一輪花の咲くまで   作:No.9646

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41話 オリジン③

 

 

赤が散る。

 

「なっ‼︎」

 

自ら首を掻っ切るという、正真正銘の自殺行為。

目の前で行われた狂行に、ホークスは咄嗟に羽根を引いた。

人命優先を常とするヒーローとしての条件反射。

血が噴き出す。

傾く身体を支える為に、シャツを掴んでいた手を離した、その瞬間。

パシっと腕が振り払われる。否、切り付けられた。

 

(仕込み武器…⁉︎違う、こっちは囮!)

 

叩き込まれた経験則か洞察力かはたまた勘か。

葬の反対側の手には小さな改造拳銃。

前情報として彼女は個性を消す薬を弾丸として使うことが確認されている。

 

「!!」

 

ほんの一瞬、ホークスの意識がそちらに逸れた。

葬は拘束が緩んだと見るやそのまま壁沿いに転がるように逃れ、頽れる事なく、ざり、と靴が強く地面を鳴らし踏み留まる。

動脈損傷による出血は瞬く間に襟から服を赤く染めていた。

それでも。

 

「さすが、No.2」

 

上げた顔には、依然、灯の消えない瞳。

ホークスはこの眼を知っている。何度も見てきた。

例え手脚が千切れようとも牙は砕けぬと。

後ろに有る者たちの為に血を流し、傷を負ってもなお、決して折れ得ぬ心。

不撓不屈の闘志ー守る為に闘う者の瞳だ。

 

「……」

 

ホークスはギリと奥歯を噛む。

この手合は嫌なのだ。

折れない人間は、簡単には気絶してくれない。

次に口を開いたのは2人同時だった。

 

「正しい事ぐらい解ってるよ」

「間違ってる事くらい解ってるさ」

 

どちらも、相手に聞かせるための言葉ではなかった。

 

「でも引けないんだ」

「だけど譲れないんだ」

 

言い聞かせているのは、自分自身か。

 

「「後ろに、守りたいものがある!!」」

 

葬が再びホークスに銃口を向け、ホークスが葬へ斬りかかる。

その時。

紅い翼の生えたその背を、1発の銃弾が貫いた。

 

「!!」

 

肩甲骨、羽根の付け根を正確に、糸に針を通すが如くの精密射撃。

穿つ弾丸は、ダークブルーとピンク。

 

「ぐっ…!」

 

幸い臓器は無事。まだやれる。

銃撃を防ぎつつ、葬へやられた方の翼をメインに羽を投じる。

 

「これでお互い手負い同士だ」

 

葬は自身へ“感情支配“をかけて集中を上げ回避に徹する。それでも隙あらばと銃に持ち替え機会を窺っていた。

両者とも前も後ろも気が抜けない。

そこに更に刃一閃。

葬の横を通り、弾かれるような勢いで飛び込んできた狂気と憤怒に満ちた血色の瞳が、猛禽類の金色のそれと交錯する。

 

「ステイン!」

 

数多のヒーローを屠ってきた凶刃がホークスを襲う。

 

「ヒーローとは、何時如何なる者をも救わんとする者だ。ましてや必要とする者を取捨し力に依って従えようとするなど言語道断!“英雄“を騙る贋者が!」

 

忽ち剣戟の応酬。

ステインの個性は“凝血”。一度でも擦れば詰む。距離をとって羽を飛ばして応戦するが、人間離れした速さで斬り落とされる。

しかしヒーロー殺しばかりに気を取られているわけにもいかない。

遠距離からは銃弾が絶え間なく撃ち込まれる。

ステインは流れ弾に当たる可能性など気にも止めていないようだった。当たらないと、誤射はないと確信しているからこその大胆さ。

更には葬からの援護射撃。

仮にそうだとすれば、こちらも一発でアウトだ。

羽根が空気の流れの変化を拾い双方からの連射を転がる様に避けるが、レディ・ナガンから何発か食らった。

いくつか弾の種類が違ったらしく避けようとした先に軌道が変わり、足や肩から血が滲む。

痛みに呻く間もなく今度はナイフが飛んで来る。直後に本体からの獣じみた動きでの重い上段切り。

流石のNo.2ヒーローと言えど、元先輩プロヒーローとヒーロー殺し相手に、苦戦を強いられていた。

何十何百の羽の操作も精彩を欠く。

トンネル内での挟撃で空に逃げ場が無いのも痛い。この為の場所指定かと臍を噛む思いだ。

更に。

 

「…ぅぅううおおおおお!」

 

近づいて来るのは咆哮の様な叫び。

燕尾服にも似たコスチュームを纏った男。

 

「新手か‼︎」

 

ホークスは舌打ちする。

 

羽を飛ばすが、見えないゴムの膜のようなモノに阻まれ跳ね返った。

 

「ヒーローともあろう者がか弱い婦女子を殺害せん不届き断じて許せん!このジェントル・クリミナルが成敗してくれると言いたいところだが今はこの少女の命が優先よって見逃してくれようさらばだ‼︎」

 

言い逃げ。

男は葬を抱えると、一目散に逃亡に走った。

この男の個性か、見えない足場を作りその反動でホークスの横を通り過ぎる。

彼だけではない。

葬を確保出来たと見るや、これまで執拗に攻めていたステインも退避行動をとった。

追うにも牽制射撃で足止めをされる。

 

「ステイン!!」

「わかっている」

 

追いつき葬を託されたステインが先に離脱し、残ったジェントルが個性“弾性“を発動する。

 

「ジェントリーリバウンド!」

追わせようと放ったホークスの羽が弾き返された。

 

(バリア?いや、弾く個性か?)

 

ピピッと短い電子音を()が拾う。

それは地面に転がりチカチカと赤いランプの点滅していた。

 

「!!」

 

あわや爆弾かと羽で囲い自身も脱出しようとしたが、反対側も見えない壁に弾かれた。

パンッと軽い音を立ててそれが破裂する。けれど爆発物は全く威力のない物だった。

 

「…っ!がはっ⁉︎」

 

喉が灼けるように熱く痛む。

 

(毒ガス…⁉︎)

 

ホークスはガスを吸い込まないよう口を覆う。翼で風を起こしても、空気が外に逃げて行かない。

 

(このバリアは空気にも有効なのか…!)

 

解除条件不明の見えない壁に阻まれ、毒は流れる事なく充満し続ける。

ぐらりと視界が歪み立っていられなくなる。耐性は訓練でつけているが、既存種でないのか回りが速い。

またしてもしてやられた。

応援を、状況を伝えようにも声は出せず、手にも痺れが出ていた。

 

(せめて、場所だけでも…!)

 

緊急信号のスイッチを押そうとして、カタンと手にした端末が地面に落ちる音を拾ったのを最後に、ホークスは意識を手放した。

 

─────────────── ───────────────

 

「葬、本当に大丈夫か?」

 

車の後部座席で止血を試みているレディが葬へ声をかける。

 

「ああ、問題ないよ。ちょっとくらくらするくらいだ」

 

自ら斬った首の傷は出血量が多く、貧血からかわずかに酩酊感を感じ始めていた。

 

「問題大アリじゃねえか。それは大丈夫と言わねえんだよバカ。おい、そっちに輸血パック積んであんだろ、とってくれ」

 

一方のジェントルはそれどころではなかった。

 

「本当に、本当にやったのか…?私がトップヒーローを出し抜いた…?」

 

荷室でドッドッと早鐘を打つ心臓を抑えるジェントルへ、葬は手当を受けながら脱力したまま微笑う。

 

「だから言っただろう。お前なら、お前と私達なら、トップヒーローだろうとどんな相手だろうとだし抜ける」

 

ホークスが葬の側近で最も警戒しているのは、自身の先輩にも当たる元公安直属ヒーローだったレディだ。

数々のプロを再起不能にしてきたヒーロー殺しステインも、対人特化初見殺しの葬も当然。

一方でジェントル・クリミナルはこれまで後方に回していた事もあり、ホークスとも直接の接触もなく、これまでの()()も表沙汰になっているのは少々行き過ぎたヴィジランテ活動の動画投稿のみ。

おそらくほぼノーマーク。

今回の、No.2ヒーローホークスを出し抜くキーパーソンは彼だった。

密会場所は構造上上空への逃げ道を限定する。

3人はトンネルの出入り口両側に分かれて離れて待機。ホークスが羽で探知しているだろうから、作戦参加人数は最小限。

葬が口八丁手八丁で自身に意識を集中させ、2人がホークスを相手取っている内に、ジェントルが片側出入口からトンネル内部を塞ぐ様に、彼が移動の足場を兼ねた“弾性”を張る。

ジェントルが現着と同時にステインは離脱。

中遠距離攻撃のできるレディがホークスを足止めし、ジェントルは葬を連れてレディ側に跳び、ステインに託してレディとホークスの間全面に“弾性”を設置。

逃亡がてら複数の膜を貼りながら揃って脱出。トンネルを両側から封鎖した。

ホークスを“弾性”を使ってトンネル内部に閉じ込め、仕上げは葬が転がしておいた毒ガス弾が破裂する。

そういう策戦。そして成功した。

葬は深く息を吐く。

灼けるような痛みと裏腹に、身体の熱は下がってゆく。

 

「意識飛ばすんじゃないよ」

「ああ」

 

我ながら無茶をした。

何もなければただ話して終わりになるはずの密会。

それでも警戒したのは、この身はすでに『お人形の9番』ではなく、『死柄木葬』だから。

ヴィランは無理無茶無謀を通してこそだ。

 

「さて、あともうひと頑張りだ。さっさと雑務片付けて、早く帰ろう」

 

愛しい子たち(家族)、仲間。葬の戦う理由で、生きる意味。

もうすぐクリスマス。

彼等の待つ家へ帰るのだ。

 

─────────────── ───────────────

 

「失礼します」

 

年の瀬も迫った頃、死柄木葬の新しい情報が出たと根津に呼び出され、オールマイトは足早に校長室に駆け込んだ。

 

「来たか」

「グラントリノ。塚内くんも」

 

校長室にいたのは自席で手を組んで額に当てている根津、そして苦い顔をした師グラントリノ、警察官の友人である塚内だった。

2人は敵連合の捜査に当たっている。

 

「死柄木少女について情報が出たと」

「ああ、それなんだがな……」

「失礼します」

 

続いてやって来たのは、イレイザーヘッドとミッドナイトだった。

 

「2人は私が呼んだのさ」

 

どこか毛艶の乏しい根津が口を開く。

 

「揃ったね。オールマイト、座って話そう」

 

鉛のように重苦しい空気。

同じく重い口を開いたのは、グラントリノだった。

 

「今日来たのは他でもない。死柄木ーあの嬢ちゃんの事だ」

 

起こりは押収した脳無を調べていたこと。

 

「連合の脳無を調べてる過程で、アレの元になってるのが人間の死体だって事がわかった」

 

その悍ましさに、皆が顔を顰める。

人間の死体を元に薬や手術で弄り回し改造された動く屍。

死者の尊厳も遺族の気持ちも冒涜する行いだ。

 

「脳無の材料とされた何人かは、遺体の摺り替えが行われていたんだ」

「死体のすり替え…」

 

そこで再浮上したのは、死柄木葬の母親と目された女性と共に墓に葬られた死産の赤子。

はじめ、死柄木葬の身元捜査の結果は空振りであった。

赤の他人とはどうも考えられず、オールマイトは古いアルバムを引っ張り出して、塚内に情報と写真を提供していた。

そこに写っていたのはまだ怪我を負う前の少し若い頃の自分と、葬と良く似た美しい女性。

提供された写真の女性と、死柄木葬はあまりに似ていた。

実際に本人を目にすれば、それは思い違いなどではなく。隠しはしたが動揺した。

初回の授業で近くを歩いていた彼女をチラリと振り向いて顔を確認してしまったほど。

気付かれた時は正直焦った。

この世には似た人間が3人いると言うが、先ず第一に血縁関係を疑うだろう。

しかし、出産の記録はあったが死産。生まれる前にその儚い命を落としていた。

死柄木葬とその母親と見られた女性は母子共々眠っている、筈だった。

 

「罰当たりだとは百も承知だが、令状とって墓ぁ開けさせてもらった」

 

その結果。

 

「出なかったんだよ。赤ん坊の遺骨だけ、母親ともその両親とも、親子・血縁関係が出なかった」

「先日、別働の方で死柄木葬のDNAを採取できた。それで照合したところ、一致したよ」

 

封筒から出されたそれは専門用語が並べられていたが、最も分かりやすい数字は99.99%以上を示していた。

それは親子関係の証明に他ならない。

オールマイトは悔しさやらもどかしさやら、内混ぜになった感情のまま、食い入る様にそれを見つめる。

やはり、死柄木葬は彼女の子だったのだ。

 

名簿で知り得た生徒としての情報では、黒衣の保護者は施設の責任者。

そこも雄英からは遠い場所で、彼女は近くのアパートで一人暮らしをしていた。事になっていた。

如何にオールマイト(ヒーロー)と言えど、初対面の人間が問うにはセンシティブな内容かつプライベートな事なので直接問い掛けるのは躊躇われた。

もっと時間をかけて親交を深めてからそれとなく聞いてみようかと考えている内に起きた敵連合の襲撃。誘拐。

そして発覚した黒衣一花の正体。内通者、AFOの直属配下、義娘。

市民を守るべきヒーローの非道、公安との確執、抱えるモノ。

彼女の境遇を知れば知るほど、気づいてやれなかった自分自身に腹が立った。

 

『守るモノの為に命を賭けて、血に塗れ泥に汚れる少女の1人すら、お前は救えない。頼ってももらえない。手の届く距離に、直ぐ傍にいたのに。無力で、無能で、無様だなぁ。オールマイト』

 

ガラスの向こうで嗤う声。

本当に、その通りだ。

本当に、情けない男だ。

恩師の孫も、愛した女性の忘れ形見であるかも知れない子さえ、奴の手に落ちていた。

死柄木弔は、彼の素性は恩師の孫だとオールマイトはAFOから聞かされている。

彼ー志村転孤は彼が5歳の折、自宅家屋の崩壊により死亡扱いがされていた。

その場に残された大量の血痕と肉体の一部から、他家族全員死亡が確認され転孤だけは行方不明であったが、現場の状況からして生存の可能性は極めて低いと判断されていたのだ。

一夜にして家屋倒壊一家5人分死亡、1人が行方不明の大惨事も、日々発生するの事件影に埋没しすぐに忘れ去られていた。

初めて会った時、恩師の孫は、死柄木弔は、その眼と身には最早憎悪と敵愾心、嫌悪に塗れていた。

AFOにそう育てられた。奴がそうした。

葬は彼女も幼少期から犯罪組織にいたものの、AFOと関わっていた期間は弔よりも断然短く、染まりきってはいなかった。

彼女の精神は依然こちら側に程近く、捩れも歪みもまだまだ正せる。状況が、環境がそれを許さぬだけなのだ。

再会してそう確信した。

少し前から考えていたのだ。

保護施設は彼女にとっても良い思い出のない場所だろう。

かつて囚われていた場所はいずれも表向き児童保護施設の体をしていたし、見ず知らずのヒーローが監視についたとして心休まるはずがない。

それ以上に敵連合の情報を引き出そうとするはずだ。

それではますます心を閉ざしてしまうばかり。

自分が引き取れば、住居は自宅か事務所、あるいはもっと静かなところに用意するのもいいし、根津から教員寮にどうかと話も出ている。

雄英なら優秀なヒーローが常にいるし、元とは言えNo.1ヒーローの側だ。名目上の監視も必要ならクリアできる。心無い輩も手は出せないだろう。

子どもの身の安全とヴィラン逮捕の為の情報を引き換えるなどあってはならない。

幸い、と言っては何だが、己は独り身だ。両親もとうに亡い。

これで妻子がいたら流石にここまで思い切った事は出来なかっただろう。

あの時彼女と結婚していたら、もしかしたらこれくらいの子どももいたかもしれない。

去り際に呼んでくれた「父さん」の一言は、実は内心憧れていた。

仮令、血が繋がっていなくても仲の良い親子はたくさんいる。

お互いに親も子もいない者同士であるし、相手は年頃の女の子だし手探りにはなるが、愛されること、守られることを学んで、彼女が心穏やかに過ごしてくれたら何よりだ。

他の子どもたちも、自分たち大人が引き受ける。

根津校長に相談すると賛同を得られた。

有り難くも、公安や警察が横入りしてくるようなら折衝役になってくれると。財団を作るなら力になるし、資金提供や、制限は出てしまうが非営利団体にするなら役員もやると申し出てくれている。

サー・ナイトアイにも話したところ、彼も賛成してくれた。

根津と共に法人の設立、戸籍取得や養子縁組などの手続についても調べてくれると言う。

弔の事も引き取ってはどうかと皮肉混じり出された提案も可能な限りは力を尽くそう。AFOに歪められた15年はあまりに長い。出来る事なら更生させてやりたかった。

 

 

「……なあ俊典」

 

意を決したグラントリノの、硬い声音が落ちた。

─────────────── ───────────────

No.2相手に無策で来るわけないだろバーカ!

(怪我によるアドレナリン放出中)

 

護衛組

ジェントル:腰が抜けた

ステイン:帰りは運転代わった

レディ:大人しくしてろ怪我人

 

ホークス

異常判断した公安に回収された(SKは九州なので)

ガスは致死性じゃなかったので入院はしたが命に別状はなし。

調査どうしよう…ん?着信入ってる?…荼毘?




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ホークス相手に殺さないように怪我人回収して脱落者0で逃げるって高難易度ミッションでした。
なので3人使ってます。
ステ様語が難しくてあんまり喋らせられない!!
あと影薄いですがマスタード脱落してません。
オリジン初期案だと葬泣かせる予定だったんですが、なんか違うなって。
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