一輪花の咲くまで   作:No.9646

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2話 入学試験

 

 

────────ー

雄英高校一般入試当日。

葬は髪型や色を変え、黒衣一花(くろえ いちか)の偽名を使って入試に臨んだ。

今は少し癖のある白銀のショートヘアだ。眼には個性を使えるように特注の赤いカラコンを入れている。

元々の整った造詣と相まって、記念受験目的の学生からはちらちらと視線が投げられていた。

流石に倍率300倍とあって人が多い。が、その分、紛れ込むのも容易かった。

雄英高校は公立の高校であり、その職員は校長を除き皆ヒーローである。

教員を抱き込むか、息のかかったヒーローを教員として捩じ込む事も考えたが、内示と異動の時期を考えるとやや厳しい公算が高く、取れる手は打っておくかと、正攻法も試みた。

筆記は模試でも合格圏だ、問題ないだろう。

実技試験について一通りの説明を受けた後。

 

「はいスタート」

 

何の前触れもなくプレゼントマイクによるスタートの合図が掛かった。

同時に駆け出そうとして、周囲が誰も動かず一拍置く。

合格する必要はあるが、下手に目立つのも不味い。

一花はその合間に自身に個性をかけた。

トン、と鉄心入の靴を鳴らす。

個性“感情支配“発動。

眼もしくは眼から出る花弁型の燐光を見た者の精神を支配し操るそれは、喜怒哀楽含めあらゆる精神の与奪が可能で、副次効果として、その支配下において、彼女に従う者には気力や活性化などの強化を与え、逆に、敵対する相手には苦痛や弱体化を行える。

その効果は自身にも及ぶ。一花は自身に弱く個性をかけた。

弱い発動であれば、燐光も出なければ瞳の色も変わらない。そう訓練した。

精神を研ぎ澄まし感知能力を引き上げる“集中“。

怒り・警戒・歓喜を混合させ、心を燃やし潜在能力(ポテンシャル)を引き出す“闘志“。

恐怖も焦燥も凪ぎ消して、常に最適解を思考する“冷静“。

どれか1つでも強弱を誤れば思考停止あるいは暴走。自滅に陥る恐れすらあるそれらを、絶妙な案配で。

その間僅かに瞬き一つ。

 

「ニンゲンハッケン!ブチコロス!」

 

駆けた先、反応圏内に踏み入れた生物に、仮想敵が殺到する。

一花は誰かが壊した破片から手頃な鉄棒を拾い上げると、ヒュンと一振り。

風切音と共に仮想敵の攻撃を最小限の動きで躱し、装甲の脆い部分に振り下ろした。

一体を瞬時に片付け、次に取り掛かる。

センサーに反応した機体が方向を変えるのも待たず、カメラ部分のガラスを突き破る。

レンズ、関節、溶接部、スピーカーといった急所を叩き割り、突立て、抉り、断つ。

地面ばかりか壁も塀も、仮想敵の機体すら足場に変えて、瓦礫も屑折れた鉄屑も彼女の道を阻むに足りない。

動きを感知してゴム弾が発射されるが、その程度の思考(演算)速度など愚鈍だと嘲笑うように軽やかに。

 

「後片付けを気にせず壊せばいいだけというのは楽でいいな」

 

清掃業者の手配を考えなくていい。

しかしながら、点数を取りすぎても目立つため、程々に調整が必要だ。

予想ボーダーと点数、残り時間を測る作業の合間に、幾らか動きの危い受験生の援護に回る。

仮想敵も含め至る所に目がある今、なるべく『良い子』である事を見せなければ。

時には攻撃を流して背に守り、時には危険を知らせるべく声を上げ、時には横抱きにして担ぎ上げる。

助けられた男子が顔を覆って横座りのまま動けなくなっている様を見ていたモニタールームの面々から「おい腰砕けてんぞこいつ」「こりゃばーさんでも治せねえな!」と野次が飛んだのは、受験生には預かり知らぬ事である。

そこにーBOOOOON!と地を揺らす轟音。

再現された市街地の背の高いビル、それを遥かに越す巨体が影を落とす。

0Pギミックだ。

位置はここから数区画先だが、その巨大さに恐れをなした受験生たちが我先にと逃げ出し始めていた。

肩を貸していた足を捻ったらしい少年に断りを入れ、道脇に下ろす。

踵を返すと、おい、と待ったがかかった。

 

「まさか、アレを倒しに行くのか!?」

「シンプルに巨大というのは脅威だけど、あれはただの試験用の機械だ。やりようは幾らでもあるよ。進行方向からしてこちらには来ないだろうけど、気をつけて」

 

最短距離を測るべく細道を通り、壁を乗り越える。

道中襲い掛かる仮想敵を処理しながら駆け、そして見た。

1人の少年が、その巨躯を殴り倒す瞬間を。

現れた時以上の地響きを立てて0Pギミックの機体が頽れる。

一花は感嘆にwhewと口笛を吹いた。

 

「やるじゃないか」

 

路地裏から出ると、路上に2人が倒れていた。

 

「君、大丈夫?」

 

近くの落ちたパーツの上で吐き戻す少女に声をかける。

 

「あ、うん…私は、大丈夫、個性の反動だから、気にせんといて」

青い顔をしながらも、少女は気丈に微笑み返した。

 

「そう。これ使って」

 

応答はしっかりしているし、頭を打ったりしたわけでもなさそうなので、ハンカチだけ手渡して少女から離れる。

次に、地に伏せる少年。

 

「せめて…1Pでも…!」

 

痛みを堪えて、涙鼻水を垂らして、残る片腕で這いずろうしていた。

手足は確実に折れているだろうに、彼の目はまだ諦めていない。

しかし。

 

『終了!!!!』

 

そこで終了の合図が告げられた。

愕然とした少年が、地に伏せる。

 

「君、大丈夫かい?」

 

一花はそのまま少年の傍に寄り、膝をついて声をかける。

応答はない。

 

「触るよ」

 

一言断って、少年の体に触れる。

手足はやはりバキバキの粉砕骨折状態だった。歪に折れ曲がりあらぬ方向に向いている。

 

「酷いな…」

 

瓦礫で負傷箇所を持ち上げ、代替品になりそうな物を拾い添え木代わりに当てて固定する。

仰向けに寝かせた少年は、意識はないが息はしっかりしているし、命に別状はなさそうだった。気力が尽きたのだろう。

そこに、老婆がやってきた。

 

「おや、応急処置してくれてたのかい?うん、しっかり出来てるね。えらいえらい。ご褒美にハリボーお食べ。さあ、後はまかせなさいな」

 

看護教諭のリカバリーガールだ。

 

「おやまあ、自分の個性でこうも傷つくとはね。まるで身体と個性が馴染んでないみたいじゃないか」

 

少年に「ちゆ〜」っと熱烈なkissが送られた。

見る見る内に、少年の傷が癒えてゆく。

回復系の個性持ちは何人か知っているが、流石は雄英の屋台骨。大した回復力だ。

一花は未だ地に伏せる少年に目をやる。

あの巨大仮想敵を吹っ飛ばす程の圧倒的なパワーを持ちながらも、全くPが取れていない。

痛みにも恐怖にも全く慣れていないだろうに、手足を砕いてもなお泣きながら這いずろうとする。

腕も脚も内部からの圧力で潰されたような、そんな有様だった。

気を失ったこのちぐはぐな少年が、一花にはどうも気に掛かって仕方がなかった。

 

────────ー

入学試験を終え一週間ほどして、葬は部下から回収されてきた通知を受け取った。

余計な細工がされていないことを確認して、投映機を起動させる。

 

『私が投映された!』

 

デカデカと映されるオールマイトの映像を流しながら、報告書に目を通す。

少々BGMとしては騒がしいが、音量調整は出来ないギミックだった。

仕方なく位置を遠ざける。

 

『おめでとう黒衣少女!一般入学試験合格だ!君と会える事を楽しみにしてるぜ!来いよ!ここが君のヒーローアカデミアだ!』

 

最後の入学案内についてだけ目をやり、スイッチを切った。

撮り下ろし映像のようなので、後で好きな部下に下げ渡そう。

先ずは第一段階通過。

潜入仕事ではしばらく帰れそうにない。

入学準備もあるし、どこかで連休を取るかとスケジュールを考えながら、葬は偽造住民票の発注を部下に指示した。

一般入試合格者同点同位を含め計37名。

こうして雄英高等学校入学試験は終了した。

────ー

死柄木葬あらため黒衣一花

変装姿が意図せずまだ見ぬ誰かとお揃いになった。

 

 

主人公

気絶中

 

受験生A

プライドも腰も砕けた。

 

────

 




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