今回は少し短めです。
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「どうしたホークス。険しい顔をしているじゃないか?」
護衛を外に待たせて向かった先。
ホークスとの密会場所は、旧道から県道へと抜ける通路として使われていた小さな廃トンネルだった。
目につくのは精々、2人のように立入禁止を無視してやって来た不良崩れの落書きくらい。
人気も無い通路にいたのはホークス。その場にいるのは彼と葬の2人きり。
「…っ!」
次の瞬間、葬の背中に痛みが走った。
「何の真似だ」
「それはこっちの台詞だ」
眼前には、一瞬で距離を詰めたホークス。
葬は壁に叩きつけられ、胸ぐらを掴まれて風切羽を喉元に突きつけられていた。
「やってくれたな」
「何の事かな?」
葬は一切の抵抗をしなかった。
「
ホークスは内心で歯噛みする。
このヒーロー溢れる超人社会で、死柄木弔はヒーローと同等かそれ以上の力を持ってしまった。
統率された兵隊、ネットワークの掌握、業界への深い関わり、そしてまだいくついるのか判然としないハイエンド脳無。
立ち回りの厄介さ、社会へ与えかねない心理的な影響力は葬の方が上。
しかし、緊急性や直接的な人身への危険性でなら、弔の方が遥かに上回った。
人命優勢のヒーローとして、超常開放戦線から目を離すわけにはいかなくなってしまった。
もうホークスはここを片付けない限り身動きが取れない。しかもスパイとバレている身でここに居続けなければならない。
対して葬は、超常解放戦線の幹部に加わらなかった。今後は別に動く可能性があるということ。人質もホークスの過去も公安の暗部の情報も、更には強大になった弔も全て持ったまま。
完全にしてやられた。
「歩み寄れると、協力し合えると思ってたよ。連中が事を起こせば甚大な被害がでる」
「抑圧されたマイノリティが徒党を組んで暴れるなんてよくあることさ」
「どれだけの人が傷つくかわかってるのか」
「私は大事な人1守るのに見知らぬ人間100を犠牲するのを躊躇わないし、100守るのに殺す1が私自身なら喜んで死ぬよ」
トロッコ問題だって、一般的に数が多い方が選ばれるが、少ない方が自身の関係者ならそちらが選ばれるだろう。対岸の火事だから気楽に選べる。
「後半は賛成するよ。理解し合える者同士、もっと仲良くしたいんだけどな」
「この状況で?生憎とそっちの趣味はないんだ」
ホークスの心情に呼応するように、周囲に浮かぶ羽が鋭く鋒を向けている。
「子どもは大人を見て育つものさ。私はずっと、
ホークスは苦虫を噛み潰したように表情を顰める。
「間違っていると言うのなら、レディ・ナガンに命じていた事は、私に
「教えてくれないかヒーロー?」と答えが返ってくる事など、初めから期待していない問いを投げかける。
胸倉を掴み壁に押さえつけられ、周囲には紅い羽が無数に矛先を向けている。
個性を使おうとすれば、至近距離の羽が眼を潰しに来るだろう。
本気であると示すように、葬の白い筈の首には赤い線が一筋走っていた。
「それで?私に何をしろと?私は充分協力していると思うけどね。荼毘がお前にヒーローを殺させようとしたのも止めたし、敵連合にスパイに潜り込んでいるのも見逃している。勢力拡大の状況も教えたし拠点まで明かした。出血大サービスじゃないか」
その対価がホークス以外のヒーローの介入不可だ。
他のヒーローが連合に近づけば公安がストップをかける。そういう契約。人質は保険だ。一応こちらからも一般人の未成年が多く在籍する雄英への密偵を切った。オマケ程度で痛手にはならないが。
「死柄木弔を、敵連合を止める。その為の情報がいる」
「私に義兄を売れと?」
「頼むよ。俺は君を殺したくない」
「公安じゃ脅し方は教えても口説き方は教えてくれなかったらしい」
葬は鼻を鳴らして嘲る。
「超常解放戦線の拠点、構成員、協力者、行動予定、そういう情報が欲しい。全て丸裸にして全員捕まえないと。後手に回れば今度こそ日本が終わる」
「それをして私がどうなると思う?」
「君のことは公安で保護する」
は、と葬は吐き捨てる。
「監禁監視行動制限付きの監獄生活、或いは協力者としての飼殺し、若しくは口封じに殺されるか。それを保護だと?」
「そうならないように俺も手伝うよ。これまでの境遇から情状酌量も大いにつく。充分やり直せるさ」
「私達に過ちがあるとするなら、1番はお前達をカケラでも信じようとした事だろうよ」
葬は冷め切った目でホークスを睥睨する。
「君はまだ16だ。罪を償って再出発するには十分時間はある」
「罪を償うねえ…そうだな。罪には罰が付き物だ。で、ホークス?敵連合に近付くのに荼毘に情報を流したり、アイツに協力して市街地で脳無を暴れさせるのにも協力したのは、いつ償うんだ?死人は出さなかったようだが、怪我人や経済損失は、被害にカウントしないのか?」
「それを君が言うのか?あれは荼毘が勝手に動いた事だ」
「私もあれは事後報告だったよ」
何ならニュースの方が早かったと戯ける。
標的や場所の変更などの詳細は本当に事後報告だった。
お陰で脳無の回収も手を出せなかったのだ。
「確かに君の言う通り、どうしたって犠牲は必要なのかもしれない。どうしたって全部は救えない。だけど俺たちは、ヒーローは、その犠牲を1人でも少なくする為に、1人でも多く救う為に命懸けで戦ってるんだ!」
「…結局は数か。そうだな、人の命なんて所詮ただの数字だ。1人より2人、2人より3人。大人2人のため死ぬのが子供1人なら、それは差し引きプラスだろうね。流石公安の犬だ。よく躾けられている。残される側に私達はいない。いつだって引かれる側だ」
「そんな事はー」
ないと言い切られる前に、葬はどこか諦観を含んだように
「知っての通り私がいた古巣は酷い所でね。人間を商品として売り捌いてたんだ。子供は主力商品で、訓練について来れる者だけ残して、他は規定値に達しなければ消耗品として売られて行く。人体実験の被験体、臓器売買、愛玩、自爆テロの爆弾運び。まあ碌でもない所だったよ。お前の先輩、公安のヒーローに会ったのも、そういう取引の現場だった。彼女は私達を援けようと動いた。けれどそれは叶わなかった。他ならないヒーロー公安委員会の命令で阻まれた。慈善家で名が売れていたヒーローが裏で関わっていたから、秘密裏に処理するのにその証拠が欲しかったんだと」
ホークスが言うように、それなりに広く根を張った組織を潰すには詳細な情報と綿密な計画が要る。
「4年前、多くの犯罪者を捕まえて多くの人を救ける為にと言われて情報を流した。私はそれに従った。従って、まだ足りないと求められ続けた。とっくに拠点や構成員の情報は渡していて、制圧するにはそれで間に合っていたんだそうだ。その間に私の仲間が何人死んだと思う?死んだのは皆、私よりも小さい子だった。いつか、きっと、ヒーローが救けに来てくれる。そう信じたまま死んでいった」
全貌を調べ上げ、後に被害が広がらぬよう根本から断ち切る。
その間に出る被害には目を瞑り、大局を見て動く。
それは正しい。そんなことは分かっている。
でも。
「雄英で人攫いがあった時には3日足らずで救出作戦を決行したのにな。おかしいな、数どころか世間体の方が大事と見える。敵連合の背後に
その間に流れる血は、失われる命は。
切り捨てられる側の人間は。
「果てに私たちをまだ人殺しの道具にしようとした。お前のように」
ホークスは何も言わず。黙って葬の言葉を聞いていた。
冷酷な仮面の下に苦い想いを隠して。
「何で彼等を救けてくれなかったんだと、恨み言を言うつもりはない。そうとも、お前は、お前たちは正しいよ、
溺れる人間は静かに沈む。それに似た声音だった。
それが。
「ーだから、手の届く範囲は全て守ると決めている」
一転、一瞬で苛烈にして鮮烈な炎を瞳に宿して、葬はニヤリと悪辣に嗤う。
「命懸けはヒーローの専売特許じゃない。死ぬも殺すもとうに慣れた!今更怖気付くと思うなよ!」
風切り羽根に、自ら首を押し当てた。
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「ただいまーん?」
玄関を開けると強くなった肉の匂い。夕飯の準備には少しばかり早い。
尻尾を揺らし、興味半分つまみ食い目的半分で台所を覗く。
「何やってんだ?」
「あ、おかえり」
そこにはエプロン姿の光矢がいた。
骨格や手足をちゃんと見れば男のそれだが、彼はいわゆる女顔で、作業の邪魔だからと結えているサラリとした亜麻色の髪も普段は優しい浅い海色の瞳もその印象に拍車をかけている。
光矢はいくつかの肉の塊を前にスマホで何やら調べていた。
「この前もらって来てくれたお肉どうしようかと思ってさ」
合点がいった獅郎は並べられた種類の違う肉を眺める。
士傑高校に通い、9月の試験で仮免許を取得した彼はインターンに行っている。
これらはその土産だった。
「猪と鹿まではいいんだけど、熊。熊どうしよう?」
「俺も熊解体することになるとは思ってなかったわ」
「別のモノなら解体したことあるのにね僕たち」
これらはいわゆるジビエ肉である。
獅郎のインターン先でもらったもので、例年と比べ害獣被害が多い地方に行った土産であった。
高齢化や後継者不足による猟師の減少でヒーローも手伝いに駆り出されたのである。
インターン生として獅郎も参加し、猟犬の様に臭いや音を探り、人里に近づかないよう吼えて追い払う。
期間中に熊の出没があり、完全変化すれば体長2m体重200kgを超す獅子と熊の格闘は大迫力であった。
そんな活躍もあり、都会と比べて娯楽がない田舎でも文句も言わず、得意地形でもない険しい山岳でも根を上げない体力も根性もずば抜けた気骨のある若者は可愛がられた。
そして帰り際には大量の土産を持たされたのである。施設暮らしであることは秘密にしていないので量は増えに増え、大半は郵送になった。今は大容量の冷凍庫の大半を占拠している。
「そろそろ置き場もどうにかしないといけなくて」
食中毒が怖いので、食事の支度と重ならない時間に処理に挑戦中らしい。
「適当に火通してくれりゃ俺食うぞ」
獅郎はその個性の影響か、肉の臭みは気にならないし何なら生でもいける。年少者たちがチャレンジした外焦げ生焼けハンバーグなどの消費は彼の役目である。
「ううん。普段使えない食材だし勿体無い。栄養価も高いし、今度いっちゃんも帰ってくるから、美味しいもの食べて欲しいんだ」
元9番、今は世間では黒衣一花あるいは死柄木葬と呼ばれている自分たちの仲間。檻を壊して外に連れ出してくれた、今の暮らしを与えて守ってくれている、自分たちの
食事を蔑ろにしがちで光矢が何を出しても美味しいと言う彼女だが、それでも自分が作る料理を、皆で囲む食卓を好んでいてくれていることを知っている。
「……アイツから何か連絡は?」
「今のところは」
光矢は首を横に振る。
外で仕事をしている彼女からはハロウィーンは帰れなかったからクリスマスには帰ると聞いて以来、音沙汰なしだ。
獅郎は舌打ちする。
生活環境が改善し成長期を迎えた身長はもう彼女のそれを越したのに、まだ一方的に守られる側にしかいられない。
それが悔しくて苛立たしい。
「いっちゃんが心配しなくていいように、帰ってくる場所を守る。皆で元気に笑って過ごして、帰ってきた時に皆で迎える。それが今の僕たちに出来る事で、するべき事だよ」
「……分かってんよ」
「早く帰って来ねえかなぁ」とぼやく獅郎の口に試作品を放り込みながら、光矢も「そうだね」と相槌をうった。
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獅郎&光矢
それが1番、喜ぶ事だから。
葬&ホークス
取り込み中
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構成再考したら短くなりすぎてしまい急遽No.sに出てもらいました。
以下ただの蛇足
前公安委員長は、職務上人を使い捨てる傾向にあったらしいので、この失態とナガンの失踪もあって責任追及されて辞任に追い込まれたのかもと設定。
その後席を引き継いだ委員長は、前委員長の方針に懐疑的で、前々からホークス拾って教育。これまで育てて来て破竹の勢いでプロとして活躍するホークスを正式に後継指名しました。と思う。
ナガン離反してから養育ではなく、正式後任が離反後な設定です。
ホークス保護時のサイズ的に10歳行ってないと思う。栄養不良考慮しても結構小柄。
今22〜3として、15年前と仮定すると7〜8歳位?
20年前にするとホークス保護が2〜3になる。1人で買い物行っていたのでもう少し大きいはず。
かつナガンの離反が16〜19とヒーローやっていてもプロ1年目になるので計算合わない?(スカウトの時セーラー服だったので当時中高生のはず。(スカウト同伴の女性、今の委員長ですよね。美人))ので妥当なホークス保護はこの間くらい?
ナガンの離反を15年前にすると彼女20〜24で原作だと委員長殺害している計算。
そこから現在の30代後半まで収監されていると、脱獄後すぐに動けるか疑問。
そりゃ運動の時間とかあるかもしれないけど。あるかなあそこ。
ホークスはナガンの実力知っているようなコマがあったので、指導か一緒に仕事したことあるのでは?(あったらいいな!)
とするとぎりぎり原作3〜4年前に離反設定通りそうだなと供述させてください。デクも事件の存在だけは知ってたし。
葬たちは順番違えば上手くいった筈。
先ずは保護→生活改善→君達優秀だねヒーロー目指さない?君達みたいな子を助けるお仕事だよ→ちょっと汚れ仕事お願いできない?ならホークスタイプに仕上がった可能性あり。利用前提にするからポシャった。せめて隠し通せ。バレるな。これ公(作品がry)