一輪花の咲くまで   作:No.9646

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36話 VS異能解放軍①

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一種異様な緊張感がその場を席巻している。

葬は複数の護衛を従え、更に遠隔からの狙撃手、部下を死角に待機させた状態で、その長身の男と対峙していた。

 

「ようこそおいで下さいました、と申し上げたいところですが、場違いなご挨拶では失礼でしょう。初めまして、ベストジーニスト」

「こんな形でなければ解れのない丁重な挨拶を痛み入ると応えたいが、非常に残念だ」

 

今期チャートNo.3ヒーローベストジーニスト。

手負とは言え、熟達した技術を持った実力者のヒーローと相対するが故の厳戒態勢である。

 

「義父の負わせた傷の手前、お気を悪くされるでしょうが、御加減のほどはいかがでしょう」

「日常生活を送る分には問題ないさ。仮令、私の身体がダメージジーンズの如くボロボロであったとしても、義理の親子関係にあろうとも大人のした事を君が負う必要はない」

「お気遣いありがとうございます」

 

礼は言葉に乗せるが会釈はせず目礼のみ。

本来であれば初対面や目上歳上と会う際のマナーからは外れるが、今回は葬の方が立場が上だと表さなければならない。

仕込みも入れていない皺まで美しい三つ揃えのタイトなスリムスーツは戦う意志が無いと示し、同時に護衛役の部下たちに命を預ける信頼の証。

丁寧な扱いは相手が自分の客であり、部下には許し無く危害を加えてはならないとする言葉なき命令。

そして葬自身がそれに従わせるだけの統率力があり、上位者であると知らしめるもの。

服装と言動のみでそれが出来る格があると、女子供と侮りを寄せ付けないその様に、ベストジーニストは襟を正した。

彼は矯正を活動内容とし、8年連続で服飾関係の賞を受賞するなど、礼節やマナーに造詣が深い。

それを見越してのこの対応。

ひと周りどころか20近くも年下の少女がこの喧嘩を仕掛けてきているのだ。

正しく読み取れねばとんだ恥、看板詐欺、不調法な人間だと自身に烙印を押さねばならない。

それでいて大人として矜持、ヒーローとしての状況判断力を示さなければならないのだから、これはある種の暴力を用いない盤外戦術である。

 

「ここは年長者の私から切り出させてもらおう。お互いにカチカチのリジットデニムのような挨拶はこれくらいにしようじゃないか」

「では、お言葉に甘えて。少々お聞き苦しいところもあるかと思いますが」

「構わないさ。できる事なら私は君と昵懇を結びたい。体育祭でのスカウトは振られてしまったからね」

「そういえば指名をいただきましたね」

 

オールマイトの情報目的で職場体験は元サイドキックのサー・ナイトアイの所に決めたが、繰り上がりでNo.1となったエンデヴァー、目の前のベストジーニストをはじめとする豪勢な面々や数多の指名が入っていたのだ。

件数は優に2000を超えていた。

 

「爆豪は久々に腕の鳴る子だったが、時間制限があったのが惜しかった。あの毛根までガッチガチのプライドを矯正したかったのだが…」

「アレ貴方の仕業でしたか」

 

職場体験明けの爆豪の髪型が八二分けになっていたのはそういうことか。

 

「立ち話も障りましょう。お話は道中。ここまでご足労いただき恐縮ですが、また少し移動します。不調があればいつでもおっしゃってください」

 

道中も当然、腹の探り合いである。

お互いに毒にも薬にもならない話題から、軽い皮肉(ジャブ)

車中、ベストジーニストには目隠しをして、発信機通信機器の類、個性使用も追手の無しも確認しながら遠回りをして15分ほど走らせる。

目的地に到着するまでも、ホークスからの身柄受け渡し場所を別にしたりと色々と周りくどい手順を踏んでいる。

 

「こちらの部屋をお使いください。日の当たる部屋はご用意できませんし、ご覧の通り少々手狭かと思いますが、定期的に部下に様子を見させますので何か入り用があればお申し付けを」

「いや、十分だとも。人質の身でも快適な療養生活が送れそうだ」

 

葬がホークスに着けた首輪、公安との取引の一つ。

人質の要求である。

 

「まさか貴方程の方が来るとは思い至りませんでした。よく承諾なさいましたね」

 

荼毘からはホークスに誰か殺害させる案も出たが、却下した。

死体を持って来させたところで、それがホークスが手を下した証拠にはならないし、死体が本人かも分からない。

他の誰かがやった可能性は残るし、殉職した誰かの死体を利用される可能性もある。

直接現場を抑えるか、そもそも公安所属、あそこで育った人間がその程度を忌避するかと、当人が聞けば全力で否定したであろう見解であったが、先達が請け負っていた秘匿命令を考えると完全には排除できないわけで。

それにホークス1人切り捨てれば済む話だ。

よって、古典的ではあるが、向こうもそう簡単に失うわけにはいかない人員を人質として要求したのである。

 

「なに、前線復帰にはまだ及ばぬこの身でも役に立てるのだから、ヒーロー冥利に尽きるというものさ」

 

言いながら彼は、部屋の中を見て回り早速「姿見を1つ」と注文をつけた。

それからもリクエストの受付と却下を交えた雑談(腹の探り合い)が続いた。

 

「ふむ…ヴィランをはじめ反社会性の人間は少なからずヒーローに対して敵愾心を抱く傾向にあるが、君からはそういったものを感じられない」

「何もヒーローだからと一括りにするつもりはありませんよ。多少は痛い目も見ましたが、それは個人に因るもの。それに、死地に向かう者へ敬意を払うのは当然かと」

 

ここにきた以上は死ぬのが前提。

葬は、圧力をかけているとは言え、公安含め警察が何もして来ないとは到底考えていない。

()()人ひとりの命など、彼らが守るべきとする大勢と社会の未来(世間体)を天秤に欠ければ、当然少ない方を切り捨てるだろうと認識している。

ベストジーニストほどに知名度や支持率の高いヒーローだからこそ、失った場合に世間から浴びる非難の大きさや影響を考慮してしばらくは大人しいだろうが。

それでも、彼を切り捨てて行動を起こす可能性は相当にあると見ている。

 

「私の命はすでにホークスにベットしている。地獄へ花道ランウェイならば歩き慣れているさ。しかし抗わせてもらうとも。私たちと君とは本来、向いてる方向はほぼ同じなはず。さまざまな要因が糸の如く複雑に絡み合い、こんがらがってしまっている状態だ。時間の許す限り解いて見せよう」

「鋏で切ってしまった方が早いでしょう」

「不用意に切ってはさらに解れがひどくなってしまう。私は知っての通り凶暴な人間を矯正する事をヒーロー活動としている。短い時間ではあるが、君と言葉を交わして確信した。正すべきは君ではなく君の環境だ。ここから出た暁には私がおはようからおやすみまで生活環境を整えてあげよう」

「では、その時は貴方を紹介してくれたホークスにはお礼の品を持たせてやらねばなりませんね。両手で抱えられないほどの贈り物を」

 

2メートル近い長身も、骨あるいは首だけならば両手で抱えられる箱の中。

そうならない事を願っているー要は生きて出たくば余計な事はするなと釘を刺す。

互いに鋭さを秘めた視線が交差する。

ただあまり強硬姿勢ばかり見せるのも得策ではないかと、葬は少しばかり口調を砕けたものに変えた。

 

「ところでベストジーニスト」

「何かね?」

「個性使用は制限させていただきます。薬物アレルギーはないということで間違いありませんか?」

 

個性を使えなくする薬があるのは聞いていた。気分の良いものではないが、致し方ないとベストジーニストは受け入れる。

 

「ダメそうなら裸の付き合「体質的には問題ないはずだからさっさと打ちたまえ」

 

ヒーロー以前に、それは受け入れるわけにはいかなかった。

 

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運転する護衛役に小言をもらいながら、やや釈然としない気分で車で移動する。

道中、葬はホークスへ連絡を入れた。

 

「人質の受渡は無事に済んだ」

『丁重に扱ってくれよ?』

「それはそっち次第だ。五体満足で返せるようにせいぜい飼い主に進言しておくんだな。まあ、なるべく綺麗に返すつもりではいる。ウチの解体屋は仕事が丁寧だと評判なんだ」

 

断面の美しさにこだわりがありすぎて、作品に見惚れて時間がかかるのが玉に疵だが。

 

『ハイハイ、わかってるって』

 

電話の向こうでファンらしき歓声が聞こえる。

周囲の雑音からして、まだ受け渡し場所近くにいるらしい。監禁場所を探っているのだろう。

ところでさ、といつもの軽い調子でホークスが訊ねる。

 

『葬ちゃん、オールマイトの娘になるって本当?』

「“速すぎる男”が珍しく情報が古いな。その話なら丁重にお断りしたよ」

 

その件かと、葬の返答も心情も実にあっさりしたものであった。

オールマイトから持ちかけられた提案は、随分と耳に心地良いものではあった。

元より葬は弔のように憎しみを増長させるような教育は受けていない。

葬の個性が“感情支配“である以上、時間をかけた洗脳教育など意味を成さないからだ。

どちらかと言えば彼の狂信者からの賛美を耳にすることの方が多いくらいだ。

結果、他と比べて態度が軟化傾向になってしまった。

実際、オールマイトへはあまり強硬姿勢を取ろうという気が起きないのは彼の人柄もあるのだろう。関わった期間や回数は少ないが、何故か調子が狂わされてしまう部分があったのは否めない。

あの夜、帰宅後に個性で精神状態を調整してすっかり調子を取り戻していたが、反省点として念頭に置いている。

 

『え〜!何で勿体ない』

 

その態とらしい言葉に対して、声の芯が硬く冷たい。

表面だけの軽口の応酬。

 

『マァ真面目な話、オールマイトの話は上も結構ノリ気みたいでさ。説得して来いって言われてんの。どうしたら頷いてもらえる?』

「自分達の体面も懐も傷めずにまたオールマイト任せか?いい加減引退させてやったらどうだ?状態的にそう長くは保たないんだろう?残り短い余生くらい、穏やかに過ごさせてやったらいいじゃないか、なあ?次世代No.1候補(現役No.2)

「新No.1が誕生したばかりだってのに気が早いなぁ。エンデヴァーにはまだまだ頑張ってもらわなきゃ。俺、エンデヴァーファンなんで』

「残念、気が合わないな。私はどちらかというとアンチ勢だ」

 

プライベート面においては屑野郎認識でさえある。

荼毘が色々と画策しているようなので、ホークスかベストジーニストが繰り上がる日もそう遠くはないだろう。

 

『え〜じゃあ今度布教するよ。DVD鑑賞お家デートしましょう?葬ちゃん』

「不純異性交遊は禁止されてるんだ。()()()に叱られてしまうよ」

『不純じゃないって、純粋純粋。純粋に今後のお付き合いについて話し合いたいだけだよ』

「お断りだ。例の話もそっちの『上』が乗り気な時点で私にとっては碌なことにならないだろうさ。どうせ嘴突っ込んでくるだろうから断ったんだよ」

『信用ないなぁ。こうして要求も呑んで人質も差し出したってのに』

「崩れるのは簡単で一瞬なのに、取り戻すのは困難で長い時間がかかる。信用とはそういうものだろう?」

『正論過ぎてぐうの音もでん』

「それはちょうどいい。そのよく囀る嘴は閉じて、キリキリ働いてくれ」

 

お喋りはここまでだと通話を終える。

その直後、また着信音が鳴った。

弔からだ。

 

『やっと出た』

「今ちょうど仕事相手と電話してたんだ。どうした兄さん?ゴリラの調教は済んだ?」

『そっちはまだだ。義爛が異能解放軍とやらに拐われた』

「義爛が?」

『返して欲しけりゃ1時間以内に愛知の泥花市って所まで来いとさ』

「まさか行くつもりじゃないだろうな?明らかな罠じゃないか。放っておけばいい。向こうもこの業界は私たち以上に長いんだ、危険も承知の上だろう」

 

顧客の情報を漏らさないのはもちろん、それを狙う連中に指や手足の2、3本、果ては命まで落とされる危険は常に付き纏う。

その為の高い報酬、危険手当入りの額なのだから。

ほら見ろ、と電話の奥でコンプレスが同意を示し、続いてトゥワイスの非難が響いて、スピーカーから耳を離す。

 

『それがそういうわけにもいかねえのさ。衛星だか何だかでこっちの居場所が筒抜けになってやがる。来なきゃ即ヒーローどもにおしかけささせるってよ』

「その脅しならば無視していい。こっちで既に手を回している。連合関連の通報があっても、ヒーロー達は大して動けない」

『マジかよ。さっすが俺の妹、仕事が早えな』

「ただ居場所が常時知られるのは厄介だな」

 

ラブラバに頼むかとも思案するが、弔にも考えがあるらしい。

 

『んでさ、ちょっとあのゴリラぶつけてやろうと思うんだ』

 

弔の策とは、義兄がどこにいても必ず探し出して追ってくるギガントマキアの特性を活かし、およそ11万人の構成員を有する異能解放軍にぶつけ体力を削るものであった。

異能解放軍とは、個性の使用制限を課す国に反目する過激派組織だ。

創始者含む主要幹部が逮捕され下火になったが活動を続け、最近の敵連合の台頭を受け潰そうとしているらしい。

 

「敵連合を潰す、ねえ…解放軍の目的はそれだけか?」

『知らね。あとは向こう行ってから直接聞こうぜ』

「分かったよ。あとで合流する」

 

弔との通話を終え、葬はしばし考える。

対策、対応、集める人員物資、根回し先などいくつもの道筋を頭に巡らせ、取捨選択する。

そしてよく使う番号へ電話をかけた。

相手は部下と共に仕事で大阪に来ていたらしく、景気の良い繁華街の雑踏が耳に入る。

 

「うちに喧嘩売ってきた奴にカチコミ行くんだ、付き合わないか?」

 

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すっかりいつもの調子に元通り。不要なものは捨てればいい。

スーツは基本フルオーダーなのはお父様の影響。

人質は生きてるから価値があるんじゃないか

 

ベストジーニスト

偽装死体でなく人質。

マイペースに療養生活を延長していると見せかけて説得&機を覗っている。

年頃のレディがそういうことを言うんじゃない。

 




ジニさんの!デニ語が!難しい!

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