一輪花の咲くまで   作:No.9646

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ネタバレはありませんが、あとがきで本誌に触れています。


47話 春嵐の前触れ①

 

葬はドクターが創設者兼院長を努める蛇腔総合病院の地下にあるラボを訪れていた。

 

「ドクター、本当に兄さんは大丈夫なんだろうな?」

 

弔の様子を見にきた葬は、ガラス越しの光景に眉根を寄せる。

流れる電流により信号が狂っているのか、固定された弔の身体が出鱈目に跳ねる。

あちこち皮膚や筋繊維が千切れ、血液をはじめ体液が至る所から噴き出して辺りを汚していた。

分厚いガラスに隔たれ内部の音は聞こえないが、おそらく絶叫が響いているのだろう。

もしかしたら声帯もイカれているかもしれないが。

 

「無問題無問題!万事順調!想定以上じゃ!」

 

何が楽しいのか理解する気もないが、ドクターは非常にうきうきとした様子だ。

葬とて血も細切れ肉も見慣れているから平然としている。

掃除が大変そうだなと感想を抱くくらいの余裕はあるが、見ていて気分の良いものでもない。

 

「後3ヶ月か…日程は早まらないか?」

「ふむ…数値的にはちとムリをすればいけなくもないがなぁ。ヒーローたちに動きでもあったか?」

「兄さんの誕生日に間に合えばと思ってね」

「それはちと難しいのう。代わりに祝いは弾んでやるわい!パーティーは上物用意しとかんと。AFOは安酒は好まんからなぁ」

「お父様の出所祝いならまた別に場を設けるよ」

 

しばらく出てこなくていいが。

せっかく24時間体制完全介護してもらえる設備の整った施設なのだから、是が非でもゆっくりしていて貰いたいものだ。

もっとも、あの義父の事だ。どうせ奈落の底からでも這い上がって来るのだろう。

 

「何じゃ、お前さんには話しとらんかったのか?」

 

まあよかろう、とドクターは語る。

それは乗っ取り、成り変わりの計画。

 

「そんなに上手くいくのか?」

「理論上はな」

 

臓器移植を受けた人間の性格や嗜好が変化したというのは幾つも事例がある。

細胞に記憶が宿ると言われるように、個性因子にはその人の意識そのものが宿ることがあるらしい。

そして個性に干渉する個性を持つ人間は、その意識に触れることができるらしかった。

 

「まるでオカルトだ」

「浪曼じゃよ、ロマン。中身がどっちだろうと、お前さんは気にせんじゃろ?」

「出すもん出してくれさえすればね。しかし兄さんをお父様と呼ぶのは違和感しかないな」

「確かに!弔では厚みというか、威厳が足らんわな!」

 

ドクターは呵呵と笑う。ただしその表情も目に宿る狂気も、好々爺とは程遠い。

 

「弔の肉体になればお前の個性を使うこともできる。今のAFOの肉体ではその個性は使えん。起点となる眼がないからの」

「私の個性を渡せと?」

「お前の“感情支配“はOFAを抑え込むのに有利に働く可能性が極めて高い」

 

OFAーワン・フォー・オール。

AFOから派生した、元はオールマイトが、今は緑谷が所持している個性()

これを奪い支配下に置くことがAFOの目的の一つ。

OFAには現在8人分の意志が引き継がれているらしい。

それも極めて強い意志が。これまでAFOに抗い、立ち向かってきた者達の遺志が。

その並々ならぬ堅固な想いを喰らうために、弔は憎悪を育てられた。

もう1人の候補(スペア)は育ち過ぎ、爛れ過ぎ。AFOでさえ並外れた執着に付け入ることはできなかった。

そこで補完となるのが、葬の個性“感情支配“。

精神干渉系個性は種々あるが、せいぜい数人の自我を奪い洗脳下に置くとか、単純に笑わせる、悲しい気分にさせる、魅了するなど単純な効果なものがほとんどだ。

葬の“感情支配“ほど操作性が高く広範囲で強力なものは個性登録上存在しない。

まして発現以来、過酷な訓練を積まさせれている。個性もまた身体能力の一つだ。

飛び抜けた才能と極限の環境下で研鑽された“感情支配“ならば、数人どころか十、数十、それ以上への同時干渉が可能。

それだけの威力があれば、8人の歴代継承者の執念すら、捻じ伏せられる公算が高い。

もし弔の憎悪が足りずとも、新しい肉体さえ手に入れば、そこに“感情支配“を入れて自身と継承者に干渉できる。

 

()()も商売道具なんだ。私の個性は複製できないのか?」

 

ドクターの個性は既に複製されたものだ。オリジナルはAFOに捧げ、またAFOもオリジナルを弔に写した。

 

「ちと厳しい。圧倒的に時間がかかる。第一世代のAFOを複製するのに何年かかったと思うておる。お前さんの“感情支配”は突然変異、謂わば新たな個性の第一世代とも言える」

 

第二世代以降であれば、個性因子を紐解いていけばこれまで蓄積したデータをベースにおおよそ再現が可能。

しかし、既に世代を重ねて複雑に絡み合い、それが全くの別物に変化してしまっている。

これでは蓄積した過去のデータは役に立たない。

 

「純粋な第一世代よりも更に再現は困難を極めるじゃろうな。ましてやマスターピースの研究の片手間に出来るもんでもなし、大人しく”感情支配”を差し出して代わりの個性を貰えばよかろう」

「代わりの個性ねぇ…似たような精神干渉系か、発動攻撃いやバリアみたいな防御の方がいいか…ああそうだ、黒霧のワープゲートは?」

「アレは偶然の産物じゃ。狙って造れるとは限らんが、まあ進言はしてみるとしよう。ジョンちゃんの転移はどうじゃ?」

「アレはパスだ。臭いが酷い」

「ワガママだのぅ。複製の一覧出してやるから待っとれ」

 

ドクターはPCに向かう。

AFOはああ言っていたが、弔がいなければ()()()にしただろう。

あの時は転孤の歪みも順調に育っていて、間も無く爆発した。

だから葬はとりあえず親元から奪って目の届く所に置いておけさえすればよかった。必要になったら取り戻せばよし、死ねば2度奴を踏みにじれる。

予備の予備程度であったが、存外使い勝手が良く、その後オールマイトに敗北したトラウマがあるので次代の器にするのを嫌がった部分もあったのだろう。

 

「おっとジョンちゃん。お散歩中かの?」

 

プリンターが吐き出した紙を拾ろおうと手を伸ばすと、ホースを引き摺りながら歩き回っている小さな脳無がそれを踏む。

脳無を抱えながら背を向けて上機嫌で鼻歌なんぞ唄うドクターが、資料越しの視線に気付くことはなかった。

 

──────────────────────────────

 

別日、旧異能解放軍総本山-現在の超常解放戦線本部群訝山荘の一室。

最高指導者補佐執務室(仮)にて、開闢行動情報連隊CARMINEの書類チェックを行っていた。

基本連隊長のスケプティックが捌くのだが、「承認すればいいだけの決裁くらいはやれ。判を押すだけなら猿でもできる」とトガに回ってきた分である。

 

「これでいいだろう。提出期限を守ってくれるのはいいが、次から落書きは無しにしてくれ」

「ネコさんです!カァイク描けました!」

「そうだね。トガは絵が上手いな。よく描けているけど、残念ながらテストでないから加点は上げられないんだ」

 

1学期の期末で芦戸が苦し紛れに答案に描いたらプレゼントマイクが1点加点してくれたらしい。赤点+αのaの内の1点だそうだ。

 

「スケプティックも煩いしな」

 

先だってトガに泣きつかれて仕事を手伝いーほぼ葬がやる羽目になったがー書類をスケプティックに渡したところ、「まとも…だと…?」と2度見どころか近づけたり遠ざけたりしながらも3度見4度見された。

それからというもの、なぜか各部隊長(敵連合メンバー)への書類の督促が葬に来るようになった。

まだ正式な幹部就任をしたわけではないのだが。

なので書類のチェック・修正箇所の指摘のみを行い、清書作業は返していた。

サクサクとおやつのロシアケーキを齧りながら待っていたトガに修正を入れた書類を渡して、葬も休憩を挟む。

トガは素でいても気味悪がられることのない今の居場所が好きだ。

両親から彼らの『普通』を押し付けられて、良い子の仮面を被り己を抑圧してきた頃にはない息のしやすさがここにはあった。

口ではイカれ女と言う弔や荼毘も『普通』とは程遠いし、不理解による拒絶はしない。歳の近い同性のオトモダチもいる。

 

血液嗜好性(ヘマトフィリア)と同一化欲求くらい、【不適切な表現が含まれています】とか【不適切な表現が含まれています】なんかとかより…ってどうした?」

 

表に出せない欲望渦巻く社会を見てきた葬はトガの嗜好も平然と受け止め、逆にドギツイ例を上げて周囲の男連中をドン引きさせていた。

 

「ヘマ…?」

「ヘマトフィリア。流血や吸血などに性的興奮を覚えるタイプの事だよ。吸血行為のみを愛好する場合はヴァンパイアフィリア。特殊性癖は精神疾患扱いされることもあるが、トガの場合は個性の影響が強いだけだろう。既に名前がつけられている嗜好性なら、それなりに実例がいるということさ」

 

数が少ないだけでいないわけじゃない、といっそ興味なさげにあっさり言ってのける葬をトガが友だち認定するのは早かった。

他愛もないお喋りに花を咲かせるているとコンコンとドアがノックされた。

入室許可を求める声に、葬が許諾する。

 

「どうぞ」

「なあ、BROWNの運営費の事で…ってなんだトガもいたのか」

 

やって来たのはスピナーだった。

ステインに触発されたミーハーで、他と比べて確固たる自己を確立していないが、彼は比較的真面目に隊長の仕事を学ぼうという姿勢がある。

スピナーに勘定科目の説明をしていると、また来客があった。

 

「よ!お邪魔するぜ!」

 

今度はトゥワイスだった。

 

「なんだなんだ?お前らも葬ちゃんにお仕事やってもらってんのかよ?ダメだぜ人任せにしたら。お前ら若いんだからこれからの成長のためにもだな」

「ならその後ろに隠してるのは見なくていいんだな」

「お願いします」

 

即90度の最敬礼で差し出されるファイルに葬は苦笑する。ちょうどスケプティクから督促されている書類だ。

スピナーに断りを入れてPCのスリープを解除する。

葬が作業している傍ら、3人は人数が増えたからとトガが追加で開けたクッキーを頬張っていた。

 

「そういやさあ、ホークスが会いたがってたぜ。葬ちゃんずっと入違いなっちまってるって」

「ホークス?」

 

その名前に眉間に皺が寄る。

そしてそれは詳細を聞き出すにつれ険しくなっていった。

 

「えっと、死柄木にも会いたいって言ってたから、アイツは強化中だって…でもパッツンロン毛野郎も聞いてたし!何も言われてねーよ⁉︎」

 

セーフだろ⁉︎と慌てるトゥワイスに、葬は長い溜息で返した。

アウトだ。

内線を鳴らして繋ぎを求める。

 

「リ・デストロに繋いでくれ。火急の用向きだ」

 

次いで荼毘も呼び出しである。

 

──────────────────────────────

 

「あの、オールマイト…大丈夫ですか…?」

 

恐る恐る、といった具合に緑谷が訊ねる。

元より、内臓の欠損したトゥルーフォームのオールマイトは痩せていて顔色も良くない。

しかし怪我も後遺症にも負けず闊達としているのだが。

 

「ああ…うん。大丈夫だよ、緑谷少年。ちょっと寝不足なだけさ」

 

それが今や、頬は一段と痩せこけ、目は落ち窪み隈ができ虚、骸骨じみた風貌はコミックであれば背景に不気味な効果音でも背負っているところだ。

夜道で出会せば悲鳴を上げられる事請合いである。

 

「ままさかこの前の検査の結果が…?」

 

検査?とオールマイトは首を傾げそうになったが、相澤が入院を誤魔化すためにそういう事にしてあると言っていたのを思い出す。

 

「だ、大丈夫だよ緑谷少年!検査の方は問題なかったから!」

「内臓半分吹っ飛ばしといて問題ねぇわけあるか」

 

爆豪の的確な指摘(ツッコミ)に、オールマイトは力無く笑う。

 

「うんまあそうなんだけどね爆豪少年。特に差し迫ってこれまでと大きな異常はないって事で。ちょっと寝不足なだけさ。調べものをしていてね。この歳になると徹夜もクる。おじさんは辛いよ」

「お、オールマイトはおじさんじゃありません」

 

嘘ではない程度の誤魔化しを口にする。

緑谷はひとまず引き下がってくれたが、爆豪は撫然とした表情を崩さない。明らかに納得していない顔だった。

そこに救いの手が現れる。

 

「やあやあ、失礼するよ」

「校長」

「こんにちは、校長先生」「ちわっす」

 

校長は「ちょっとオールマイトを借りられるかい?」と連れ出してくれた。

 

「すみません、校長」

「いいってことさ!それよりオールマイト、君、また寝てないだろう。君は窶れるという現象を履き違えてないかい?」

「しかし、何もせずにはいられないのです…」

「心中は察するけどね」

 

倒れたら元も子もないだろうと少々長めの小言を、オールマイトは神妙に受けた。

あれから、オールマイトは娘の影を探し求めている。

生徒たちを不安にさせないよう授業は行い、緑谷の訓練も並行して行なっている。

取り繕ってはいる。いるはず。

そして比較的自由の効く夜に睡眠時間を削って、新しい情報がないか方々に問い合わせたり、過去の情報を洗い直している。

何もしていない時間は、それこそ苦痛だった。

 

「まだ何も新しい情報は入っていないよ」

「そう、ですか…」

「今のところ、サー・ナイトアイの“予知“通りになる可能性が極めて高いんだ。君は体を休めておくべきなのさ」

「はい…」

 

再度強制的に休まされたオールマイトは、少しして迎えた日の夜、神野へと出向いていた。

目的地は脳無保管庫跡地である。

娘の居場所に繋がる手掛かりを探し求めて。

雨が降っていた。

強くはなくても冷たい雨と冬風は、あらゆる熱を奪ってゆく。

目的地の眼前、AFOとの死闘を繰り広げた戦場は今や広場となり、自身を模った象が建てられていた。

周囲にはまだ倒壊した建物がそのままになっている所もある。

ここで連合を逃さなければ、そう思えど後の祭りだ。

この場所で、奴は葬を自分の娘だと嘯いた。

それが攫われた生徒だとも、自身の娘とも気づかずに、親なら子供に恥じない生き方をしたらどうだと問うた己を、奴は心底嗤っていたのだろう。

オールマイトは自身の像を見上げる。

 

「ナチュラル・ボーン・ヒーロー、不動のNo.1、平和の象徴…私はただ、皆に安心して、笑っていてほしいだけだった…」

 

無個性として産まれた八木俊典がまだ若かった頃、この国は今よりずっと混沌としていた。

超人社会は今とは比べ物にならないほど混乱しており、超常能力"個性"を悪用する犯罪が当たり前のように横行し、人々は犯罪者の影にいつも怯えながら暮らしていた。

それはこの国には柱がなかったからだと、だからその柱になろうと、直走ってきた。

その結果が、今だ。

怨敵に目をつけられ、愛した女性を失い、我が子すら奪われ、声を上げることすら叶わない。

探す手段さえ制限される。

真っ先に向かおうとしたのは、死穢八斎會の所。

確実に繋がりのある彼らに頭を下げてでも頼み込もうとしたのを止めたのは、サー・ナイトアイだった。

ヒーローオールマイト(平和の象徴)に、敵予備団体に頭を下げさせるわけにはいかない。

 

「貴方に行かせるくらいなら私が行く!」

 

ヒーロー生命を失うのを覚悟で引き止めるナイトアイを、2度も無碍にすることはできなかった。

オールマイトは弱々しい拳で像を殴る。

かつては岩をも悠々と砕いた拳も、既にその力はない。

 

「とんだ役立たずだな、オールマイト…なんて無力で、無能で、無様なんだ…ヒーロー失格だよ、お前は…」

「それは英雄への冒涜か?」

 

音もなく、背後から突きつけられたのは、刃こぼれした日本刀。

現役時代は終ぞ相見えることのなかった相手。

判明しているだけで40人のヒーローを再起不能に陥れた大量連続殺傷犯。

 

「ヒーロー殺し、ステイン…!」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

スプラッタ平気。

治崎が手拭いてる()横でハンバーガーやチキンが食える精神。

 

ドクター

研究も順調で毎日が楽しい。

 

荼毘

構内放送呼び出しとかガキの頃にもなかったんだが?

 

オールマイト

うちの子知りませんか…

 

 

 

 





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感想・評価・お気に入り登録・ここすき等いただけると幸いです。喜びます。大事な事なので2(略

ほ、本誌ぃいい!!!
何でまだ仕込んでるかなぁ!!!
そっかぁ、女の子でもありかぁ…(震え)
嫌がらせはしたいけど直接の血縁使うのはやだなとか思っておいて…じゃないと弔失敗したら子供産ませてそれにしようかなとかやりかねないからさぁ…!
でも女の子か…
性格魔王のかっちりダークスーツ僕っ子悪の女帝…?
え、あの…好きです。
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