一輪花の咲くまで   作:No.9646

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先日、1日だけでしたが奇跡的に日間入りました。
最高総合16位、二次14位
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22話 夏の終わり②

12-2:夏の終わり②

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「黒衣少女は何処だ」

「さあ?」

対個性最高警備特殊拘置所ー通称タルタロス。

奈落を冠した監獄。

膨大なセンサーとカメラ、銃火器が備え付けられたこの場所で、分厚い特殊ガラスを挟んでオールマイトとAFOは対峙していた。

厳重な拘束を施されたAFOへの面会申請には時間がかかってしまった。

それでも、もぎ取れた時間は僅か。1分1秒たりとも無駄にはできない。

なのに死柄木の居場所も、黒衣の監禁場所も、AFOはのらりくらりと躱す。

もしあの時、黒衣が廃工場に囚われていたのだとしたら、最初の一撃で跡形もなく吹き飛んでいてもおかしくはない。

それでなくとも、周辺地域一帯が壊滅状態になったのだ。

時間も経ちすぎた。警察は既に生存は絶望的と見て捜査を打ち切っている。

しかしオールマイトは諦めていなかった。

ヒーローが諦めたら、誰が悪意や危機から人を救うのだ。

「本当に知らないんだ。弔はもう僕の手を離れた。お前のと違ってね。葬もそうさ」

「葬…?」

「娘さ。お前も会っただろう?」

「驚いたよ、お前が人の親とはな。子どもまで巻き込んで‼︎まだ16なんだろう‼︎」

AFOは動じぬまま「義理だけどね」と楽しげにお喋りを続ける。

「とても優秀なんだ。手間と出費をかけた甲斐があったよ。前々から欲しかったんだが、なかなか売って貰えなくてね。やっと手に入ったんだ」

「人は物ではない‼︎」

「物さ。アレはそう扱われてきた。親の顔も知らず、自分が誰かもわからず、大人に弄ばれ、社会に見捨てられ、誰にも救われなかった子供の成れの果て。それで居て似た境遇の子供達を守り養っているんだから、健気で、愚かで、可哀想な娘だろう?」

「っ!…人質か⁉︎」

「おいおい、人聞の悪いことを言うなよ。僕はただ、仲間を守ろうと必死になっている女の子に手を差し伸べただけだぜ!親切さ!現に他の子供たちは元気にのびのび、ただ1人を犠牲にして悠々と暮らしている。それが葬の望みだからね。子供達が飢えず渇かず、怯えずに暮らせる未来。それがあれの望みさ。可笑しなものだろう?」

「何が可笑しなものか」

オールマイトは目の前の男をもう一度殴りつけたくなった。

この悪党は、不幸な生い立ちの子どもを金で買って、剰え人質を取って利用しているのだ。

他の子どもたちを守ろうとする、その未来を願える心優しい少女を。

こいつは昔から、いつでもそうだ。

人の心を弄び、踏み躙り、支配する。

人の人生も命も何もかもを遊び感覚で奪う。

その身勝手さが、理不尽が許せなかった。

「可笑しいさ。その為に手を取ったのは僕だ。お前じゃない。ああ、手を差し伸べようともしなかったのか。愚鈍なお前は気付きもしなかったんだろう」

何を、その言葉は発せられる事はなかった。

「黒衣一花は死柄木葬だよ」

何を言われたのか瞬時には理解出来なかった。

じわじわとその意味を理解して、理解してしまい、オールマイトは愕然とした。

「守るモノの為に命を賭けて、血に塗れ泥に汚れる娘の1人すら、お前は救えない。頼ってももらえない。手の届く距離に、直ぐ傍にいたのに。無力で、無能で、無様だなぁ。オールマイト」

硝子の向こうで、爛れた顔の悪魔が嗤っていた。

 

──────────────────────

 

オールマイトがタルタロスから持ち帰った情報は、同行していた塚内を通して直様警察へと伝えられた。

そして判明した情報が、潜入されていた雄英にも共有される。

「黒衣一花こと死柄木葬。戸籍・個性登録はなく、本名、住所および本籍地不明。性別は女性、現在年齢推定15歳から18歳。AFOの証言では16歳とされていますが、生年月日不明の為推定としています。個性は“感情支配”、自他の精神感情を操作する能力。過去の敵組織による人身売買被害者と判明しています。死柄木葬は当時管理番号9番と呼称、関係施設より幼少期に当該組織に金銭の受渡しを持ってその身柄を譲られ、10年近くに渡り監禁または軟禁による拘束、暴力及び性的行為を含めた虐待、殺人その他犯罪行為の強要を受けています」

「は…?」

漏れ出てしまった声は、果たして誰の物だったか。

はじめ、疑いのあった内通者が実際にいて、それも生徒に紛れていたと聞いて、召集された教師たちは憤っていたのだ。

配られた資料を目が追うごとに、皆顔色を蒼白にしていく。

断片的ではあれど、黒衣が、組織に売られた少年少女等の内情末路が、あまりに悲惨。

寄る辺のない子を集め幼少期から過酷な訓練を積ませ、育った者は犯罪行為に加担させる。

脱落すれば死、あるいはまた売り飛ばされる。

資料に書かれた被害者数は優に3桁に及んでいた。

中には言葉にするのも悍ましい、悪趣味な輩に壊しても良い玩具として売り払われている子もいた。

ヒーローたる者、それなりに皆経験を積んでいる。

そんな彼等でさえ顔色を変える内容であったし、これを見て平然としている者にヒーローたる資格はない。

これを、こんな状況に置かれた子どもを我々は見逃していたのか。

こんな状態で、さも平然と笑っていたのか。

皆一様に言葉を失っていた。

痛い程の冷たい沈黙。

その中でさすがと言うべきか、最も早く立ち直ったのは根津だった。

「彼女の居所は?」

「目下捜索中です」

1人が口火を切れば、他の面々も衝撃から頭を切り替えて矢継ぎ早に質疑意見を出し合う。

「その人身売買組織は?」

「主犯格以下多数が死亡し、解散しています」

モニターに新聞の切り抜きが映される。

「当該組織が隠れ蓑に利用していた児童養護施設で発生した火災です。その際に死亡が確認されています」

4年ほど前に起きた、施設従事者及び居住していた保護児童を含み多数の犠牲者を出した惨事だ。

「報道では詳細は伏せられましたが、発見された遺体の複数が火災死亡における生活反応が見られず、子どもの遺体に関しては死後相当日数が経過しているものばかりで、当時は殺人・現住建造物放火事件として初動捜査が行われました。しかし、発見された子どもの遺体の数と申請されている人数が一致しなかったことなどから、その後組織対策部との合同捜査へ移行。殺人放火については火災現場から遺体で発見された従業員の1人を被疑者死亡で送検にて終結していますが、施設で囚われていた子どもたちの正確な人数や情報は分からず、死柄木葬以下複数名生存していたと思われる被害児童らの捜索発見には至っていません」

おそらく、その子たちが葬にとっての人質として使われている。

そもそもこれだけの大事にも関わらず事件発生からの終結が早すぎる。何らかの作為が感じられるのを禁じ得ない。

しかし一度終わった事件を蒸し返すのは並大抵の事ではない。

「それから、こちらへの申請書類として提出された住民票ですが、偽造でした」

偽装住民票や雄英への届出に使われていた児童保護施設は院長の男のみが協力者であった。

他職員は全て無関係の一般市民。過去短期間に総入れ替えが行われており、誘拐の折には職員の1人と保護者として会ったが、純粋に心配していた。

なお入替られた元従業員の行方は分かっていない。

男は脅されていたと証言していて、目下詳細調査中である。

経歴に関しても詐称、出身校とされていた中学の学歴も脅迫により作らせたものであった。

未成年者の買春をしていた教諭に目をつけ、ホテルに連れ込み部下の男たちに脅させるいわゆる美人局。

進学校であった中学校の教師はこの事が公になるのを恐れ、脅迫に屈した。

「これを15、6かそこらの子がやったのか…」

優秀な指導者(AFO)が背後にいたとは言え、おそらく今回の事がなければ、AFOの()()がなければ素知らぬ顔をして難なく逃げおおせただろう周到さであった。

オールマイトは半ば茫然自失としながら、ポツリと奴の言葉を口にする。

「『救われなかった子供の成れの果て』…」

平和の象徴、不動のNo.1ヒーローと褒め称えられても、救えないものは多くある。

いや、救えないものの方が多い。

そして救えなかった者が未来を侵され、こうして最悪の形で向かい合うことになろうとは。

オールマイトは黒衣を高く評価していた。

とてもではないが、彼女の全てが偽りだとは考えられなかった。

体育祭での事故。あれは本当に正真正銘の事故だった。

あの時に見せた、優勝を賭けた戦いを捨ててでも、その身を賭して子どもを助けた、ヒーローをヒーローたらしめんとする自己犠牲の精神その資質。

この少女は、既に守る者としての重責を理解しているのだと。

あの日緑谷と出会っていなければ、彼女も後継候補の筆頭となっていただろう。

そう思っていた。そう思わせるほどだったのだ。黒衣一花という少女は。

だから彼女の傘下にあのヒーロー殺し(過激な原理主義者)が名を連ねていると知り、どこかで納得した。

ただその直後、逮捕後搬送された病院からステインが行方を晦ませていると聞いた時は、全員が再び寝耳に水だった。

「ちょっと待ってくれ。ステインが逃亡中だと?」

相澤がガタンと椅子を蹴立てる。

「なぜその情報がこっちに来なかったんだ?直接奴の逮捕に関わった生徒達がいる。逆恨みでもされたら、知ってて備えられるのと知らないままとじゃ違うんだ!また襲われたら今度は生徒が死んでたかもしれないんだぞ⁉︎」

「落ち着けよイレイザー」

プレゼントマイクに諭され、相澤は謝辞を述べて着席する。

「…すみません。取り乱しました」

「いえ、ご尤もです。市中の混乱を避ける為に情報を制限していましたが、配慮が足らず申し訳ございません」

相澤が塚内に声を荒げてしまったのは、半ばみっともない八つ当たりであったと自覚している。

悪党への怒りはもちろんある。

しかし、大部分は己自身に向けたものだった。

相澤は担任として、黒衣の一番近くにいた。

もっと気にかけていれば、もっと注意して見ていてやれたら。

合宿の時のあの戯けたお誘いは冗談などでなく、話したいことがあると、助けて欲しいと言うSOSだったのではないか。

それに気付かず救けを求める手を振り払ってしまったのではないか。

たらればを語ったところで合理的ではない。

けれども悔恨の念が消えることはない。

(「泣きたい時に泣いて、怒りたい時に怒って、笑いたい時に笑いなさい。守られる者の特権だ」)

洸汰へ向けたあの言葉は、彼女自身がそれを許されていなかったからだ。

守られることを知らぬ内に、守る側へと回ってしまった。

子どもたちを守る為に、守られる者でいる(子どもでいる)ことを放棄してしまった。

死にに行くのだと、命を擲つ覚悟を決めてしまっている。

まだ15か6そこらの、いやもっと前の少女に、そんな悲壮な覚悟を決めさせてしまったのは、全ては大人の咎だ。

「…ー、イレイザー!おい、消太!」

「‼︎」

プレゼントマイクに肩を揺すられて、相澤は我に返った。

「手、白くなってんぞ」

指摘されて己の手を見れば、無意識のうちに握り込んだ拳がすっかり白くなっていた。

根津が労気に「相澤くん」と声をかける。

「君の心中は察してあまりある。君だけじゃない、我々の誰もが、何一つ気がつかなかったんだ。君だけの所為じゃない」

責任が無いとは言えないが。しかしそれは全員だ。

「生徒たちにはどうしましょう?」

「…生徒達には俺から伝えます」

少なくとも、関わりのあった生徒には伝えなくてならない。

彼等の事だ、知らずに会えば、何の備えもなしに無事と再会を喜んで近づいてしまう。

相澤は学生の頃、友人を亡くした。

山田と一緒によく連んでいた、3バカなんて呼ばれ方もした、クラスメイトだった。

あいつは子どもを助けようとして瓦礫の下敷きになった。

倒壊した瓦礫と土煙のモノトーンの風景の中の、夥しい血の赤い色を、今でもやけに鮮明に覚えている。

あんな思いを、生徒たちにはさせたくはなかった。

見つからない黒衣に、生徒たちは不安気であった。

頭の良い彼らのことだ、最悪を考えていた者も少なくはない。

だから相澤は彼らに、黒衣のことは鋭意捜索中だと嘘を伝えた。

見つかっていないということは、未だ可能性は残されているのだと。

けれども現実は、神野の惨状に捜索隊は早々に切り上げた。

その事も、今になって恣意的に思えてならない。

猜疑心が絶え間なく湧き上がる。

何を信じればいいのか、どこに敵がいるのか。

黒衣が手を伸ばせなかった一因が、ほんの少しでも分かった気がした。

その上、自身と他者の命を質に取られて。

それを何ヶ月、何年。とても正気でいられるとは思えなかった。

「個性…」

誰かの口を突いて出た一言。

黒衣の個性は感情操作ー感情支配。

詳細正確な情報はないが、授業でも体育祭でも、彼女がその個性を使っていたのは確認できている。

効力の及ぶ範囲は他者と、彼女自身。

まさか、黒衣は自分の個性で、自分の感情()弄って(殺して)いたかもしれないのか。

そこに思い至って、戻りかけていた血色がまた色を失った。

「事情と年齢を考慮して、警察は死柄木葬の保護を前提とした身柄確保及び未発見の被害児童等の捜索に全力を尽くす方針です」

未成年者の起こした犯罪は逮捕勾留後全件送致が原則だ。

死柄木葬の場合、軽微な犯罪ではないので例外適用はできない。

送致となればその事件は公開となる。内情を考慮して秘匿すれば、憶測は加速する。

既に雄英の、ヒーロー (社会)への信頼は揺らいでいる。

そこに密偵の侵入を許し、未成年の生徒たちと生活を共にさせ、情報を抜かれたなどとは。

ヒーローが数多く近くにいながら、誰も気づかなかったとは。

過去の警察検察等の判断が今の事態を招いたかもしれないなどとは、とてもじゃないが、公にはできない。

“ハイスペック“な根津は『保護』の裏に隠された思惑を読み取っていた。

「これだから人間というヤツは…」

吐き捨てるような小さな呟きは、その場の全員に突き刺さった。

「おっとすまないね。保護はもちろん大賛成だ。一刻も早く救け出さなくてはね」

 

 

──────────────

「保護、ねえ」

葬傘下腹心の1人、バイカラーの髪の女がソファに寄りかかりながら報告書を捲る。

黒衣一花の正体が暴露たことは葬も把握していた。

そして保護方針が決定されたことも。

「どうするんだい?」

「どうするとは?情報だけとって殺処分がオチだろう?検討の余地もないよ」

葬は『保護』方針を額面通りに受け取ってはいない。

警察上層部にとっては、AFOや敵連合の内部事情を把握している情報源として有用。しかもまだ子供。御し易いと見ているのだろう。

そうでなくとも公になれば困る存在だ。

現場レベルでも、ステイン定義の『本物』であれば葬の境遇を憐れんで救い出そうと躍起になるだろうし、『贋物』であっても敵連合に繋がる手がかりは点数稼ぎになる。

いずれにせよ、目的は違えど葬の身柄確保に動く利益は一致している。

葬は敵連合関係者内でも年少者で、気性も荒くなければその個性も攻撃性能は高くない。

手の届かない高嶺の花ではなく、少し無理をすれば手の届く可能性のある、甘い蜜をたっぷり湛えた可憐な花。狙わない手はないのだ。

それに、葬の方針は当初の予定通り囮として撹乱揺動だ。

追ってくれるのならばこちらとしても都合が良い。

「だろうね」と女は手にしていた報告書をばさりとテーブルに投げ捨てた。

「あそこはあの頃から何にも変わってないんだろうね」

忌々しげに女は吐き捨てる。

「表面だけキレイにハリボテで飾り立てて、中身は腐ってる」

女は古巣のことを大層嫌悪しているが、葬はあちらのやり方にも一定の理解を示していた。

知らなければないも同じ。信じたものが全ても同じ。

キレイで穏やかな日常を見せていれば、人は同じように日常を扱う。

掃除や整理整頓に少し似ているのかもしれない。

雑多に物はあるけれど、見えなくして綺麗にしていれば部屋はキレイだ。

キレイなものは大体の人はキレイに使う。

「仕方がない事だ、必要な事だ、またそう言うんだろうさ」

結局のところ、何を守るために何を犠牲にするか。

多数を守るために少数を犠牲にするか、一部を守るためにその他大勢を犠牲にするか。

その違い。

()()()()()()()よ。私たちは彼らが『守るもの』の中にはいないんだ」

────────ー

 

雄英教師陣

顔面蒼白

担任副担任にはクリティカルヒット。

 

AFO

そうそう、その顔が見たかったんだよオールマイト。

もっと見せてくれ

 

情報収集はしっかりと。

保護って保護()だろ

…理解と納得は別物なんだよ

 

名無しの女

ダークブルーとピンクの髪の美女。

ステイン迎えに行ったのも彼女。(職場体験編)

 




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