一輪花の咲くまで   作:No.9646

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38話 VS異能解放軍③

 

 

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外典を下し、葬は少しばかりできた余裕で周囲を見渡す。

 

2人の広範囲無差別攻撃と無尽蔵に湧くトゥワイス、個性抑制薬による牽制もあり、葬たち周囲の敵は大分及び腰になっていた。

所持する薬には弾数に制限はある。

しかし見えない位置からの狙撃は残存弾数がわからない。

異能を失い半狂乱な味方の有様、それも解放軍の恐怖心に拍車をかけていた。

 

「兄さんとだいぶ離されたな。トゥワイスたち、道を開けるか?」

 

更には敵を飲み込み押し返しているトゥワイスへ、一つ問えばあちらこちらから「おうよ!」「任せろ!」と何重にも返答があり、喧しいことこの上ない。

 

「荼毘、コンプレス。二手に別れよう。さっき聞いた通り、私も狙われているみたいだしね」

「え?葬ちゃん1人?」

「ちょっとショートカットしようと思ってね」

 

葬は自身に対して個性を発動させる。

“感情支配”のメイン効果は精神操作であるが、その副次効果は集中力強化による感覚鋭化、興奮作用による身体能力強化といったパフォーマンス向上など多岐に及ぶ、所謂バフがけである。

調整を誤れば一瞬で暴走、発狂、行動不能に陥る危険性を孕むも、それらすら幾度となく経験し個性を磨いた。

その成果が健常な精神を保ったままの能力強化である。

それでも、純粋な強化型には遥かに劣るし、荼毘や轟のように炎や氷を扱えるわけでも、スピナーように壁を這うとか、ホークスのように空を飛ぶとか特殊な動きができるわけでもない。

足りないものは、他で補う。

踵を鳴らして、ブーツに仕込んだギミックを起動させた。

薄型のプレート同士の間に電磁力を発生させ、足場となるプレートを引力により固定、反発力により着面時の衝撃の緩和と跳躍力を生み出す。

但し、扱うには相当な体幹を主とした高い身体・運動能力、バランス感覚とセンスが必要で且つ重量制限付きという使い手を選ぶ代物だ。

そして個性でも道具でも足りなければ、人で補う。

 

「ジェントル、ラブラバ、解析は?」

『もちろん済んでいるとも!』

『OKよ!』

 

ラブラバにドローンを飛ばして探らせていたのは泥花市内の地形、建物の配置、ランドマークタワーまでの最短経路。

水先案内人は、単身で長年数多のヒーローや警察を掻い潜って来た逃走術を持ったジェントル。

 

「レディ、援護を頼む」

『はいよ』

 

そして援護射撃は、元遠距離最高峰プロヒーローレディ・ナガン。

 

「先に行く」

 

同時に、葬は地を蹴る。

反発力を推進力に、地面を、壁、塀、看板、屋根、時には人間を踏み台にしてビルの屋上へと上がる。

建物の屋根から屋根を駆け抜ける。跳ぶ方向や道順はジェントルやラブラバからリアルタイムで指示がくるので、そちらに思考のタスクを割く必要はない。

道を阻む敵は飛び越え潜り抜け、或いは文字通り蹴散らして行く。

射程外から葬を狙う遠距離系個性の敵は悉く姿も見えぬ距離からレディに撃ち抜かれる。

使える物は全て使い、足りなければ補って、不要なものは切り捨てて。

只管、前へ。

そして。

目指すタワー展望台。

トゥワイスの造り出したコピーを腕の一振りで一掃したリ・デストロの手が義燗たちに迫る。

 

「……ん?」

 

エレベーターの動く音に、リ・デストロは手を止める。

軽い音と共に、扉が開く、その瞬間。

パリン、とワゴンの上に置いたグラスが砕けちった。

 

(狙撃?どこからー)

 

外は割れた窓があるだけで、敵連合らしき影は見えない。

リ・デストロの認識では遠距離攻撃ができる人間は連合にはいなかったはずだ。

コツリと鳴らされた足音に、リ・デストロはエレベーター方向へ顔を戻した。

そこには、1人の少女が立っていた。

向けられているのは、銃口と光の花を纏った油断のない視線。

 

「おっといけない。兄さんを追い越してしまったようだ」

 

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「初めまして、私は敵連合リーダー死柄木弔の補佐を務める弔の義妹、死柄木葬。本日はお招きありがとうございます。賑やかで素敵なパーティーで粗相があったら申し訳ないですが、何分若輩者でして。こういう格式ばった作法には疎いもので、ご容赦願いたいものです」

 

銃口を向けたまま、初手開口一番から慇懃無礼の先制口上。

 

「異能解放軍最高指導者リ・デストロだ。ようこそお嬢さん。私は君を歓迎しよう」

 

じわりとリ・デストロの額に黒い痣が広がる。

まだ相手に個性はかけていないが、既に条件は整っている。

直ぐに個性をかけて支配下に置いてしまってもよかったが、義兄の性格からして、それはきっと彼の意にそぐわない。

 

「来るかも知れないとは思っていたが、本当に来るとは。義理の兄とは仲が悪いと聞いていたのだがね」

「ガセネタつかまされたのでは?お気の毒に」

「せっかく来てもらってなんだが、今日はワインしか用意がなくてね。未成年に酒を勧めるわけにもいかない。残念だよ。お詫びに今度お茶でもいかがかな?紅茶の美味しい店があるんだ。Gentleという店なんだがね」

「おや奇遇。私も行きつけの店だ。趣味が合いますねデトネラット社長」

 

お互いに、お互いの情報を握っているのだと牽制し合う。

顔は笑っているのに眼は笑っていない。

 

「投降をお勧めしよう。それと敵連合に付けたマーキングを外してもらおうか。ヒーロー側とは既に話はついている。通報しても大した戦力は集まらない」

「既にそこまで食い込んでいるとはね。有能だとは聞いていたが、噂以上のようだ。君、個性の母を知っているかね?」

「超常黎明期以前、まだ個性が異能と呼ばれて排斥されていた頃に我が子が自由に生きられる世の中をと願った母親、その女性。後に法整備の際、彼女の言葉が取り沙汰され、今の個性は個性と呼ばれるようになり、その扱いも見直されるようになった。確か、()()()()()()()()()()に当たる方だ」

 

「excellent!」とリ・デストロは素直に賞賛を向けた。

 

「よく学んでいる。素晴らしい!」

「敵の情報収集は基本中の基本。一応、本も目を通している。最新版は読み易くていいけど、初期からすると随分と読み手に解釈を委ねるような改稿のようで」

「それは私も惜しむらく点だと思っている」

 

うんうんと感心したように頷き、満足げに葬に向き直る。

 

「単刀直入に言おう。私につきたまえ、死柄木葬。君はあの愚兄にはもったいない」

 

それはつまり、裏切りの示唆。

 

「君たち兄妹はいわば跡目争いの真っ最中だ。正式な後継指名を受けている至らない兄と、兄以上に優れているのにも拘らず補佐止まりの妹。さぞ口惜しいだろう?理不尽に怒りを感じないかね?裏の者たちの間では、特に利益目的やある程度組織立って動いている者、深い場所にいる重鎮と呼ばれる者ほど、君に期待を寄せている。私もその1人だ」

「下心ありきの期待をどうもありがとう。小娘利用して義父の利権だけ掠め取ろうって魂胆が見え見えだけどね」

「まさか!正当なものは正当に評価されなければと考えているだけさ。経営者としても、解放軍指導者としても当然の判断だとも。死柄木弔を始末して、私が君を押し上げよう。どうだね?悪い話じゃないだろう?」

「成程、異能解放軍はユーモアを大事にされているようだ」

 

葬は一笑に付す。

確か以前、爆豪が誘拐された時になかなかパンチのある台詞を聞いた。

 

「寝言は寝て死ね、ハゲ」

「急に雑な罵倒になったな」

 

一触即発。そこに横から黒い影が割り込んだ。

弔だ。

 

人の妹(ガキ)に粉かけてんじゃねえよ変態ハゲ野郎。高尚な夢物語語っといて、実はロリコンかよ」

「人聞の悪いことを言わないでくれたまえ。しかし、高尚な夢か、丁度良い。君を測ろう、死柄木弔」

 

弔がリ・デストロを相手取っているうちに、葬は警戒したまま義燗の元へ向かう。

 

「葬ちゃん!義燗の指が……こいつ右手やられちまった……!」

「よお、悪いな嬢ちゃん……情報取られちまった……売人失格だな」

「本当だよ。兄さんが救出方針でなければこの場で処分してしまうところだ。片手の指くらいで済んでよかったじゃないか」

「なんでだよ!義燗はなんも悪いことしてねえじゃねえか!」

 

トゥワイスはショックを受けていたが、当の義燗が「挨拶みたいなもんさ。ちゃんと命は助けるってことだよ」と取りなして「だよな!信じてたぜ!薄情者!」と安堵していた。

義燗は大分暴行を加えられたようだが命に別状はなさそうだ。

 

「兄さんがリ・デストロの相手をしてくれている内に」

「あいつコピーだけどな!」

「そうか。なら尚更今は人質優先だ」

 

リ・デストロに片腕で片足吊りにされた弔のコピーが、不意に声をかけた。

 

「トゥワイス。そいつら守るならクッション出しとけ」

 

直後、タワーが崩壊した。

 

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レディは単眼ゴーグルのスコープ機能とナビを元に、葬に迫る敵を次々に撃ち抜いていた。

相手によって弾の種類を変え、狙撃ポイントを修正する。

“エアウォーク”は宙を歩く個性であるが、スピードはそれ程ない。

レディは自身の個性“ライフル”の発射反動を利用して機動力を補い、時には軌道を変えていた。

 

「器用なもんだ」

「そりゃどうも。そういやアンタ、ここまで車だろ?帰り名古屋まで送ってくれよ。連合の転送個性は臭くてダメだ」

「ひつまぶしでも食って帰るか」

「デートの約束なら後にしてくれやせんか?」

 

治崎が縫い止めた敵を後から追って来た玄野が針で刺して行く。

お喋りをしながらでも一向に周囲の敵を撃墜する手が緩まないあたり、頼もしい限りではあるが。

心なしかいつもより治崎の動きのキレがよく思えるのは、きっと気のせいだろう。

下では乱波が嬉々として敵を殴り飛ばしていた。

タワー展望室へ、敵の視線を逸らすために一発打ち込んだレディがついでとばかりに治崎に背後から襲い掛かろうとした敵を討つ。

 

「いいね。ついでに味噌カツで一杯やって帰ろうかね」

 

直後、タワーが崩壊した。

すぐさま、安否確認の連絡をいれる。

 

「葬!無事か!?」

『ああ、大丈夫だ』

「何があった?」

『遅れて到着した兄さんがタワーを崩しただけだ。義爛、トゥワイス共に無事だ』

「人質いんじゃなかったのかよ。一緒に死んでたらどうすんだ」

『さてね』

 

ひとまず、葬の無事を確認したレディはほっと息を吐く。

そこに、まだ遠目ではあるが、何かが迫っているのが見えた。

 

「何だ……あれ」

 

巨大な何かが、建物を掻き分けるようにタワー跡へと向かって突き進んでいる。

その行先にいる葬は、ギミックで落下の衝撃を相殺し、トゥワイスが用意した()()()()()に義燗ともども落ちた。

ドロリと崩れたそれはあまり気分の良いものではないが、この際文句は言っていられない。

文句は後で義兄につけよう。

レディからの通信に無傷であることを告げる。

 

『おい葬、気をつけな。デカいのがそっち向かってる』

「デカいの?ギガントマキアか?」

『だろうけど、聞いてたのと随分大きさが違う。3Mどころじゃきかないよ」

「みたいだな。こちらも目視できた。それにしても今日は随分と早く起きたな。一応それは敵じゃないが、ただ見境無いから全員退避しておけ。こっちはいざとなったら私が個性で止める」

 

ドクターには止められているが、別段、命令権限があるわけではないのだ。

 

「トゥワイス、義燗、ギガントマキアが起きてこちらに向かっている。巻き込まれないように逃げるよ」

「おうよ!ぶちのめそうぜ!」

「兄さん」

 

葬はリ・デストロと対峙している弔に呼び掛ける。

 

「援護は?」

「いらね」

「リ・デストロの個性は“ストレス”による身体強化だ。個性相性は私が有利だよ」

「OK増強系な。お前もうそいつら連れて下がってろ。こういうタイマンボス戦に首突っ込む方が野暮なんじゃねえの」

「じゃあ任せるよーご武運を」

 

異能解放軍最高指導者リ・デストロと敵連合首魁死柄木弔。

2人の死闘により景色は一変した。

そして弔は。

彼はこの日、破壊者(解放者)となった。

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1週間後。

報道は連日、長閑な地方都市で起きた大事件を報じていた。

愛知県泥花市はその発足依頼未曾有の悲劇に見舞われた。

街中心部は更地と化し、大きなクレーターが口を開けている。

ヒーローに恨みを持った連中が徒党を組んで起こした事件とされているが、それらはスケプティック等による情報操作だ。

敵連合は異能解放軍と共に、彼等の拠点である群牙山荘に身を寄せていた。

トガをはじめ、怪我を負っていた連合のメンバーは治崎が渋々個性で治してくれた。

「こんな悪人ヅラのヒーラーいねえよ」とは弔の言だ。

葬と治崎たち死穢八斎會と異能解放軍との確執は一応の着地を見せる。

後日ではあるが、解放軍側より組に対して正式な謝罪、組側優位での商談提携が約束された。

解放軍側の損害は大きく死傷者多数、リ・デストロも両足切断の憂き目を見た。

連合側に死者はいない。

強いて言うならば義爛が右手指の欠損。彼は手の修復を希望しなかった。下手を打った今後の戒めとしてそのまま残すらしい。

ただ、精神面に関しては治崎の対応範囲外であるわけで。

 

「人の嫌がる事はやめましょう。ああ〜!足が勝手に!何してんだ足!!ボクわるい子…ぶたないで…ええ!?何言ってんだ俺ァ!?」

 

輸血でトガの容態を持ち堪えていた複製トガの遺影を蹴飛ばしたトゥワイスは、こんな有様だった。

 

「トラウマ克服したんじゃねえのかよ。増えてねえか」

「無理矢理な療法はかえって悪化するらしい」

「私が治そうか?」

 

トゥワイスはプラスマイナスで言えばプラスになったのでそのままとした。

一方、個性抑制剤を撃ち込み一時的に個性が使用できなくなっている外典以下解放軍の数名が精神に異常をきたした為、葬が治す事となった。

個性で精神を治療して、実は個性消失薬でなく時間経過で回復する抑制薬であった事実を伝えたところ、外典は盛大に泣きじゃくり葬を罵り恨み言を言い募り終いには過呼吸を起こした。

どこからか、水分をたくさん摂って汗をかいて代謝を上げると薬が速く抜ける、などと聞いたらしく、腹を壊す程水を大量に飲み、「蒼炎‼︎炎を出せ!」と荼毘に迫り嬉々として燃やされかけ、暖房をガンガン入れて部屋をサウナ状態にして今度は熱中症になる空回りぶりを見せていた。

なお薬の効き目は1回の投与で約半月程。現在も進行形でぶすくれている。

 

「そろそろ時間じゃないか?」

 

ちょうど、スケプティックらが迎えにきた。

弔を着替えさせてリ・デストロと共に送り出し、他のメンバーの様子を見にきていた葬は彼らと共に再び隠し通路からエレベーターで地下へ向かう。

リ・デストロの話が長引いてタイムスケジュールが少し押していた。

 

「さあ!死柄木弔!その名を!」

 

予定していた台詞。

 

「ほら、出番だよ」

葬は壇上へ皆を見送った。

果たして弔はカンペをちゃんとそのまま読んでくれるだろうか。

 

「……ちッ」

 

通路で様子を見ていた葬は視界に入った赤い色に小さく舌打つ。

傍まで飛んできたそれを、そのままポケットに押し込んだ。

弔が新たなその名を告げる。

 

「超常解放戦線。ヴィランの名を排し異能の枠組みを更に広く解釈できるものとした。又、壇上の9()()を行動隊長に任命し傾向別に部隊編成を行う。まァ……名前なんてこれと同じ飾りだ。好きにやろう」

 

爆発的な歓声が上がる。

敵連合発起よりわずか1年足らず。

中枢2名での決起、お披露目ともなった雄英襲撃にて他70余名を失い、その後10数名規模にて少数潜伏を測っていた敵連合は、異能解放軍を吸収。10万人以上の構成員を傘下に従え、その相貌を大きく変える事となる。

 

 

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鴨がネギ背負ってくるって本当にあるんだ。

補佐就任はまた後日改めて。

 

好きにやろう

俺たちはヴィランだ

 

敵連合改め超常解放戦線

一挙に勢力拡大に成功。

お寿司も食べたし服も新調した。

 




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