、やっぱ…」

「ん?」

「いや…こっちの話。俺、ちょっと腐ってたなって。ずっと、この個性はヴィラン向きだって言われてきたから…黒衣さんはないの?」

「なくはないけど、私はこの個性だから敵というわけでもないしね。まあそれだけ使い勝手の良い個性って事じゃない?」

「使い勝手…」

「私たちのような精神干渉系は装甲無視の初見殺し。非暴力、不戦勝、無血勝利。傷付けず、壊さず、迅速に解決できる数少ない個性だよ」

「…!」

 

例えば、と黒衣は続ける。

 

「相手がどんな大型だろうが頑丈だろうが瞬時に制圧可能。人質を取られた時、個性暴走やパニックになった人を鎮める時。私なんか、泣いてる子を落ち着けるのによく使う。喧嘩とか夜泣きには重宝するよ。要は使い方次第さ」

「使い方…」

 

目から鱗が落ちるような想いだった。

黒衣に言われた言葉を、口内で転がす。

そんな事を言われたこともなかったし、考えたこともなかった。

いつも、個性が“洗脳“だと言えば珍しがられ次いでに遠回しにヴィラン向きだと揶揄われ。

心操自身も、他人事ならそう思うと、仕方がないことだと思っていた。

ずっと、そう思っていたのに。

それがここ最近で、続けて覆された。

体育祭では、黒衣に出会い、クラスメイトに凄いと、普通科の星だと称賛され、プロにも惜しまれ。

そして今この瞬間、具体例を出されてこれまでの固定観念を崩された。

同系統の個性の持ち主だからこその説得力があった。

こんな個性でも人を救える。この個性だから救える人がいる。

憧れたヒーローに、なれる。

 

「何か吹っ切れたみたいだね」

 

少しばかり思考に耽っていたようで、黒衣に声をかけられてハッと我に返った。

まるで落ち込んでいる小さな子を励ますような、微笑ましげな表情を向けられていた。

黒衣の赤い瞳に見つめられて、心操は今更ながら気恥ずかしさがぶり返す。

ヒーロー科の人は、何というか、華の有る人が多い。

黒衣は中でもとりわけ綺麗な女子だった。

 

「ああ…うん、まあ。おかげさまで…」

「どういたしまして」

「俺も、黒衣さんみたいになりたいんだけど、どうしたら良いかな」

 

ずっ、と黒衣は野菜ジュースを飲み干しす。

 

「私みたいになる必要はないけど、まずは基礎的な身体作りからかな。何をするにも身体は資本だし、君、緑谷君に力負けしていたじゃないか。彼、うちのクラスじゃ個性把握テスト最下位だからね?」

「待って、個性把握テストって何?」

「やっぱりアレうちのクラスだけだったんだ」

 

聞けば、入学早々個性使用可の体力テストをやったらしい。入学式ブッチして。

どおりで入学式ヒーロー科少ないと思った。

 

「何やってんのヒーロー科…」

 

しかも最下位は除籍という理不尽さ。

後々嘘だと判明したが、最下位は気が気じゃなかった筈だ。

自分は、その最下位にすら及ばなかった。

仮に入試でヒーロー科に入学出来たとしても、もしかしたらそこで追い出されていたかもしれない。

 

「…とりあえず身体鍛える」

「そうだね。後は個性の出力訓練かな。君、自分の個性あまり好きじゃないだろう」

 

図星を突かれて、心操は僅かに眉根を寄せた。

 

「この前も言ったけど、同系統同士の個性は耐性がある場合が多い。どちらが勝るかは相性もあるけど出力の低高で決まる事が多い。私たちのような精神干渉系は謂わば我を通した方が勝つ。ただ、個性って使ってなんぼなところがあるから、結局のところ数こなして慣れるしかないんだよね」

「数か…黒衣さんはどうやって訓練したの?」

「私は鏡を使って自分に掛けた。失敗して発狂しかけたことだって何度もあるよ」

「それ笑い事じゃないよね」

 

けらけらと黒衣は笑っているが、事実笑い事ではない気がする。

でも、本当なら、本当にヒーローを目指すなら、自分こそやるべきだったことだ。

身体を鍛えて、個性を磨いて、精神を強く保つこと。

そうすれば、恵まれないとか恵まれたとかそんなことは関係なしに、望む場所を目指せるのだと、目指せばいける可能性があるのだと。

だって目の前に、その証左がいる。

 

「あ、あのさ」

「ん?」

「また、話しても良いかな…?あ、いや変な意味じゃなくって、純粋にトレーニングとか今後の参考にしたいってだけで」

 

何故か言い訳がましくなってしまったのは、心操もよくわかっていなかった。

 

「ああ、もちろん」

 

快諾してくれた黒衣に、心操は礼を伝える。

焦りはあれど、心操の心は燃えていた。

ーーーーーーーー

一花

良い子ちゃん演技でボランティアも参加するし人付き合いも満遍なくする。

嘘と真実の境はどこにあるのだろうね

 

焦凍

地が天然末っ子気質なのでお姉さんタイプと相性が良い。

そういうとこだぞ、って、どういうとこだ?

 

人使

ノート借りる代わりにランチ奢ることにした。

無償は流石に気が引けるっていうか…対等じゃないっていうか…




轟くん、心操くんsideでした。
轟くんsideはpixivとは少し変えています。
焦凍表記なのは、一瞬ですがお姉さんの冬美さんがいたからです。病室だと轟3人いるので…
同系統個性設定なので、心操くんとは絡ませたかった。ここも差し込み部分が改稿前と変わっています。

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