一輪花の咲くまで   作:No.9646

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48話 春嵐の前触れ②

 

 

夜、小雨の降る中、男たちは対峙していた。

片や元No.1ヒーローオールマイト。

片やヒーロー殺しステイン。

元は繁華街であった神野区は今やその姿を変え、AFOと激闘を広げた倉庫跡地は記念広場グラウンドゼロとなっていた。

昼間であればあった人の行き交いも、雨降る夜に影はない。

 

「…待っていたよ、ステイン」

「何…?」

 

刀の切先を突きつけたまま、ステインは周囲を視線で探る。

ここまで注意を払ってきたが、やはり他に人の気配はない。

 

「安心してくれ。ここには、私1人で来た」

 

青と赤。別種、しかし何処か似通った強い意志と狂気を宿した視線が交錯する。

 

「英雄…か…」

 

ポツリとこぼして、オールマイトは雨に打たれる像を見上げる。

 

「どうしようもない男だよ。オールマイトという奴は…己の甘さでヴィランを取り逃し、奪われてはいけないモノを奪われても気付かず、知ろうともせず、ヘラヘラ笑って、見当違いの善意を口にする」

「黙れ」

オールマイト()は、図体がデカいだけのただの木偶の坊だ…!」

「取り消せ愚人」

 

鈍色の刃が鳴る。

間一髪。繰り出される刀を傘で視界を遮り身体を逸らす。

そのまま持ち上げるように骨組の際で挟み捻る。

折るか手放せればよかったが、それほど容易くはない。

ステインも刀を引き、距離をとる。

すかさず、複数のナイフが飛ぶ。

オールマイトは飛び退いて躱すが、その内の一本が腕を掠める。

出血はない。

 

「一応、対策はしてきたんだ」

 

ステインが刃物を使うのは前情報として旧知の事実。

着用している衣服もヒーロースーツにも使われる特殊繊維仕様にしてきたのだ。

同行を断り1人で出向くと言うオールマイトに、サー・ナイトアイ等がこれだけは譲らなかったのである。

ステインの個性“凝血“は相手の血液を摂取することで動きを封じるもの。

彼自身の血液型であるB型から拘束時間が長く、遠ざかるほど短い。

一度でも条件を満たせば致命的だが、発動に必要なハードルの高さと効果だけを見るならば、脅威とまでは言い難い。

しかしステインの強さその真骨頂は、桁外れの戦闘技術と身体能力の高さにある。

視線誘導、フェイントを混ぜた攻撃も、その獣じみた反射神経と膂力でもって避ける。

 

「…惜しいな、全く」

 

出血しない限りお互いに、ほぼ個性なしでの戦闘だ。

そもそもオールマイトはその個性の殆どを失っている。マッスルフォームをまともに維持することもできないのだから。

口の中には慣れた鉄の味が広がっている。

吐き出すわけにもいかずに、無理矢理飲み込み、端から溢れた血を拭う。

 

「強いな、ステイン。確固たる覚悟と信念の下に相当な訓練を積んだんだろう。君が共に戦う仲間でなかったことが残念でならない」

「世の腐敗を知らぬうちはかつては志したこともある。しかしその実態は目指したモノと程遠い。驕り昂り、金や名声にばかり頓着するヒーローとは名ばかり、名乗るにも烏滸がましい贋物ばかり。英雄の名を汚す愚物がヒーローを名乗り持て囃させる。変えねばならぬのだ。力づくでも!言葉に力なき以上、力でもって変えねばならぬ!」

「確かに、最近のヒーローの在り方は私も思うところがある。しかし、君のやり方だけは、認めるわけにはいかないんだ」

 

彼の思想は極端ではあれど、理解できる部分も多い。

こんなやり方でさえなければ、方法さえ違っていれば、そう思わずにはいられない。

 

「贋物が蔓延り社会を歪ませる。世の中を変えねば、正さねば。歪んだ社会では本来救われるべき者が救われず、本来在るべき場所に戻れず泥に塗れるしかない。アレはこちら側に在るべきではなかった。暗部など存在せず、存在する必要がなければ!間違いなく本物に成り得たはずだった!」

 

誰のことを言っているのか、すぐに解った。

 

「そう言ってもらえるとは…ああ、私もそう思うよ」

 

オールマイトは構を解く。

訝しげにステインの眼が一瞬見開かれた。

無防備に、ただ前に踏み出す。

 

「君と話がしたい。彼女の事で聞きたい事があって、私はここに来たんだ」

 

同行を願い出る声もあったが、断ったのだ。

時は一時的な入院措置が取られていた頃に遡る。

サー・ナイトアイはオールマイトに“予知“を使った。

今後の方針と対策を検討するためである。

オールマイトの未来を視ることは、彼にとって心的外傷(トラウマ)にも等しい。

己の個性を使うことを躊躇いを覚えるほど。

 

「大丈夫かい?ナイトアイ」

「…ええ、大丈夫です」

 

サー・ナイトアイは動揺を落ち着けるように眼鏡を直す。

紙のような顔色から察するに、“予知“で視た未来はあまり良いものではないのだろうことが見てとれた。

言葉を濁したが、やはりこのままでは望む未来は程遠いと告げる。

 

「しかし、チャンスはあります。近いうち、ステインと接触する機会が巡ってくる」

 

サー・ナイトアイが視た未来。

それはオールマイトの元にステインが現れるというもの。

場所は終わりと始まりの地、神野区記念広場オールマイト像前。

オールマイト像は全国各地にいくつかあるが、サー・ナイトアイはもちろんその全ての微細な色や造形の違いとその設置場所を把握していた。

世間一般に知られているのは大量連続殺傷犯“ヒーロー殺し“の悪名、彼の行動原理にそぐわない者であればヴィランをも排除する過激な原理主義者、そして短期間であるが敵連合に属していたこと。

彼は敵連合が動き出す前からの、死柄木葬直属の腹心の1人だ。

役割は主に身辺警護(ボディガード)

一度は逮捕された身だが、搬送先の病院から逃走している。

外部からの手引きがあった線が濃厚で、おそらくそれは葬によるもの。

逃走幇助などと危険を冒してでも手元に置きたいという事だろう。

それだけ、ステインは葬に近い場所にいる。

彼はその動機や犯行形態から脅迫を迫られる可能性が極めて低く、確実に葬に繋がりがあり、辿り着ける確率の高い相手。

ステインを捕らえるため、あるいは説得のために囮になろうと言うオールマイトに、サー・ナイトアイは同行しようとしたし他のヒーローにも協力を求めるべきとした。

しかしそれをオールマイトは断った。

1人で行かねばならないと。

そしてこうしてたった1人で神野に赴き、ステインとの邂逅を果たした。

応じてくれると確信があった。

初めから、ステインに殺気はない。

ひたりと据えられた刃が触れそうになる距離で、オールマイトは立ち止まる。

ただ正面を真っ直ぐに見据えて、問うた。

 

「あの子はー私の娘は何処だ」

 

──────────────────────────────

 

会議は紛糾した。

冒頭は葬がこの場に参加するための決議から始まり満場一致を見たが、問題はそこから先。

 

「トゥワイス貴様!なんてことをしてくれた⁉︎」

「はぁ〜⁉︎お前だって監視盗聴してたくせに何も言わなかったじゃねえの⁉︎」

 

今にも掴み合いにならんばかりの剣幕で罵り合うスケプティックとトゥワイス。

こうなることは予想されたので、今回ばかりは座席を円形にせずU字型にした。

2人は向かい合せの端だ。

乱闘になったら止めてくれとだけ隣のMr.コンプレスに頼んである。

今日は眦の下がった困り顔のような仮面をしているが、仮面の下も似たような顔をしているだろう。

止められなければスケプティックの隣の外典が氷漬けにするだけだ。

リ・デストロがやれと言えば即断で動く。

 

「まあまあ落ち着きたまえ2人とも」

「痣出てますよリ・デストロ」

 

顔はニコニコしながらも“ストレス”の痣が滲み出ているあたり、彼も相当おかんむりのようだ。

『再臨祭』を経て弔こそ、自分達が理想とする"全てから解放された"姿を見出したことで最高指導者の座を譲渡した彼ではあるが、弔ではまだ10万の兵の指揮や組織の運営には足りない部分が過分にある上に放任主義。何より本拠地から離れてドクターの元で強化中である。

葬も流石にこの規模を運営した経験はなく、そのため実質な組織の統率は変わらずリ・デストロが担っている。

尤も、弔の補佐として状況はそれも許さなくなり、今回直接の介入となっているが。

ぐだぐだとした迷走会議には慣れている花畑は遅々として進まぬ会議を進めるべく啀み合う2人を無視する。

 

「話を戻しますが、計画がヒーロー側に漏れている可能性があると」

「おそらくは。どこまでかはまだ分からないが、招いている以上本拠地(この場所)は確実、少なくとも弔が万全でない期間がある事とそのタイムリミットは既に知られていると思っていいだろう」

 

元公安直属であったレディ曰く、公安では周囲に目がある場合は暗号で遣り取りするらしい。

ホークスの動向はスケプティックがマイクロデバイスで監視しているから、後ほどレディに映像解析を頼むつもりだ。

 

「悠長に準備万端整えて打って出る事ばかり考えてはいられない。敵陣の大将が動けない間に攻め入るのは定石だ」

 

弔の強化改造が済むまで、あとおおよそ2ヶ月。

 

「ふむ…次にホークスが来るのは?」

「来週の報告会に来るはずです」

「相手はNo.2ヒーローだ。捕らえられるか?外典?」

「リ・デストロのご命令とあらば必ずや!」

 

リ・デストロへの忠義に厚い外典が声かけがあったことに喜色を滲ませる。

彼の出力なら、ホークスを窓のない部屋に誘導して部屋丸ごと氷漬けにすれば捕らえる事も可能だろう。

相手の安否を気にしてやる必要性も低い。

 

「生捕りに出来るなら尋問は私が引き受けるよ。私の個性を使えば容易い」

 

ホークスの生死などにあまり興味がなく、会議や組織運営疎い連合のメンバーを置いてけぼりに、葬はリ・デストロと花畑と一緒に今後についての検討を重ねる。

そこにトゥワイスが待ったをかけた。

 

「そもそも何でアイツがスパイだって前提なんだよ⁉︎俺たちを裏切ってるとは限らねえだろ⁉︎」

「裏切ではないよ。アレはただ、私たちの側には立っていないだけさ」

「そんな事ねえだろ‼︎アイツはよくやってんじゃねえか‼︎親切な奴じゃねえか‼︎仲間の為に働ける奴に悪い奴はいねえ‼︎」

「トゥワイス」

 

ただ一言。決して強い語気ではない。しかし強権的な静止。

葬は激昂するトゥワイスへ向き直る。そして諭すように問いかける。

 

「ここにいる皆は仲間だ。そうだろう?」

「おう!そうだよ!だから…!」

 

さらに言い募ろうとする彼を遮り、葬は続ける。

 

「お前はもう1人ではない。仲間がいる。同時に、判断ひとつ間違えば仲間が危険に晒される。対立組織に利用される、ヒーローや警察に捕まる事はもちろん、最悪、命を落とす」

 

実際、敵連合と異能解放軍との戦いにおいて、義燗は尋問され右手を失い、連合の情報を奪われ危険に晒し、異能解放軍側にも少なくない死者が出た。

つい最近のことだ。

 

「私たちのようなヴィランはもちろん他者の命になど拘泥しないし、ヒーローは私たちのように今の社会の枠組みから外れた者を、護るべき市民(ヒト)とは見做さない。ニュースで見た事くらいあるだろう。どこそこでヴィランが暴れ、ヒーローが鎮圧。その過程でヴィランが死んで、誰がそれを気に掛ける?」

 

よくある話で、悪者は正義の味方に倒されました、めでたしめでたし。

 

「必要ならば切り捨てる。それが命であっても。私たちがそうであるように、私たちが相手にしている連中もそうで、お互いに命の遣り取りをしている真っ最中なんだ」

 

市民は当然、ほとんどの犯罪者も、何なら大半のヒーローも、事件解決のために自分たちが切り捨てられる可能性を考えなどしない。

それを知っているのはごく少数で、葬は()()()()()()()()()()

 

「お前が仲間を大切にする気持ちは尊重すべきだとは思う。ただそれで目を曇らせて、守るべき仲間を危険に晒し、失う事態に陥った時。お前はそれを背負わなくてはならない。好きに生きることも、自分で決めたことも、最後に背負うのは自分自身だ。けれど今ならば、組織として動いている以上、切り捨てる判断をするのは私たちであって、お前じゃない」

 

葬は優しさすら感じさせる声音でトゥワイスに言い含める。

 

「だけどよぉ…今あいつを切り捨てちまったら!俺等は俺等を捨てた連中と同じじゃねえか!アイツだって俺たちと同じじゃねえか!今の世の中に雁字搦めにされてよぉ!自由に飛びたいって、アイツ言ってたんだ!誰かが信じてやらなきゃ可哀想じゃねえか‼︎誰かが信じてやらなきゃ…寂しいじゃねえか、悲しいじゃねえかよ…」

 

誰にも信じてもらえない。

誰にも理解してもらえない。

誰にも認めてもらえない。

それは敵連合に属した者たちの幾人かは多かれ少なかれ抱いたことのある痛みだ。

 

「感情論を組織に持ち込むな!これだから大局の見られない無計画な馬鹿は困る!」

「人生勝ち組なデケエ会社のシャチョーさんに俺らの気持ちが分かるかよ!」

 

2人は再び口論を始める。

 

「葬ちゃん」

 

ねえねえ、と隣に座るトガが葬を呼ぶ。

 

「仁くんのお願い、聞いてくれませんかぁ?私は鳥さんはわりとどうでもいいのです。だけど仁くんが信じるって言うなら、私は仁くんを信じます!」

「トガちゃん…!」

「いいんじゃねえの?計画がバレてるってんなら、それ逆手にとってまた何か考えりゃいい話だろ?そういうの得意じゃねえか、なあ?No.2?」

「荼毘…!」

 

トガに続いて、荼毘も賛同を示す。彼にとってはホークスを利用できるだけしたいだけだろうが。

そんなことは露ほども知らず、仲間たちが理解を示してくれたことにトゥワイスは感極まっていた。

 

「ありがとうなぁ…‼︎俺は、俺は死んでもお前等を!死んでも俺は仲間を見捨てねえ‼︎」

「えええ…これ反対できる雰囲気じゃなくない…?」

「だよな…」

 

Mr.コンプレスと流されやすいスピナーも空気に飲まれていた。

これでは決議をとったところで向こうが多数派だ。押し切ることもできるが、得策ではないだろう。

葬はリ・デストロたち元異能解放軍の面々に目配せする。

付き合いは短いが、長年に渡り組織運営に携わってきた者たちはそれだけで察した。色々と学ばせてもらっている最近は彼らの方が付き合い易いくらいだ。

花畑など「若いのに苦労しますねぇ」と同情的な視線を投げて寄越す。

 

「…はぁ、わかったよ」

 

葬はひとつ溜息を吐いて、前髪をくしゃりと掻き乱す。

無理も無茶も無謀も押し通す。やってこその一流だと理不尽に自身の価値への自負へと落とし込む。

 

「Plus ultra、やってやろうじゃないか」

──────────────────────────────

 

それからしばらく、葬はまた忙しい日々を過ごしていた。

来るべきヒーロー達の襲撃に備えるべくリ・デストロ等と協議を重ね、対策を練り、実行するための調整をまた話し合い。

さらには開闢行動人海戦術隊BLACKの隊長業務もそこに乗る。

ホークスに絆されたトゥワイスから情報が漏れないよう、彼から引き剥がしたのだ。

立場は依然変わらず連隊長であるが、業務の滞りを理由に葬が請け負った。

きちんと滞留状況と管理する人数の多さと比例する業務量も色をつけて明示し、完全ではなく万一漏れても影響のない仕事は任せたりと当人や周囲にはバレないように。

決議は連合も併せて全員賛成した。

一方で何処から情報が漏れるか分からないので、一部の極秘業務については連合のメンバーを外して葬とリ・デストロ主導で行っている。

状況が状況なだけにスケプティックも連合側連隊長たちへの督促を葬にするのも止めている。旧異能解放軍の幹部たちの方が協力的な有様だ。

決起作戦の決行まで何事もなければそれで良い。

ただそれは希望的観測だとも。

新たな事態が飛び込んできたのは、そんな中。

葬がその日の仕事を捌き終え、漸く寛ごうとした時だった。

 

「面会?オールマイトが私に会いたいと?」

「ああ。あくまで個人的な話し合いの場が欲しいってさ」

「個人的にねえ…」

 

レディの言葉に思い当たるのは養子縁組と支援団体設立の話だが、それは既に断ったはずだ。

しかし向こうも諦めないと宣言していたし、それの続きだろうか。

 

「断ってくれ、と言いたいところだが、私まで持ってくるんだから何か考えがあってのことなんだろう?」

 

通常、取るに足りない案件と判断すれば葬まで話が上がってくることすらない。

 

「まあな。デカい山が近いんだ、保険は多い方がいい」

 

レディが要と見做したのであれば、相当な理由がなければ葬も異はない。

それだけの信頼関係が2人にはあった。

 

「わかった、会うよ。調整は頼んだ」

 

「ああ」と応えるレディと話している葬を、じっと血色の瞳が見つめていた。

 

──────────────────────────────

 

オールマイト

向こうも接触機会伺ってたので奇跡的な一致。

引き受け話してなければこの機会は巡ってこなかった。

 

ステイン

レディの指示で接触機会を探ってたら待ち伏せされた。

娘…だと?

 

レディ

万が一の時の話し合いをしたいしするもんだと思っている。

 

大所帯の動かし方勉強したり、次々に問題が出てくるのでとてもいそがしい。

便利な言葉だなぁ!Plus ultra!(自棄)

 




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来週はアニメ7期が始まりますね!どこまでやるんだろう(((o(*゚▽゚*)o)))ワクワク
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