一輪花の咲くまで   作:No.9646

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44話 新たなる時代へ①

 

 

「あけましておめでとうございます、ベストジーニスト」

「新年おめでとう。こんなに静かな正月はいつぶりだろう。毎年カウントダウンパーティーや花火の暴発事故に河川への飛び込みなんかで忙しなくてね」

「寛いで頂けているようで何よりです」

 

後ろ髪を引かれる思いで休暇を切り上げた葬は、再び姿を整えてベストジーニストの元を訪問していた。

のっけから軽い()()を交わし、せっかくの新年だからと彼が作った雑煮をつつく。

テーブルには茶碗と湯呑み、周囲には個性は使えずとも感覚を鈍らせないようにと手製で量産されたあみぐるみや繊細なレース。どう見ても和やか。

しかしここは監禁部屋であり、2人が話す内容は平穏とは程遠いものであった。

 

「それで用件は?まさか新年の挨拶に、というわけではないだろう?」

「ええ。先日、公安側の敵対行為がありました」

「では私はこの首ともおさらばというわけか」

「今直ぐではありませんが、そのつもりでいていただければと。他の使い方も考えてはいるところです」

「この話を受けた時から、否、ヒーローとなった時から覚悟など決めているとも」

 

お互い事も無げに、世間話でもするかのように生殺与奪を語る。

 

「どうですかベストジーニスト、私につきませんか。そうすれば命ばかりは助けて差し上げますよ」

「悪役らしい台詞だな。そして見事な棒読みだ」

「様式美らしいので。その気があるようでしたらちゃんと口説きますが?」

「ほつれ糸ほどもその気は無いので結構。ふむ、では私は「この身死ねども正義は死なず。殺すなら殺せ」と返すのがセオリーか」

「それは残念。何かを為すには犠牲は付きものですが、その犠牲は少なければ少ないほど良い」

 

敵対相手の方針を論う。

 

「その言葉が本心であるのなら、我々は歩み寄れると思うのだがね」

「そうであったらと、私も思っていましたよ」

 

手には香ばしい香りの立つ湯呑み。葬は柔かに微笑い、お決まりの台詞を宣う。

 

「どうぞ恨むならお仲間を。先に切り捨てたのはあちらの方だ」

 

既に賽は投げられた。

 

──────────────────────────────

 

ホークスは得体の知れない違和感を抱いていた。

死柄木葬に罠に嵌められ一時は意識不明となったが、命に別状はなく。

後遺症も残らず、しばしの入院で現場復帰を果たせた。

ただ、病院で目を覚ました時は頭を抱えた。

あの時、有無を言わせず掻っ攫ってしまうのが最適解であったが後の祭り。更に後悔するのはこの後の事である。

死柄木葬のプロファイリングでは、死柄木弔と真逆。

非常に理知的で狡猾、年齢に反してその振る舞いや精神性は成熟していて、個性の特性も相俟って冷静で判断力に長ける。

故に利益や力量差をもっての交渉が可能と見ていた。

事実、過去の確執を一先ずは横に置き、ベストジーニストを人質を差し出す事でホークスの潜入に目を瞑った。

それだけ合理的な判断をする人物だと。

まさか、自ら首を掻っ切るような真似をするとは。

それは彼女の覚悟の強さであり、命さえ賭けねばならない状況にあることを示している。

人質となっているベストジーニストの安否もしれない。

いつ彼の人の死体が送り付けられてくるか戦々恐々とする日々。

しかし任務失敗と思っていた矢先、荼毘から連絡が来たのだ。

ヴィランとやりあって数日入院していたことを仄めかせば、荼毘は馬鹿にしたように嘲笑うがそれ以上の言及はなく。

まさかとは思うが、荼毘はホークスと葬が争ったことを知らないようだった。

呼び出しに応じて拠点である群訝山荘へ飛べば、すんなりと通る事ができた。

連合の面々にも異能解放軍の者たちにもホークスがスパイであることは伝わっていないようで、怪しみながらも何もない顔をして、虎穴に入らずんば虎子を得ずと潜入は続けている。

流石にNo.2ヒーローが解放軍シンパというのは上層部には怪しまれ、スケプティックにより監視デバイスを取り付けられたが。

それでも、ホークスは公安の教育で叩き込まれた交渉術でもって、情報収集を進めていた。

根気よく、自然に、迅速に。

その成果もあり、トゥワイスと接近することに成功して、彼を取っ掛かりに探りを入れてみた。

 

「そういえば最近葬ちゃん見ませんね?」

「ん?そういや入れ違いになってんな!何か用事でもあんのか?」

「いや、俺新参者じゃないですか。なんであんま話した事ないなーって」

 

会議の合間の休憩時間に差し入れのコーヒーを渡しながらの()()()

トゥワイスこと分倍河原仁。個性“二倍“の彼は、精神的外傷を乗り越えた今、脅威でしかない。

異能解放戦線ー敵連合における最要注意人物の1人だ。

他の最要注意人物は言わずもがな死柄木兄妹。

連合の中で荼毘と死柄木兄妹だけは身元が割れなかった。

荼毘は依然不明、死柄木弔は5歳の頃に死亡したと思われていた少年志村転孤である可能性が高いと見られているが確証はまだ得られていない。

そして死柄木葬。

彼女の出自が問題だった。

生まれたと同時に死を偽装され拐かされたオールマイトの実の娘。

その存在は父親すら知らず、先日ホークスの羽に付着した血液を元にしたDNA検査で明らかになった事だった。

平和の象徴の実子が、社会を揺るがすヴィラン。

この事実に頭を抱えたのは公安含めた上層部である。

特に公安は4年前に迅速な保護を行わず彼女を取り零したことを周囲から詰られている。

既に責任を追求すべき当時の委員長は亡く、次席官であった現委員長が槍玉にあげられている有様だ。

この件に関しては、まだオールマイトからのアクションはない。

流石にショックが大きかったようで、秘密裏ではあるが一時病院に強制入院する事態となったらしい。

現状責任追求など露とも頭にないらしく、ただ只管に娘の行方()を追い求めている。

その事実が大きすぎて、死柄木葬の切り捨ては出来なくなった。

万が一それが明るみに出たら、今度はオールマイトとの争いだ。

戦えなくなっても、依然として彼の影響力は凄まじい。

今の社会情勢にこれ以上の混乱をもたらすことはできないと潜入中のホークスに、再度彼女の確保命令が下された。

それも早急、極力穏便に。

何を今さら。

そう吐き捨てないのがやっとだった。

おそらく、葬に再び話合いを持ちかけたところで同じことを言われる。鼻で笑われて終いだろう。

上の半数程度はAFOの所業とオールマイトとの関係が分かれば少なくともヴィランとの切り離し、要求があれば譲歩する姿勢を見せれば説得は可能だろうと予想している。

世間への公表の際は、巨悪により引き裂かれた親子の再会として美談に持ち上げる。

成功すれば一気に状況がひっくり返る。

これまでの感触、AFOの直属とあり、持っている情報量の桁が違う。

黒霧逮捕後、協力者との連絡や資金管理、拠点の手配諸々に至るまで行っていたのも彼女だ。

敵連合ー超常解放戦線に関しても中核の情報を持っているだろう。

更には離反したレディ・ナガン、逃走中のヒーロー殺しの再逮捕、まだ未確定ではあるが、黒い脳無の無力化も視野に入る。

協力的でないまでも、父親の元で大人しくしていてさえくれたらそれで良い。

それが上の見解だった。

最早乾いた笑いしか出ない。

実際に葬と対峙したことのあるホークスは、この目論見がそんなに簡単ではないとひしひしと感じ取っていた。

最良は親元に帰る選択をしてくれること、しかし最悪、恨みや敵愾心を抱きヒーローを貶めるためにこの事実を利用された場合。

嘘八百流言飛語の類であるならまだ否定できるだけ良い。

過去のプロ資格を持ったヒーローの悪行、現在に至るまでの公安組織との確執、数ヶ月に及ぶ潜入を許していた雄英の警備体制、そこには父親であるオールマイトも居た。

それらを暴露されたら、どれだけの非難と信用失墜になるか、えげつないコンボに背筋が震えた。

身柄を確保する前にこの事実を伝えるには慎重を期さねばならない。

一手対応を間違えれば命取りの超高難易度。

けれども、密命の遂行は早くも至難を極めていた。

あれから一切、葬との接触ができていないのだ。

会うことは疎か連絡すらシャットアウトされている。

こうしてホークスが群訝山荘を訪れる際は全く寄り付かず、連絡が取れるのも一部の上層部のみ。彼女の直属配下すら姿も見せない徹底ぶりである。

その為、こうして周囲から少しづつ信用を得て、情報を集めつつ繋ぎをつけねばならなかった。

 

「皆はお前の事スパイだスパイだー!って避けてるけどさ、俺は信じてるぜ!お前良い奴だもんな!」

 

「蜘蛛じゃなくて鷹だしな!」と笑う彼は、良い奴だ。

短い付き合いでも、偽りの馴れ合いの中でも、分倍河原が気の良い男だということはよくわかっていた。

こんな状況でなければ、こんな時代でなければ、己がヒーローでなければ、彼がヴィランでなければ。

けれど現実は変えられない。

彼は指名手配犯のヴィラン、トゥワイスで。

己はプロヒーロー、ホークス。

遅れを取れば、日本が終わる。

だからと言い訳がましく、心の中だけで。

脳裏に人の命を数と断じた葬の言葉が蘇る。

『残される側に私達はいない。いつだって引かれる側だ』

 

「ありがとうございます、トゥワイス」

 

葛藤も罪悪感も覆い隠して、ホークス(ヒーロー)は笑うのだ。

 

──────────────────────────────

 

「よく撮れてんじゃねえの」

 

葬が編集作業をしている動画を横から覗き見ながら、荼毘は満足気に嗤う。

その身体はコートとシャツを脱ぎ、上半身はケロイド状に焼け爛れ、赤黒く変色した継ぎ接ぎだらけの肌を晒している。

年も明け仕事初めも落ち着き、葬は様子を見に群訝山荘を訪れていた。

 

「あ!葬ちゃん!」

「やあ、会議お疲れ様」

 

敵連合改め超常解放戦線は、体制変更の大枠は幹部格で取り決めが済み、今後は細部を詰めて行く事となっている。

今はその為の会議が連日行われていた。

葬は会議に参加しないし、決定権もないが、情報共有として議事録は閲覧して把握している。

なお直前に連合に譲渡した拠点については元より葬の持ち物であったので、支部には加えず継続して独立運用だ。

大元の資金管理は葬側の人間で行なっているし、収支は家計簿に毛が生えた程度。マグネやマスタードに任せても良いだろう。

ここ数年で管理も熟すようになっている葬と違い、連合の面々は運営には慣れていないようで、控室に戻るなり疲労感を滲ませていた。

 

「やっぱり葬ちゃんも隊長やりましょう!一緒にCARMINE!」

「おいおいトガちゃん!抜け駆けは無しだぜ!人数多いBLACKの仕事量なめねーでくれ!」

「おい待てよ!仕事の多さなら支援部隊の俺たちの所だろ⁉︎」

「そうそう‼︎BROWN来てよ葬ちゃん!」

「全員仕事押し付ける気満々じゃないか」

 

なお荼毘は既にVIOLETの仕事を部下に押し付けているので参戦していない。

現在はトップを弔、次点で実質上運営を担うリ・デストロ。葬が加わる場合、弔の補佐役として同等の地位が用意されている。

外典の例があるように、ここではあまり年齢は重要視されない。

しかし急にトップ2人が20歳と16歳では外部に対しても示しがつかない。歴史のある組織であれば尚更、新立するリーダーの補佐は経験のある者が着くべき、何より参加組織ととの完全和解が成っていない等と諸々と理由をつけて幹部の席を保留にしている。

葬とてこの規模の運営など経験がないのだ。

この後もリ・デストロたちに教わる予定である。トランペットやスケプティックは彼が決めたことだからとしたがっているが不満気であった。特に若い連合の面々の態度。実質No.2の葬が一歩下がる姿勢を見せていることで抑えている節もあった。

 

「まあ、こっちも色々あるからね。ある程度片付いたら改めて合流するよ」

 

曖昧に言葉を濁し、話題を変えようと荼毘に声をかける。

 

「そうだ、荼毘。頼まれてた物持ってきたから見てくれ」

「荼毘くん何か頼んだんですか?」

「他メーカーの耐火布のサンプル」

 

ああ、と皆が納得して興味を無くした。荼毘には必要だが、他には無用の長物だ。

皆に悟られぬよう、共犯者2人はそっと目配せする。

用意してきたのは、耐火布などではなかった。

そして2人は場所を移し、葬と荼毘は彼にあてがわれた部屋にいた。

持ち込んだ機材で荼毘が計画した動画の撮影と編集作業の真っ最中である。

 

「このまま続きの音声収録入るか?」

「ああ。これが流れたら、アイツどんな気分だろうな?必死になって俺を追いかけてくれるかな?また俺を見てくれるかな?」

「1番集中砲火を受けるのはトップだろうね。上に立つとはそういうことだ」

 

荼毘はワクワクと心を躍らせていた。

 

「死柄木が起きるのが楽しみになってきたぜ」

「物理的に壊すのは兄さんたちに任せればいい。私たちが壊すのは中身─連中が後生大事に築き上げてきた、信頼」

 

『与えてやるよ。自由を。世の中全部ぶち壊して』

 

異能解放戦線構成員およそ11万人。

その数が示すのは、現行制度に対する不満と抑圧、敵意や恨みの大きさ。

彼らがやろうとしている事は、現行制度すなわちヒーローの殲滅。

全国主要都市を一斉に襲撃、機能停止させ無法地帯となったところで政界へ進出、武器をバラ撒き自衛という名の自由を謳う。

そうして混沌の世を創り出し、瓦礫の王座に弔を据える。

すなわち、AFOの再演。

 

「兄さんが更地にして、お前と私で耕して(腐らせて)耕して、戦線の連中が種を蒔く。後は人々が勝手に育ててくれるだろうさ」

 

この国は物理的に壊れるのは慣れている。

この災害大国が何度焼け野原になったか、何度更地になったか。

例え一時心折れても、天災だろうと人災だろうと乗り越えて、繋ぎ、人はここまで歩んで来た。

破壊と再生(Scrap&Bild)。それは歴史が証明している。

葬と荼毘がやろうとしていることは、これまで華々しい活躍をしてきた者達が、人々が必要としてきた者達こそが、井戸に毒を投げ入れた犯人だと指差すに等しい。

黎明期以降積み上げ繋いできたヒーローへの信頼。

連中が犠牲に目を瞑り守り築いてきたものを、それを根底から壊そうというのだ。

その為の手札として、()()最高(最悪)のカードだ。

 

「あと3ヶ月かぁ。待ち遠しいぜ。残り短い付き合いだが頼むぜ共犯者?ちゃぁんと地獄まで送り届けてくれよ」

「その時は六文銭も2人分持たせてやるから安心して川を渡るといい」

 

荼毘は上機嫌だ。

 

「なあ、さっきのもう一回見せろ。ちょっと脚本変えようぜ」

「先に何か着たらどうだ」

「問題ねえよ。俺は寒さには強いんだ」

 

荼毘が端末を操作しようと手を伸ばす。

そこに。

 

「おい蒼炎!貴様まだ決裁書の提出がされてないぞ!隊長としての自覚がt」

 

バンッとノックも断りもなく怒鳴り込んで来たのは外典。

その視線の先には、部屋に2人きりの若い男女。

上半身裸の荼毘と、そして一つの端末を見せる為に顔を近づかせていた葬。

側から見たら、ソファの上でのしかかられたような体勢。

客観的に考えれば誤解を招く状況。

前の似たような事あったなと思いながら葬は訂正しようと口を開こうとした。

が、しかし。

外典の反応は斜め上だった。

何故か、外典は何やら感心したように頷く。

 

「お前たちは戦士としては優秀だからな。お前たちの子どもならさぞかし将来有望な解放戦士になるだろう。1人と言わず増やせるだけ増やせ!存分に励むといい!」

 

顔を腫らして所々焦臭くなった外典がリ・デストロの前に引き摺られるのは、その直ぐ後の事である。

 

──────────────────────────────

 

ぶん殴った。

個性教育の前に必要な事があるよな?

色々とまだ知らない。

 

荼毘

便乗して燃やした。

良い右ストレートだったぜ

スパイ野郎はまだ利用価値あんだよ

 

外典

何で怒られたのかわかってない

???

 

リ・デストロ

腹心がボスの義妹にセクハラかましたストレスは変換できるだろうか

 

ホークス

現場で苦労してる人。

 

 

ベストジーニスト

岡山県(公式)北部出身(設定)

雑煮はスルメ出汁。





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感想・評価・お気に入り登録・ここすき等いただけると幸いです。喜びます。大事な事なので2(略

また外典が殴られてる。せっかくキレイな顔なのに…

ホークスのスパイ継続の要因はほうれんそうが消化されてないからです。
葬「ホークスはスパイだけど利用する。飼い主は荼毘で」
弔「ok」→改造へzzz
葬「首輪はやったからちゃんと面倒見ろ」→幹部外れ→休暇
荼毘「へいへい」→他の仲間に共有しない。
元解放軍「信用できないけど利用価値は高いので利用する」
行政側が一枚岩出ないように、敵側も組織は一枚岩ではない。
特に敵連合は元々今日つ目標1つ(?)で思想ごった煮の集まりだし、異能解放軍は大所帯。吸収合併しても間もないってタイミングやらが合わさって、ギリギリ継続できてます。
別の理由もありますが、それは追々、になったらイイナ
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